第20話 冬を還した陽の皇子
夜会当日。帝国の礼装の上に赤いウールのマントを羽織ったフェルナンドは、髪を整えながら小さくあくびをした。
「……殿下」
リカルドが小さくたしなめる。
「入場する前にはちゃんとするから」
「全く。いつもと違い、そばに控えられないのですからね」
彼は呆れたようにため息をつく。その時、控室の扉が開いた。その先に立っていたのは、ルミだ。
キラキラと輝くオーガンジーのドレスに身を包み、ふわふわの髪はゆるく下ろされている。頭には淡いサファイアがあしらわれたティアラを載せ、胸元には太陽を模したネックレスが光る。ネックレスにはアクセントにイエローダイヤモンドが使われているようだ。
フェルナンドはしばらくぽかんと口を開けていた。リカルドが「ごほん」と咳払いをする。
「……その、えっと……。すっげえかわいい」
「ありがとう。フェルの目に合わせてみたんだ。どうかな?」
「……おう、よく似合ってる」
「ありがと。……フェル、ちょっと動かないでもらっていいかな?」
彼が頷いたのを確認し、ルミはフェルナンドの前に立つ。そっと指を伸ばすと、マントの合わせ目に触れた。冷気が集まる。現れたのは、雪の結晶のブローチだった。
「これでよし」
「……ルミ、その……近い」
「そう?」
彼女はくすくす笑う。
「本当はずっと残るブローチを用意したかったんだけど、できなかったから」
「ブローチ?」
「うん。今、恋人にブローチを贈るのが流行ってるんだ。今日のフェルはすごくかっこいいから、私のってちゃんとマーキングしとかなきゃ」
「お前なぁ……」
フェルナンドは頭を抱えた。
「そーやって爆弾落とすの、やめてくれね?」
「えへへ」
彼女は笑って手を伸ばす。
「エスコート、よろしくね」
「おう。女王サマの仰せとあらば」
彼はそっと差し出された手を取った。
「……暑くねえの?」
「過保護!」
ルミはクスクスと笑って、フェルナンドと共に一歩踏み出した。
二人が姿を現した途端、会場は騒然となる。
「あの方は誰だ?」
「ヴァイデソルから来たフェルナンド皇子だってよ」
「え? あの冬を還した陽の皇子、か?」
ルミはその声に耳を貸さず、女王の前に立つ。
「お母様。本日は私のために、すてきな夜会を開いてくださってありがとうございます」
「あなたが冬を乗り越え、この日を迎えられたことをうれしく思いますわ」
女王はふわふわと笑う。
「フェルナンド殿下も。あなたがルミの隣に立ち、陽となって王国を照らしてくださることを願っております」
「……必ず」
拍手が沸き上がる。背筋をピンと伸ばす彼の隣で、ルミはキラキラとした笑顔を浮かべていた。




