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第3話「三年間の嘘を、どう呼べばいいかわからない」



 カタリナが去った後、部屋にはまた二人だけが残った。


 男の手は、仮面の紐から離れていた。


 イレーネは少しの間だけ迷って、「続けてください」と言った。男が止まった。「仮面を、外してください」と繰り返した。


 男はゆっくりと、紐を解いた。


 白い仮面が外れた。


 グスタフの顔があった。


 昼間に廊下で見た顔と同じで、しかし表情が違った。昼間の硬さがなかった。ただ静かに、どこか覚悟を決めたような目で、イレーネを見ていた。


 イレーネは何も言えなかった。言葉を探したが、何も出てこなかった。


 三年間分の夜が、今目の前の男と重なった。他愛ない話をした夜。行き詰まって泣きそうになった夜。夜明けまで隣にいてくれた夜。それが全部、この男だった。昼間に冷たい目でイレーネを見ていた、あの宰相と——同じ人間だった。


────────────────────────


 「なぜ黙っていたんですか」


 やっと出た言葉は、それだけだった。


 「言えなかった」とグスタフは言った。


 「三年間」


 「ああ」


 「私の部署を標的にしながら、夜は来ていたんですか」


 グスタフが「それは——」と言いかけて、止まった。何かを言おうとして、また止まった。


 イレーネは続ける言葉を探した。怒ればいいのか、泣けばいいのか、わからなかった。三年間信じてきたものが、今目の前で別の形になっている。夜の彼が嘘だったのか、昼間の彼が嘘だったのか。どちらが本物なのかさえ、わからなかった。


 「一つだけ聞かせてください」とやっと言えた。「夜、私のところへ来ていたのは——何のためですか」


 グスタフは長い間、黙った。


 「会いたかった」と言った。「それだけだ」


 「それだけ、とは」


 「説明のつく理由がほしいなら、ない。ただ——あの窓の前に立つと、息ができた」


 イレーネは俯いた。その一言が、一番ずるかった。


 怒れなくなった。三年分の夜が、全部本物だったと言われているようだった。


────────────────────────


 その夜から三日後、王宮に噂が流れた。


 「イレーネが夜、宰相を部屋に引き入れた」という内容だった。


 誰が流したかは、すぐわかった。女官長のマルティナだった。イレーネの部屋の近くに配置した下働きに、見張りをさせていたのだ。グスタフが部屋に入るのを確認した瞬間、翌朝には噂が王宮中に広まっていた。


 マルティナは朝から機嫌がよかった。廊下で同僚に「嘆かわしいこと。あの娘はいつか問題を起こすと思っていたわ」と言っていた。イレーネが通りかかっても気づかないほど、声が大きかった。「宰相閣下もきっと、私が報告すれば喜ばれるでしょう」と笑っていた。


 イレーネは何も言わずに通り過ぎた。


 昼休みにカタリナが飛んできた。「イレーネ、マルティナ様が今日の午後に告発状を出すって話が——」


 「知っています」


 「でも、どうするの。相手は宰相閣下で」


 イレーネは少し考えた。


 「待ちます」と言った。


 「待つって、何を」


 「グスタフ様が、昼間のことは説明すると言っていました。——信じます」


 カタリナが心配そうな顔をしたが、イレーネは「大丈夫です」と言った。


 言いながら、本当に大丈夫かどうかは、わからなかった。ただ三年間、あの声を信じてきた。それは変わらなかった。


────────────────────────


(第4話へつづく)

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