第59話 剣も作れる鍛冶屋だった
『ユウマ、剣は持ったか?』
「うん。ちゃんと持ってるよ」
『俺の包丁と鍋もあるぞ!』
「そっちはニャルが収納してるんでしょ?」
『おう! 準備万端だ!』
俺はユウマの肩の上で、満足して尻尾を揺らした。
今日の目的地は、鍛冶屋の黒鉄堂。
俺の専用包丁と鍋を作ってくれた、宮本の店だ。
今回は、いつもの料理道具の相談だけじゃない。ユウマが探索で使っている剣を見てもらうことになっている。
この前、緑葉の洞窟でホーンラビットと戦った時、ユウマは剣の扱いに違和感を覚えていた。
以前と同じ感覚で振ったら、思っていたより速く動いてしまう。身体は次の動きに入れるのに、剣を切り返す感覚が少し噛み合わない。
幸い、怪我もなかったし、剣が壊れたわけでもない。
でも、戦闘中に使う道具なんだから、気になることは放っておきたくないよな。
『宮本なら、何か分かるかもしれないぞ!』
「うん。ちゃんと見てもらおう」
ユウマが頷く。
それから、少しだけ笑った。
「それにしても、ニャルの料理道具を作ってもらいに行ってたお店で、俺の剣を相談することになるなんてね」
『……ん?』
俺は首を傾げた。
『でも、宮本って剣も作ってるんだろ?』
「うん。というか、探索者向けの武器を作るのが今の本業なんだけどね」
『……おお』
そうだった。
最初に来た時も、俺たちが持っていった鉱石を見て、剣ならかなりいいものが作れるって言ってたっけ。
それなのに俺は、当然のように包丁を頼んだんだ。
……うむ。
考えてみると、なかなか変な客だったかもしれないな。
まあ、宮本はちゃんと作ってくれたけど。
『よし! 今日は鍛冶屋らしい仕事を頼めるな!』
「いや、今までの仕事もちゃんと鍛冶屋さんの仕事だからね?」
『それもそうか!』
俺たちは笑いながら、黒鉄堂へ向かった。
――――――
黒鉄堂の扉を開けると、懐かしい匂いがした。
鉄と油、それから熱せられた金属の匂い。
奥からは、かん、かん、と規則正しい音が聞こえてくる。
……おお。
久しぶりだな、この感じ。
「こんにちはー!」
『宮本ー!』
ユウマが声をかけると、奥の金属音が止まった。
しばらくして、作業着姿の宮本が現れる。手に持っていた布で指先を拭きながら、俺たちを見た。
「おう」
『久しぶり!』
「こんにちは。今日はちょっと相談があって」
「何だ」
相変わらず、話が早い。
宮本はユウマを見て、それから俺へ視線を移した。
「包丁か?」
『包丁もあるぞ!』
「……も?」
『鍋も!』
「……何だ。壊したのか」
『壊してないぞ!』
俺は思わず前足を上げた。
失礼な。
あんなに使いやすい道具を、そう簡単に壊すわけないじゃないか。
「点検してもらおうと思って持ってきたんです」
ユウマが笑いながら説明する。
「あと、今日は俺の剣も見てほしくて」
「剣?」
宮本の視線が、ユウマの腰へ向かった。
「出せ」
「はい」
ユウマが剣を鞘ごと外し、宮本へ渡す。
宮本は受け取ると、まず鞘の状態を確かめた。それから剣を抜き、刃を光にかざす。
角度を変えながら、刃先から根元までゆっくり見ていく。
……ふむ。
やっぱり、道具を見ている時の宮本は静かだな。
包丁を点検してもらった時もそうだった。
ほとんど喋らないけど、細かいところまで見てくれるんだ。
「……使い込んでるな」
「はい。ずっと使ってる剣なので」
「手入れはしてる」
「ありがとうございます」
宮本は柄の部分も確認し、軽く握り直した。
「目立った欠けはねぇ。柄にも大きな緩みはない」
『おお!』
「ただし、使い続けて問題ないかは別だ。何が気になる」
……おっ。
やっぱり、そこを聞くんだな。
ユウマは先日の戦闘について説明した。
身体が以前より速く動くようになったこと。
剣を振り抜いた後、止める感覚が変わってきたこと。
切り返す時も、身体と剣の動きが少し噛み合わない気がすること。
宮本は途中で口を挟まず、黙って聞いていた。
「……なるほど」
説明が終わると、短く頷く。
「ちょっと動いてみろ」
「えっ?」
「剣だけ見ても分からん。使ってるところを見せろ」
……ほほう。
なるほどな。
包丁を作ってもらった時も、実際に俺が念動力で動かすところを見られたっけ。
どうやら、剣でも同じらしい。
――――――
宮本に案内され、俺たちは店の奥にある、十分な広さが確保された場所へ移動した。
周囲には金属製の作業台や道具が並んでいるけど、剣を振るための場所には何も置かれていない。
「そこで構えろ」
「はい」
「猫は下がってろ」
『おう!』
俺は離れた場所に置かれた台の上へ移動した。
ここなら、ユウマの動きもよく見える。
……さて。
宮本は何を確かめるんだろうな。
ユウマが剣を抜いた。
足を開き、いつものように構える。
俺にはすっかり見慣れた姿勢だ。
最初に出会った頃より、ずいぶん安定している。
「一度振れ。普段どおりでいい」
「はい」
ユウマが踏み込み、剣を振り下ろした。
ひゅっ。
風を切る音が響く。
……おお。
やっぱり速いな!
でも、宮本は特に驚いた様子もなく、ユウマの足元と剣の動きを見ていた。
「もう一回」
「はい」
再び剣が振り下ろされる。
今度は、そのまま構え直すところまで続けた。
……ん?
俺は耳を立てた。
先日のホーンラビットとの戦闘を思い出す。
やっぱり、剣を止めてから次の動きへ移るところが、ほんの少しぎこちない気がするな。
「……止めろ」
宮本が言った。
ユウマは剣を下げ、息を整える。
「今の、どうだった」
「……やっぱり少し気になります」
「どこだ」
「振り下ろすところまではいいんです。でも、そこから戻す時に、前より意識して力を入れないといけない感じがします」
宮本が頷いた。
「身体の方が先に動こうとしてるな」
「……えっ?」
「踏み込みも、剣を振る速さも悪くねぇ。ただ、振り終わった後の扱いが少し窮屈そうだ」
『おお……』
やっぱり。
宮本にも分かったみたいだな。
「剣の重さが足りないんでしょうか?」
ユウマが尋ねると、宮本は首を横に振った。
「重くすりゃ解決するってもんじゃねぇ」
「そうなんですか?」
「重くすれば、振る時の感覚は変わる。だが、止めたり戻したりする負担も増える」
宮本はユウマから剣を受け取り、全体の釣り合いを確かめるように持ち直した。
「剣は、刃だけ重くすりゃいいわけじゃない。重心がどこにあるかで、振りやすさも戻しやすさも変わる」
『……ほほう』
それは分かるぞ。
俺の包丁だって、同じ重さでも重心が違えば扱いやすさが変わる。
念動力で浮かせる時には、特に大事なところだ。
「この剣が悪いわけじゃねぇ」
宮本が続けた。
「今までの使い方には合ってたんだろう。だが、今のお前の動きには、少し合わなくなってきてる」
ユウマが自分の手を見た。
「……やっぱり、俺の方が変わったんですね」
「そういうことだろうな」
……おお。
何だか、嬉しくなってきたぞ。
ユウマが成長したことを、宮本も認めてくれたんだ。
もちろん、剣が合わなくなるのは困る。
でも、それだけユウマの身体が変わったってことでもあるんだよな。
『ユウマ、やっぱり強くなってたんだな!』
「……うん。そうみたい」
ユウマが少し照れたように笑った。
……へへっ。
よかったな、ユウマ!
俺は台の上で、嬉しくなって尻尾を振った。
「それで、どうすればいいでしょうか?」
ユウマが尋ねる。
宮本は剣へ目を落とし、少し考えた。
「今の剣に慣れるよう動きを調整する手もある。だが、これからも今のように身体が変わるなら……」
そこで一度、言葉を切った。
「新しく作る方がいいかもしれんな」
「新しい剣、ですか?」
「ああ。今のお前の動きに合わせたやつだ」
『おおっ!』
新しい剣!
ついに、その話になったか!
「剣を振る時の速さだけじゃねぇ。構え直しや切り返しまで考えて、重心を決める」
宮本はユウマへ剣を返した。
「それと、耐久性も見直した方がいい。今の剣がすぐ壊れるとは言わねぇが、力のかかり方は以前と変わってるだろ」
「……はい」
「なら、今のまま使い続けていいか、慎重に考える必要がある」
……うむ。
そこは大事だな。
ユウマには、これからもいろんなダンジョンへ行ってもらいたい。
でも、戦闘中に剣が壊れたりしたら困る。
新しい剣を作るなら、ちゃんと安全に使えるものがいいぞ。
「……分かりました」
ユウマが真剣な顔で頷いた。
「宮本さん。新しい剣、お願いできますか?」
「作れる」
即答だった。
……おお。
頼もしいな!
でも、宮本はそこで話を終わらせなかった。
「ただし、素材から考える。お前の動きに合うように作るなら、適当な鉄を使うわけにはいかん」
「はい」
「あと、完成前にもう一度動きを見せてもらうことになる」
「分かりました!」
……ふむ。
なるほどなあ。
使う人間の身体を見て、剣を作る。
俺の包丁を作った時と、考え方は同じなんだな。
そう思ったら、何だか嬉しくなってきたぞ。
――――――
『……さて、宮本!』
「ん?」
剣の相談がひと段落したところで、俺は作業台へ跳び乗った。
『今度は俺の番だ!』
「……まだ何かあるのか」
『あるぞ!』
俺は胸を張った。
『まずは包丁と鍋を見てくれ!』
「分かった。出せ」
俺は収納魔法から、専用包丁と鍋を取り出した。
包丁は念動力で宮本の手元へ運び、鍋は作業台へそっと置く。
宮本は包丁を手に取ると、刃を光にかざした。
……うむ。
いつ見ても、こういう時は真剣だな。
「……よく使ってるな」
『毎日だ!』
「手入れもしてる」
『もちろん!』
宮本は刃の状態を確かめ、軽く頷いた。
「大きな問題はねぇ。まだ使える」
『おお!』
続いて鍋。
底の状態。
縁の歪み。
持ち手の取り付け部分。
ひと通り確認してから、宮本が鍋を戻した。
「こっちも問題ねぇな」
『へへっ。よかった!』
「煮込みばかりしてるのか?」
『いや、焼くのにも使ってるぞ!』
「焼く?」
『おう! この前も肉を焼いた!』
宮本が俺を見た。
「……何の肉だ」
『ブルーバードチキン!』
「……知らん肉だな」
『青い鳥の肉だ! 美味かったぞ!』
ユウマが横から説明する。
「ダンジョンで見つけた鳥型魔物のお肉なんです。ニャルが香草バターソテーにしてくれて」
「そうか」
宮本は短く頷いた。
……むむ。
もっと美味そうだと思ってくれてもいいんだぞ?
まあ、宮本にとっては料理の話より、鍋の使い方の方が大事なのかもしれないな。
『それでな、宮本』
「何だ」
『もっと上手に焼けるフライパンが欲しい!』
俺がそう言うと、宮本は鍋から顔を上げた。
「……フライパン?」
『おう!』
少しの沈黙。
それから、宮本は俺の鍋を指さした。
「これじゃ駄目なのか」
『駄目じゃないぞ!』
俺はすぐに答えた。
『でも、焼く時はもっと使いやすいのが欲しいんだ』
この鍋は、煮込みやスープをたくさん作るのに向いている。
底全体へ熱が回りやすいし、具材をたっぷり入れても安定している。
マコトとユウマと俺の分をまとめて作れる、いい鍋だ。
でも、肉を焼いたり、食材を素早く動かして炒めたりするとなると、別の形の方が使いやすい場面もある。
『肉を焼く時、もっと広い面を使いたいんだ』
「ほう」
『それから、食材を返す時に動かしやすいやつ!』
宮本の目が、少しだけ鋭くなった。
「……どう動かす」
『念動力だぞ!』
「それは知ってる」
……むう。
そうだったな。
『こう、傾けて……戻して……』
俺は専用鍋を念動力で浮かせ、ゆっくり傾けてみせた。
『肉を焼く時は、火から外したり、角度を変えたりするだろ?』
「そうだな」
『それを、もっと素早くできるようにしたいんだ!』
宮本は鍋の動きをじっと見ていた。
「振るのか?」
『人間みたいに柄を持って振るわけじゃないぞ』
「だろうな」
『鍋全体を浮かせて、傾けたり、戻したりするんだ』
俺はもう一度、鍋を動かした。
すうっと持ち上げ、少し傾け、元の位置へ戻す。
……うむ。
この鍋も、十分扱いやすい。
でも、深さがある分、食材を返す動作には少し大きな動きが必要になるんだよな。
「……なるほど」
宮本が頷いた。
「焼く面を広くして、浅くするか」
『おお! そういうのが欲しい!』
「ただ、浅くすりゃいいってもんじゃねぇ」
『そうなのか?』
「食材を動かした時に、重心も変わる。持ち手を握らずに使うなら、なおさらだ」
……おお。
そういうところを考えてくれるのか。
「それに、焼く面が広がれば、熱の回り方も変わる」
『熱ムラは少ない方がいいぞ!』
「分かってる」
宮本は短く答え、作業台に置かれた鍋を見た。
「前の鍋とは、設計を変える必要があるな」
『おお!』
……へへっ。
いいぞいいぞ。
だんだん話が具体的になってきた!
「それで、何を焼く」
『肉!』
「……ほかは」
『魚! 野菜! 炒め物も作りたい!』
「分かった」
宮本が頷く。
「だったら、焼く面を広く取って、食材を動かしやすい形にする。重心は実際に動かして確かめる必要があるな」
『頼むぞ!』
「おう」
……うむ。
決まりだな!
今度は俺専用のフライパンだ!
俺は嬉しくなって、尻尾をぴんと立てた。
「ニャル、また新しい料理道具が増えるね」
『おう! これでもっと美味いものを作るぞ!』
ユウマが笑った。
……へへっ。
楽しみだなあ。
新しいフライパンで、ブルーバードチキンをもう一度焼くのもいい。
ホーンラビットの肉を香ばしく炒めるのもいいな。
……ああ。
早く使いたいぞ!
――――――
「……さて」
宮本が作業台の上を片づけ、紙を一枚取り出した。
「剣とフライパン。両方作るなら、素材が要る」
『おお!』
「やっぱり、ダンジョンの鉱石を使うんですか?」
ユウマが尋ねる。
「ああ。その方が、今回の用途には合う」
宮本は紙の片側に、剣の簡単な形を描いた。
「まず剣だ」
俺とユウマは、紙を覗き込んだ。
「主材には、剛刃晶鉄を使いたい」
『ごうじんしょうてつ?』
「そうだ」
……おお。
初めて聞く名前だな。
「暗い鋼色の鉱石だ。割れた面に、細い銀色の筋が見える」
宮本は鉱石の断面を簡単に描いてみせた。
「きちんと鍛えれば刃持ちがよく、繰り返し衝撃を受けても粘りが出る。剣に向いた素材だ」
『おお! 強そうだな!』
「素材がよくても、作り方次第だ」
『……それもそうか』
宮本は頷いた。
「絶対に欠けないわけでも、折れないわけでもねぇ。使い方に合わせて鍛える必要がある」
……うむ。
いかにも宮本らしい答えだな。
「補助材には柔鋼石を使う」
『あっ! 知ってるぞ!』
俺は思わず前足を上げた。
『鍋にも使ったやつだ!』
「そうだ」
柔鋼石。
前に岩鉄坑道で採ってきた、青みがかった黒い鉱石だ。
軽さと粘りがあって、鍋の縁や底の補強にも使われている。
「こいつは加工の仕方で、衝撃への粘りや重量配分の調整にも使える」
「なるほど……」
ユウマが真剣に頷く。
「剛刃晶鉄が主な材料で、柔鋼石を組み合わせるんですね」
「ああ。細かい配分は素材を見てから決める」
宮本は剣の絵へ短い線を足した。
「重心も、実際に合わせる。今ここで寸法まで決める必要はねぇ」
「分かりました!」
……ふむ。
新しい剣の材料は、二種類か。
それも、ちゃんと意味のある組み合わせなんだな。
俺は宮本の描いた剣を見た。
まだただの線だけど、何だかもう格好よく見えてきたぞ。
『……へへっ』
「ニャル?」
『ユウマの新しい剣、楽しみだな!』
「うん。俺も!」
ユウマが嬉しそうに笑った。
……よし。
次は俺のフライパンだな!
「で、フライパンは……」
宮本が紙の反対側へ丸い形を描く。
「均熱晶鉄を使う」
『おお! また知ってるやつだ!』
「前の鍋と同じですね」
ユウマも頷いた。
「そうだ。熱が一ヶ所に偏りにくく、全体へ回りやすい」
『フライパンにもいいのか?』
「ああ。ただし、鍋と同じ形にしても意味がねぇ」
……ふむ。
確かに、そうだよな。
せっかく新しい道具を作るんだから、今の鍋と同じものでは困る。
「焼く面の厚みと形を考える。食材を返す時の動きにも合わせる必要があるな」
『おお!』
「補強には柔鋼石を使う。軽さも考えておきたい」
『それなら、俺も動かしやすそうだな!』
「まだ決めるのは早ぇ。素材がそろったら、実際に試すぞ」
『おう!』
……へへっ。
やっぱり、宮本は頼りになるなあ。
剣でも、フライパンでも、考えることは同じなんだ。
使うやつが、何をしたいのか。
どう動かすのか。
どんな負担がかかるのか。
それを確かめてから、形を決めていく。
……うむ。
俺がこの店を好きなのは、そういうところなんだよな。
宮本は俺が猫だからといって、適当に小さなフライパンを作ろうとはしない。
ユウマがまだ若い探索者だからといって、あり合わせの剣を勧めるわけでもない。
ちゃんと、使うやつを見てくれる。
……いい職人だなあ。
「それで、材料はどれくらい必要ですか?」
ユウマが尋ねると、宮本は紙に数字を書き始めた。
「原鉱で、剛刃晶鉄が四キロ」
『四キロ!』
「均熱晶鉄が三キロ」
『三キロ!』
「柔鋼石は、剣とフライパンで合わせて二キロだ」
『二キロ!』
俺は前足を折りながら数えた。
四。
三。
二。
……ええと。
『全部で九キロか!』
「そうだ」
……おお。
なかなかの量だな。
でも、前にも鍋のために鉱石を採りに行ったことがある。
収納魔法があるから、運ぶこと自体は問題ない。
あとは、ちゃんと見つけられるかどうかだ。
「この辺りの鉱石、岩鉄坑道で採れるんですよね?」
「ああ。均熱晶鉄と柔鋼石は、前に採ってきた場所があるだろ」
『おう!』
俺は大きく頷いた。
前に宮本の鍋を作るため、ユウマと二人で岩鉄坑道へ行った。
暗い坑道の中を進んで、鉱脈を探して、少しずつ採掘したんだ。
あの時は大変だったけど、いい素材が手に入ったんだよな。
「剛刃晶鉄は、その先だ」
「先、ですか?」
「ああ。以前採った辺りより、もう少し奥へ進む必要がある」
……ふむ。
やっぱり、新しい鉱石は少し先なのか。
「ただ、無理して一度に集める必要はねぇ」
宮本が言った。
「岩鉄坑道は、まだ先がある。行ける範囲で探せ」
「はい」
ユウマが頷く。
……うむ。
そこは大事だな。
今のユウマは前よりずっと強くなった。
でも、剣に違和感がある状態で、無理に奥まで進むのはよくない。
俺も、新しいフライパンが欲しいからって急がせるつもりはないぞ。
『ユウマ、安全に集めような!』
「うん。もちろん」
俺が頷くと、宮本が小さな紙をもう一枚取り出した。
「鉱石の特徴、書いとく」
『おお!』
均熱晶鉄は、暗い灰色で、割れた面に細かな銀色の結晶模様がある。
柔鋼石は、黒っぽい岩の中に青黒い帯のように入っている。
そして剛刃晶鉄は、暗い鋼色をした鉱石で、断面に細い銀色の筋が見えるらしい。
……ふむふむ。
覚えておこう。
俺の鑑定は食材の安全性や調理方法を調べるのが得意だけど、鉱石の品質まで何でも見抜けるわけじゃない。
だから、宮本が教えてくれる特徴は大事なんだ。
「似た石もある。見た目だけで決めつけるな」
「はい」
「採ってきたら、こっちで品質を確認する」
『おう!』
……うむ。
これなら安心だな。
あとは、実際に岩鉄坑道へ行って探すだけだ!
「……ああ、それと」
宮本がユウマへ目を向けた。
「剣の違和感があるうちは、無理するなよ」
「はい。気をつけます」
「新しい剣を作るために怪我したら意味ねぇからな」
『……おお』
そのとおりだ。
俺は思わず、何度も頷いた。
『そうだぞ、ユウマ! 安全第一だ!』
「分かってるよ、ニャル」
ユウマが笑う。
……へへっ。
よし。
これで準備は整ったな。
――――――
黒鉄堂を出る頃には、外の空気が少し涼しくなっていた。
俺はユウマの肩に乗り、宮本から受け取った鉱石のメモを思い出していた。
剛刃晶鉄が四キロ。
均熱晶鉄が三キロ。
柔鋼石が二キロ。
……うむ。
ちゃんと覚えたぞ。
「ニャル、今日はいい相談ができたね」
『おう!』
俺は嬉しくなって尻尾を揺らした。
『ユウマの剣も、俺のフライパンも作ってもらえる!』
「まだ材料を集めないといけないけどね」
『それは分かってるぞ!』
……まあ、ちょっと気が早いのは認める。
でも、新しい料理道具のことを考えたら、嬉しくなるじゃないか。
『フライパンができたら、何を焼こうかな!』
「もう考えてるの?」
『当然だろ!』
俺は胸を張った。
まずは肉だな。
ブルーバードチキンの皮を、今度は新しいフライパンでぱりっと焼いてみたい。
それから、ホーンラビットの肉もいい。
野菜を炒めるのも楽しそうだな。
……ああ。
夢が広がるぞ!
「ははっ。ニャルらしいね」
ユウマが笑った。
……ふふん。
料理人なんだから、当然だろ。
でも。
『ユウマの剣も楽しみだな!』
「……うん」
ユウマが少し嬉しそうに頷いた。
「今の剣にもずいぶん助けられてきたけど、これからの自分に合った剣が必要なんだって分かったよ」
『そうだな!』
「宮本さん、ちゃんと動きを見てくれたし」
『おう! いい職人だろ!』
俺は得意げに言った。
……まあ、俺が作ったわけじゃないんだけどな。
それでも、宮本を褒めてもらえると嬉しい。
あの人は、俺の包丁も鍋も、真剣に考えて作ってくれたんだから。
「でも、次の探索は慎重に行こうね」
『もちろんだ!』
俺は大きく頷いた。
岩鉄坑道には、以前にも行ったことがある。
でも、全部を探索したわけじゃない。
新しい鉱脈を探すなら、まだ知らない場所へ進むことになるかもしれない。
ユウマの剣にも、少し違和感がある。
だったら、無理せず行けるところから探せばいいんだ。
『一度で全部採れなくてもいいからな!』
「うん。危なかったら戻ろう」
『おう!』
……へへっ。
そういうところも、ユウマはちゃんと成長したな。
以前より身体が強くなっても、安全を優先できる。
俺としては、そっちの方が嬉しいかもしれない。
何しろ、ユウマが無事に帰ってこないと、美味い飯も一緒に食えなくなるからな。
「それじゃあ、次は岩鉄坑道だね」
『おう!』
俺はユウマの肩の上で、前足を握りしめた。
新しい剣。
新しいフライパン。
どっちも、まだただの材料の名前でしかない。
でも、岩鉄坑道で鉱石を集めて、宮本のところへ持っていけば。
ユウマの身体に合った剣と、俺がもっと上手に料理できるフライパンになるんだ。
……うむ。
そう考えると、何だかわくわくするな。
『よし! 剣とフライパンの材料を探しに行くぞ!』
「うん!」
ユウマが笑いながら、俺の頭を撫でた。
……おお。
いいぞ、そこ。
俺は気持ちよく目を細め、喉を鳴らした。
ごろごろ。
……へへっ。
今度の探索は、ちょっと変わった買い出しになりそうだな。
でも、目的はいつもと同じだ。
ユウマをもっと強くして。
そのユウマに、もっと美味いものを食わせる。
……うむ!
剣もフライパンも、どっちも大事な道具ってことだな!




