表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の魔王と百日の夜  作者: 芍薬
1月目
PR
22/22

第21話「友好的な」

 玉ねぎのスープ。

 牛肉の包み焼き。

 香草入りパン。


 魔王の執務室の隅で黙々と書き取りをしていると、後ろから覗き込んだヴァルが首を傾げた。


「これは何だ」

「一昨日の夕御飯」

「興味のあるものの方が、名前を覚えやすいですからね」


 同じく後ろから覗いたジェンが補足する。

 リィの書き取り練習は、毎日のんびりと続けられていた。

 ここ数日は、フィーにメニュー表を貰ってきて書き取りをしている次第である。


 後方からのびてきた手にペンを奪われ見上げれば、取り上げたヴァルがさらさらとリィの筆跡を訂正していく。

 ようやく文字を認識出来るようになってきたリィにも、それがお手本とすることが相応しい、美しい筆跡であると分かった。


 冬野菜のサンドイッチ。

 根菜のスープ。

 いちごのゼリー寄せ。


「これは今日の朝食だな」


 さりげなく今日の献立も書き加えてくれる。

 魔王の親切である。


「大分字が書けるようになってきたようだな」


 言われてリィは少し考えた。

 ヴァルからペンを受け取り、紙に文字を書き付ける。


「書けるようになった」


 その文字の羅列を見て、ヴァルとジェンが面映ゆい表情になる。


 イェリアオークゼルヴァルド。

 ジェンティーノ。

 そして最後にリルファーリアと書き足した。


 何度も練習したので、間違いないはずだ。

 リィは無言の二人を見上げた。

 すると腕をのばしたヴァルに頭を撫でられた。

 紋章入りの指輪を身に付けた手が、さらりと髪を滑る。


「ヴァル?」

「いや、何でもない」


 リィの呼び掛けに静かに首を振る主を、ジェンが冷めた目で見遣る。


「我が主。貴方に少女愛(ロリコン)の毛色があったとは知りませんで」

「おい」

「ろり?」

「……何でもない」


 リィが首を傾げると、ヴァルが会話を変えにかかった。


「リィ、確かシリルと会ったことがあったな」

「シリル?」


 言われてリィの脳裏に、案山子顔が浮かぶ。

 そういえば最近見ていない。リィの心の平穏のために、会わない方が有難いのだが。


「先ほど、珍しくシリルがお前のことを気にしていた」

「えぇー……」


 魔王への魔力提供役を辞退しろと迫られたことを思い出した。

 リィがシリルについて知っていることなど、ほぼ皆無であるがそれでも、彼が主であるヴァルに執着していることは知っていた。

 彼の中でリィは、主を(おびや)かすものとして認識されているらしいから、気にしていたというのもろくな理由ではあるまい。


 微妙な表情のリィを見て、ヴァルが苦笑する。


「あれで真面目な奴なんだ。上手くやれとは言わん」


 程々にやってくれと言うヴァルに、リィは「がんばる」と返した。良いのは返事ばかりだ。

 ヴァル達が仕事に戻ったので、リィも書き取りに戻った。

 サンドイッチと書いて考え、その後に覚えたての文字で“シリル”と記してみた。

 ……何故だか不快な気分になったので、上から塗り潰す。

 魔王の望む友好への道は遥かに遠そうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ