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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第8話 昨日より剣が軽いんだけど?

 剣を振った瞬間。


 俺は、自分の手を見た。


「……あれ?」


 軽い。


 いや。


 剣が軽くなったわけじゃない。


 昨日まで使っていた、いつもの剣だ。


 なのに。


「ギャッ!」


「っと!」


 考えている暇はなかった。


 目の前のゴブリンが棍棒を振り上げる。


 俺は半歩横へ――。


 動こうとした。


 そのつもりだった。


「え?」


 身体が、思ったより先へ出た。


 いつもなら棍棒が目の前を通り過ぎるくらいの位置へ避ける。


 それで十分だ。


 なのに今日は。


 気付けば、いつもより大きく横へ踏み込んでいた。


 ゴブリンの棍棒が、ずいぶん遠い場所を空振りする。


「…………」


「ギャ?」


 ゴブリンも一瞬止まった。


 俺も止まった。


『悠真!』


「あ、やばっ」


 ニャルの念話で我に返る。


 ゴブリンがこちらへ向き直った。


 今は戦闘中だ。


 考えるのはあと。


 俺は剣を構え直す。


 ゴブリンが二度目の棍棒を振る。


 今度は動きすぎないよう気を付けながらかわす。


 そして。


 一歩。


 踏み込んだ。


「はっ!」


 剣を振る。


 速い。


 自分で振ったはずなのに、そう思った。


 刃がゴブリンへ届く。


「ギャッ!」


 その身体が倒れ、少しして光の粒へ変わった。


 残ったのは小さな魔石だけ。


「…………」


 俺は剣を持ったまま動かなかった。


『悠真?』


「ニャル」


『なんだ』


「……今日、俺の剣に何かした?」


『してないぞ』


「だよな」


 そんなことができるなら先に言っているだろう。


 俺は剣を持ち上げる。


 いつもの重さ。


 のはずだ。


 装備を変えたわけじゃない。


 剣だって昨日と同じ。


 なのに、振った時だけ妙に軽い。


『どうした?』


「なんかさ」


 もう一度。


 何もない空間へ向けて、軽く剣を振る。


 ぶん。


 やっぱり。


「……昨日より剣が軽いんだけど?」


『剣が?』


「いや、たぶん違う」


 俺は自分の手を見る。


 握る。


 開く。


 もう一度握る。


「俺の方がおかしい」


『おかしい?』


「悪い意味じゃなくて」


 言葉を探す。


「なんか、動きやすい」


 ニャルの耳が、ぴくっと動いた。


 ――――――


 緑葉の洞窟。


 昨日、ニャルと初めて一緒に潜ったダンジョンへ、今日も放課後から来ている。


 場所も同じ。


 装備も同じ。


 俺の体調だって、別に特別いいとは思っていなかった。


 朝起きて。


 学校へ行って。


 授業を受けて。


 放課後になったからダンジョンへ来た。


 いつも通りだ。


 なのに。


「やっぱ変だ」


 歩きながら呟く。


『まだ軽いのか?』


 今は俺の肩に乗っているニャルが聞いてくる。


「うん」


 剣だけじゃない。


 足もそうだ。


 さっきゴブリンの攻撃を避けた時。


 明らかに、身体がいつもより速く動いた。


 ほんの少し。


 劇的に何倍も速くなったわけじゃない。


 でも。


 俺は半年間、ここへ通っている。


 Gランクなりに。


 何度も。


 何度も。


 同じ剣を振ってきた。


 ゴブリンとも戦ってきた。


 だから分かる。


 昨日までの俺とは違う。


「気のせい……じゃないと思うんだよな」


『もう一回戦えば分かるんじゃないか?』


「簡単に言うなあ」


『確認は大事だぞ』


「ニャルが戦うわけじゃないからな?」


『頑張れ、飼い主』


「他人事だな!?」


 肩を見る。


 ニャルは妙に楽しそうだった。


 尻尾が立っている。


「お前、ちょっと嬉しそうじゃない?」


『気のせいだ』


「その言い方もう信用できないんだけど」


 昨日だけで何度聞いたか。


 ニャルは俺の肩から前を見たまま、尻尾を揺らしている。


 絶対嬉しそうだ。


『でも、前より動けてるならいいことだろ』


「まあ、そうだけど」


『もう一匹探そう』


「モンスターを食材探すみたいに言うなよ」


『ゴブリンは食わないぞ』


「そういう話でもない」


 とはいえ。


 俺も確かめたい。


 もし本当に身体が変わっているなら。


 何が原因なのかも。


 そのまま慎重に奥へ進む。


 今日は新しい場所へ行くつもりはない。


 いつもの浅い階層。


 見慣れた通路。


 昨日はニャルが食材を見つけるたびに寄り道したせいで、いつもと全然違う場所に見えたけど。


『あ。キノコ』


「今日は先に戦闘の確認!」


『帰りに取る』


「取るんだ……」


 まあ。


 もう止める理由もあまりない。


 昨日食べたシチュー。


 普通に美味かったし。


 スライムゼリーも美味かった。


 正しく処理すれば安全だというのも、自分で食べて分かった。


 昨日までなら。


 ダンジョンのキノコを見て、


「夕飯にしよう」


 なんて言われたら本気で止めていたのに。


 一日で人間って変わるもんだな。


『悠真』


「ん?」


 ニャルの耳が前を向いた。


『いる』


 俺も足を止める。


 少し先。


 岩壁から伸びた草の向こう。


 何かが動いた。


 ゴブリン。


 今度は一体。


「ちょうどいいな」


 剣を抜く。


 ニャルが俺の肩から降りた。


『ここにいる』


「離れるなよ」


『分かってる』


 ゴブリンもこちらへ気付いた。


「ギャッ!」


 棍棒を持って走ってくる。


 よし。


 今度はちゃんと意識する。


 いつもなら。


 まず相手を見る。


 棍棒の振り方。


 足。


 間合い。


 攻撃をかわして。


 隙ができてから斬る。


 半年間ずっとそうしてきた。


 焦らない。


 欲張らない。


 自分にできることだけやる。


 それが俺の戦い方だ。


 ゴブリンが近付く。


 棍棒が上がる。


 今。


 俺は地面を蹴った。


「……!」


 速い。


 さっきより意識している分、はっきり分かった。


 いつもより身体が前へ出る。


 棍棒が振り下ろされる前に、相手との距離が縮まった。


 これなら。


「いける!」


 剣を横へ振る。


 一閃。


 ゴブリンの身体が止まった。


「ギャ……」


 棍棒は。


 最後まで振り下ろされなかった。


 そのまま倒れる。


 光になる。


 終わり。


「…………」


 俺は剣を下ろした。


『悠真!』


 小さな足音。


 振り返ると、ニャルが走ってくる。


『今の速かったぞ!』


「……だよな?」


『速かった!』


「やっぱり!?」


 自分だけの感覚じゃなかった。


 ニャルにも分かるくらい違ったらしい。


 俺は剣を握り直す。


 息をする。


 一回。


 二回。


「……それに」


『ん?』


「疲れてない」


 もちろん。


 ゴブリン一体倒したくらいで、普段からへとへとにはならない。


 でも戦えば多少は身体に力が入る。


 息だって少し変わる。


 今は。


 それがほとんどない。


 身体が軽い。


 剣が軽い。


 踏み込みも速い。


 しかも疲れにくい。


「何だこれ……」


『育った』


「え?」


 見る。


 ニャルが。


 ものすごく嬉しそうだった。


 耳はぴん。


 尻尾もぴん。


 小さな前足まで握っている。


『悠真、育ったぞ!』


「いや、育ったって」


『昨日より強い』


「それは……そうみたいだけど」


『よし!』


 ニャルがその場で一度跳ねた。


 何その喜び方。


「俺より喜んでない?」


『だって俺が育てるって決めたからな』


 そういえば。


 こいつが生まれた日に言っていた。


 俺を育てる。


 あの時は。


 何を言っているんだ、この猫。


 くらいに思っていた。


 いや。


 今でも二十センチの猫に「育てる」と言われるのは変な感じだけど。


『前より速かった』


「うん」


『剣も軽い』


「うん」


『疲れてない』


「うん」


『ちゃんと強くなってる』


 ニャルが俺を見上げる。


 なんというか。


 本気で嬉しそうだった。


 ただ数字でも眺めているみたいに、


「能力が上がったからよし」


 という感じじゃない。


 俺が前より動けたこと。


 俺が強くなったこと。


 それ自体を喜んでいる。


「……そっか」


『なんだ』


「いや」


 俺はしゃがんだ。


 そのままニャルの頭へ手を置く。


 撫でる。


「にゃ」


『なんで撫でる』


「なんとなく」


『俺じゃなくて悠真が育ったんだぞ』


「知ってるよ」


 もう一回。


 耳の後ろ。


「にゃぁ……」


 目が細くなった。


 分かりやすい。


 この猫。


 本当に俺を強くする気だったんだな。


 ――――――


「で」


 少しして。


 俺たちは通路の端に座っていた。


 戦闘は一旦終わり。


 原因を考える時間だ。


「なんで急に強くなった?」


『それだな』


 ニャルが俺の隣で前足を組む。


「昨日と今日で変わったこと……」


 指を折る。


「学校はいつも通り」


『うん』


「昨日の探索も、そんな特別なことしてない」


『食材はいっぱい取った』


「それはニャルがな」


 ホーンラビット。


 ゴブリンポテト。


 妖精ニンジン。


 ケイブマッシュルーム。


 スライムゼリー。


 昨日は大量だった。


 でも。


「探索しただけで強くなるなら、半年やってる俺が今さら急に変わるのおかしいよな」


『そうだな』


「装備も同じ」


『剣も同じ』


「変な薬とかも飲んでない」


『うん』


「昨日いつもと違ったもの……」


 俺とニャルが黙る。


 数秒。


 同時に顔を見合わせた。


「……飯?」


『飯だな』


 昨日の夕飯。


 人生で初めて食べたもの。


 ダンジョン飯。


「いやいや」


 自分で言って。


 自分で否定しかける。


「飯食っただけだぞ?」


『いっぱい食ったな』


「おかわりはしたけど」


『二杯』


「覚えてるな」


『作ったからな』


 確かに食べた。


 普通の食事として。


 美味かったから。


 でも。


「ご飯食べて強くなるなんて聞いたことないぞ」


『俺も知らん』


「ニャルにも分からない?」


『食べ方は分かる。でも、食べたら強くなるなんて昨日は分からなかった』


「……そっか」


 そこは重要だ。


 ニャルは食材を見ると。


 食べられる部分。


 危ない部分。


 下処理。


 火の入れ方。


 向いている料理。


 そういうものは分かる。


 でも。


 食べたら俺が強くなる。


 そんなことは昨日、一度も言わなかった。


 つまり。


 ニャルにとっても今初めて分かったことになる。


「でも、それ以外に心当たりないよな」


『ないな』


 俺は自分の手を見る。


 昨日の夕飯から一晩。


 それどころか学校で一日過ごして。


 それでも身体は軽いまま。


 食べた直後だけ元気になったとか。


 腹がいっぱいだから調子がいいとか。


 そういう感じじゃない。


「もし本当に昨日の飯が原因なら……」


 俺はゆっくり言う。


「これ、すごくない?」


『すごい』


 ニャルが即答する。


「だって俺、Gランクだぞ」


 最低適性。


 成長しにくい。


 半年続けてきた。


 強くなっていないわけじゃない。


 最初はスライム一匹にも緊張していた俺が、今ではゴブリンとも普通に戦える。


 でも。


 遅い。


 同じ時期に始めた適性の高い探索者なら、もっと先へ進んでいる。


 それが俺だ。


 なのに。


 たった一日で。


 はっきり分かるくらい身体が変わった。


「これ、適性と別なんじゃ……」


『かもな』


 ニャルが俺を見る。


『でも、一回だけじゃ分からない』


「だよな」


 俺も同じことを考えていた。


 偶然。


 体調。


 何か別の理由。


 可能性がないとは言い切れない。


 なら。


「もう一回食べる?」


『食べる』


 返事が速い。


「まだ言い終わってないんだけど」


『昨日と同じように食べる』


「うん」


『明日また確認する』


「うん」


『また強くなってたら』


「かなり怪しい」


『飯で育つ』


「その言い方だと俺が家畜みたいなんだけど?」


『飼い主だぞ』


「知ってるよ!」


 ニャルが立ち上がった。


 尻尾が完全に上を向いている。


『じゃあ食材取って帰るか』


「切り替え早いな」


『検証が必要だからな』


「さっきまで新しいもの探す気だっただろ」


『今日は同じのでいい』


 なるほど。


 昨日と同じものを食べる。


 そして明日も強くなっているか確認する。


 一応筋は通っている。


『まずキノコ』


「さっき見つけたところ?」


『覚えてる』


「はいはい」


 歩き出す。


 俺もその後ろを追う。


 小さな二足歩行の猫が。


 夕飯の食材を探して洞窟を歩いている。


 昨日なら、まだ変な光景だと思っていた。


 今日も変だけど。


 でも。


 もしかしたら。


 この猫が言った通りになるのかもしれない。


 俺が戦う。


 ニャルが食材を探す。


 持って帰る。


 料理する。


 俺が食う。


 そして。


 強くなる。


「…………」


 そんなことが本当にできるなら。


 俺でも。


 Gランクの俺でも。


 もっと先へ行けるかもしれない。


 今まで行けなかった場所へ。


 もっと深い階層へ。


 もっと価値のあるものがある場所へ。


 母さんの病気を治せる何かにだって。


 少しだけ。


 近付けるかもしれない。


『悠真』


「ん?」


 前を歩いていたニャルが振り返る。


『遅いぞ』


「あ、ごめん」


 俺は足を速めた。


 すると。


 やっぱり。


 昨日より身体が軽い。


 自然と笑いそうになる。


「ニャル」


『なんだ』


「もし本当に飯で強くなってたらさ」


『うん』


「お前、すごい猫だな」


 ニャルが止まった。


 俺を見る。


『今さらか?』


「そこは否定しないんだ」


『俺は美味いもの作っただけだけどな』


「それで強くなってるかもしれないんだよ」


『なら、もっと作ればいい』


 簡単に言う。


 でも。


 ニャルはたぶん本気だ。


 強くするためだけじゃなくて。


 美味いものを作って。


 俺に食わせて。


 その結果。


 俺が育った。


 だから嬉しい。


 そんな顔をしている。


 ニャルが俺の足元まで戻ってきた。


 そして。


 ぽす。


 前足を俺の靴へ乗せる。


『悠真』


「何?」


 耳が立つ。


 尻尾も立つ。


『今日もいっぱい食え』


「…………」


 昨日のシチュー。


 二杯。


 デザートまで食べた。


 しかも今日も同じ量を食べるつもりらしい。


 俺は少しだけ自分の腹を見る。


「……俺、太らない?」


『育ち盛りだろ』


「便利な言葉みたいに使うなよ!」


 緑葉の洞窟に、俺の声が響いた。


──────────────

【ダンジョン食材辞典】


No.002


■名称

妖精ニンジン


■危険度

★★☆☆☆


■ニャル評価

★★★★☆


■見た目

緑葉の洞窟に生えている、ニンジン系のダンジョン食材。

地中の根が食べられる。

普通のニンジンより香りが強く、火を入れると甘みも強くなる。


■食用部位

地中の根。


■危険な部分

表面には弱い魔力毒が付着している。

そのまま口に入れるのは禁止。


■おすすめ調理法

◎ 煮込み料理


■調理のコツ

まず流水でよく洗う。

そのあと表面の皮を薄くむく。


きちんと下処理して火を入れると、甘みがぐっと強くなるにゃ。


■メモ

シチューに入れて食べた。


甘い。

肉や芋と一緒に煮ても、ちゃんと存在感がある。


悠真も「ニンジン甘い!」って言ってた。

次も見つけたら持って帰るにゃ。

──────────────


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