5. 子守歌?
持ち前の技術力?で気を失う事に成功した私ですが、今、大ピンチを迎えております。
いや、なんかベッドに寝かされてるんだけどね、髪を弄られてる気がするの。……まるで事後みたいに。
誰の声も聞こえないから、多分これは皇太子の手なんだろうな……狸寝入りはどこまで有効なんでしょうか。教えてマルティナ。
現実逃避していると、笑いを耐えたような吹き出す声が聞こえた。
「ぷっ……起きて俺とお話してくんないかな。まだ寝てるようなら……もっと悪戯するけど?」
「っ、起きます!起きてますっっ!悪戯しないで下さいお願いします!」
怖い怖い怖い!
慌てて飛び起きて土下座する。
日本人ですから!
そんな風に俯いたままでいると、頭を優しく撫でられた。やらしい手つきじゃなく、子供の頭をいいこいいこするみたいに。
「詩さん…いや、メロディの事を教えて欲しいんだ。この世界があのゲームの世界だって事は知ってるよね?」
おや?
普通にお話でいいのか。
ホッとした私はコクリと頷く。
ゲーム。ゲームかぁ。
とはいえ、私もちょこっとかじる程度にしかゲームはやっていない。前世で死んでしまったから。あまり知識を期待されても困るし、私自身には愛し子とか、そういう能力は無いし。
そもそもあれってハーレム要素ありの恋愛シュミレーションゲームだよね?愛し子のオネーサン達に協力してもらえば良くない?
「私はテストプレイで少し触らせてもらった程度なので、詳しい本編の内容は分からないんです。だから、あまり力には―――」
なれないと思います、と言い切る前に皇太子は発言を被せてきた。
「このゲーム、一応全年齢で出てるけど追加ディスクでR指定版もあるんだよね。メロディが協力出来ない、って言うなら今ここで体験してく?」
なんて?
R指定を体験する?ここで?
「全身全霊をかけて協力させていただきます!」
「うん。そう言ってくれると思ってた。ありがとう、愛しい婚約者殿」
思考回路がショート寸……うん、一歩手前。完全降伏。白旗です。
どさくさに紛れて婚約者って言ったな?
まだ候補でもないのに。あ。一応候補って形でここに来てたんだっけ。くぅ。
打ちひしがれてたら皇太子に肩を引き寄せられ、頬にキスされた。
ひぃやぁぁぁぁっっ!!
びっくりしてベッドの隅に逃げれば、そんな私の動きを見て皇太子はクスクスと笑っている。くそぅ。アンタのせいなんだから!睨みつければ「可愛い」と返されるし。解せぬ。
「かーわいい反応。でも残念、俺、知ってるんだよね」
意地悪を言うようにニヤニヤしてる皇太子。何も悪い事してないのに、なんで私の方が後ろめたい事がある浮気性の旦那みたいになってるのよ!
くーっ、ムカつく!
そう思っても強気に出られない弱気な私。だって人見知りなんだもの!!
「な、ななな何を……ですか?」
「詩さん、この顔好きでしょ?声も…声優さん推しだったっけ?いつだかの放送で言ってたよね、『好みドンピシャなのにこの女誑しの性格がムカつく〜』って」
なのにこの皇太子はあろうことか、その『顔』を盾にとって私に揺さぶりをし掛けてきた。あくどすぎる!腹黒!どS!
「う"っっ」
「見た目は超好みで、中身は俺だから詩さん一筋で浮気してないし、しないよ?お買い得だと思わない?」
顔良し声良し浮気無し。
頭脳明晰(多分)、権力者。
お金持ちだし魔法強い(公式情報)。
前世の私のファン。
ええ……これ、駄目な理由ってある?
断る理由が思いつかない……
むしろ公式での駄目なキャラ設定全部ぶっ壊してきたようなスパダリ案件。
うわーん!!
マルティナ、私に冷静になる喝を入れて下さいお願い!
いつもなら傍にいて鋭いツッコミをくれる有能侍女はここにはいない。
嗚呼それなのにそれなのに。
「あ。言って欲しい台詞とかあればリクエスト受け付けるよ?」
「………………………お願い、します……」
長い沈黙の後、悩みに悩んで頷いた。
キラッキラのプリンスオブプリンスな笑顔を向けてくる彼のその言葉は、私に何もかも諦めさせてくれる。
ビジュ良すぎぃ……
両手で顔を覆ってそう呟けば、皇太子がお腹を抱えて笑う。
嗚呼…眩しすぎ…そのスチル下さい。
呆ける私の顔を見て苦笑した皇太子は、甘酸っぱい空気を変えるように表情を引き締めた。
………ごめんなさい。その顔もカッコいいです。
「で、本題。メロディは愛し子のお姉さんの代わりに来たって言ってたけど、君自身は何か特別な力ってあるの?」
私も愛し子かどうか、って事?
でも、残念ながらそんな力はない。
首を横に振って否定する。
「あの、う、歌がうたえるだけで…」
愛し子ではないけど、イグレアの妖精達は私の歌をよく聴いてくれていた。
やっぱり歌って情操教育にもいいって言うじゃない?妖精も同じで、うちの国の子たちはここの妖精より大人しいのよね。
「歌?さっき歌ってたみたいな?」
「は、はい!私、歌う事だけは昔から大好きだから」
「うん。それは知ってる」
くすっと笑われる。
やめて、その顔。ほんと弱いのよぅ…
「じゃあ『愛し子』って訳じゃないんだよね?」
「違います……私は特定の妖精と契約してないので…」
妖精の『愛し子』である彼女らは、その土地に住む特定の妖精と契約を結んでいる。契約さえしていれば土地の妖精も愛し子についてほかの地へ行く事が出来るので、今回のように皇太子の婚約者候補としてやって来た彼女達に付いてきた妖精が、今この国に沢山いて喧嘩してるからちょっと騒がしい。
「歌の他には何か?」
「ほ、他には何も……」
「歌うだけ?」
「………はい……」
皇太子は私の返答に考え込んでいる。
ごめんね、無力なんですよ。
今からでも嫁候補、考え直していいですよー?
なんて考えてるのがバレたのか、「いや、結婚は決定事項だから」って言われた。わぁ、バレてーら。
「………俺、妖精の姿は見えないんだけど、声は聞こえる体質でさ。最近はその妖精達からの自分の愛し子を推すアピールが昼夜問わず続いてて、寝不足なんだよ……見てこの隈」
言われてみれば目の下に隈がくっきりと。せっかくの美形が台無しだ。いや、それ位でこの美形がどうこうって事はないけど。
「で。寝不足で頭がガンガンして超不機嫌だったとこに、詩さんの……メロディの歌声が聞こえてきてさ。それからなんだ、妖精達が静かになったのが。今まであんなにピーチクパーチク騒いでいたのがあっさりと、な」
何か理由があるのかと言われても、私にはさっぱり。
「メロディは妖精を黙らせる事が出来るのか?」
ブンブンと首を振る。
そんな覚えはないし、した事もない。
「あの、イグレアの妖精達は…ここにいる妖精より大人しいんです……だから、言う事聞かせるつもりでどうこうした事は、ない、です」
「単純にメロディの歌が好きって事か…?うーん、ちょっとここで歌ってみてもらえる?」
頷いて了承した私は、またさっき歌ったこのゲームの主題歌を歌う。検証するなら同じ曲の方がいいと思うし。
すぅ、と息を吸い込んで歌い始める。
皇太子が目を輝かせてこっちを見た―――と思ったら、突然どさりと音を立て、ベッドに横倒れになった。
「ひぇっ…!な、な、な……???」
「…………ぐぅ…………」
「……………」
寝て……?
皇太子はベッドで気持ち良さそうに眠っていた。
おかしな姿勢でもないから、とりあえず様子見して彼が眠る様子を観察していたんだけど、うん。かわいいよね、うん。(うんが多い。)
暫く待ってみたけど状況に変化はないし、起きないのを確認して頬につん、と指で刺激を与えてみたけど、やっぱり目覚める様子は無い。
まつ毛長いなぁ、とか、髪の毛意外と柔らかいんだなぁ、とか(触ってしまった)していたら、控えめなノックの音が聞こえたので入室の許可を出す。
「失礼致します………え?これは……」
入って来たのはルーナさんだった。
ベッドの上の皇太子を見て目を丸くするルーナさんだけど、直ぐに申し訳無さそうな顔で私を見る。
「……重ね重ね主が申し訳ありません。またご無体な真似をしでかしたのでしょう?いいのです、気絶する位殴らないと性根は直りませんから」
いや待って。
殴って気絶させたんじゃないから!
誤解ですよ、誤解!
「ち、違います、この人が、突然…」
「大変だ、姉貴!!候補者達が取っ組み合いの喧嘩を始めて大騒ぎになってるぞ!」
訂正しようとしたら、皇太子の侍従さんが勢いよく部屋に飛び込んできた。
「ルーカス、姫様の御前で騒がしいわよ?少し落ち着きなさい」
「んな悠長な事言ってる場合じゃないんだって!何か妖精達が言う事を聞かなくなったとかで、誰のせいだとか何とか、兎に角収拾がつかねーの!ライト、お前も黙ってないで何とか―――ん?なに?寝てんの……?え?マジで??」
ルーカスさんが心底驚いたって感じで、寝ている皇太子に近付いて様子をチェックしてきる。そんなに珍しいの?
呼吸の状態とか額に手を当てて熱を確かめたり、脈を取ったりしている。
「………異常は無さそうだ。ただ寝てるだけなのか?それとも―――」
「わ、わ、私は無実です…!」
チラ、と遠慮がちにこっちをみられて慌てて否定した。私ってば、ルーカスさんにまで皇太子を殴って気絶させたんだと思われてるの?!
歌っただけなのに……。
私はセイレーンじゃないよ?
ストックが切れました……
応援が元気の素デス(汗)




