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第9話 議会での決定

 病院から戻ったフェルナンドは、改めて皇帝に事情説明をした。その後、帝国は声明を出した。


『白陽学宮において発生した大規模魔力災害につきまして、本日をもって学園区域の安全確保が完了したことをご報告いたします。


 学園内部に取り残されていた学生、教職員、救助隊員については、全員の生存が確認されております。


 また、本件発生中に観測された極大規模光属性攻撃について、帝国政府は旧時代兵器『太陽の檻』との関連性を含め、調査を開始しております。


 なお、白陽学宮を覆っていた氷結魔法は、イルヴェリア王国次期女王ルミ・ハーヴィ殿下、およびフェルナンド・メディナ・ガリゲス第七皇子による緊急避難措置として行われたものであることを確認しております。


 当該措置については、学園内多数の生命保護を目的として実施されたものであり、現在確認されている限り、氷結魔法による死者、行方不明者は発生しておりません。


 帝国政府は本件を国家安全保障上の重大案件として位置付け、太陽の檻再起動の経緯、ならびに関係者の調査を進めてまいります。


 各国関係者の皆様には、多大なご心配をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。』





 事件から二日後。ヴァイデソル帝国議会はかつてない緊張に包まれていた。

 各国の王侯貴族子弟が通う白陽学宮。その学園が突如氷に閉ざされ、大量破壊兵器『太陽の檻』とみられるものによる攻撃まで受けたのだ。各国から抗議と問い合わせが殺到している。


「まず確認したい」


 一人の老議員が机を叩いた。


「あの光が、本当に太陽の檻だったという証拠はあるのか?」


 ざわめきが広がる。


「ただの超大型光属性魔法という可能性もあるだろう!」


 その空気を切り裂くように、フェルナンドが立ち上がった。


「その件については現在調査中だ。だが、光線によって学園が半壊したのは事実だ」


 彼は静かにそう指摘する。議場が静まり返る。フェルナンドは続けた。


「少なくとも、あの光線により各国の王侯貴族子弟に甚大な被害が発生すれば、帝国の責任問題は避けられなかった」

「……殿下はなぜ、その事実を知っていたのですか?」

「実行役と思しき人物が『明日の昼、ここに大量破壊兵器が打ち込まれる』と発言した、とルミ殿下から話を聞いている。上空の異常高温と魔力濃度上昇を確認済みだ」


 彼は淡々と言葉を続ける。


「情報漏洩の可能性があった。敵の規模も内通者の有無も不明。残された時間は半日以下。ゆえに私は、ルミ・ハーヴィ殿下の力を用いた強制避難、および学園凍結を決断した」


 議場が騒然となる。


「皇子殿下! それはつまり、イルヴェリア王国次期女王に学園占拠を要請したと!?」

「他国の王侯貴族子弟を無断で拘束した責任をどう取るおつもりですか!」


 怒号のような追及が飛ぶ。だがフェルナンドは動じない。


「結果として、学園内の死者は確認されていない。生徒は軽症、救助隊は一部骨折などの怪我を負ったが、命には別状がない」


 その一言で議場が止まった。


「凍結された生徒、救助隊は全員生存。氷内部では生命維持が行われていた」

「氷の狼は?」

「避難誘導だ。なお、氷狼の制御は私が行った」


 議場がどよめく。


「狼は避難誘導、および学園封鎖のために運用した。致死行動は禁止していた」


 彼はゆっくり息を吐く。


「そしてルミ・ハーヴィ殿下本人は、光属性攻撃から学園を防衛した」


 静寂が落ちる。一人の議員が震える声で呟く。


「……では、彼女は……自ら照射地点に残ったのか?」

「ああ」


 フェルナンドは短く答えた。


「イルヴェリアの女王は、いざというときには身を挺して民を守る――そう、彼女は言っていた」


 その言葉に、一部の議員たちが目を見開く。


「彼女は自国民か否かを問わなかった。この学園にいた全員を守る対象と判断した。それだけだ」

「議長、発言の許可を」


 静かな声が議場へ響いた。発言したのは、先ほど到着したリカルドだった。彼は騎士礼を取る。


「許可します」

「はい。ルミ殿下は現在も高熱により危険な状態にあります」


 議員たちの間にどよめきが走る。


「また、私は現場を確認しております。氷の狼は私を殺害可能な状況にありながら急所を外し、尖塔へ誘導しました。学園内部の人々は眠らされ、保護されていた。ルミ殿下は照射地点に残り、防御魔法を展開しておりました」


 リカルドの言葉に議場は静まり返った。


「……確かに、功績だけを見れば、英雄と呼ばれて然るべきでしょう」


 公爵位を持つ古参議員がそう発言する。


「……ですが、もし、ルミ・ハーヴィ殿下の情報が誤っていた場合。責任は、どうされるおつもりでしたか?」

「私が取るつもりだった」


 フェルナンドは静かにそう答える。


「仮に誤報だった場合、私は皇族としての地位を失っていた。それでも、見過ごすことはできなかった」


 金色の目に熱が灯る。公爵は皇帝や議長を見た。


「陛下。今回の件につきましては、殿下はほぼ不問。形式的な謹慎と……イルヴェリア王国の対応を任せる、という形での処分を提案いたします。……彼の国は我が国に説明を要求しております」


 沈黙が落ちる。だが、少しずつ拍手が広がり始めた。やがて、多くの議員が拍手を送る。

 ……賛成多数。フェルナンドの処分が決定した瞬間だった。

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