第1話 暑さで溶ける氷姫
「……私がやらなきゃ、みんなが死ぬ」
ルミの目は覚悟に染まっていた。フェルナンドは息を飲み、小さく「……分かった」と答える。
「……じゃあ」
「俺にも噛ませろ」
彼の目には小さな炎が宿っていた。
◇
常夏の帝国、ヴァイデソル帝国。名門、白陽学宮。世界中の王侯貴族の子弟が集まる学園の、中庭のベンチにて。一人の少女が溶けていた。
「……あつい……」
白銀の髪をベンチに広げた少女――イルヴェリア王国の次期女王、ルミ・ハーヴィは、ぐったりと空を仰いだ。彼女のそばには使い魔であるシマエナガがいたが、彼もぺたりと胴体を広げて溶けている。その時、首筋にぴたりと冷たいものが当てられた。顔を上げると、ヴァイデソル帝国第七皇子、フェルナンド・メディナ・ガリゲスが立っていた。
「……ん? あ、フェル」
「相変わらず溶けてるな」
「だって、暑い……」
フェルナンドはくつくつ笑う。彼は二人で食べられるアイスを差し出した。
「あ、アイス!」
「食うだろ?」
「食べる食べる!」
ルミは体をくい、と起こす。フェルナンドは先端を切った細長いアイスを片方ちぎり、ルミへ渡した。
彼はアイスをハンカチで包んで溶かしながら食べる。ルミも少し柔らかくなるのを待っているが、こちらは素手のままだ。
「冷たくね?」
「そう?」
「……まあ、氷龍の加護持ちからしたら、そんなもんか」
「……溶けにくいなぁ」
「手、冷たいもんな。貸してみろ」
フェルナンドがアイスを揉み込むと、すぐにそれは柔らかくなる。
「ほい」
「ありがと。ん〜、美味しい」
「あ、やっべ。一気に食べ過ぎた」
彼は眉をひそめて眉間を押さえる。
「どうしたの?」
「……アイスクリーム頭痛だ。一気に食べるとなるんだよ」
「なったことない」
「……体温低い分なりにくい、のかもな。平熱何度だっけ」
「30度」
「ひっく」
彼はけらけら笑う。
「そりゃ暑いの苦手だわ」
「そう? 北国の人ってそんなもんじゃない? フェルだって寒いの苦手でしょ」
「まあ、そうだな。……イルヴェリアって冬何度だ?」
「−15」
「さっむ」
「暖房がしっかりしてるから大丈夫。むしろ暑いくらいだよ」
「ルミの暑いは当てにならないんだって……」
「安心して、夏はあるから。25度くらいだけど」
「冬だろ、それは……」
フェルナンドは肩を落とす。ルミはくすくす笑った。
「でも、来るんでしょ?」
「まあな。王配計画は進行中だ」
フェルナンドは軽く笑う。その時シマエナガが「……ぴ」と鳴いた。
「しまちゃんも食う?」
「ぴちぴ……」
「はいはい」
フェルナンドがアイスの蓋側を渡してやると、彼はおいしそうについばむ。少し形を取り戻したようだ。
「そろそろ授業じゃね?」
「あ、ほんとだ。アイス食べて復活したし、がんばろっか」
「おう」
二人は笑って立ち上がる。しまちゃんもベンチから羽ばたき、ルミの肩に乗った。
読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。




