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【完結】人見知り歌姫は不機嫌王子を眠りに誘う  作者: HAL


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6/6

6.皇太子妃



「……起きないな」

「……起きないわね」



 姉弟でこんこんと眠リ続ける皇太子を凝視してるすぐ横で、私はじっとしていた。

 居たたまれないけどしょうがない。皇太子が私のドレスを掴んで離さないんだもの。



「えーと、姫様、なんか薬とか盛ったり?」

「メロディ様がそんな事するはずないでしょう?見なさい、あれを」



 ベッドから降りたいのに、寝てるはずの皇太子にドレスをガッチリ掴まれて逃げ出せない。たーすーけーてーぇ〜!

 ルーナさん達は憐れみの目を向けてるけど助けてはくれなかった。酷い。



「メロディ様。ご不快かと思いますが、どうかそのままで……」

「ああ。こんなにぐっすり眠ってるこいつを見るのは久しぶりだな……」



 2人が皇太子を見る目に痛々しさを感じる。睡眠不足とは言ってたけど、そこまでだったの?



「……殿下が妖精の声のせいで寝不足だって話は聞きましたか?」



 ルーカスさんの問いに、こくこくと首を振る。



「こいつは魔力が高いから、割と小さい頃から意図せず妖精の声が聞こえてたみたいで。で、魔力量が成長と共にどんどん増えてきたとこに、妖精共が目をつけましてね。自分の気に入った娘をこいつの番にしようと張り切り出したみたいで、昼夜問わずのプレゼンをこいつのそばに来て始めたもんだから………もうそれからは競い合っての大騒ぎ。夜も闇の精霊と親和性が高い妖精が来たりで、ほんと、寝てないんだよ、こいつ。薬も魔法も魔力が高すぎて効果が薄くて。だから姫様のそばでこんなに眠ってるライトを見て、なんか、安心したっつーか……」



 安心しすぎて仮にも王女に対しての口調じゃないけど、まぁ、許すよ?内容が内容だし。



「……きっと、お疲れ、だったのだと……」



 子守歌じゃあるまいし、いや、子守歌だってそんなすぐバタンキューって眠れる訳じゃないよね。ドラマでよくあるクロロホルム嗅がされた人みたいに意識無くしてたよ?

 姫様に化けた魔のモノですか?と尋ねてきたルーカスさんをぶっ飛ばすルーナさんを見つつ、そういえば何の用事でここにルーカスさんがいるんだっけと考えた。

 ………。

 ……。

 あ。



「あの……候補者が喧嘩してるって……」



 ルーカスさんが「あ」という顔をしてあわあわと慌てふためく。



「そうだった!姉貴、候補者のお嬢さん達が…!」

「騒がしいわよ、馬鹿弟。とりあえず私が行くわ。皇太子妃が決定した今、彼女達の存在は火種にしかならないわね……。それでは御前失礼します、メロディ妃殿下」



 あ。今しれっと『妃殿下』って言ったわね?聞き逃してないんだからね?てか、まだ結婚してないからね?



「メロディ妃殿「メロディ!です!」………えっと…メロディ様の歌って、聴いた奴を強制的に眠らせるとか、そういった効果がおありで?」

「………い、いえ、祖国では、そもそも人前で歌う事、は……無くって……ひとりで、こっそりと……妖精が聴いてたくらいで……」



 ルーカスさんの妃殿下呼ばわりを阻止する。ほんと、外堀から埋めてくるのはやめて下さいよ……

 私は前世でだって観客の前では歌っていない。顔出ししないでいいネットの世界を選んだくらいだもの、今世でだって観客は人外(妖精)くらいだ。だから私の歌で人がどうこうなるとか、全く分からない。

 私の歌でこんなグーグー寝ちゃうなら、凄腕の怪盗になれちゃうよね。



「しかし……コレじゃあ妃殿……メロディ様が動けないな。お茶の用意でもしてくるんで、追加で子守歌でも歌ってやって下さい。あ、俺のいない間に。俺まで寝ちゃったら大問題なんで」



 ルーカスさんは(意識的に呼び方間違えてたけど)ニカッと笑って部屋を出ていった。残されたのは寝台の上にいる私と絶賛おねんね中の皇太子。


 ………うん、追加で歌っておこう。

 ここで起きられたら危険な気がする。


 教育番組で流れていそうな子守歌を歌う。私のドレスを掴んで離さない皇太子の頭を緩く撫でながら、ルーカスさんがドアの前に来るまでの間、小さな声でこの人の為だけに歌った。








 ―――きっかりかはわからないけど、それから5時間後。皇太子は突然がばっと勢いよく、文字通り飛び起きた。

 その間トイレはどうしたかって言うと、この時代ですから。おトイレは遠い方な

んで良かったと思います。



「……え………?………は?」



 皇太子は目を大きく見開いて、キョロキョロと周囲を見回している。なのに、私と目が合った瞬間、蕩けるような笑顔を向け―――私を抱きしめ、ネコ吸いみたいに匂いを嗅いだ。


 

「あ!おい、何やってんだコラ!離れろ!」

「……あー、この匂い、落ち着く……」

「……殿下、猫じゃないんですから…」


 

 私のドキドキを返して。

 すーはーとネコ吸いの如く体の匂いを嗅がれ、私は遠くなる気を奮い立たせて耐える。



「………久し振りにすげーぐっすり寝た……頭はスッキリしてるし、魔力の調子もいい。虫共の声が聞こえなくて何か空気もいい匂いがして美味い」



 最後のとこでルーカスさんがブフォッって吹き出した。

 ねぇ、空気って今あなた私の匂い嗅いでるよね……?

 もう考えたくない放棄したい。



「……これならもう愛し子の我儘も聞く必要ないな。妃も決まったし、集めた奴らで問題になりそうなのから順に国に送り返せ」

「もう問題起こしてるけどな」

「……該当者は既に別室へお連れしております」



 ルーナさんは揉め事の調整に行ってたけど、戻って来た時は大層お疲れな顔をしていた。

 そうよね、ゲームで見た愛し子って皆我の強いキャラばっかりだったし。キャラを立たせる為には仕方ないよね。特徴が無い私みたいなのだと埋もれちゃうもん。


 さてさて、どうやら話が纏まりそうだし、私のお役目も一旦終了でいいかしら?

 いいよね??


 会話に気を取られて拘束が緩くなってるのを好機とばかりに、私のステルス能力『壁の花』(勝手に命名)でそろりと皇太子から抜け出そうとする。



「で、殿下もお目覚めになったので、わ、私はこのへ」

「駄目だ!お前はここにいるんだ!」



 この辺で、の『辺』も言えないうちに魔法で引き寄せられ、羽交い締めにされた。



「おいおい、野良猫じゃないんだから」

「そうです。一国の姫君なんですよ一応」



 一応は余計ですルーナさん。

 深窓の姫君捕まえて野良猫……

 猫は可愛いけどそれとこれとは別!



「メロディ、俺と二人きりで語り合おうか。ここで」



 いや。ここベッドだから。

 皇太子が恐ろしい事を言ってくる。



「やめて下さい国際問題になります」

「責任取れば良いんだろう?お前ら早く出ていけよ。流石にヤってるとこは見せないぞ」

「何言ってんですかこのハレンチ皇子」

「お前こそ何言ってんだ。そもそも何のために属国の姫さんたちを集めた?元々は愛し子関係なく、嫁探しの計画してたのはお前らだろう?メロディだって言ったよな?自分が姉の代わりに来たって」



 え?

 ちょっと待って。

 何か流れるように会話が進んでいくから状況がさっぱり分かってないんだけど。

 今何て言ってた??



「……それもそうですね」

「殿下がお見初めになったお方ならば…」



 姉弟は目的達成とばかりに納得した様子で退室の準備を始めた。



「では御前、失礼いたします」

「お前、初めてだからってあまり無体な事すんなよー?」



 え?私、おいてかれた???

 無情にも扉が閉まり、二人っきりへ逆戻り。目の前には睡眠とって元気いっぱいの皇太子。私、詰んだ?

 現実逃避したい私に、皇太子はニッコリ笑う。嗚呼、顔が良い……(2回目)。



「とりあえず、メロディの歌の何が影響するのか調べさせてもらうよ。色々試すけど、痛いことはしないから」



 あろうことか、この私に『顎クイ』して迫ってくる。

 待って待って今ここ二人きり。

 危険な臭いがプンプンしますよ奥さん!

 乙女の危機です。

 


「―――我、ライト・ラキア・エンドゥーブルが誓約する。このメロディ・タウ・イグレアを我が魂と結ぶ事をここに誓う」



 ふわりと光が舞う。

 誓約の魔法陣が描かれて輝きを放つ。

 光の奔流に包まれた私達を、呆然と眺めた。いや、見てるしかなかった。



「はー!?なにやってんですか、それ、夫婦の誓いですよ!!」



 片方が死ねばもう一方も命を落とす、生も死も共にする一蓮托生の究極の誓約。

 あと、相手がどこにいてもわかるし、他の人と性的な触れ合い(粘膜接種ってやつね)が出来なくなる。今では殆んど行う人がいない古い誓約の魔法で、精霊との契約とも言われているもの。



「えっと、さ。俺も男だし、色々調べてるうちに我慢きかなくなって一線を越えたら問題でしょ。でも誓約しとけばメロディに手を出してもセーフだし」



 何言っちゃってんのこの皇太子は!

 貞淑の誓いなんてやっちゃって万が一子供が出来なかったら、後継者が…………ってこの人、そういえば第三皇子だからお兄さん二人いるんだっけ。そっちの人達の子供が継げばいいのか………いいの?いやいや、良くない。問題は未来の事じゃなく、今!

 


「アウトです!色々!何ですか我慢って!我慢って、……するほど、あの、抑えなきゃいけないものが……?」

「うん。マジでヤバい。体調いいせいか、こう、むらっと」



 ひぃっ!

 何か皇太子の目がギラギラしてるっていうか、獲物を狙う肉食獣っていうか。捕食者の圧を出さないでー!!



「……わ、わ、私は別に魅了を使った訳では……」

「わかってる、わかってるけど、この皇子の設定を考えたらわかるよね?俺の理性が鋼だった事に感謝して」



 前世という人格で抑え込んでくれているのはわかる。でも、この人の元々の設定って、ハーレム作っちゃう体力がある訳で。そんな人の愛情が全部一人に集中するって事は…………ですよ。



「………独占欲強強の執着絶倫系………」

「ははっ!甘々も入れてあげるよ、メロディになら」



 ロマンス系小説の役満じゃないのー!


 その後、歌って眠らせる技を物理的に塞がれた私に為す術はなく、美味しく?頂かれてしまった事をここに記す―――






ここで一旦完結とさせていただきます。

星の数で第二部書くか考えますです(後ろ向き)


こちらの話を皇子視点で、

『不機嫌王子は元VTuberの歌姫に眠りを請う』

というタイトルでカクヨムでも書いています。

https://share.google/CCCBePZCxG7Av3yoW


比較して読み比べても楽しいかもです。


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