第10話 冬から引き戻した手
イルヴェリア王国大使との面会は、帝城の応接室で行われた。
重厚な扉が閉じる。室内にいるのはフェルナンド、リカルド、そしてイルヴェリア側の使節数名のみだった。中央に座る男は、静かな青い目でフェルナンドを見る。
「……まずは」
イルヴェリア王国大使は、ゆっくりと口を開いた。
「我が国の次期女王を救命いただいたこと、感謝申し上げます」
「礼を言われるようなことじゃない」
フェルナンドは短く返す。
「ルミ殿下は現在も療養中と聞いております」
「……ああ。まだ高熱が続いてる。状態が安定し次第、貴国に返す手筈だ」
沈黙が落ちる。
「改めて確認いたします」
大使の声は静かだった。
「白陽学宮凍結は、殿下の要請によるもの――その認識で相違ありませんか」
「ああ」
フェルナンドは迷わず頷いた。
「私がルミ・ハーヴィ殿下に協力を要請した」
リカルドは黙って主君を見ていた。
「理由は、先日の議会で述べた通りだ。太陽の檻と思しき攻撃によって、多数の王侯貴族子弟が死亡する危険性があった」
「……その結果、ルミ殿下は照射地点に残留した」
「そうだ」
フェルナンドは否定しない。大使はフェルナンドをじっと見る。
「止めなかったのですか……と聞くのも野暮でしょう」
大使はにっこりと微笑んだ。
「ルミ殿下の性格は私たちも熟知していますから」
金色の目は小さく見開かれた。大使たちの空気がわずかに変わる。
「ルミ殿下は、最初から一人で実行するつもりだった。貴方はその計画に乗った。……私たちはそう認識しています」
フェルナンドは何も言わなかった。それだけで十分だった。
「もちろん、帝国に対しては正式に抗議を行います。原因の究明と、再発防止を強く求めます。……ですが」
大使は一度言葉を切る。
「フェルナンド殿下個人への非難は、現時点で予定しておりません」
フェルナンドの肩から力が抜ける。大使はにこやかな笑顔のまま続けた。
「もうじき春休みでしょう。ぜひわが国にお越しください。王配となる国に一度も訪れないまま婿入りするのは寂しいでしょう」
「ご寛恕に感謝します」
「……絶対防御を使った女王や次期女王が生還した。この例はけして多くはありません。……殿下を冬から引き戻したその手腕、期待しておりますよ」
大使は目尻にしわを浮かべ、フェルナンドに目線を向けた。
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