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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第9話 飼い主育成、始めます

 ゴブリンが倒れた。


「…………」


 悠真が剣を下ろす。


 俺も倒れたゴブリンではなく、悠真の方を見ていた。


「ニャル」


『うん』


「昨日より、またちょっと動きやすい」


『うん!』


「やっぱり飯なのか、これ?」


『たぶんな!』


 尻尾が勝手に立つ。


 昨日。


 初めてダンジョン飯を食べた翌日に、悠真は明らかに強くなっていた。


 でも、一度だけなら偶然かもしれない。


 だから昨日も同じように食材を持ち帰った。


 俺が料理して。


 悠真が食べた。


 そして今日。


 また少しだけ。


 悠真の動きが良くなっている。


「よし!」


「ニャル、嬉しそうだな」


『当然だろ』


 だって。


 育ってる。


 俺の飼い主が。


 ちゃんと育ってる。


 育成ゲームで、昨日まで苦戦していた相手を少し楽に倒せるようになった時。


 あの感じに近い。


 ただ。


 画面の中の数字が一つ増えるより、ずっと嬉しい。


 実際に悠真が前より速く動けて。


 前より楽に剣を振れて。


 戦い終わったあとも余裕がある。


 それが嬉しい。


「でもさ」


『なんだ』


「これ、何食べたから強くなったんだ?」


 俺の尻尾が止まった。


『…………』


「ホーンラビット?」


『分からん』


「ゴブリンポテト?」


『分からん』


「ニンジン?」


『分からん』


「キノコ?」


『分からん』


「スライムゼリー?」


『分からん』


「全然分かんないじゃん!」


 仕方ないだろ。


 俺に分かるのは。


 どこが食える。


 どこが危ない。


 どう処理する。


 どれくらい火を入れる。


 何と合わせれば美味い。


 そういうことだ。


 食ったあとに何が起きるかまでは分からない。


『でも強くなった』


「それはそうなんだけど」


『もう一回食えばいい』


「また?」


『検証だ』


「お前それ言えば何でも食わせられると思ってない?」


『美味いだろ』


「美味い」


『なら問題ない』


「強いな、その理屈」


 悠真が笑う。


 俺も満足する。


 よし。


 今日も食材を集めよう。


 ――――――


 それから数日。


 俺たちの生活は、少し変わった。


 悠真が学校から帰ってくる。


 俺を連れて緑葉の洞窟へ行く。


 悠真が戦う。


 俺が食材を探す。


 持って帰る。


 俺が料理する。


 悠真が食べる。


 翌日。


 ほんの少しだけ、悠真が強くなっている。


 そして。


 また緑葉の洞窟へ行く。


『悠真、そっちにポテト』


「はいはい」


『奥にキノコもある』


「見えてないのに分かるの?」


『さっき通った時に覚えた』


「買い物慣れしてきたな……」


『買い物じゃない』


「ニャルの中ではもうほとんど買い物だろ」


 否定しようとして。


 俺は辺りを見る。


 ゴブリンポテトが生えている場所。


 少し進めば、ケイブマッシュルームが群生している場所。


 別の道には妖精ニンジン。


 スライムを倒せば、ゼリーも手に入る。


 運が良ければホーンラビットもいる。


「…………」


『巨大な冷蔵庫だな』


「ほら!」


『なんだ』


「ついにダンジョン扱いしなくなった!」


 してるぞ。


 一応。


 敵が出る冷蔵庫だ。


「冷蔵庫からゴブリン出てきたら普通は引っ越すんだよ」


『倒せばいいだろ』


「基準がおかしいんだって」


 言いながらも。


 悠真はもう、俺がゴブリンポテトを収納へ入れても止めなくなった。


 初日は、


「食べたら死ぬやつだぞ!」


 とか言っていたのに。


 今では。


「ニャル、そっちの大きい方も持ってく?」


『持ってく』


「了解」


 採取まで手伝ってくれる。


 慣れとはすごい。


『今日はキノコ多めにするか』


「何作るの?」


『まだ決めてない』


「肉ある?」


『昨日のホーンラビットが少し残ってる』


「じゃああれ使おうぜ」


『いいぞ』


 完全に夕飯の相談だ。


 ダンジョンの中で。


 俺たちは何をしているんだろうな。


 まあ。


 楽しいからいい。


 ――――――


 帰宅。


 食材を並べる。


 最初の頃は、真琴もそれを見るたびに少し顔を引きつらせていた。


 今は。


「あら、今日はキノコ多いのね」


『いっぱいあった』


「何作るの?」


『炒め物とスープ』


「もう普通に献立聞いてる……」


 悠真が呟いた。


「だって、ちゃんと処理すれば大丈夫なんでしょ?」


『そうだぞ』


「ニャルがそこはしっかりしてるのも分かったし」


 真琴がそう言って。


 俺の頭を一度撫でる。


「にゃ」


 うむ。


 ちゃんと分かってきたようだな。


「ニャル、ちょっと得意そう」


「分かる?」


「尻尾立ってるから」


『料理するぞ』


「誤魔化した」


 まずはケイブマッシュルーム。


 根元を落とす。


 生では駄目。


 ちゃんと火を入れる。


 念動力で包丁を操るのも、初日よりだいぶ慣れた。


 すっ。


 すっ。


 一定の厚さで切っていく。


「相変わらず器用だなあ」


 悠真が横から見ている。


『見てないで皿』


「はい、料理長」


『誰が料理長だ』


「ニャル」


 なら仕方ない。


 切ったキノコを肉と一緒に炒める。


 じゅうっ。


 水分が飛ぶ。


 肉の脂を吸ったキノコから、香りが立つ。


「にゃ……」


 鼻が動く。


 いい匂いだ。


「味見?」


『まだだ』


「今日は我慢できるんだ」


『俺を何だと思ってる』


「味見が多い猫」


 失礼な。


 今日はちゃんと完成するまで待つ。


 ……たぶん。


 横の鍋では、ゴブリンポテトと妖精ニンジンを煮る。


 昨日はシチュー。


 その前は肉と芋を煮込んだ。


 今日は少し軽いスープにする。


 同じ食材でも。


 料理は一つじゃない。


 焼いてもいい。


 煮てもいい。


 炒めてもいい。


 組み合わせも変えられる。


 強くなるためだけに同じものを毎日そのまま食わせるなんてつまらない。


 せっかくなら。


 毎日美味い方がいい。


『悠真』


「ん?」


『味見』


「結局するんじゃん」


『必要だ』


「はいはい」


 少し冷ましてもらう。


 ぺろ。


 うん。


 キノコの香りがいい。


 肉の旨味も吸ってる。


 塩をほんの少し足す。


『よし』


「完成?」


『完成』


「待ってました」


 悠真がすぐ椅子へ座った。


『早い』


「腹減ってるんだよ」


「最近、前より食べてない?」


 真琴に言われ。


 悠真が一瞬止まる。


「……そう?」


「そうよ」


 俺も思う。


 こいつは食う。


 俺の何倍食うんだ。


 いや。


 身体の大きさを考えれば当然だけど。


 俺の皿には、ほんの少し。


 悠真の皿には。


 肉。


 キノコ。


 芋。


 ニンジン。


 たっぷり。


 しかも。


「おかわりある?」


 まだ食う。


『あるぞ』


「よし」


 いい食いっぷりだ。


 俺も食べる。


 ぱく。


「にゃ」


 美味い。


 美味いんだが。


 すぐ腹がいっぱいになる。


 小さい。


 二十センチの身体が恨めしい。


 まだ食いたい。


 もう少し肉を。


 いや。


 キノコも。


「ニャル、もうお腹いっぱい?」


『……まだ食える』


「さっきから食べる速度落ちてるぞ」


『食える』


「無理しなくていいって」


 悠真が笑いながら、俺の頭を撫でる。


「残ったら明日食えばいいだろ」


『むう』


 仕方ない。


 俺は小さく切った肉を最後に一つ食べる。


 これで終わり。


 一方。


 悠真は。


「おかわり」


『お前はよく食うな』


「育ち盛りだから」


『その言葉気に入ったのか?』


「ニャルが最初に言ったんだろ」


 確かに。


 でも。


 よく考えると。


 俺と悠真では、食べる量が全然違う。


 同じ料理を食べているのに。


 ここ数日。


 目に見えて変わっているのは悠真の方だ。


 俺自身も食べている。


 でも俺は戦わないから、変化があったとしても分かりづらい。


 悠真は毎日戦う。


 だからすぐ分かる。


 昨日より少し速い。


 少し力強い。


 少し疲れにくい。


 大きな変化じゃない。


 でも。


 毎日少しずつ積み重なる。


 それを見ていると。


 自分が強くなるより。


 こっちの方が面白い。


『いっぱい食え』


「まだ食わせる気?」


『育つからな』


「太る方じゃないよな?」


『たぶん』


「そこは断言して!?」


 ――――――


 翌日。


「はっ!」


 悠真の剣がゴブリンを捉える。


 倒れる。


 終わり。


「ふう」


『どうだ?』


「やっぱり昨日より楽」


『よし!』


「毎日それ言ってるな」


『毎日育ってるからな』


 俺は悠真の周りを一周する。


 右。


 左。


 特に怪我なし。


 息も乱れていない。


 問題なし。


「何してんの?」


『確認』


「猫に点検されてる気分なんだけど」


『大事な飼い主だからな』


「…………」


『なんだ』


「いや、何でもない」


 悠真が俺を持ち上げた。


『おい』


「ちょっとだけ」


 そのまま抱えられる。


 頭を撫でられる。


「ありがとな、ニャル」


『何が』


「飯」


『俺が作りたいから作ってるだけだぞ』


「それでも」


 撫でる。


 耳の後ろ。


「にゃぁ……」


 くそ。


 そこは気持ちいい。


「強くなるのも嬉しいけどさ」


『うん』


「普通に毎日飯が楽しみになった」


 俺は目を開ける。


 悠真を見る。


『そうか』


「うん」


『じゃあ今日も作る』


「頼む」


 それでいい。


 強くなるから食べる。


 それだけじゃない。


 美味いから食べる。


 明日は何が出るんだろうって楽しみにする。


 そのついでに。


 少しずつ強くなる。


 俺はそれがいい。


『今日は肉欲しいな』


「またホーンラビット探す?」


『探す』


「はいはい」


 悠真が俺を肩へ乗せる。


 そのまま歩き出す。


 俺は少し高くなった視界から辺りを見る。


 芋。


 キノコ。


 ニンジン。


 肉。


 ゼリー。


 夕飯がいっぱいある。


 緑葉の洞窟。


 悠真にとっては、何度も通ってきた初心者用ダンジョン。


 俺にとっては。


『やっぱり冷蔵庫だな』


「まだ言う?」


『今日は何が入ってるかな』


「開ける感覚で探索するなよ」


 でも悠真も笑っている。


 こうして。


 俺たちの生活が決まった。


 ダンジョンへ行く。


 悠真が戦う。


 俺が食材を見つける。


 持って帰る。


 料理する。


 一緒に食べる。


 美味い。


 次の日。


 悠真が少し育っている。


 なら。


 また美味いものを探しに行く。


 これを繰り返せばいい。


 何か難しいことをする必要はない。


 俺は料理する。


 悠真は食う。


 そして。


 少しずつ。


 もっと先へ行けるようになる。


 うん。


 簡単だ。


 飼い主育成。


 本格的に始めよう。


 ――――――


 その日の夜。


 夕飯を食べ終え。


 風呂も終わり。


 俺は眠くなっていた。


「ふぁ……」


「眠そうだな」


『眠い』


 悠真の部屋。


 俺は床に置かれていた悠真のパーカーの上へ移動する。


 少し柔らかい。


 丸くなる。


「そこ寝るの?」


『ここでいい』


「俺、明日それ着ようと思ってたんだけど」


『諦めろ』


「強いな」


 悠真が笑う。


 俺はもう眠い。


 目を閉じる。


 すると。


「…………」


 しばらくしても、悠真の気配が動かない。


 目を少しだけ開ける。


 こっちを見ている。


『なんだ』


「いや」


 悠真が部屋を見回した。


 俺の皿。


 適当に置かれた小さなタオル。


 今俺が寝ている、悠真のパーカー。


 それから。


 少し考える。


「そういえば、お前のベッドとか買ってないな」


 ベッド?


 俺は片耳だけ動かした。


 眠い。


 今はこれで十分なんだが。


 悠真は何やら考え始めている。


 まあ。


 好きにすればいい。


 俺はそのまま。


 悠真のパーカーへ顔を埋めた。


──────────────

【ダンジョン食材辞典】


No.003


■名称

ケイブマッシュルーム


■危険度

★★☆☆☆


■ニャル評価

★★★★☆


■見た目

緑葉の洞窟に群生しているキノコ系のダンジョン食材。

傘の部分が食べられる。


火を入れると香りが立ちやすく、肉やスープとも合わせやすい。


■食用部位

傘の部分。


■危険な部分

根元は取り除く。

生のまま食べると軽い中毒を起こすので、生食は禁止。


■おすすめ調理法

◎ 炒め物

◎ スープ

○ 煮込み料理


■調理のコツ

根元を切り落としてから、しっかり加熱する。


肉と一緒に火を入れると旨味を吸って美味い。

スープに入れると香りも出るにゃ。


■メモ

見た目は地味だけど使いやすい。


焼いても煮てもいける。

こういう食材は冷蔵庫に常備したい。


……ダンジョンが冷蔵庫だから、取りに行けばいいか。

──────────────


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