第14話 太陽の檻、再起動
深夜の帝都外縁、第七埠頭跡地にて。海霧に包まれた倉庫街へ、帝国情報局と騎士団が展開していた。頭上には複数の飛行灯が浮かび、淡い光で周囲を照らしている。
「……ここか」
黒い外套を羽織ったフェルナンドは、古びた倉庫を見上げた。
周囲にはリカルドをはじめとした騎士たちがいる。局員たちは魔力探知盤を操作していた。
「内部より高濃度魔力反応を確認。白陽学宮地下で発見された中継装置と同系統です」
「太陽の檻との接続は?」
「現在も継続中と思われます」
フェルナンドの目が細まる。太陽の檻をもう二度と照射させるわけにはいかない。
「航空部隊はどうなってる」
「既に上空へ向かっています」
騎士が答えた直後、通信魔導具が光る。
『こちら帝国騎士団航空部隊。目標高度へ到達まで残り五分』
フェルナンドは短く息を吐いた。肩を回す。
「……行くぞ」
次の瞬間、重い鉄扉が爆音と共に吹き飛んだ。
「帝国情報局だ! 抵抗するな!」
魔法騎士たちが雪崩れ込む。倉庫内部には巨大な魔力中継装置が組まれていた。床一面に古代術式が刻まれ、青白い光が脈動している。天井には巨大な魔法陣が光っていた。
「照準術式だ! 止めろ!」
フェルナンドは叫ぶ。倉庫内にいた研究者たちが一斉に端末へ走ろうとしたが、すぐに無力化される。一人の局員が操作盤を見た。彼は青ざめている。
「殿下! 照準座標を書き換えています!」
「目標地点は!」
「帝都郊外、国際展示場です!」
空気が凍りついた。そこは事件後対応のため、各国代表団が集まっている施設だ。狙いは各国の外交官、軍関係者、調査官――。
「……っ」
フェルナンドの目が鋭く細まる。
「失敗したから次かよ」
研究者の一人が笑った。
「世界はもう止まらん! 一度疑念が生まれれば、国家同士は殺し合う! 我らはその火を――」
「外交ごと焼いて何が未来だ」
フェルナンドは研究員を一瞥もせずに操作盤へと近づく。その怒気に室内の空気が震えた。
『上空魔力反応増大!』
通信魔導具が激しく明滅した。
『太陽の檻、再起動を確認!』
「止めろ!」
フェルナンドの声と同時に騎士団が剣を振るう。魔法が炸裂し、術式盤が砕け散った。だが、天井の魔法陣はなお光を放っている。
『航空部隊より報告!』
通信の向こうで風切り音が響く。
『目標外殻へ接触! 現在制圧を開始しています!』
フェルナンドは夜空を見上げた。雲の遥か上。古代の災厄が今なお空に浮かんでいる。
『迎撃術式を確認!』
『魔力砲来ます!』
『高度維持!』
爆音が響く。局員が叫ぶ。
「殿下! 地上術式が生きている限り、太陽の檻への魔力供給は止まりません!」
「なら全部叩き壊せ!」
「はっ」
フェルナンドが叫ぶと、騎士が魔法を放つ。だが、術式はびくともしない。彼は騎士の背中に触れた。
「もう一度だ」
「はい!」
騎士は再度魔法を唱える。軽い。なのに、さっきよりも巨大な火の玉が爆ぜた。
古代文字が砕け散り、夜空へ伸びる光柱が揺らいだ。
その時、通信機が叫ぶ。
『外殻固定完了!』
『封印杭、撃ち込みます!』
眩い閃光が夜空を裂く。大輪の花が夜空に咲く。次の瞬間、倉庫内の魔法陣が一斉に消えた。静寂が広がる。
局員が震える声で報告した。
「……太陽の檻、沈黙しました」
誰かが息を呑む。フェルナンドはゆっくり目を閉じた。
「……なんとか、なったか……」
夜明け前の倉庫街に、冷たい風だけが吹いていた。
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