表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一蓮華《いちれんはな》は溺愛白狐《シロ》に守られている  作者: 猫邑 ゆか
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/66

第62話:新しい季節は淡い色

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

 淡いピンクの花びらがひらひらと舞い遊ぶ、澄んだ青空。

 その下には人々の息づいている街が見える。


 朝早く、僕は神社に続く石段の上から街の様子を見下ろしていた。


 沙門本家のあるこの街から新しい街へと旅立つ。その前に見ておきたかった。


 たった数か月だったけれど、今までのどこよりもここに住んでいる人たちはあたたかだった。本家うちとは全然違う、その空気に何度救われたことだろう。


 そっと目を閉じると浮かんでくるのは――あの娘の笑顔。

 そして思い出す、彼女の手のあたたかさ。


 僕はミトラが居なければ、まだ何もできない。

 君の側には、僕よりずっと君を守れるものがいる。

 

 ゆっくりと瞼を開け、僕は後ろの虚空へと声をかける。


「行こうか。ミトラ」


 僕の言葉を肯定するように、サラリと幻の虎の尾が触れたような気配を感じた。


 そして、僕は彼女の笑顔を置き去りに、次の場所へと歩きだした。



「今日から三年生かぁ、今年も華と一緒だったらいいな」


 隣を歩く三葉が、そう私に微笑みかけた。


 校舎の前に張りだされたクラス替えの発表の掲示板には、すでに人だかりができている。ぴょんぴょんと飛んでみたけれど、私の低い身長では前の人の背中に遮られて、掲示板の文字は到底見えない。


「全然見えないや……」


「私が見てくるよ」


「ありがとう、三葉」


 すっと一歩前に出た三葉が、その高い身長を利用して私のクラスも確認してくれる。しばらく掲示板を凝視していた彼女が、パッと顔を輝かせた。


「あ!あったよ!今年も一緒だ!」


「ほんと? よかったぁ……!」


「これで修学旅行も一緒だねぇ!」


 にひひ、と茶目っ気たっぷりに笑う三葉に、私は心の底から安堵の溜息をついた。胸を撫で下ろしながら、私たちは連れ立って三年生の教室へと向かう。



 新しいクラス、新しい教室の匂い。


 最高学年になったというだけで、なにもかもが少し大人びて感じられて、やっぱり少しだけ緊張してしまう。


 出席番号順で決まる席は、三葉が私の真後ろ。振り返れば、いつもと変わらない三葉の笑顔。それだけで、これからの日常がずっと続いていくんだと安心できる。三葉と一緒で、本当に良かった、とは思いながらも。


 新学期の教室に、あの眩しい太陽のような気配はどこにもなかった。


 「沙門くん、別の学校へ行くんだって」


 廊下ですれ違ったクラスメイトたちの噂話で、彼の旅立ちを知った。


 数ヶ月だけの滞在だと聞いてはいたけれど、いざいなくなってみると、ぽっかりと穴が開いたみたいだ。


「……でも挨拶くらい、したかったなぁ」


「ん?沙門くん?」


「うん。璃九と……」


 周りを一瞬で明るくする、璃九の屈託のない笑顔。そして、私の手に甘えるように大きな頭を寄せてくれたミトラ。あの強くて優しい守護霊の、ふかふかした毛並みに触れられないのは、やっぱりどこか寂しい。


  けれど、隣でシロが「元気に行ったで」と、どこか清々しく笑っていたから、たとえ進む道が違っても、それぞれの運命の先で、またひょっこりと会えるような気がしている。


「ううん。きっと元気にしてるよね。はぁ、今から自己紹介かぁ……苦手なんだよね。緊張する」


 私は後ろを向いて、三葉の机にぐったりと突っ伏した。


「華は緊張しぃだからなぁ……『人』って字を手の平に三回書いて、飲み込んでみたら?」


 三葉は冗談交じりに笑うと、私の頭をよしよしと慈しむように撫でてくれた。


 ――と、急にその手が止まる。三葉は私の髪を一房、指先でそっとつまみ上げ、その中からぴーっと一本引き抜いた。


「ん? 華、白髪しらがあるよ?」


「し、し、白髪しらが!? 嘘!? うそうそー!?」


 動揺を隠せない私に、三葉は腕を組み、真剣な顔で頷いてみせた。


「華ってば、苦労してるんだなぁ……でも抜いたら増えるって言うよ。根元から切っとこう」


 シロが現れてから私の周りは常にバタバタだ。


 特に最近は鎌鼬が現れたり、オロチに攫われたりと、とんでもない事件が多すぎた。それにしたって、白髪は悲しすぎる。ヘアケアに関しては人一倍気を使っているだけに、これは大事件だった。


 三葉は筆箱の中から取り出した小さなハサミでチョキンと切り、その髪の毛を私に見せた。


「すごい! 透き通るような綺麗な白色だよ。全部がこんな色なら、とっても神秘的だよねぇ」


 そんな雑談をしていると、ガラガラとドアが開いた。


 入ってきたのは、ピシッと決まったシャツにスラックス。丸い眼鏡にふわっとした七三分け。今年の担任も去年と同じく浅間先生だ。


「さて、皆さんは最高学年となりました。学校の顔として、先輩として、恥ずかしくない行動を心がけてください」


 浅間先生にチラリと視線を送られた三葉は、目をくの字にして、口を結び、なんとも言えない渋い表情をしていた。その顔がおかしくて、私は小さく笑い返す。


 少しの不安と、それ以上の期待を込めて窓の外を眺めた。春の風が新しい季節の訪れを祝福するように吹き抜けていった。


お読みいただきありがとうございます。このお話の続きを楽しみにしてくださる方は、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ