第11話 一緒に立ってくれてありがと
登校停止となっているフェルナンドは、王宮で書類仕事を進めていた。彼はペンをくるりと回して呟く。
「……もう四日、か」
書類に視線を落とす。だが、文字が頭に入ってこない。気づけば、病院から届いたルミについての最新報告書へ手が伸びていた。
『体温32.1度。脈拍安定。自発呼吸正常。ただし、昏睡状態は続いている』
「……下がってきたとはいえ熱は高いな。……まだ、起きねえか」
意識が戻るまでは面会謝絶と聞いている。
「……はぁー。会いてえ……」
彼は肩をぐるぐると回す。その時だった。病院からの知らせを持った侍従が駆け込んでくる。
「フェルナンド殿下! ハーヴィ殿下の意識が回復しました!」
フェルナンドの動きが一瞬止まる。
「……今、なんて?」
「ハーヴィ殿下が目を覚まされました!」
その言葉を聞いた途端、彼は防寒着を引っ掴んで病院へと駆け出した。
病院に向かうと、特別な治療室に通される。そこは冷房がガンガンに効かされていて、室温は5度だ。部屋に入った途端、彼は小さく身震いした。
ルミが横たわっているベッドに近づく。まつげがピクリと動いた。
「……フェル?」
熱にうかされているのか、彼女はぼんやりとした視線を向ける。
「起きたか?」
「……みんな、無事……?」
「死傷者はゼロだ」
「……良かった」
ルミはとろんとした目で微笑む。
「……ありがと。……一緒に……立ってくれて」
「おう。……っくし。……悪い」
「……寒い?」
「……防寒着はちゃんと着たんだけどな……」
フェルナンドは鼻をすする。彼女はフェルナンドのコートへと視線を向けた。
「……コート、ペラペラ……じゃない?」
「うっせ。帝国ではこれで十分だ」
「……むしろ、コートあるんだ」
「一応冬はあるからな?」
「……あったっけ」
「一月とか。25度だけど」
「……夏じゃん」
笑い出すルミにつられて、フェルナンドは安心したように笑う。
「はぁー。悪い、座っていいか? ……力抜けた」
彼は笑いながら備え付けの椅子に腰掛ける。
「アイスを預けてるから、食べたくなったら誰かに言え」
「……アイス? 食べたい!」
「元気だな。あー、使用人呼んで……」
「そちらの冷凍庫に入れてあります」
ルミの点滴を持ってきた看護師が口を挟む。フェルナンドは小さな冷蔵庫を空けた。
「どれがいい?」
「何味がある?」
「バニラ、いちご、マンゴー、ココナッツ、塩バニラ……クッキーアンドクリームはまだ早いか……」
「クッキーアンドクリーム」
「……まだ早いだろ」
「ええー」
ルミは唇を尖らせる。彼は「塩バニラで我慢しとけ」とアイスのカップを取り出した。
「……食べさせて」
「しゃーねーな」
フェルナンドはくつくつと笑いながらアイスで十分に手を冷やし、彼女をそっと起こした。アイスを一口スプーンにすくい、ルミに差し出す。
「ほい、あーん。……うまいか?」
「あまじょっぱい」
「もう一口食う?」
「食べる」
一口、また一口と白いアイスは減っていく。カップからアイスがなくなると、ルミはまたうとうとし始めた。
「しんどいなら寝ろ。病み上がりなんだから」
「……うん……。おやすみ……」
彼女はベッドにぱたりと倒れ込み、穏やかな寝息を立て始める。
「……医師や大使と協議だな。目が覚めたんなら、イルヴェリアに帰さねえと」
フェルナンドはそう言って、椅子から立ち上がった。
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