↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/62

第60話 剣とフライパンの材料を探せ

『剛刃晶鉄が四キロ、均熱晶鉄が三キロ、柔鋼石が二キロ!』


「うん。全部で九キロだね」


『そうだ! 今日はそのうち、採れるものから集めるぞ!』


 俺はユウマの肩の上で、元気よく前足を上げた。


 目の前にあるのは、岩鉄坑道の入口だ。


 以前、俺専用の鍋を作るために鉱石を採りに来た場所である。


 あの時は均熱晶鉄と柔鋼石を探して、ずいぶん歩き回ったんだよな。


 なかなか目当ての鉱脈が見つからなくて苦労したけど、いい素材を持ち帰ることができた。おかげで宮本に、あの使いやすい鍋を作ってもらえたんだ。


 そして今回は、鍋ではない。


 俺の新しいフライパンと、ユウマの新しい剣だ!


『……へへっ』


 考えただけで、尻尾が動いてしまう。


 フライパンができたら、何を焼こうかな。


 ブルーバードチキンの皮を、今まで以上にぱりっと焼くのもいい。ホーンラビットの肉を炒めたり、妖精ニンジンを香ばしく焼いたりするのも楽しそうだ。


 浅くて広い焼き面。


 食材を返しやすい重心。


 念動力で傾けたり、火から離したりしやすい形。


 ……ああ。


 早く使ってみたいぞ!


「ニャル、また料理のこと考えてるでしょ」


『……おっ?』


 ユウマが笑いながら、俺の顔を覗き込んできた。


『よく分かったな!』


「すっごく楽しそうな顔してたから」


『そりゃそうだろ! 新しいフライパンだぞ!』


「ははっ。まだ材料も集まってないけどね」


『だから今日、採りに来たんじゃないか!』


 俺が胸を張ると、ユウマは楽しそうに笑った。


 ……ふふん。


 まあ、気が早いのは認めるけどな。


 でも、今日はフライパンだけが目的じゃない。


 ユウマの新しい剣も大事なんだ。


 今使っている剣は、前の身体には合っていたらしい。でも、ダンジョン飯を食べながら探索を続けるうちに、ユウマの動きはずいぶん変わった。


 宮本に見てもらった結果、今の身体に合わせて新しく作った方がいいという話になったんだ。


『ユウマも、新しい剣が楽しみだろ?』


「うん。もちろん!」


 ユウマが頷く。


「でも、まずは材料をそろえないとね」


『おう!』


「それと、今日は無理しないこと」


 ユウマは腰に下げた剣へ目を向けた。


「まだ今の剣を使うことになるから、戦闘は慎重にいこう」


『分かってるぞ!』


 俺も大きく頷いた。


 今の剣が急に使えなくなったわけじゃない。


 でも、振り抜きや切り返しの感覚が、以前とは少し違うらしい。


 そんな状態で無理をして、怪我でもされたら困るからな。


『今日は採掘が目的だし、危なかったらすぐ戻ろうぜ!』


「うん。そうしよう」


 ユウマが俺の頭を軽く撫でてくれた。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 思わず喉が鳴りそうになったけど、今は我慢だ。


 探索は、まだ始まったばかりだからな。


『よし! 行くぞ、ユウマ!』


「うん!」


 俺たちは、薄暗い岩鉄坑道へ足を踏み入れた。



――――――



 坑道の中は、相変わらずひんやりとしていた。


 湿った岩と土の匂いに、かすかな鉄の匂いが混じっている。壁にはところどころ鉱物の筋が走り、ユウマの灯りを受けて鈍く光っていた。


 緑葉の洞窟とは、ずいぶん違う景色だ。


 向こうは草や木が多くて、歩いているだけでも食材が見つかる。


 でも、こっちはほとんど岩ばかり。


 ……むう。


 やっぱり、ちょっと寂しいな。


『……ユウマ』


「ん?」


『ここ、食材が少ないよな』


「今さら?」


『いや、分かってるんだけどな』


 俺は周囲の岩壁を見回した。


 魔晶岩塩や紅香晶みたいに、料理に使えるものもあるにはある。


 でも、ゴブリンポテトやケイブマッシュルームみたいな食材が、そこら中に生えているわけじゃない。


 ……うむ。


 料理猫としては、少し物足りないぞ。


「でも、今日はフライパンの材料を探すんでしょ?」


『……おお。そうだった!』


 俺は耳を立てた。


 そうだそうだ。


 今は食材じゃなくて、料理道具の材料を探しているんだった。


『よし。今日は岩も立派な買い出しの品だ!』


「ははっ。そうだね」


 ユウマが笑った。


 そのまま、俺たちは見覚えのある通路を進んでいく。


 途中には、以前通った分かれ道があった。


 左へ進めば、魔晶岩塩を見つけた区域へ続いている。


 ……おっ。


 塩か。


 そういえば、最近また肉料理が増えてきたし、少し採っておいてもいいかもしれないな。


『……じーっ』


「ニャル?」


『……何でもないぞ』


「左の道、気になる?」


『……ちょっとだけな』


 ユウマがくすっと笑った。


「今日は右だよ」


『分かってるって!』


 ……むう。


 そんなに分かりやすいか、俺。


 でも、今日の目的はちゃんと覚えている。


 宮本から教えてもらった採取場所も、必要な量も。


 均熱晶鉄が三キロ。


 柔鋼石が二キロ。


 そして、剛刃晶鉄が四キロ。


 まずは以前採ったことのある二種類を確保しよう。


『ユウマ、前に採掘した場所へ行こうぜ!』


「うん。あの辺りなら、道も覚えてるからね」


 ユウマが頷いた。


 俺たちは右の通路へ入り、奥へ進んでいった。



――――――



 しばらく歩いたところで、俺の耳がぴくりと動いた。


 ……ん?


 今、何か聞こえたぞ。


 こり。


 こりこり。


 硬いものが擦れるような、小さな音。


『ユウマ』


「うん?」


『右の岩陰、何かいるぞ』


 ユウマがすぐに足を止めた。


 腰の剣へ手を添え、少し離れた岩陰を見る。


 ……こりっ。


 また音がした。


「……いるね」


 低い声で答えた直後、岩の陰から何かが動いた。


 灰色の甲殻。


 太い前脚。


 岩と見間違えそうな身体。


 ……ああ。


 前にも見たやつだ!


 岩鉄坑道に生息している、甲殻を持つ魔物である。


 こいつは、今回の食材候補じゃない。


 今の俺にとっては、採掘の邪魔をする相手だな。


「ニャル、下がってて」


『おう!』


 俺はユウマの肩から降ろしてもらい、少し離れた岩陰へ移動した。


 ここなら戦闘に巻き込まれにくい。


 ……さて。


 ユウマ、大丈夫かな。


 甲殻の魔物は、太い前脚を持ち上げた。


 次の瞬間、地面を叩くように振り下ろしてくる。


 どんっ!


 石の欠片が跳ねた。


 でも、ユウマはその場にいなかった。


 相手が動き始めた時点で、すでに横へ避けていたんだ。


 ……おお。


 いい動きだな!


 ユウマは無理に攻撃せず、相手が向きを変えるのを待った。


 魔物が前脚を引く。


 その瞬間、ユウマが踏み込んだ。


「……はっ!」


 剣が短く走る。


 硬い甲殻を避け、その隙間へ一撃を入れた。


 魔物が身体をひねる。


 ユウマはすぐに剣を引き、間合いを取り直した。


 ……うむ。


 いつもより、少し慎重に剣を扱ってるな。


 大きく振り抜かず、戻す動きまで考えているみたいだ。


 それでも、ユウマの身体は十分に速い。


 もう一度前脚が振り下ろされるのを避け、今度は側面へ回り込む。


「やっ!」


 短い一撃。


 魔物の体勢が崩れたところへ、狙いを定めてもう一撃。


 ごとん、と硬い音が響いた。


 ……おお!


 倒したぞ!


 ユウマはすぐには剣を収めず、周囲を確認した。


 ほかに魔物がいないことを確かめてから、ようやく息を吐く。


「……ふう」


『ユウマ!』


 俺は岩陰から顔を出した。


『大丈夫か?』


「うん。怪我はないよ」


 ユウマが笑った。


 ……よかった。


『剣はどうだった?』


「やっぱり少し意識しないといけないけど、今の戦いなら大丈夫だったよ」


『そうか!』


「無理に振り抜かないように気をつけたんだ」


 ……なるほどな。


 この前、ホーンラビットと戦った時に感じた違和感を、ちゃんと意識しているらしい。


 宮本に相談したことも、役に立ってるんだな。


『でも、無理はするなよ』


「うん。分かってる」


 ユウマが剣を鞘へ戻した。


「それに、今日は採掘が目的だからね」


『おう!』


 ……うむ。


 そうだった。


 戦闘も無事に終わったことだし、そろそろ鉱石を探そうじゃないか!



――――――



 以前採掘した区域へ着くと、俺は宮本から受け取ったメモを思い出した。


 均熱晶鉄。


 普通の鉄鉱石より少し明るい灰色。


 割れた面には、細かな銀色の結晶模様がある。


 良質なものほど、その模様が細かく均一に見えるらしい。


『……ふむ』


 俺は岩壁をじっと見つめた。


 灰色の岩。


 少し黒っぽい岩。


 ところどころ銀色に光る部分。


 ……むむむ。


 やっぱり、見ただけで分かるものじゃないな。


 前にも同じようなことを思った気がするぞ。


「ニャル、あの辺りはどうかな?」


 ユウマが少し先の壁を指さした。


 前に採掘した場所の、少し横だ。


 そこには、周囲よりわずかに明るい灰色の筋が走っていた。


『……おっ』


 確かに、それっぽいな。


『少し調べてみようぜ!』


「うん。まず周りを確認しよう」


 ユウマが通路の前後を見回す。


 俺も耳を立て、近くに魔物の気配がないか確かめた。


 ……うむ。


 今のところ、動くものはいないようだ。


「じゃあ、少し削ってみるね」


『頼んだ!』


 ユウマが採掘道具を取り出した。


 岩の割れ目を確かめ、端から慎重に削っていく。


 こつん。


 こつん。


 乾いた音が、坑道の中へ響いた。


 しばらくすると、小さな欠片が落ちてくる。


 俺は念動力で受け止め、目の前へ浮かせた。


『……どれどれ』


 断面を確かめる。


 ……おお。


 銀色の細かな模様があるぞ。


 でも。


『……むむ』


「どうしたの?」


『黒い筋が混じってるな』


 前に宮本から教わった特徴を思い出す。


 均熱晶鉄らしい見た目ではあるけど、これだけで良質だと決めるのは早い。


 特に、黒い筋が多い部分は避けた方がよさそうだ。


「じゃあ、少し場所を変えてみる?」


『おう。もうちょっと奥の方を見たいな』


 ユウマが頷き、採掘道具を当てる位置を変えた。


 今度は、さっきより少し奥へ伸びている灰色の部分だ。


 こつん。


 こつん、こつん。


 何度か叩くと、岩の端が崩れた。


 落ちてきた欠片を受け止め、断面を見る。


『……おっ!』


 今度は、さっきよりきれいだ。


 細かな銀色の結晶模様が、ほぼ均一に広がっている。


『ユウマ、こっちはよさそうだぞ!』


「本当?」


『おう! 宮本が言ってた特徴に近い!』


「じゃあ、この辺りを掘ってみようか」


 ユウマが採掘道具を持ち直した。


 ……よし。


 ここからが本番だな!


 ただし、鉱石を採るために壁をむやみに崩すわけにはいかない。


 ユウマは岩の割れ目を確かめ、無理のない位置から少しずつ削っていった。


 俺は落ちてくる欠片を念動力で受け止め、足元に散らばらないようにする。


 ……うむ。


 なかなかいい連携じゃないか。


「ニャル、こっちの塊をお願い!」


『おう!』


 少し大きめの原鉱が外れた。


 俺は念動力で受け止め、ゆっくり地面へ下ろす。


 ……おお。


 なかなか立派な塊だな。


 断面の模様も、さっきの欠片とよく似ている。


『これは取っておこう!』


「うん!」


 俺は収納魔法へ収めた。


 その後も、ユウマが掘り、俺が受け止める。


 時々作業を止めて、周囲に異変がないか確かめる。


 採掘の音が坑道に響くからな。


 夢中になっているうちに、魔物が近づいてきたら困る。


『……あと少しだぞ!』


「よし。じゃあ、これでどうかな!」


 最後の塊が外れた。


 俺は念動力で受け止め、確保した原鉱を確認した。


 ……うむ。


 重さも、予定していたくらいになったぞ。


『三キロ、いけたな!』


「おお! やった!」


 ユウマが嬉しそうに笑った。


 俺も思わず前足を上げた。


『よし! フライパンの主材、確保だ!』


 ……へへっ。


 嬉しいなあ。


 今はただの灰色の石だけど、これを宮本に持っていけば、俺の新しいフライパンになるかもしれないんだ。


 広い焼き面。


 安定した火の通り方。


 念動力で動かしやすい重心。


 ……ああ。


 想像しただけで、もう肉を焼きたくなってきたぞ!


「ニャル、嬉しそうだね」


『そりゃそうだろ!』


 俺は胸を張った。


『これがフライパンになるんだぞ!』


「ははっ。そうだね」


 ユウマが俺の頭を軽く撫でてくれた。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 いや、待て。


 まだ採掘の途中だ。


 気持ちよく撫でられている場合じゃないな。


『次は柔鋼石だ!』


「うん。あと二キロだね」


『おう!』


 ……ふふん。


 まずは一種類。


 順調な出だしだな!



――――――



 柔鋼石を探し始めてから、しばらく時間が経った。


 ……むむ。


 やっぱり、こっちは少し難しいな。


 黒っぽい岩は、あちこちにある。


 青みがかった鉱物も、珍しくない。


 でも、宮本が言っていたのは、黒い母岩の中に青黒い帯が走る鉱石だ。


 ……うむ。


 何でも青ければいいってわけじゃないんだよな。


「ニャル、これは?」


『……違うな』


「じゃあ、こっちは?」


『そっちも違うと思うぞ』


 俺は壁のあちこちを見ながら、尻尾をゆっくり揺らした。


 前に柔鋼石を探した時も、なかなか見つからなかった。


 やっとそれらしい鉱脈を見つけたと思ったら、今度は簡単に割れなくて苦労したんだよな。


 ……でも、今日は前より経験がある。


 焦らず探せば、きっと見つかるはずだ。


『ユウマ、前に採った場所の周りを見てみようぜ』


「うん。あの辺りなら、似た鉱脈があるかもしれないね」


 俺たちは、以前柔鋼石を見つけた区域へ向かった。


 通路の奥へ進むと、少しずつ空気が冷たくなっていく。


 壁には細かな水滴がつき、足元もところどころ湿っていた。


『ユウマ、滑らないように気をつけろよ』


「うん。分かってる」


 ユウマは灯りを足元へ向け、慎重に歩く。


 ……うむ。


 こういう場所では、転ぶだけでも危ないからな。


 しかも、今は採掘道具も持っている。


 無理に急ぐ必要はないぞ。


 しばらく進んだところで、俺は壁の一部に目を留めた。


『……おっ?』


 黒っぽい岩の中に、青い筋がある。


 いや。


 ただ青いだけじゃない。


 光を当てると、鈍い青黒い光沢が見えるんだ。


『ユウマ、あそこ!』


「ん?」


『あの壁だ!』


 ユウマが灯りを向けた。


 黒い母岩の中に、細い帯が走っている。


「……あっ。本当だ」


『柔鋼石っぽいな!』


「うん。宮本さんのメモにも似てる」


 ……よし。


 これは期待できそうだぞ。


 ただし、見た目だけで決めつけない。


 俺の鑑定は、食材の安全な扱い方を調べるのが得意な能力だ。


 鉱石の種類や品質を、何でも正確に見抜けるわけじゃないからな。


 ここは、宮本から教わった特徴と、前に採掘した時の経験を頼りにするしかない。


『少し削ってみようぜ』


「うん。まずは足場を確認しよう」


 ユウマが周囲を見回した。


 壁の下には小さな石が転がっているけど、立つ場所は確保できそうだ。


 退路も塞がっていない。


 ……うむ。


 これなら作業できそうだな。


「じゃあ、いくよ」


『おう!』


 ユウマが採掘道具を当てる。


 こつん。


 こつん。


 少しずつ母岩を削り、青黒い帯の周囲を露出させていく。


 ……おお。


 やっぱり、簡単には割れないな。


 均熱晶鉄とは、ずいぶん違う。


『ユウマ、無理に割らない方がよさそうだぞ』


「うん。周りの岩から外してみる」


 ユウマが道具を当てる角度を変えた。


 鉱石そのものを叩き割るんじゃなくて、周囲の母岩を少しずつ削っていく。


 ……うむ。


 いい考えだ。


 俺は落ちてきた小石を受け止めながら、作業の様子を見守った。


 しばらくすると、青黒い帯の入った塊が外れた。


『おお!』


 俺は念動力で受け止め、ゆっくり手元へ運んだ。


 ……ふむ。


 見た目は前に採った柔鋼石によく似ている。


 軽く力をかけてみると、普通の石とは少し違う抵抗があった。


 硬いだけじゃない。


 粘るような感触があるんだ。


『……これだな!』


「柔鋼石?」


『宮本が言ってた特徴に合ってるぞ!』


「やった!」


 ユウマが嬉しそうに声を上げた。


 ……へへっ。


 これで二種類目だな!


 ただし、必要な量はまだ足りない。


 俺たちは周囲の鉱脈を確かめながら、採掘を続けた。


 青黒い帯がきれいに続いている部分。


 余計な鉱物が少なそうな部分。


 無理に割らなくても取り外せる部分。


 そういう場所を選んで、少しずつ回収していく。


 ……うむ。


 やっぱり、一度経験していると違うな。


 前は、どこを掘ればいいのか分からず、ずいぶん迷ったものだ。


 でも今日は、宮本のメモもある。


 ユウマも採掘道具の扱いに慣れてきているし、俺も落ちてくる鉱石を受け止めるタイミングが分かる。


 ……ふふん。


 俺たち、採掘まで上手くなってるじゃないか!


「ニャル、これでどう?」


『……おっ』


 ユウマが最後の塊を取り外した。


 俺は受け止め、収納した原鉱の量を確かめた。


 ……うむ。


 これなら。


『二キロ、確保だ!』


「よし!」


 ユウマが嬉しそうに拳を握った。


 俺も思わず前足を上げる。


『やったな、ユウマ!』


「うん! これで二種類そろったね!」


『おう!』


 均熱晶鉄が三キロ。


 柔鋼石が二キロ。


 合わせて五キロだ。


 もちろん、最終的な品質は宮本に見てもらわないと分からない。


 でも、教わった特徴に合う原鉱を、予定していた量だけ確保できた。


 ……これは、なかなかいい収穫じゃないか。


『へへっ。フライパンの材料がそろったぞ!』


「うん。剣の補助材もだね」


『そうだった!』


 俺は大きく頷いた。


 柔鋼石は、フライパンだけじゃなく、ユウマの新しい剣にも使うんだったな。


 ……うむ。


 つまり、今日集めた五キロは、二人とも使う材料なんだ。


 俺の料理道具と、ユウマの武器。


 同じ岩鉄坑道で、両方の材料が採れる。


 ……何だか、ちょっと面白いな。


『ユウマ、次は剛刃晶鉄だな!』


「うん。でも、その前に少し休もうか」


『おっ。そうだな!』


 採掘で結構身体を動かしたし、俺も少し喉が渇いてきた。


 ……ふむ。


 休憩も大事な探索の仕事だな。



――――――



 俺たちは通路の安全を確認し、少し広くなった場所で休憩することにした。


 ユウマがリュックから水筒を取り出す。


 俺は収納魔法から小さなカップを出してもらい、少しずつ水を飲んだ。


 ……ふう。


 冷たくて美味いな。


『ユウマもちゃんと飲めよ』


「うん。飲んでるよ」


 ユウマが笑った。


 ……うむ。


 それならよし。


 俺は足元に座り、宮本からもらったメモを思い出した。


 残る鉱石は、剛刃晶鉄。


 暗い鋼色をした鉱石で、割れた面に細い銀色の筋が見えるらしい。


 主に剣などの刃物へ使う素材だ。


 適切に鍛えれば刃持ちがよく、繰り返しの衝撃にも耐えやすい。


 ……ふむ。


 今のユウマに必要な剣には、ぴったりの素材なのかもしれないな。


『剛刃晶鉄、どこにあるんだろうな』


「宮本さんは、前に採掘した場所より先だって言ってたよね」


『おう』


 俺は頷いた。


 前に鍋の材料を探した時も、以前より少し奥まで進んだんだ。


 でも、岩鉄坑道にはまだまだ先がある。


 全部を探索したわけじゃないからな。


「今日は、もう少しだけ先の道を確認してみようか」


『おっ。いいのか?』


「うん。無理に採掘するつもりはないけど、どんな場所か見ておきたいんだ」


『なるほどな!』


 ……うむ。


 それはいい考えだ。


 新しい鉱脈を探すには、まずどこにあるか知らないといけない。


 でも、今から奥へ進んで大量に採掘するとなると、時間もかかる。


 それに、ユウマの剣にはまだ違和感があるんだ。


 無理は禁物だな。


『じゃあ、少しだけ見に行こうぜ!』


「うん。危なそうなら戻ろう」


『おう!』


 俺たちは休憩を終え、採掘道具を片づけた。


 ……さて。


 残る剛刃晶鉄の手掛かりは、見つかるかな?



――――――



 以前採掘した区域を抜けると、坑道の様子が少しずつ変わってきた。


 通路はやや狭くなり、壁の岩も暗い色が増えている。


 天井の高さは場所によって違い、少し屈まないと通れないところもあった。


 ……ふむ。


 前にここまで来たことはなかったな。


『ユウマ、足元気をつけろよ』


「うん」


 ユウマが灯りを下へ向けた。


 細かな石が散らばっていて、場所によっては地面が少し傾いている。


 ……むむ。


 これは、歩きにくそうだ。


 俺はユウマの肩で身体を低くし、周囲の音に耳を澄ませた。


 岩の隙間を風が通る音。


 どこかで小石が転がる音。


 遠くから、かすかに水の滴る音も聞こえてくる。


 ……うむ。


 今のところ、近くに魔物の気配はなさそうだな。


 ただ、見通しはあまりよくない。


 ユウマも慎重に歩いている。


「……あれ?」


 しばらく進んだところで、ユウマが足を止めた。


『ん?』


「ニャル、あの壁、見える?」


 ユウマが灯りを向けた。


 少し先の岩壁。


 そこには、周囲とは違う暗い鋼色の部分があった。


 ……おっ?


『……あれは』


 俺は思わず身を乗り出した。


 ただの黒い岩じゃない。


 少し金属っぽい光沢がある。


 しかも、ところどころに細い銀色の筋が走っているんだ。


『……ユウマ!』


「うん」


『宮本のメモに似てないか!?』


「……剛刃晶鉄?」


『そうそう!』


 俺の耳がぴんと立った。


 暗い鋼色。


 細い銀色の筋。


 ……おお。


 確かに、教わった特徴とよく似ている!


 でも、まだ断定はできない。


 割れた面までは見ていないし、品質も分からない。


 それでも。


『……ほほう!』


 これは期待できそうじゃないか!


 俺は思わず尻尾を振った。


「近くまで行ってみようか」


『おう!』


 ユウマが慎重に前へ進む。


 ただ、鉱脈のある壁は通路の少し奥まった場所にあった。


 足元には崩れた岩が積もり、その先は少し見通しが悪い。


 ……むむ。


 これは、ちょっと考えた方がよさそうだな。


 ユウマも同じことを思ったらしい。


「……ニャル」


『ん?』


「今日はここまでにしておこうか」


『……おお?』


 俺は思わず壁を見た。


 目の前に、剛刃晶鉄かもしれない鉱脈がある。


 もう少し近づけば、確認できそうだ。


 ……でも。


「ここから先は、まだ道の状態が分からないからね」


 ユウマが続けた。


「今から採掘を始めると時間もかかるし、帰り道も考えないと」


『……ふむ』


「今日は五キロも集められたし、十分だと思うんだ」


 ……うむ。


 確かに、そうだな。


 均熱晶鉄と柔鋼石は、必要な分を確保できた。


 剛刃晶鉄らしい鉱脈も見つけられた。


 だったら、今日の目的は十分達成できている。


 何も、今すぐ全部採る必要はないんだ。


『……そうだな!』


 俺は頷いた。


『今日はここまでにしよう!』


「うん」


『次に来る時は、あの辺りの足場もちゃんと確認しようぜ!』


「そうだね。安全に採掘できるか、まず調べよう」


 ユウマが嬉しそうに笑った。


 ……へへっ。


 やっぱり、うちの飼い主は頼りになるな。


 新しい鉱石が見つかりそうだからって、無理に突っ込んだりしない。


 ちゃんと帰りのことまで考えているんだ。


 俺としては、もう少し近くで見てみたい気持ちもある。


 でも、ユウマの安全の方が大事だからな。


『よし。場所は覚えたぞ!』


「うん。次はここを目標にしよう」


『おう!』


 俺たちは鉱脈の位置と通ってきた道を確認し、来た道を引き返すことにした。


 ……ふむ。


 残るは、剛刃晶鉄四キロ。


 それが採れれば、剣とフライパンの材料がそろうんだな。


 ……へへっ。


 ますます楽しみになってきたぞ!



――――――



 岩鉄坑道を出る頃には、外の光が少し柔らかくなっていた。


 ひんやりした坑道の空気とは違い、外の風にはほんのり暖かさがある。


 ……ふう。


 やっぱり、無事に帰ってこられるのが一番だな。


 俺はユウマの腕に抱かれながら、満足して喉を鳴らしていた。


 ごろごろ。


「ニャル、今日は結構採れたね」


『おう!』


 俺は嬉しくなって、収納魔法の中にある鉱石を思い浮かべた。


 均熱晶鉄、三キロ。


 柔鋼石、二キロ。


 合計五キロ。


 どちらも宮本から教わった特徴を持つ原鉱だ。


 ……うむ。


 なかなかの収穫だぞ。


「残りは剛刃晶鉄だけだね」


『おう! 四キロだ!』


「次に行った時、ちゃんと採れるといいね」


『そうだな!』


 俺は頷いた。


 ただ、あの鉱脈が本当に剛刃晶鉄なのかは、まだ分からない。


 見た目は似ていたけど、実際に採って宮本に確認してもらわないといけないからな。


 それに、採掘場所の足場も気になる。


 次は、もう少し慎重に準備した方がよさそうだ。


『……ユウマ』


「ん?」


『今日、無理して掘らなくてよかったな』


「そう?」


『おう。五キロも採れたんだし、十分だろ!』


 ユウマが嬉しそうに笑った。


「うん。俺もそう思う」


『それに、剣もまだ今のやつだからな』


「……そうだね」


 ユウマが腰の剣へ視線を向けた。


 今の剣には、これまで何度も助けられてきた。


 でも、最近のユウマの身体には、少しずつ合わなくなってきている。


 宮本が新しい剣を作ってくれることになったのは嬉しいけど、それまでは慎重に使わないとな。


『新しい剣ができたら、もっと安心して戦えるようになるといいな!』


「うん。そうだね」


『それで、もっといろんなダンジョンへ行こうぜ!』


「ははっ。ニャルの目的は、やっぱり食材探し?」


『もちろんだ!』


 俺は胸を張った。


 ……ふふん。


 でも、それだけじゃないぞ。


 ユウマが強くなっていくのを見るのも、俺にとっては大きな楽しみなんだ。


 美味い飯を食わせて。


 身体を育てて。


 その身体に合った剣を用意する。


 ……うむ。


 なかなか順調じゃないか。


「ニャルは、新しいフライパンが楽しみなんだよね」


『おう!』


 俺は即答した。


『早く肉を焼いてみたいぞ!』


「またブルーバードチキン?」


『それもいいな!』


 ぱりっとした皮。


 濃い旨みのあるもも肉。


 香草とバターの香り。


 ……ああ。


 思い出しただけで腹が減ってきた。


『でも、新しいフライパンなら炒め物も作りたいな!』


「いいね!」


『ユウマの好きな肉をいっぱい入れてやるぞ!』


「やった!」


 ユウマが嬉しそうに笑った。


 ……へへっ。


 やっぱり、ユウマは肉料理が好きだな。


 でも、そうやって嬉しそうにしてくれると、俺も作り甲斐があるぞ。


「じゃあ、次も頑張ろうね」


『おう!』


 俺は前足を上げた。


 今日集めたのは、ただの鉱石だ。


 まだ剣にもフライパンにもなっていない。


 でも、宮本のところへ持っていけば、ユウマの新しい武器と、俺の新しい料理道具になる。


 ……何だか、不思議だな。


 同じダンジョンから採ってきた石が、片方は魔物と戦うための剣になって、もう片方は美味い飯を作るためのフライパンになるんだから。


 どちらも、俺たちには大切なものだ。


『……よし!』


 俺は満足して尻尾を立てた。


『次は剛刃晶鉄を採りに行くぞ!』


「うん。でも、安全第一だよ」


『分かってるって!』


 ユウマが笑いながら、俺の頭を撫でてくれた。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 俺は目を細め、気持ちよく喉を鳴らした。


 ごろごろ。


 残りは四キロ。


 あの暗い鋼色の岩が、本当に剛刃晶鉄なのか。


 次に行ったら、確かめてみよう。


 ……へへっ。


 ユウマの剣も、俺のフライパンも、完成が楽しみだな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。