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第2話 冬になるしかない

 移動教室のため、白い石畳の庭をルミはのろのろ歩く。


「しまちゃん、暑いね〜」

「ぴ」


 しまちゃんの頭を指でくりくりと撫でていると、「……学園は木っ端微塵だ」という声が聞こえてきた。


「……ん?」


 ルミは足を止め、物陰に身を隠す。視線の先には教師のようにも見える男性がいた。少なくとも、ルミやフェルナンドを受け持っている先生ではない。彼は視線を斜め上空に上げていた。


「……しまちゃん」


 ルミがそう言うと、しまちゃんは静かに羽ばたいて近寄る。男はぶつぶつと何かを言った後、立ち去った。彼女は肩に戻ってきたしまちゃんに話しかける。


「なんて言ってた?」

「ぴぴっ」

「……大量……破壊兵器……」

「ぴ」

「……太陽の……檻?」

「ぴい」

「明日の昼頃……」


 ルミは男が見上げていた方向を見ると、片手を掲げて氷の鳥を作った。鳥はキラキラと輝きながら空へと羽ばたく。彼女は鳥と感覚を共有する。


「……うん、何も見えないけど……でも……」


 氷の鳥から雫が落ちる。


「……なんか、暑いかも。あと、魔力濃度が高いな……」


 氷の鳥が完全に溶けた。


「……これは……」


 ルミは振り返る。学園の尖塔があった。イルヴェリアの伝承、『女王は最期に冬となり、民を守る』が頭をよぎる。


「……冬になる、しかないか……」


 青い瞳に静かな決意が宿っていた。





「……これは……こっちの公式か」


 夜の帳が下りる頃。フェルナンドは自室で宿題を進めていた。その時、こんこんと部屋の扉がノックされた。


「フェル」

「ルミ? どうした?」


 こんな時間に来るなんて珍しい。そんなことを考えながら、彼は扉を開ける。


「とりあえず、入れよ」

「うん」

「冷房下げるから、ちょっと待ってな」

「……フェル、ぎゅってしてもらってもいい?」


 フェルナンドはぴたりと動きを止める。普段は「暑い」と嫌がるのに。


「……フェル?」

「ああうん、ハグな」


 彼はそっと彼女を抱きしめる。いつも通りほんのり冷たい。


「フェル……」

「どうした?」

「……フェルは、王配になっていいからね」


 フェルナンドはルミの顔を見る。


「……何があった」

「……なんにも、ないよ?」


 ルミはとぼける。彼は彼女から視線をそらさない。


「……話せ」

「……フェルには、関係ない」

「関係ある」


 沈黙が痛い。やがてルミは観念したように口を開いた。


「……絶対防御、使おうと思って」


 フェルナンドは息を呑む。


「氷で包むやつ?」

「うん」

「……何が、あった?」

「……まだ。明日の昼、ここに大量破壊兵器が打ち込まれるって」

「大量破壊兵器?」

「……太陽の檻、って言うらしい」

「……それは、本当か?」

「……って、言ってた。……上空に高い魔力濃度と高温があったことは確認してる」


 フェルナンドはぽつりと「……なんで……封印が……」と呟いた。


「……知ってるの?」

「……ああ。……帝国の機密だ。誰にも言うな。……かつて研究されてたビーム型古代兵器の名前だ。一分とかからず城一つを塵にできる。ばかげた威力に計画は凍結、研究成果は抹消された」


 彼は眉間にしわを寄せる。


「……んなもんが学園に降ったら……」


 今、白陽学宮には世界中の指導者たちの子弟――未来の指導者たちが集まっている。


「世界中が大混乱になる。だから、みんなを凍らすの」

「絶対防御の間、ルミは学園から離れられないんだろ? その上、自分に絶対防御は使えない。危険だ」

「……絶対防御は、術者が死んでも消えないよ」


 彼女は静かに微笑みを浮かべる。フェルナンドは目を吊り上げた。


「そういう話じゃねえ。ルミが死んじまうだろ」

「……女王の、役目だから」

「役目?」

「……イルヴェリアの女王は、いざというときは身を挺して民を守るの」


 ルミの目は揺らがない。


「……私がやらなきゃ、みんなが死ぬ」

「ルミだってイルヴェリアの次期女王だろ」

「……お母様もお父様も元気だから。すぐ……とはいかないかもしれないけど、妹が生まれるよ」


 ルミは穏やかに笑った。


「……ねえ、フェル。私を想うなら証言して。みんなを守るためだった、って」

「……お前の覚悟は、分かった」

「……じゃあ」

「俺にも噛ませろ」


 窓の外でヒュウ、と鋭い風が吹いた。

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