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【完結】人見知り歌姫は不機嫌王子を眠りに誘う  作者: HAL


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4.チョロい



 連れてこられたのは、豪華な衣装部屋だった。女性のドレスしかないから、ここは女の人専用なのね。



「本当に申し訳ありません。お詫びのしようもありません……」

「えぇっ?!ルーナさんが謝ることじゃないですって!顔を上げてください」



 ルーナさんに深々と頭を下げられ、謝罪される。私は慌てて頭を上げてくれるように頼んだ。

 だって全くもって彼女に非はないのだし。イケメンの色香に惑わされた私もほんの少しだけ悪い。ほんの少しだよ?



「ライト様は……本来はあの様な、女性に対して無体を働く方では無いのです。ですが、事情があったにせよ、初対面の女性に同意もなくあの様な破廉恥な真似を……!女性に免疫が無さすぎなのです。力でどうにかしようなど、皇太子ともあろうお人が情けない!」



 私よりルーナさんが泣き出しそうだ。

 私はショックといえばショックなんだけど、知らない顔じゃないし、前世で好きだった顔だしね。流されちゃったよ…

 流石に一線超えられてたらこんな落ち着いてはいられなかったけど。

 あとなんか、好きって……

 私の事、好きって言ってたよね?あの人!

 今更なんだけど、あのイケメンが私の、前世の私を好きとかさぁ、言われたら舞い上がっちゃうよね?ね?


 ……チョロい女ですゴメンナサイ。


 ルーナさんは私が何も喋らないので、ショックが大きいのだと勘違いして泣いていた。あっ、違うんです、私は心の中がお喋りな内弁慶なんです!



「ルーナさん、大丈夫です。私、こう見えて結構たくましいんです」

「メロディ様……」

「えと。帝都に来た記念?という事で、一生の思い出にして帰国します」



 むしろこのドタバタで候補者から外して国に返却して欲しいです。



「そんな訳には参りません!絶対に、必ず、主に責任を取らせますので!!」

「い、いえ、そんな重いものはいらな……」

「さぁ、その陵辱された衣装は処分してしまいましょう!既製品ではありますが、メロディ様にお似合いの衣装をご用意致しますので」

「…いえ、あの、はい…」



 私と皇太子の名誉の為にいうと、陵辱はされてないからね?ホントだよ?!

 私の言う事など全然聞いていないルーナさんは、膨大な数のドレスの中から特にお高そうな物を選んで私に合わせてくれた。いっそ貴女と同じお仕着せでいいです、って言いたかったのをぐっと耐える。


 あんまりゴテゴテしてない、スッキリしたデザインのドレスに着替えて、ついでに髪とメイクも直してもらって、皇太子の執務室らしい部屋の前に案内された。



「ルーナです。メロディ様をお連れしました」

「!ああ、入ってくれ!」



 うう、嫌だなぁ…

 帰りたい、帰りたいよぅ。


 部屋には皇太子ともう一人、侍従さんがいた。ゲームでもいたかな?この人。うーん、思い出せない…

 取り敢えず案内されるまま、ソファにかける。

 皇太子からビシバシ感じる強い視線に、無意識に体が震えた。怖い。ヤラせなかったからって殺されないよね…?うう。



「……先程は大変失礼致しました……」



 思った以上に声が出なかった。

 向かい側に皇太子、その後ろにルーナさんと侍従さんらしき人が立っている。

 ルーナさぁん、守ってね!お願いよ?!

 涙目で訴えてみた。心の声よ、通じて!


 そうしたら何故か皇太子の顔つきが心配そうな表情から、目元を赤く染めた……何だろ、え?なんか嬉しそう?

 何でそうなる???

 


「とんでもない、こちらこそ大変失礼をした。申し開きのしようもない。君を傷物(・・)にした責任は全て負う―――メロディ嬢、俺と結婚しよう!!」



 皇太子は私の手を取って高らかに宣言した。


 いや、待ってよ。

 謝罪してくれるんじゃなかったの?

 なんで責任取って結婚する事になるの?


 心の中でツッコんでるうちに、気付いたら皇帝の執務室の前まで来ていた。

 え?どんな技?

 ルーナさんと侍従さんが何やら大声で叫びながら追いかけて来てくれたけど、ホントどうなってるのこの皇太子。ねぇ、帝国大丈夫??

 執務室一歩手前で二人に捕まった皇太子は、諦める様子もなく、悪足掻きを始める。



「っ、離せ!!」

「馬鹿言ってんじゃねー!国際問題だぞ!!」

「クソっ、やっぱりさっきヤッときゃ既成事実でイケたのに!」

「お前サイテーだな?!」



 いやほんと最低。

 確かにゲームでは顔の良さを引いても余るその屑っぷりに幻滅したけど、中身が変わったっていうのに何故その発言?

 私から死んでも離れない、っていう強い意思を感じるほど抱きついてる皇太子VS何とか引き剥がしたい侍従さん。

 これにルーナさんが私を引っ張ったりしたら、大岡裁判だわ。


 そんな両者譲らない攻防に決着をつけたのは、扉の中から出てきた男性のひと言だった。



「……お前ら。中まで丸聞こえだ……取り敢えず全員中へ入れ。話を聞こう」



 えーと、中から出てきたのって、あの人、皇帝さんでは………

 何で側近とか護衛とかの人じゃなくて、皇帝本人がドア開けて出て来たのか。

 理解の追いつかない私を他所に、他の三人は当然のように部屋へ入っていく。

 私は勿論、皇太子にがっちり腰を支えられながらの入室でしたが何か?

 逃走予防だよね。これ。


 皇帝の執務室は思ったより質素な作りで、広さもさっきみた皇太子の執務室と比べれば狭い。まるであっちが皇帝の執務室みたいだ。



「で?何があった?」



 5人もいれば窮屈な広さの執務室に、どこから持ってきたのかルーナさんがワゴンでお茶のセットを運んでくる。

 向かい合ってソファーに座り、優雅にお茶を飲む皇帝と皇太子の親子。私は皇太子に片手で腰を拘そ―――支えられたままソファーにいますよ……だってこの手、外れないんだもの。



「父上。私はここにいるイグレア国のメロディ・タウ・イグレア第二王女を妃にします」



 皇太子が「明日の夕飯はピザにします」みたいな軽い感じで宣言した。皇帝の前で。

 誰が誰を妃に??

 貴方が私を?

 いや、聞いてないけど。

 ううん、なんかそんな事言ってたような気もするけど、するけど!了解とってないよね??私にもだけど、一応、我、一国の姫ぞ?国王に訊かなくていいのそれ?


 隣でにっこり微笑むイケメンが憎たらしい。

 言葉の通じない宇宙人に思えた。



「―――『したい』じゃなく『します』だもんなぁ……」



 皇帝は私を可哀想な子を見るような哀れんだ目で見てから、呆れた声で言う。



「まぁ昔っから言ったら曲げないお前だ、決めたモンを覆す事は無理だろう。お前の事だ、側妃は()らんのだろう?で、だ。婚姻はお前の(・・・)意思か?それとも、帝国の利益の為か?」



 皇帝の値踏みするような視線に怯まず、真っ直ぐに見つめ返す皇太子。

 親子でもあり、為政者でもある二人だからこそのピリっとした空気に、私の緊張は限界だった。

 もうだめ。私はここまでよ……



「勿論、俺の意思だよ。父さん」

「それなら何も言わん。ただなぁ…お嬢ちゃんに了解は取ったのか?ん?」

「あ」



 皇帝との対面による緊張と、自分と皇太子との結婚話(初耳)にキャパオーバーした私は半分魂が抜けたような状態になっていた。



「ちょ、大丈夫か?息しろ!」



 ペチペチと頬を刺激されてハッとする。

 今意識飛んでた?何分経った?

 授業中居眠りして一瞬落ちた人みたいに、私の記憶は飛んでいた。


 もしや、もしかして。

 皇帝に私の変わり身の秘密をバラしたのでは……!!それでこんなとこまで連れてきたんじゃない?!

 いや―――!!

 皇帝の怒りを買って国が滅びる!

 とにかくここは謝罪!!

 誠意を持って謝りまくろう!



「ひっ…!あ、あのあのあの、私っ、ごめんなさい!!」

「ん?」

「私、姉が、本当は姉が婚約者候補としてここへ来るはずだったんです。でも、姉には婚約者がいて、もうすぐ結婚する予定で……愛し子の姉をお求めになったのだと思いますが、どうか、どうかお許し下さい……!!」



 私の一大告白に、部屋の中が静まった。

 誰も何も言わない。

 沈黙が怖い。

 早く誰か何か言って……あ、でも一族郎党皆殺しだ、とかは無しの方向でお願いしたい。優しく、優しくお願いします!



「勿論、許すよ」



 隣から推し声優の声が聞こえた。

 いや、違うわ。この人、皇太子。

 優しい、蕩けるような声。

 そうよね、だって同郷の人だもん、そんな酷いことしないよね!



「ホントですか!ありがとうございます…!」



 安心して息をつくと、皇太子がニコッて「安心して大丈夫!」みたいな優しい顔で笑ってくれた。あぁ…イケメン尊い。



「うん。でも、一つ条件がある」

「条件?」



 皇太子は笑顔を崩すことなく、ついでみたいに言ってきた。何だか分かんないけど、イケメンの頼みだからね。聞きましょう。

 私はまだ腰にある手が離れていない事を忘れて呑気に答えた。

 その手の意味は変わっていなかったのに。



「君が俺のお嫁さんになる事だよ」

「―――え?」



 なに?

 オコメ、サン?……米?おこめサンバ…

 もしや嫁?さっき妃にするとか言ってたけど、本気の話なの?!

 今日会ったばっかだよ?

 でも、青くなる私にずずっと顔を寄せてきて皇太子は言った。



「まぁ、断るっていう選択肢は無いんだ。ごめんね?ね、詩さん」

「〜〜〜?!!?」



 最後の名前は私にだけ聞こえるような囁き声。

 ……やめて耳元でそんな色っぽい声出さないで。



「宜しくね、メロディ」



 そう言って、皇太子は私の頬にキスを落としてくる。


 これはもう気絶案件ですね。

 それでは皆様御機嫌よう。



 そうしてようやく、私はその場から意識だけログアウトさせてもらった。




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