第20話「歳の数だけ」
珍しく、魔王が一息ついている。
リィが執務室に入ると、使われているのを見たことがなかった立派なソファに腰かけたヴァルが、紅茶を嗜んでいた。
ジェンが静かに隣でおかわりを注いでいる。
リィはパタパタと2人に近寄った。
ジェンは僅かに視線を上げたが、ヴァルはちらとも表情を揺らさずに黙々と紅茶を飲んでいる。
長閑な光景である。……この城に来る前、リィは魔王がお茶をするなんてことは、考えたことすらなかった。
「ヴァル」
「 仕事は終わり?」
「……終わりではないんだよ。君は魔王を閑職か何かだと思っているんじゃないの」
ジェンが呆れたように首を振る。
ヴァルは気にした様子もなく「ジェン、茶を淹れてやれ」と命じる。
「まあ、いいですけどー」
ジェンは手慣れた様子で、もう一つ取り出したポットに茶葉を量り入れお湯を注ぐ。
……魔王と同じお茶は飲ませないと、そういうことだろうか。
渡されたカップは程よく温もっていた。
ほかほかと立ち上ぼる湯気が指先を温める。
「む」
口をつけたリィは目を丸くした。
甘い。
リィにとってお茶とは渋いか苦いものであって、甘いものではない。
「砂糖を入れたのか」
「蜂蜜ですよ。お子様には甘いものが一番です」
目を白黒させている向こうでヴァルとジェンが幾分失礼な会話をしている。
「蜂蜜」
そこに食いついたリィは顔を輝かせる。
蜂蜜など高級品だ。今まで滅多に口に入るものではなかった。
……この城に来てからは存分に甘味を口にしているが、甘いものはとにかく別腹だ。
ほくほく顔で大事にカップを抱えるリィを見て、ヴァルが目を細めた。
「美味いか」
「うん」
「……ところで、関係ないけど。リルファーリアは一体何歳なのさ」
唐突に、ジェンが問う。
それを聞いてヴァルも興味ありげな眼差しをリィに向けた。
リィは首を傾げた。自分の年齢など、気にしたこともない。
十は越えてるよね、とジェンが呟くのを聞いて考える。
確か、
「14歳。たぶん」
「じゅ?」
ひどく驚いた声を上げられて、不思議に思う。
何か変なことを言っただろうか。
教会に引き取られたのが3歳の頃らしいから、それから10年強は経っている。
親がいないため正確な年齢は分からないが、それぐらいで間違いないはずだ。
2人にまじまじと凝視され、リィは首を傾げた。
「14……か」
「14とは、14にしては……ですね」
どういうことだろう。ひたすらにきょとんとしていると、不意にヴァルが腕をのばした。
反射で避けようとしたが、捕まった。
頭の上に手を置かれ、がしがしと掻き回される。
中途半端な長さの髪がグシャグシャになった。
「何?」
「いや、……気にするな」
変な魔王である。
リィは首を傾げ、また一口紅茶を啜るのだった。




