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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第61話 欲張らないのが、いい探索者

『ユウマ! 今日は残りの四キロだな!』


「うん。剛刃晶鉄が四キロだね」


『それが採れれば、材料は全部そろうぞ!』


 俺はユウマの肩の上で、嬉しくなって尻尾を揺らした。


 目の前にあるのは、もうすっかり見慣れた岩鉄坑道の入口だ。


 前回の探索では、均熱晶鉄を三キロ、柔鋼石を二キロ確保できた。どちらも宮本から教わった特徴に合う原鉱で、今は俺の収納魔法の中に大切にしまってある。


 残るのは、ユウマの新しい剣に使う剛刃晶鉄だけ。


 暗い鋼色をしていて、割れた面に細い銀色の筋が見える鉱石だ。


 前回、少し奥の通路でそれらしい鉱脈を見つけたんだけど、足場が悪そうだったから、無理せず引き返したんだよな。


 ……うむ。


 あれはいい判断だったと思うぞ。


 今日は改めて準備をしてきたし、時間にも余裕がある。


『よーし! さっそく採りに行こうぜ!』


「うん。でも、ちゃんと安全を確認してからね」


『分かってるって!』


 俺は元気よく頷いた。


 今日もユウマの腰には、いつもの剣が下がっている。


 新しい剣は、まだ材料すらそろっていない。当然、戦闘になれば今の剣を使うことになるわけだ。


 この前、宮本に見てもらった時も、すぐに壊れるような状態ではないと言われていた。


 でも、今のユウマの身体には、少しずつ合わなくなってきているらしい。


 ……むむ。


 そう考えると、やっぱり早く新しい剣を作ってもらいたいな。


「ニャル、今日は採掘が終わったら、そのまま帰ろうと思ってるんだ」


『おっ?』


「前に見つけた鉱脈を確認して、必要な分が採れたら終わり。それ以上は無理しないつもり」


『おお! いいじゃないか!』


 俺は大きく頷いた。


 別に、岩鉄坑道の奥を探検するのが目的じゃないからな。


 剣とフライパンの材料を集める。


 それが、今日の仕事だ。


『よし! 安全第一で、四キロ採るぞ!』


「うん!」


 ユウマが笑い、俺の頭を軽く撫でてくれた。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 俺は満足して喉を鳴らしながら、ユウマと一緒に坑道へ入っていった。



――――――



 岩鉄坑道の中は、相変わらずひんやりとしていた。


 足元には細かな石が散らばり、岩壁には鈍く光る鉱物の筋が走っている。ユウマの灯りを受けた岩肌が、ところどころ銀色にきらめいていた。


 ……ふむ。


 何度来ても、食材の少ないダンジョンだな。


 緑葉の洞窟なら、歩いているだけで何かしら美味そうなものが見つかるんだけど。


 こっちは、ほとんど石ばかり。


 ……いや、待て。


 今日はその石が目当てなんだった。


『……よし。今日は岩を探すぞ!』


「ははっ。最初からそのつもりだったでしょ?」


『そうだったな!』


 ユウマが笑いながら、通路の先へ灯りを向けた。


 前回通った道を覚えているので、今回はあまり迷わずに進めそうだ。


 ただし、前と同じ道だからといって、安全とは限らない。


 ダンジョンの中では、魔物が移動することもあるし、岩が崩れて道の状態が変わることだってある。


 俺は耳を立て、周囲の音に注意を向けた。


 ユウマも足元を確かめながら、慎重に進んでいる。


 ……うむ。


 いい感じだな。


 以前のユウマなら、こんなふうに落ち着いて周囲を確認する余裕は、あまりなかったかもしれない。


 でも今は、歩きながら前後の様子を確かめ、危なそうな場所では自然に足を止めている。


 やっぱり、探索にも慣れてきたんだな。


『ユウマ、前よりずいぶん頼もしくなったぞ!』


「えっ、急にどうしたの?」


『いや、ちゃんと周りを見ながら歩いてるなって!』


 ユウマが少し照れたように笑った。


「前より余裕ができたのは確かかもね」


『そうだろ!』


「でも、油断しちゃ駄目だと思ってるよ」


『おお!』


 ……うむ。


 それでこそ、俺の飼い主だ。


 ユウマの探索者としての適性判定は、今もGランクのままだ。


 でも、実際の身体能力はずいぶん伸びたし、戦い方だって上手くなった。


 それに、こうして周囲を見ながら行動できるようになっている。


 ……へへっ。


 身体だけじゃなく、ちゃんと経験も積んでるんだな。


 俺が嬉しくなって尻尾を振っていると、ユウマが足を止めた。


「……ニャル」


『ん?』


「そろそろ、前に引き返した場所だよ」


 ……おっ。


 俺は前方へ目を向けた。


 確かに、見覚えのある岩壁がある。


 少し狭くなった通路。


 足元に積もった石。


 そして、その向こうにある暗い鋼色の岩肌。


『……おお!』


 あったぞ!


 前回見つけた、剛刃晶鉄らしい鉱脈だ!


『ユウマ、あそこだな!』


「うん。でも、まずは周りを確認しよう」


『おう!』


 ……さて。


 今日は、ちゃんと近くまで行けるかな?



――――――



 鉱脈の近くまで来ると、前回は遠くからしか分からなかったことが、いろいろ見えてきた。


 まず、足元。


 大きな岩がいくつも転がっていて、その間には細かな石が積もっている。


 しかも、奥へ進むほど地面が少し傾いていた。


 ……むむ。


 確かに、歩きやすい場所じゃないな。


「ニャル、あの上を見て」


『ん?』


 ユウマが灯りを向けた先には、岩棚のように張り出した部分があった。


 その根元に、細い割れ目が走っている。


 ……おお。


 あれは、ちょっと気になるな。


「前に来た時は暗くてよく見えなかったけど、あの辺り、岩が緩んでるかもしれない」


『……ふむ』


 俺は耳を立てた。


 しばらくじっとしていると、どこかで小さな石が転がる音が聞こえた。


 からっ。


 ……ん?


 今のは、上の方か?


『ユウマ、今、石が落ちる音がしたぞ』


「うん。聞こえた」


 ユウマはすぐに歩くのをやめた。


 灯りを上へ向け、岩棚の状態を確かめる。


 ……うむ。


 こういう時、すぐに立ち止まれるのは大事だな。


 俺だって、新しい鉱石は欲しい。


 でも、岩が落ちてきたら困るからな。


「……あの下には入らない方がよさそうだね」


『そうだな』


 俺は頷いた。


 剛刃晶鉄らしい鉱脈は、確かに奥へ続いている。


 でも、その全部を採る必要はない。


 欲しいのは四キロだけだ。


『ユウマ、手前の壁はどうだ?』


「うん。そっちを見てみよう」


 俺たちは岩棚の下を避け、比較的広い場所から壁の状態を確認することにした。


 そこにも暗い鋼色の岩が露出している。


 ……おっ。


 こっちにも、細い銀色の筋が見えるぞ。


『あそこ、よさそうじゃないか?』


「うん。少し調べてみようか」


 ユウマは足元の石を確かめ、安定して立てる場所を選んだ。


 近くの壁にも大きな割れ目は見当たらない。


 退路も確保できている。


 ……ふむ。


 これなら、少し削ってみてもよさそうだな。


「まずは小さく採ってみるね」


『頼んだ!』


 ユウマが採掘道具を取り出した。


 そして、岩壁の端へ慎重に当てる。


 こつん。


 こつん、こつん。


 乾いた音が、坑道の中へ響いた。


 ……さて。


 どんな石が出てくるかな?



――――――



 ユウマが少しずつ岩を削っていくと、やがて小さな欠片が外れた。


 かつん。


 俺は念動力で受け止め、目の前へ浮かせた。


『……どれどれ』


 欠片をゆっくり回し、断面を確かめる。


 暗い鋼色の中に、細い銀色の筋が走っていた。


 ……おお。


 これは!


『ユウマ! 宮本のメモにそっくりだぞ!』


「本当?」


『おう! 細い銀色の筋がある!』


 ユウマが近づいてきて、欠片を覗き込んだ。


「……ああ、本当だね」


 俺たちは顔を見合わせた。


 ……へへっ。


 どうやら、当たりかもしれないな!


 もっとも、これが本当に剛刃晶鉄なのか、品質が十分なのかは、宮本に確認してもらわないと分からない。


 俺の鑑定は、食材の扱いを調べるのが得意な能力だ。


 鉱石の良し悪しまで、何でも分かるわけじゃないからな。


『宮本が見たら、きっと分かるだろうな』


「うん。だから、状態のよさそうなところを選んで採ろう」


『おう!』


 ユウマは改めて岩壁を調べ、採掘道具を持ち直した。


 ここからが本番だ。


 ただし、無理に大きな塊を外そうとはしない。


 周囲の岩を崩さないよう、小さな割れ目を利用して、少しずつ採っていくことにした。


 こつん。


 こつん。


 乾いた音が続く。


 ユウマが掘り、俺が落ちてくる欠片を受け止める。


 ……うむ。


 前より、ずいぶん息が合うようになったな。


 ユウマが採掘道具を振り下ろす前に、俺も受け止めやすい位置を考えられる。


 大きめの塊が外れそうになったら、先に念動力で支えておく。


 そして、ゆっくり地面へ下ろす。


 ……ふふん。


 なかなかいい連携じゃないか!


「ニャル、これお願い!」


『おう!』


 少し大きな原鉱が外れた。


 俺は念動力で受け止め、そっと足元へ運んだ。


 ……おお。


 これは、なかなか立派だぞ。


 断面には、さっきと同じような銀色の筋が見える。


 しかも、余計な岩があまり混じっていないように見えた。


『これも取っておこう!』


「うん!」


 俺は原鉱を収納魔法へ収めた。


 ……へへっ。


 少しずつ、ユウマの新しい剣の材料が集まっていく。


 今はまだ、ただの石だ。


 でも、宮本のところへ持っていけば、ちゃんとした剣になるんだ。


 ……うむ。


 楽しみだなあ。


『ユウマ、これが新しい剣になるんだな!』


「そうだね。ちゃんと使える鉱石だったら、だけど」


『きっと大丈夫だ!』


「ははっ。そうだといいね」


 ユウマが笑った。


 それから、採掘道具を置いて周囲を確認する。


「少し休もうか」


『おっ。そうだな』


 ……うむ。


 まだ必要な量には届いていないけど、急ぐ必要はない。


 岩を掘るのは、思った以上に疲れる作業だ。


 ユウマの身体が強くなったとはいえ、休まず掘り続けるのはよくないからな。


 俺たちは水を飲み、少しだけ身体を休めた。


 ……ふう。


 冷たい水が美味いな。


『ユウマ、疲れてないか?』


「うん。まだ大丈夫だよ」


『そうか。でも、無理はするなよ』


「分かってる」


 ユウマが笑いながら、俺の頭を撫でた。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 俺は気持ちよく目を細めた。


 ごろごろ。


 ……ふう。


 こういう休憩も、悪くないな。


 しっかり休んで、また少しずつ掘ればいい。


 今日は、ちゃんと安全に四キロ確保するんだからな!



――――――



 休憩を終えた後も、採掘は順調に進んだ。


 ユウマが掘り、俺が受け止める。


 時々周囲を確認しながら、安定している部分だけを選んで作業を続けた。


 岩の奥へ進むほど銀色の筋が増える場所もあったけど、そこは無理に追いかけない。


 大きな塊が見えても、周囲の岩ごと崩れそうなら手を出さない。


 ……うむ。


 欲しい鉱石だけを取り出すのって、意外と難しいんだな。


 美味そうな食材が目の前にあったら、つい手を伸ばしたくなる俺としては、なかなか勉強になるぞ。


「……よし」


 ユウマが採掘道具を止めた。


「ニャル、今のでどれくらいかな?」


『ちょっと待ってくれ!』


 俺は回収した原鉱を確認した。


 小さな欠片。


 少し大きな塊。


 それから、さっき採った銀色の筋がきれいに入っている原鉱。


 ……うむ。


 持ってきた秤で確かめると、もう少しで四キロになりそうだ。


『あとちょっとだな!』


「そっか。じゃあ、あの端の部分だけ採ってみよう」


『おう!』


 ユウマが示したのは、岩壁の手前側に残っている小さな塊だった。


 大きな岩棚からは離れているし、周囲の岩も安定しているように見える。


 ……よし。


 これなら、無理せず採れそうだな。


 こつん。


 こつん。


 何度か採掘道具を当てると、岩の端に細い割れ目が入った。


 ユウマは力任せに叩かず、少し角度を変える。


 そして。


 かつんっ。


 最後の塊が外れた。


『おお!』


 俺は念動力で受け止めた。


 ……よし。


 きれいに採れたぞ!


 断面には、細い銀色の筋が走っている。


 俺は満足して頷き、ほかの原鉱と一緒に重さを確認した。


 ……おっ。


 これは!


『ユウマ!』


「ん?」


『四キロ、そろったぞ!』


「……おお!」


 ユウマが嬉しそうに声を上げた。


「やったね、ニャル!」


『おう! やったな!』


 俺は思わず前足を上げた。


 ……へへっ。


 ついに、全部そろったぞ!


 剛刃晶鉄が四キロ。


 均熱晶鉄が三キロ。


 柔鋼石が二キロ。


 合わせて九キロ!


 宮本から指定された原鉱の目標量だ。


 もちろん、最終的な品質確認はまだだけど。


 それでも、必要な分を確保できたのは大きい。


『これでユウマの剣も、俺のフライパンも作ってもらえるな!』


「うん。宮本さんに見てもらうのが楽しみだね」


『おう!』


 ……ああ。


 嬉しいなあ。


 俺の頭の中には、もう新しいフライパンの姿が浮かんでいる。


 広くて浅い焼き面。


 念動力で動かしやすい重心。


 肉を焼く時も、野菜を炒める時も、今まで以上に扱いやすい道具になるはずだ。


 ……ふふん。


 まずは何を作ろうかな。


 やっぱり、ブルーバードチキンの香草バターソテーか?


 それとも、ホーンラビットを使った炒め物もいいな。


 ……いやいや。


 せっかくなら、橘に教わった技術をもう一度試したいぞ。


『……むむむ』


「ニャル?」


『……ん?』


「もう料理のこと考えてたでしょ」


『よく分かったな!』


 ユウマが声を上げて笑った。


 ……むう。


 俺って、そんなに分かりやすいのか?


 でも、仕方ないじゃないか。


 新しい料理道具ができるんだぞ!


 楽しみにするなって方が無理だろ。


「じゃあ、そろそろ片づけようか」


『おう!』


 俺たちは採掘道具をまとめ、周囲に忘れ物がないか確認した。


 ……うむ。


 これで、今日の仕事は終わりだな。


 俺は満足して尻尾を揺らした。


 ……その時だった。


『……ん?』


 ふと、視界の端で何かが光った気がした。



――――――



『……ユウマ』


「ん?」


『あの奥、何か光ってないか?』


 俺は岩棚の向こうを見つめた。


 割れ目の多い岩壁。


 崩れた石が積もった足元。


 そのさらに奥の暗がりに、かすかな光が見えたんだ。


 ……おお?


 何だ、あれ。


 最初は、ただの鉱石かと思った。


 このダンジョンには、光を反射する鉱物もいろいろあるからな。


 でも、何だか妙に気になる。


 強い光じゃない。


 小さく、かすかにきらめいているだけだ。


 それなのに、俺は思わず目を奪われてしまった。


『……ほほう』


 何だろうな。


 珍しい鉱石か?


 いや、それにしては……。


 ……ん?


 俺は、ふと思いついて鑑定を向けてみた。


 もちろん、鉱石の品質を見極めるためじゃない。


 ただ、何となく気になったんだ。


 すると。


『……おおっ!?』


 俺は思わず声を上げた。


 ……えっ?


 待て待て。


 今、何か分かったぞ。


 あれは……。


『ユウマ!』


「どうしたの?」


『あれ、食えるものみたいだぞ!』


「……えっ?」


 ユウマが驚いた顔になった。


「食べられるの?」


『おう! 鑑定で食材だってことは分かる!』


 ……おおお。


 何だ、あれ!


 石みたいに見えるのに、食材なのか!?


 俺は興奮して、尻尾をぴんと立てた。


 ただし、分かったのはそこまでだった。


 距離があるせいか、詳しい状態までは確認できない。


 どんな味がするのか。


 どんな処理が必要なのか。


 危険な部分があるのか。


 そういうことは、まだ分からなかった。


 ……むむ。


 でも、食材なんだよな。


 こんな鉱石だらけの場所に、食べられる何かがあるなんて!


『……ユウマ』


「うん?」


『ちょっとだけ、近くで見てみたいな』


 俺は思わず前足を合わせた。


 ……うむ。


 少しだけでいいんだ。


 あの光ってるやつが何なのか、確かめたい。


 もしかしたら、ものすごく美味い食材かもしれないじゃないか!


 ……いや、もちろん、まだ味なんて分からないけどな。


 それでも、気になるものは気になるんだ。


 ユウマは俺が示した方向へ灯りを向けた。


 しばらくじっと観察してから、ゆっくり首を横に振る。


「……ニャル。今日はやめておこう」


『……おお?』


「ほら、あの上」


 ユウマが指さした先には、さっき確認した岩棚の続きがあった。


 大きな割れ目がいくつも走り、その下には崩れた石が積もっている。


 ……むむ。


 確かに、あそこは危なそうだな。


「足元も不安定だし、あの岩の下を通らないと近づけなさそうなんだ」


『……ふむ』


「それに、何があるか分からない場所へ、今から進む必要はないと思う」


 ユウマは俺へ目を向けた。


「今日は必要な鉱石を全部採れたでしょ?」


『……おう』


「だったら、今日はここまでにしよう」


 ……うむ。


 そうだよな。


 俺はもう一度、奥の小さな光を見た。


 ……気になる。


 ものすごく気になるぞ。


 だって、あれは食材なんだ。


 どんな味がするのか、どうやって料理するのか、まったく分からない。


 もしかしたら、今まで食べたことのないような美味いものかもしれない。


 ……くうっ。


 料理猫としては、見逃しがたいぞ!


 でも。


『……そうだな!』


 俺は大きく頷いた。


『今日は帰ろう!』


「……いいの?」


『おう! ユウマの言うとおりだ!』


 俺は胸を張った。


『必要な鉱石はそろったしな。無理して怪我したら大変だ!』


 ユウマがほっとしたように笑った。


「うん。ありがとう、ニャル」


『へへっ。いいってことよ!』


 ……まあ、ちょっと惜しいけどな。


 いや、かなり惜しいけど。


 でも、俺だって分かっている。


 食べられるものだからといって、安全に採れるとは限らない。


 それに、仮に採れたとしても、ちゃんと処理できるかどうかは別の話だ。


 ……うむ。


 今は、やめておくのが正解だな。


『……ユウマ』


「ん?」


『でも、あの場所は覚えておこうぜ』


「うん。そうだね」


『また新しい武器とか料理道具の材料を採りに来ることがあったら、その時に確認してみたいな!』


 ユウマが少し考えてから頷いた。


「その時、安全に近づけそうならね」


『おう!』


 ……へへっ。


 それならいい。


 今すぐ採れないからって、あれがなくなると決まったわけじゃない。


 また来る機会もあるだろう。


 もっと探索に慣れて、ちゃんと安全を確保できるようになったら、改めて調べればいいんだ。


 ……うむ。


 楽しみが一つ増えたな。


 俺は奥の小さな光を、もう一度だけ見つめた。


『……いつか、どんな味か確かめてやるからな!』


「ははっ。ニャルらしいね」


 ユウマが笑った。


 ……ふふん。


 当然だろ。


 食えるものがあると分かったら、いつか食ってみたくなる。


 それが料理猫ってもんだ!


 でも、今は帰るぞ。


 ユウマが無事に帰って、美味い飯を食える方が大事だからな。


『よし! 帰ろうぜ、ユウマ!』


「うん!」


 俺たちは来た道を振り返り、慎重に歩き始めた。



――――――



 帰り道。


 俺はユウマの肩の上で、今日の出来事を思い返していた。


 剛刃晶鉄を四キロ確保できた。


 これで、宮本に指定された鉱石は全部そろったことになる。


 しかも、奥にはまだ知らない食材まで見つかった。


 ……うむ。


 なかなか面白い探索だったな。


 でも、今日一番よかったことは、別にある気がする。


『……ユウマ』


「ん?」


『今日は、いい判断だったな』


「えっ?」


『あの光るやつ、採りに行かなかったことだ!』


 ユウマが少し驚いた顔になった。


「……ニャル、すごく気になってたでしょ?」


『そりゃ気になるさ!』


 俺は即答した。


『だって、食材だぞ! しかも、まだ見たことのないやつだ!』


「ははっ。そうだよね」


『でも、危ないところまで行く必要はないからな!』


 ユウマが小さく頷いた。


「……うん。俺もそう思ったんだ」


 少しだけ考えてから、続ける。


「前だったら、もう少し奥まで行けるかもって思ったかもしれない」


『ほう?』


「でも、今日はちゃんと目的を達成できたでしょ?」


『おう!』


「だったら、そこで帰るのも大事かなって」


 ……うむ。


 そのとおりだ。


 俺は嬉しくなって、尻尾をゆっくり揺らした。


 ユウマは、確かに強くなった。


 以前なら苦戦していた魔物にも、落ち着いて対応できるようになった。


 採掘道具を使う時だって、前よりずっと力強い。


 それに、身体の動きが変わったからこそ、新しい剣が必要になっているんだ。


 でも、強くなったからって、どこへでも行けるわけじゃない。


 危ない場所は、やっぱり危ない。


 むしろ、今のユウマはそれをちゃんと分かっている。


『……へへっ』


「ニャル?」


『いや、ユウマはいい探索者になってきたなって!』


 ユウマが照れたように笑った。


「そうかな?」


『そうだぞ!』


 俺は胸を張った。


『強いだけじゃなくて、ちゃんと帰ることも考えられるんだからな!』


「……ありがとう」


 ユウマが嬉しそうに笑った。


 ……うむ。


 やっぱり、いい顔だな。


 俺はユウマを強く育てたい。


 美味い料理をたくさん食わせて、もっといろんなダンジョンへ行けるようにしたい。


 まだ知らない食材を見つけて、また新しい料理を作りたい。


 ……でも。


 そのためには、ユウマが無事に帰ってこないといけない。


 今日みたいに、欲しいものが目の前にあっても、危ないなら引き返す。


 それも、強さの一つなんだな。


『……よし!』


 俺は満足して頷いた。


『次も、安全第一だ!』


「うん!」


『それで、美味いもんをいっぱい食うぞ!』


「ははっ。やっぱりそこなんだね」


『当然だろ!』


 俺は元気よく答えた。


 ……へへっ。


 でも、そこは譲れないぞ。


 美味い飯を食うために、今日も頑張ってるんだからな!



――――――



 岩鉄坑道を出ると、外の空気がいつもより暖かく感じられた。


 薄暗い坑道の中に長くいたせいか、外の光が少しまぶしい。


 俺はユウマの腕に抱かれながら、満足して喉を鳴らした。


 ごろごろ。


「ニャル、今日はお疲れさま」


『おう! ユウマもな!』


 ユウマが優しく頭を撫でてくれる。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 俺は目を細め、尻尾を揺らした。


 ……ふう。


 やっぱり、無事に帰ってきた後の撫で撫では最高だな。


「それじゃあ、次は黒鉄堂だね」


『おう!』


 俺は嬉しくなって顔を上げた。


 そうだった!


 これで、ようやく宮本のところへ材料を持っていけるんだ。


 剛刃晶鉄、四キロ。


 均熱晶鉄、三キロ。


 柔鋼石、二キロ。


 全部で九キロ。


 ……うむ。


 改めて考えると、なかなかの収穫だぞ。


『宮本、喜んでくれるかな?』


「どうだろうね。でも、ちゃんと確認はしてくれると思うよ」


『それは間違いないな!』


 俺は頷いた。


 宮本は、いい加減な仕事をしない職人だ。


 鉱石の見た目だけで判断せず、品質や使える量まで確かめてくれる。


 だから、今日の原鉱だって、全部がそのまま使えるとは限らない。


 でも、そこは宮本に任せればいい。


 俺たちは、できるだけ状態のよさそうなものを集めてきたんだからな。


『……へへっ』


「ニャル、また嬉しそうだね」


『そりゃそうだろ!』


 俺は胸を張った。


『新しいフライパンができるんだぞ!』


「まだ宮本さんの確認が終わってないけどね」


『分かってるって!』


 ……まあ、もう完成した気分になっているのは認める。


 でも、楽しみなんだから仕方ないじゃないか。


 新しいフライパンができたら、まず何を焼こうかな。


 やっぱり肉だな。


 ブルーバードチキンの皮を、今度はもっとぱりっと焼いてみたい。


 それから、ホーンラビットの肉もいい。


 野菜をたっぷり入れた炒め物も作りたいな。


 ……ああ。


 考えれば考えるほど、作りたい料理が増えてくるぞ!


「ニャル?」


『……ん?』


「また料理のこと?」


『おう!』


 ユウマが笑った。


「本当に楽しみなんだね」


『もちろんだ!』


 俺は大きく頷いた。


『でも、ユウマの新しい剣も楽しみだぞ!』


「……うん!」


 ユウマが嬉しそうに笑った。


 ……へへっ。


 やっぱり、うちの飼い主は最高だな。


 新しい剣で、もっと安全に戦えるようになって。


 その剣で守ってもらいながら、俺が新しい食材を探して。


 そして、新しいフライパンで美味い料理を作る。


 ……うむ。


 完璧な計画じゃないか!


『よし! 次は宮本のところだな!』


「うん。黒鉄堂へ持っていこう!」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。


 今日採った鉱石は、まだただの石だ。


 でも、宮本の手にかかれば、きっと立派な剣とフライパンになる。


 ……へへっ。


 その日が楽しみで仕方ないな。


 俺はユウマの腕の中で身体を丸め、満足して喉を鳴らした。


 ごろごろ。


 岩鉄坑道の奥には、まだ知らない食材が眠っている。


 いつか、あれを採りに行ける日も来るかもしれない。


 でも、今はそれより先にやることがある。


 ユウマの剣を作ってもらって。


 俺のフライパンも作ってもらって。


 それから、また美味いものを食うんだ。


 ……うむ!


 楽しみがいっぱいだな!


『ユウマ!』


「何?」


『帰ったら、今日は美味い飯を作るぞ!』


「やった!」


 ユウマが嬉しそうに笑った。


 ……へへっ。


 やっぱり、探索の後は美味い飯に限るな。


 俺は尻尾をぴんと立て、帰り道の向こうにある我が家を思い浮かべた。


 今日も、ちゃんと二人で帰れる。


 それだけで、十分いい探索だったぞ!

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