第59話 非情になれない復讐者と審問官
扉の向こうから、鐘に似た低い音が響いていた。
大聖堂の鐘楼で聞くような、澄んだ音ではない。濡れた金属を擦り合わせるような響きが、石壁を通して足元まで伝わってくる。
〈白冠補完導路・中央接続室〉。
銀の扉に刻まれた文字を見上げ、わたくしは一枚の《ブラッドアルカナ》を指の間に浮かべた。
ノーラさんが守っていた帳票には、患者を番号で管理する記録と、王国側の照合欄、中央教義院の受領欄が並んでいた。けれど、その印章が誰の手で押されたものかは、まだ確かめられていない。
ここで運用記録を見つけられれば、少なくとも次に調べるべき相手は絞れる。
「中に何人かいます」
扉に耳を寄せたカルマが、声を落とした。
「上から足音がする。下にも複数。金具を動かしてる音まで聞こえるぜ」
「待ち構えている、ということですわね」
「多分な。歓迎の準備じゃなさそうだ」
ゼェレは扉の脇で、測定板の細い針を眺めていた。
「ここ、吸い込みが強いね。奥の導路が動いたままだから、魔力を広げすぎない方がいいよ」
「承知していますわ」
「ならいいけど。……あ、床の太い銀線は踏まないで。あれ、戻りの経路まで繋がってる」
その指摘に、シュテルさんが床へ目を落とした。
彼女の審問官章が、胸元で小さく揺れている。
「私が先に入ります。扉が開いたら、皆さんは私の後ろへ」
「わたくしも補助いたします。シュテルさんだけに防御を任せるわけにはいきませんもの」
返事を待たず、彼女は扉を叩いた。
「聖盾審問官シュテル・シュトラールです。現在の稼働状況と記録の確認を求めます。責任者の方は応答してください」
返事はなかった。
短く、金属が擦れる。
「下がれ!」
カルマが叫んだ。
扉の錠が外れ、内側から開く。
ほとんど同時に、石弓の矢が二本、こちらへ飛んできた。
◇
シュテルさんの《星盾》が扉いっぱいに広がった。
一本目が盾を打ち、二本目が光の縁を削る。折れた矢軸が石床を跳ねた。矢は警告でも威嚇でもなく、人が立つ高さへ向けられていた。
「撃て! 接続盤へ近づけるな!」
広間の奥から男の声がした。
中央には、銀の導路を束ねる円柱状の設備。左右に整備用の足場があり、北側の高い通路には石弓兵が二人。床では盾と剣を持った兵が三人、円柱を挟んだ奥の操作卓には、保全局の制服を着た男が一人立っていた。
六人。
わたくしたちが入り口から踏み込んだ瞬間、盾兵たちは二手に分かれた。二人が正面を塞ぎ、残る一人が円柱の右側へ回る。石弓兵は上から射線を変え、同じ場所に矢を重ねないよう撃ってきた。
訓練された動きだった。
「上は俺が見る! 下を頼む!」
カルマが左の石柱へ走る。
わたくしは魔札を四枚に増やし、先頭の盾兵の腕と盾の縁を絡め取った。魔力の糸を張り、剣を握る手を開かせる。
男が呻いた。
あと少し引けば、関節が耐えられないだろう。
わたくしは力を緩めた。
その隙を逃さず、鎧に刻まれた白い線が明滅する。足元の銀の導路から魔力が引き上げられ、糸の張りが鈍った。男は無理に腕を捻り、拘束から半身を抜いた。
剣が落ちる。
剣を落とさせた。このまま膝も縛れば、腕を折らずに済む。
そう考えた一瞬に、男のもう一方の手が動いた。
男は盾を捨て、腰から小型の石弓を抜いた。
銃声がした。
わたくしの視界の左側で、黒い外套が翻る。
カルマが《ミゼリコルド》を構えていた。
盾兵の胸当てに穴が開き、男は背中から倒れた。指にかかったままの引き金が落ち、石弓の矢がわたくしの顔の横を通り抜けて、背後の扉へ突き立つ。
熱い風が頬を撫でた。
男は起き上がらなかった。
「リズ、動くな!」
カルマが叫ぶ。
その声で、ようやく足が止まった。
わたくしが力を緩めなければ、あの男は石弓を抜けなかった。
逆に、カルマが撃たなければ――。
そんなことを考えている間もなかった。
「シュテルさん!」
右側で金属が鳴った。
彼女は二人目の盾兵の剣を受け、光の盾で押し返していた。踏み込んで胸当てを打てば倒せる距離だったのに、シュテルさんは盾を斜めにして相手の身体だけを後退させた。
「もう武器を下ろしてください! これ以上は――」
男は答えず、盾を前へ突き出した。
シュテルさんがその盾を受け止めた瞬間、男の右手が動く。盾の内側から短い刃が現れた。
間合いが近すぎる。
彼女が《星盾》を引き戻そうとしたときには、刃先が喉元へ伸びていた。
水銀色の細い線が、二人の間を横切った。
鈍い衝撃音。
盾兵の身体が震え、喉を狙っていた手が下がった。
ゼェレの《メルキュール》から伸びた針が、男の胸を貫いていた。
針が液状にほどけて引き戻されると、男は膝から崩れた。刃が床へ落ち、石の上で何度か跳ねる。
「……え?」
シュテルさんの声が聞こえた。
ゼェレは倒れた相手を一度だけ見て、すぐに上段へ視線を移した。
「二人とも、そこに立ってたら次が来るよ」
上から矢が降った。
わたくしはシュテルさんの腕を掴み、円柱の左にある石台の陰へ引き込んだ。魔札が一枚、床に沿って戻る。ゼェレが壁から押し出した石板が通路との間に立ち、続く矢を弾いた。
「下の一人、まだ動いてる!」
カルマが柱の向こうから知らせる。
残る盾兵は後退し、奥の操作卓の前を固めていた。
奥の男が怒鳴る。
「焼却準備! 記録を残すな! 封鎖板を落とせ!」
床が震えた。
円柱の周囲を囲む鉄の隔壁が、天井から下り始める。
二人の兵が、床に倒れたまま動かない。
その事実を呑み込む前に、敵はもう次の手を打っていた。
◇
石台の陰で、シュテルさんは自分の手を見ていた。
わたくしは声を掛けかけ、やめる。
倒れた盾兵に向けた彼女の視線が、まだ動かない。
「……脈を確かめなければ」
「今は出るな」
カルマが短く制した。
「上の二人が狙ってる。出たらまた撃たれるぞ」
「ですが……」
「分かってる。俺だって、死なせたくて撃ったわけじゃねえ」
声は荒れていなかった。だからこそ、わたくしはカルマの顔を見ることができなかった。
ゼェレは石板の厚みを指先で確かめていた。
「こっちも、もう長くは保たないね。あの導路、さっきから壁の内側まで魔力を引いてる」
その言葉に、シュテルさんが顔を上げる。
「ゼェレさん。あの方は……」
「私が刺した。動きは止まったよ」
「そうではなくて……!」
ゼェレは少しだけ口をつぐんだ。
「分かってるよ。急所を外せば止まったかもしれない。でも、今の間合いでそれを選んだら、君が刺される方が先だった」
淡々とした声だった。
突き刺した相手が最後に何を言ったのか、彼女は覚えているのかしら。
問いかける気にはなれなかった。
「……二人とも」
ゼェレはわたくしとシュテルさんを見た。
「生半可な気持ちで、教会や王国の闇を暴こうとしてない?」
胸の奥が熱くなった。
「そのような覚悟で、ここまで来たつもりはありませんわ」
「なら、今のことを見なよ」
ゼェレは倒れた兵の方を示した。
「君たちが傷つけないようにしていた相手は、君たちを殺すつもりだった。そこは、もう確かめる必要ないでしょ」
「……わたくしは、あの兵の事情を知らないのです」
自分でも驚くほど、声が掠れていた。
「誰が命じたのかも、どこまで知っていたのかも。ですから――」
「それは後で調べればいい」
ゼェレは遮ったが、声を強めなかった。
「私だって、誰でも殺せばいいなんて思ってないよ。でも、撃たれる瞬間まで待って、その人が本当に悪いか考えるつもり?」
返事ができなかった。
父は王国に裁かれ、処刑された。
わたくしは王国へ復讐を誓った。クロイツハーフェンでは、グレゴールの命が失われる結末も選んだ。
そのくせ、顔も知らない兵を前にすると、相手の事情を確かめたくなる。
それは間違いなのだろうか。
違う、と即座には言えなかった。
「君たちが暴こうとしているのは、何十年、何百年と積み重なってきた王国の闇だよ。ひとつの部署や一人の悪党を捕まえれば済む話だと思わない方がいい」
ゼェレはそこまで言って、隔壁の向こうへ目を向けた。
「……っと。あの職員、書類を燃やし始めたみたい」
紙の焦げる匂いが届いてきた。
カルマが《ミゼリコルド》を下ろし、《赤鐘》を握り直した。
「俺も、二人が甘いとは思ってたよ」
わたくしは目を上げた。
「けど、その甘さで助かった奴がいるのも見てきた。全部捨てろとは言わねえ」
彼は倒れた兵から視線を逸らさなかった。
「ただな。相手が撃つと決めたとき、こっちに考える時間をくれるとは限らねえんだ。俺が撃ったのは、あの男の弓を壊す余裕がなかったからだ」
「……ええ」
「俺に礼を言うなよ。そんな顔されると困る」
「申しませんわ」
その返事に、彼はかすかに笑った。
シュテルさんは審問官章を握り直した。
「私は……傷つけずに止められると思いました。あの方が剣を下ろすまで、盾を当てずにいればいいと」
彼女は短く息を吸う。
「でも、次に同じことが起きたら、今度こそ誰かが倒れますね」
「シュテルさん」
「もう、判断を遅らせません」
口元は強張っていた。それでも、彼女は《星盾》をもう一度、構え直した。
わたくしも魔札を取り直した。
人を傷つけずに済むなら、そうしたい。
けれど、そのために仲間を死なせかけたのは、紛れもなくわたくし自身だった。
床に倒れた男を、今は見に行けない。
そのことが、どれほど重いことなのかを忘れてはならないと思った。
「カルマ。上段をお願いします」
「あいよ。今度は手加減の順番を間違えんなよ」
「……ええ」
「ゼェレさん、あの隔壁を止められますか」
シュテルさんが問う。
「一枚なら押さえられる。でも、全部は無理。向こうの仕掛けも見たいから、少し道を開けてくれる?」
そこでようやく、ゼェレがいつものように小さく笑った。
◇
上段の射手は、まだ石台の陰を狙っていた。
シュテルさんが盾を先へ出す。わたくしは《ブラッドアルカナ》を二枚、石台の左右から低く滑らせ、床の導路を避けて立ち上がらせた。
カルマがその陰を抜ける。
上段から矢が飛び、シュテルさんの盾に弾かれた。
カルマは撃ち返さない。手すりの支柱へワイヤーを掛け、石段の最初の数段を飛ばして、二人の射線から外れた角度へ回った。
一人目の射手が次の矢を番えるより早く、《赤鐘》が鳴る。石弓の弦留めが砕け、男は壊れた武器を捨てた。
もう一人が腰の短剣へ手を伸ばす。
「そいつもやめとけ!」
カルマが声を張った。
男は躊躇した。わたくしの魔札が手すりの間を抜けて、その腕へ巻きつく。今度は、相手が武器を離すまで引きを緩めなかった。
手首が捻れ、男が悲鳴を上げる。
それでも、短剣は床へ落ちた。
カルマが二人を壁際へ押し込み、手首を縛る。上段からの射撃が止まった。
広間では、残る一人の盾兵が操作卓の前で剣を構えていた。
シュテルさんが進む。
「武器を捨ててください。ここから先へ行かせるわけにはいきません」
男は剣を振った。
シュテルさんは避けなかった。《星盾》で刃を受け止め、そのまま胸当てへ盾の縁を押し込む。
鈍い音が響いた。
兵が息を詰まらせて膝をつく。
彼女はすぐ、男が剣を握り直す前に腕を押さえた。
「抵抗しないでください。これ以上は傷つけたくありません」
その言葉に返答はなかった。男は呼吸を乱しながら、剣を手放した。
わたくしは魔札でその武器を遠くへ滑らせた。
奥の操作卓では、保全局の職員が一束の帳票を火鉢へ押し込んでいた。
「止まりなさい!」
「記録は保全局の管理下にある! おまえたちに触らせるものか!」
男は次の束を掴む。
わたくしは二枚の魔札を放ち、紙の端を挟んで引き寄せた。半分が火に入り、焦げた紙片が舞う。
ゼェレが床へ手を触れた。
石の板が火鉢の口にせり上がり、残る火を覆う。煙が細く漏れたが、新しい紙が燃えるのは止まった。
「その机、動かさないで。下に危ない線がある」
彼女が言うと同時に、職員は卓の横にある銀色の筒へ手を伸ばした。
壁の銀線が脈打つ。
「何を――」
シュテルさんが声を上げる。
「逆流させるつもりだよ!」
ゼェレの声が鋭くなった。
わたくしは魔札で男の手首を引いた。今度はためらわない。筒を握り込んだ指ごと引き離し、操作卓の縁に手を叩きつける。
男が叫び、筒を落とした。
床石が盛り上がり、転がった筒を囲む。ゼェレはその周囲の銀線だけを、石の薄い膜で覆った。
「そこ触らないで。まだ中に魔力が残ってる」
男は椅子から立ち上がろうとしたが、シュテルさんがその前に立った。
「もう終わりです。こちらには負傷者もいます。今度こそ、抵抗をやめてください」
男がわたくしたちを睨んだ。
「ここで何が動いているかも知らないくせに……!」
「だから調べに来たのですわ」
わたくしが答える。
「患者の名前を消した記録も、魔力を送った記録も、ひとつ残らず確認いたします。何代も前から続いているのなら、なおさら」
最後の言葉には、わずかに力が入った。
男が何か言いかけたが、結局、口を閉じた。
◇
戦闘が収まると、シュテルさんは真っ先に倒れた二人のもとへ走った。
わたくしも続く。
カルマが撃った盾兵は、目を開けたまま動かない。ゼェレが刺した男も、胸の動きが止まっていた。
シュテルさんはそれぞれの呼吸と脈を確かめた。
しばらくして、彼女は手を離した。
「……亡くなっています」
小さな声だった。
わたくしは膝をついた。
床の銀線は、二人のそばでも変わらず光っていた。
この部屋に運び込まれた人々の名前を、わたくしは取り戻したいと思っている。
けれど、目の前で命を落とした兵の名前は、まだ知らない。
胸が痛んだ。
「……私の判断が遅れました」
シュテルさんが言った。
「わたくしもですわ」
互いに顔を見られなかった。
カルマが近づいてきた。
「自分を責めるのは後にしな。あいつはリズに撃つつもりだったし、もう一人はシュテルの首を狙ってた。俺たちが止めなきゃ二人とも危なかった」
「分かっています」
「分かってるなら、今やることをやろうぜ」
彼の声にも、いつもの軽さはなかった。
ゼェレは少し離れたところで銀の導路を確かめていたが、シュテルさんが遺体を覆う布を探すと、自分の鞄から清潔な布を取り出して差し出した。
「使って。……二人とも、これから運ぶんでしょ」
「ありがとうございます」
ゼェレは返事の代わりに、石台の方へ目を戻した。
わたくしには、その態度が理解できなかった。
カルマは、倒れた兵へ何度も目を向けていた。撃たなければわたくしが死んでいたと知っていても、彼は自分の撃った相手を忘れようとはしていない。
対してゼェレは、いつの間にか測定板を取り出し、導路の変化を調べている。先ほどの刺突に迷いがなかったことも、傷を確かめるより先に次の射線へ目を向けたことも、わたくしは見ていた。
あれほど正確に人の動きを止めるのは、知識だけでできることではない。まして、致命の一撃をあの速さで選べるのは。
彼女が何を経験してきたのか、わたくしには見当もつかない。今ここで問い質したところで、答えるとは思えなかった。
それでも、彼女が手を貸さなければシュテルさんは助からなかった。
感謝と警戒が、同じ重さで胸に残っていた。
残る兵と職員は武装解除し、騎士団へ引き渡せるよう手首を拘束した。カルマは上段の二人を見張り、シュテルさんは気絶しかけた盾兵の呼吸を確かめる。わたくしは操作卓に触れ、押収する帳票の位置と冊数を記録した。
火鉢の周りでは、一部の紙が黒く焦げていた。
それでも、綴じられた大きな台帳は残っている。
表紙に刻まれた題名を、わたくしは指でなぞった。
〈白冠補完導路・送出承認台帳〉。
頁をめくると、新しい運用票の下に、黄ばんだ旧様式の記録が何冊も綴じ込まれていた。
王国側の照合番号。中央教義院の受領欄。署名ではなく、番号だけを記した患者欄。
古い頁には、名前を書くための広い空欄がある。
年代が進むにつれて、その欄は少しずつ狭くなり、やがて消えていた。
日付を遡る。
さらに遡る。
父が生まれるより前のものまで残っていた。
「……こんなに昔から」
思わず、声が漏れた。
ゼェレの言った、何十年、何百年という言葉がよみがえる。
けれど、印章が本物かどうかも、この書式が当時どの範囲で使われていたかも、まだ分からない。台帳が古いだけで、誰の罪も決まるわけではなかった。
それでも、父が《白冠》の運用拡大に異を唱え、王国で裁かれた理由を考えるうえで、この記録を無視することはできない。
教会が記録を受け取っていたのなら、何を知っていたのか。
王国が照合していたのなら、誰がその権限を与えたのか。
そして、人々の名前を番号へ変えることを、誰が認めたのか。
答えを追わなければならない。
ここで二人が死んだことも、記録から消してはならない。
「リズさん」
シュテルさんが傍らに来た。
彼女は台帳の年代を確かめ、すぐに口元を引き結ぶ。
「……複写を取りましょう。封印できるものは、ここで封印します。騎士団への連絡も必要ですね」
「ええ。まず目録を作りますわ。押収の経緯と、亡くなった二人のことも」
シュテルさんは静かに頷いた。
カルマが入口の方を振り返った。
「連絡管なら途中の回廊にあった。俺が騎士団を呼んでくる。……リズ、そっちは任せた」
「お願いいたしますわ」
彼が出ていくと、ゼェレが中央の円柱を軽く叩いた。
「ねえ、こっちも見て」
測定板の針が、ゆっくりと一方向へ倒れている。
「ここの帳簿は止められても、魔力の流れは止まってない。むしろ増えてる。奥にまだ動いてる設備があるよ」
円柱の向こう、閉じた隔壁の下から、白い光が細く漏れていた。
シュテルさんが《星盾》を持ち直す。
わたくしは台帳を閉じ、確かな重みを両手で受け止めた。
ここまで来て、何も知らなかった頃へは戻れない。
だからこそ、次に動くときは、あの二人の死をなかったことにしない。
壁の奥で、低い鐘の音が再び鳴った。




