第6話 白陽学宮氷結事件
その日、帝国は揺れた。白陽学宮は凍りつき、氷の狼に占領された。取り残された自国の生徒を救い出すため各国が帝国内の精鋭を向かわせても、狼の激しい抵抗にあって追い返された。運よく彼らのもとにたどり着けたものも、通信に応答することができなくなっていた。
「……こんなことができるのは、イルヴェリアの次期女王くらいでは?」
「……いやしかし……目的が分からない。確証もないまま犯人扱いは……」
帝国内でも事態を重く見て話し合いが行われる。氷の城はただ静かに沈黙を続けていた。
「……私がフェルナンド殿下の救出を」
そんな折、フェルナンドの側近を務める騎士、リカルド・ヴァルセインが立ち上がった。
リカルドは炎系の魔術師や魔法騎士数人を連れて、氷の狼が跋扈する学園へと侵入した。学園中から集まってきたのか、数十匹の狼に囲まれて彼は孤立してしまう。
「……妙だな」
リカルドはつぶやく。狼たちは急所を外している。そして、彼を特定の場所へ誘導しているように見えた。
「……乗ってみますか」
彼は剣を下ろす。だが、警戒は解かない。リカルドが抵抗をとめると、狼の動きが止まった。
「……どこに連れて行く気か知りませんが、案内しなさい」
彼がそう言うと、一匹の狼が背中を向けて歩き出した。振り返って低く唸る。
「……ついてこい、ですか」
リカルドがそう呟くと、狼は前を向いて歩き始めた。
リカルドは狼の先導についていきながら周囲をうかがう。凍っているのは重要そうな柱ばかり。時折取り残されたとおぼしき学生などの学園関係者、連絡が取れなくなった救助隊が閉じ込められた水晶型の氷がある。彼らは皆穏やかな表情で目を閉じている。その胸は静かに上下していた。
「……何が目的だ?」
主君の恋人であるため、ルミの性格はよく知っている。仮に彼女がこの事件の犯人だとしても、意味もなく学園を凍らせるような人物ではない。
リカルドはあえて先導から外れてみる。その瞬間、氷の狼が顕現して行く手を阻む。
「……何としても私を目的地に連れて行くつもりか……」
立ち止まったリカルドに対し、狼は低く「……ぐるるるる」と唸った。
やがて彼は尖塔へと導かれる。一段と強い冷気に包まれた塔内には、氷に閉じ込められたフェルナンドと、そのそばで集中するルミがいた。他のものとは違い、フェルナンドの瞼は開いている。彼はリカルドの顔を見ると、いたずらを仕掛けたときのようにニンマリと笑った。そのまま何かを言ったが、氷に阻まれてその声は届かない。読唇すれば、『二歩、前に出ろ』と言っているようだった。
「……二歩」
彼は二歩前に視線を向ける。特に異常があるわけでもない。それでも。
「……殿下はいたずら好きですが……。このような状況で、意味のない冗談を言う方ではございません」
リカルドは指示通りに前に出る。その時だった。
『ルミ、意識を保ったまま凍らせろ』
フェルナンドの口が動く。その瞬間、リカルドの体は氷に包まれた。四肢は完全に動かない。だが、不思議と冷たさはなく、呼吸も妨げられていなかった。
「いったい何を」
リカルドがそう呟いた瞬間だった。
『来るぞ』
その言葉を合図にルミは立ち上がる。自分一人を包み込むドーム状の最上級防御魔法を張った。次の瞬間。
太陽が堕ちたと思うほどの、猛烈な光が降った。
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