↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/62

第59話 剣も作れる鍛冶屋だった

『ユウマ、剣は持ったか?』


「うん。ちゃんと持ってるよ」


『俺の包丁と鍋もあるぞ!』


「そっちはニャルが収納してるんでしょ?」


『おう! 準備万端だ!』


 俺はユウマの肩の上で、満足して尻尾を揺らした。


 今日の目的地は、鍛冶屋の黒鉄堂。


 俺の専用包丁と鍋を作ってくれた、宮本の店だ。


 今回は、いつもの料理道具の相談だけじゃない。ユウマが探索で使っている剣を見てもらうことになっている。


 この前、緑葉の洞窟でホーンラビットと戦った時、ユウマは剣の扱いに違和感を覚えていた。


 以前と同じ感覚で振ったら、思っていたより速く動いてしまう。身体は次の動きに入れるのに、剣を切り返す感覚が少し噛み合わない。


 幸い、怪我もなかったし、剣が壊れたわけでもない。


 でも、戦闘中に使う道具なんだから、気になることは放っておきたくないよな。


『宮本なら、何か分かるかもしれないぞ!』


「うん。ちゃんと見てもらおう」


 ユウマが頷く。


 それから、少しだけ笑った。


「それにしても、ニャルの料理道具を作ってもらいに行ってたお店で、俺の剣を相談することになるなんてね」


『……ん?』


 俺は首を傾げた。


『でも、宮本って剣も作ってるんだろ?』


「うん。というか、探索者向けの武器を作るのが今の本業なんだけどね」


『……おお』


 そうだった。


 最初に来た時も、俺たちが持っていった鉱石を見て、剣ならかなりいいものが作れるって言ってたっけ。


 それなのに俺は、当然のように包丁を頼んだんだ。


 ……うむ。


 考えてみると、なかなか変な客だったかもしれないな。


 まあ、宮本はちゃんと作ってくれたけど。


『よし! 今日は鍛冶屋らしい仕事を頼めるな!』


「いや、今までの仕事もちゃんと鍛冶屋さんの仕事だからね?」


『それもそうか!』


 俺たちは笑いながら、黒鉄堂へ向かった。



――――――



 黒鉄堂の扉を開けると、懐かしい匂いがした。


 鉄と油、それから熱せられた金属の匂い。


 奥からは、かん、かん、と規則正しい音が聞こえてくる。


 ……おお。


 久しぶりだな、この感じ。


「こんにちはー!」


『宮本ー!』


 ユウマが声をかけると、奥の金属音が止まった。


 しばらくして、作業着姿の宮本が現れる。手に持っていた布で指先を拭きながら、俺たちを見た。


「おう」


『久しぶり!』


「こんにちは。今日はちょっと相談があって」


「何だ」


 相変わらず、話が早い。


 宮本はユウマを見て、それから俺へ視線を移した。


「包丁か?」


『包丁もあるぞ!』


「……も?」


『鍋も!』


「……何だ。壊したのか」


『壊してないぞ!』


 俺は思わず前足を上げた。


 失礼な。


 あんなに使いやすい道具を、そう簡単に壊すわけないじゃないか。


「点検してもらおうと思って持ってきたんです」


 ユウマが笑いながら説明する。


「あと、今日は俺の剣も見てほしくて」


「剣?」


 宮本の視線が、ユウマの腰へ向かった。


「出せ」


「はい」


 ユウマが剣を鞘ごと外し、宮本へ渡す。


 宮本は受け取ると、まず鞘の状態を確かめた。それから剣を抜き、刃を光にかざす。


 角度を変えながら、刃先から根元までゆっくり見ていく。


 ……ふむ。


 やっぱり、道具を見ている時の宮本は静かだな。


 包丁を点検してもらった時もそうだった。


 ほとんど喋らないけど、細かいところまで見てくれるんだ。


「……使い込んでるな」


「はい。ずっと使ってる剣なので」


「手入れはしてる」


「ありがとうございます」


 宮本は柄の部分も確認し、軽く握り直した。


「目立った欠けはねぇ。柄にも大きな緩みはない」


『おお!』


「ただし、使い続けて問題ないかは別だ。何が気になる」


 ……おっ。


 やっぱり、そこを聞くんだな。


 ユウマは先日の戦闘について説明した。


 身体が以前より速く動くようになったこと。


 剣を振り抜いた後、止める感覚が変わってきたこと。


 切り返す時も、身体と剣の動きが少し噛み合わない気がすること。


 宮本は途中で口を挟まず、黙って聞いていた。


「……なるほど」


 説明が終わると、短く頷く。


「ちょっと動いてみろ」


「えっ?」


「剣だけ見ても分からん。使ってるところを見せろ」


 ……ほほう。


 なるほどな。


 包丁を作ってもらった時も、実際に俺が念動力で動かすところを見られたっけ。


 どうやら、剣でも同じらしい。



――――――



 宮本に案内され、俺たちは店の奥にある、十分な広さが確保された場所へ移動した。


 周囲には金属製の作業台や道具が並んでいるけど、剣を振るための場所には何も置かれていない。


「そこで構えろ」


「はい」


「猫は下がってろ」


『おう!』


 俺は離れた場所に置かれた台の上へ移動した。


 ここなら、ユウマの動きもよく見える。


 ……さて。


 宮本は何を確かめるんだろうな。


 ユウマが剣を抜いた。


 足を開き、いつものように構える。


 俺にはすっかり見慣れた姿勢だ。


 最初に出会った頃より、ずいぶん安定している。


「一度振れ。普段どおりでいい」


「はい」


 ユウマが踏み込み、剣を振り下ろした。


 ひゅっ。


 風を切る音が響く。


 ……おお。


 やっぱり速いな!


 でも、宮本は特に驚いた様子もなく、ユウマの足元と剣の動きを見ていた。


「もう一回」


「はい」


 再び剣が振り下ろされる。


 今度は、そのまま構え直すところまで続けた。


 ……ん?


 俺は耳を立てた。


 先日のホーンラビットとの戦闘を思い出す。


 やっぱり、剣を止めてから次の動きへ移るところが、ほんの少しぎこちない気がするな。


「……止めろ」


 宮本が言った。


 ユウマは剣を下げ、息を整える。


「今の、どうだった」


「……やっぱり少し気になります」


「どこだ」


「振り下ろすところまではいいんです。でも、そこから戻す時に、前より意識して力を入れないといけない感じがします」


 宮本が頷いた。


「身体の方が先に動こうとしてるな」


「……えっ?」


「踏み込みも、剣を振る速さも悪くねぇ。ただ、振り終わった後の扱いが少し窮屈そうだ」


『おお……』


 やっぱり。


 宮本にも分かったみたいだな。


「剣の重さが足りないんでしょうか?」


 ユウマが尋ねると、宮本は首を横に振った。


「重くすりゃ解決するってもんじゃねぇ」


「そうなんですか?」


「重くすれば、振る時の感覚は変わる。だが、止めたり戻したりする負担も増える」


 宮本はユウマから剣を受け取り、全体の釣り合いを確かめるように持ち直した。


「剣は、刃だけ重くすりゃいいわけじゃない。重心がどこにあるかで、振りやすさも戻しやすさも変わる」


『……ほほう』


 それは分かるぞ。


 俺の包丁だって、同じ重さでも重心が違えば扱いやすさが変わる。


 念動力で浮かせる時には、特に大事なところだ。


「この剣が悪いわけじゃねぇ」


 宮本が続けた。


「今までの使い方には合ってたんだろう。だが、今のお前の動きには、少し合わなくなってきてる」


 ユウマが自分の手を見た。


「……やっぱり、俺の方が変わったんですね」


「そういうことだろうな」


 ……おお。


 何だか、嬉しくなってきたぞ。


 ユウマが成長したことを、宮本も認めてくれたんだ。


 もちろん、剣が合わなくなるのは困る。


 でも、それだけユウマの身体が変わったってことでもあるんだよな。


『ユウマ、やっぱり強くなってたんだな!』


「……うん。そうみたい」


 ユウマが少し照れたように笑った。


 ……へへっ。


 よかったな、ユウマ!


 俺は台の上で、嬉しくなって尻尾を振った。


「それで、どうすればいいでしょうか?」


 ユウマが尋ねる。


 宮本は剣へ目を落とし、少し考えた。


「今の剣に慣れるよう動きを調整する手もある。だが、これからも今のように身体が変わるなら……」


 そこで一度、言葉を切った。


「新しく作る方がいいかもしれんな」


「新しい剣、ですか?」


「ああ。今のお前の動きに合わせたやつだ」


『おおっ!』


 新しい剣!


 ついに、その話になったか!


「剣を振る時の速さだけじゃねぇ。構え直しや切り返しまで考えて、重心を決める」


 宮本はユウマへ剣を返した。


「それと、耐久性も見直した方がいい。今の剣がすぐ壊れるとは言わねぇが、力のかかり方は以前と変わってるだろ」


「……はい」


「なら、今のまま使い続けていいか、慎重に考える必要がある」


 ……うむ。


 そこは大事だな。


 ユウマには、これからもいろんなダンジョンへ行ってもらいたい。


 でも、戦闘中に剣が壊れたりしたら困る。


 新しい剣を作るなら、ちゃんと安全に使えるものがいいぞ。


「……分かりました」


 ユウマが真剣な顔で頷いた。


「宮本さん。新しい剣、お願いできますか?」


「作れる」


 即答だった。


 ……おお。


 頼もしいな!


 でも、宮本はそこで話を終わらせなかった。


「ただし、素材から考える。お前の動きに合うように作るなら、適当な鉄を使うわけにはいかん」


「はい」


「あと、完成前にもう一度動きを見せてもらうことになる」


「分かりました!」


 ……ふむ。


 なるほどなあ。


 使う人間の身体を見て、剣を作る。


 俺の包丁を作った時と、考え方は同じなんだな。


 そう思ったら、何だか嬉しくなってきたぞ。



――――――



『……さて、宮本!』


「ん?」


 剣の相談がひと段落したところで、俺は作業台へ跳び乗った。


『今度は俺の番だ!』


「……まだ何かあるのか」


『あるぞ!』


 俺は胸を張った。


『まずは包丁と鍋を見てくれ!』


「分かった。出せ」


 俺は収納魔法から、専用包丁と鍋を取り出した。


 包丁は念動力で宮本の手元へ運び、鍋は作業台へそっと置く。


 宮本は包丁を手に取ると、刃を光にかざした。


 ……うむ。


 いつ見ても、こういう時は真剣だな。


「……よく使ってるな」


『毎日だ!』


「手入れもしてる」


『もちろん!』


 宮本は刃の状態を確かめ、軽く頷いた。


「大きな問題はねぇ。まだ使える」


『おお!』


 続いて鍋。


 底の状態。


 縁の歪み。


 持ち手の取り付け部分。


 ひと通り確認してから、宮本が鍋を戻した。


「こっちも問題ねぇな」


『へへっ。よかった!』


「煮込みばかりしてるのか?」


『いや、焼くのにも使ってるぞ!』


「焼く?」


『おう! この前も肉を焼いた!』


 宮本が俺を見た。


「……何の肉だ」


『ブルーバードチキン!』


「……知らん肉だな」


『青い鳥の肉だ! 美味かったぞ!』


 ユウマが横から説明する。


「ダンジョンで見つけた鳥型魔物のお肉なんです。ニャルが香草バターソテーにしてくれて」


「そうか」


 宮本は短く頷いた。


 ……むむ。


 もっと美味そうだと思ってくれてもいいんだぞ?


 まあ、宮本にとっては料理の話より、鍋の使い方の方が大事なのかもしれないな。


『それでな、宮本』


「何だ」


『もっと上手に焼けるフライパンが欲しい!』


 俺がそう言うと、宮本は鍋から顔を上げた。


「……フライパン?」


『おう!』


 少しの沈黙。


 それから、宮本は俺の鍋を指さした。


「これじゃ駄目なのか」


『駄目じゃないぞ!』


 俺はすぐに答えた。


『でも、焼く時はもっと使いやすいのが欲しいんだ』


 この鍋は、煮込みやスープをたくさん作るのに向いている。


 底全体へ熱が回りやすいし、具材をたっぷり入れても安定している。


 マコトとユウマと俺の分をまとめて作れる、いい鍋だ。


 でも、肉を焼いたり、食材を素早く動かして炒めたりするとなると、別の形の方が使いやすい場面もある。


『肉を焼く時、もっと広い面を使いたいんだ』


「ほう」


『それから、食材を返す時に動かしやすいやつ!』


 宮本の目が、少しだけ鋭くなった。


「……どう動かす」


『念動力だぞ!』


「それは知ってる」


 ……むう。


 そうだったな。


『こう、傾けて……戻して……』


 俺は専用鍋を念動力で浮かせ、ゆっくり傾けてみせた。


『肉を焼く時は、火から外したり、角度を変えたりするだろ?』


「そうだな」


『それを、もっと素早くできるようにしたいんだ!』


 宮本は鍋の動きをじっと見ていた。


「振るのか?」


『人間みたいに柄を持って振るわけじゃないぞ』


「だろうな」


『鍋全体を浮かせて、傾けたり、戻したりするんだ』


 俺はもう一度、鍋を動かした。


 すうっと持ち上げ、少し傾け、元の位置へ戻す。


 ……うむ。


 この鍋も、十分扱いやすい。


 でも、深さがある分、食材を返す動作には少し大きな動きが必要になるんだよな。


「……なるほど」


 宮本が頷いた。


「焼く面を広くして、浅くするか」


『おお! そういうのが欲しい!』


「ただ、浅くすりゃいいってもんじゃねぇ」


『そうなのか?』


「食材を動かした時に、重心も変わる。持ち手を握らずに使うなら、なおさらだ」


 ……おお。


 そういうところを考えてくれるのか。


「それに、焼く面が広がれば、熱の回り方も変わる」


『熱ムラは少ない方がいいぞ!』


「分かってる」


 宮本は短く答え、作業台に置かれた鍋を見た。


「前の鍋とは、設計を変える必要があるな」


『おお!』


 ……へへっ。


 いいぞいいぞ。


 だんだん話が具体的になってきた!


「それで、何を焼く」


『肉!』


「……ほかは」


『魚! 野菜! 炒め物も作りたい!』


「分かった」


 宮本が頷く。


「だったら、焼く面を広く取って、食材を動かしやすい形にする。重心は実際に動かして確かめる必要があるな」


『頼むぞ!』


「おう」


 ……うむ。


 決まりだな!


 今度は俺専用のフライパンだ!


 俺は嬉しくなって、尻尾をぴんと立てた。


「ニャル、また新しい料理道具が増えるね」


『おう! これでもっと美味いものを作るぞ!』


 ユウマが笑った。


 ……へへっ。


 楽しみだなあ。


 新しいフライパンで、ブルーバードチキンをもう一度焼くのもいい。


 ホーンラビットの肉を香ばしく炒めるのもいいな。


 ……ああ。


 早く使いたいぞ!



――――――



「……さて」


 宮本が作業台の上を片づけ、紙を一枚取り出した。


「剣とフライパン。両方作るなら、素材が要る」


『おお!』


「やっぱり、ダンジョンの鉱石を使うんですか?」


 ユウマが尋ねる。


「ああ。その方が、今回の用途には合う」


 宮本は紙の片側に、剣の簡単な形を描いた。


「まず剣だ」


 俺とユウマは、紙を覗き込んだ。


「主材には、剛刃晶鉄を使いたい」


『ごうじんしょうてつ?』


「そうだ」


 ……おお。


 初めて聞く名前だな。


「暗い鋼色の鉱石だ。割れた面に、細い銀色の筋が見える」


 宮本は鉱石の断面を簡単に描いてみせた。


「きちんと鍛えれば刃持ちがよく、繰り返し衝撃を受けても粘りが出る。剣に向いた素材だ」


『おお! 強そうだな!』


「素材がよくても、作り方次第だ」


『……それもそうか』


 宮本は頷いた。


「絶対に欠けないわけでも、折れないわけでもねぇ。使い方に合わせて鍛える必要がある」


 ……うむ。


 いかにも宮本らしい答えだな。


「補助材には柔鋼石を使う」


『あっ! 知ってるぞ!』


 俺は思わず前足を上げた。


『鍋にも使ったやつだ!』


「そうだ」


 柔鋼石。


 前に岩鉄坑道で採ってきた、青みがかった黒い鉱石だ。


 軽さと粘りがあって、鍋の縁や底の補強にも使われている。


「こいつは加工の仕方で、衝撃への粘りや重量配分の調整にも使える」


「なるほど……」


 ユウマが真剣に頷く。


「剛刃晶鉄が主な材料で、柔鋼石を組み合わせるんですね」


「ああ。細かい配分は素材を見てから決める」


 宮本は剣の絵へ短い線を足した。


「重心も、実際に合わせる。今ここで寸法まで決める必要はねぇ」


「分かりました!」


 ……ふむ。


 新しい剣の材料は、二種類か。


 それも、ちゃんと意味のある組み合わせなんだな。


 俺は宮本の描いた剣を見た。


 まだただの線だけど、何だかもう格好よく見えてきたぞ。


『……へへっ』


「ニャル?」


『ユウマの新しい剣、楽しみだな!』


「うん。俺も!」


 ユウマが嬉しそうに笑った。


 ……よし。


 次は俺のフライパンだな!


「で、フライパンは……」


 宮本が紙の反対側へ丸い形を描く。


「均熱晶鉄を使う」


『おお! また知ってるやつだ!』


「前の鍋と同じですね」


 ユウマも頷いた。


「そうだ。熱が一ヶ所に偏りにくく、全体へ回りやすい」


『フライパンにもいいのか?』


「ああ。ただし、鍋と同じ形にしても意味がねぇ」


 ……ふむ。


 確かに、そうだよな。


 せっかく新しい道具を作るんだから、今の鍋と同じものでは困る。


「焼く面の厚みと形を考える。食材を返す時の動きにも合わせる必要があるな」


『おお!』


「補強には柔鋼石を使う。軽さも考えておきたい」


『それなら、俺も動かしやすそうだな!』


「まだ決めるのは早ぇ。素材がそろったら、実際に試すぞ」


『おう!』


 ……へへっ。


 やっぱり、宮本は頼りになるなあ。


 剣でも、フライパンでも、考えることは同じなんだ。


 使うやつが、何をしたいのか。


 どう動かすのか。


 どんな負担がかかるのか。


 それを確かめてから、形を決めていく。


 ……うむ。


 俺がこの店を好きなのは、そういうところなんだよな。


 宮本は俺が猫だからといって、適当に小さなフライパンを作ろうとはしない。


 ユウマがまだ若い探索者だからといって、あり合わせの剣を勧めるわけでもない。


 ちゃんと、使うやつを見てくれる。


 ……いい職人だなあ。


「それで、材料はどれくらい必要ですか?」


 ユウマが尋ねると、宮本は紙に数字を書き始めた。


「原鉱で、剛刃晶鉄が四キロ」


『四キロ!』


「均熱晶鉄が三キロ」


『三キロ!』


「柔鋼石は、剣とフライパンで合わせて二キロだ」


『二キロ!』


 俺は前足を折りながら数えた。


 四。


 三。


 二。


 ……ええと。


『全部で九キロか!』


「そうだ」


 ……おお。


 なかなかの量だな。


 でも、前にも鍋のために鉱石を採りに行ったことがある。


 収納魔法があるから、運ぶこと自体は問題ない。


 あとは、ちゃんと見つけられるかどうかだ。


「この辺りの鉱石、岩鉄坑道で採れるんですよね?」


「ああ。均熱晶鉄と柔鋼石は、前に採ってきた場所があるだろ」


『おう!』


 俺は大きく頷いた。


 前に宮本の鍋を作るため、ユウマと二人で岩鉄坑道へ行った。


 暗い坑道の中を進んで、鉱脈を探して、少しずつ採掘したんだ。


 あの時は大変だったけど、いい素材が手に入ったんだよな。


「剛刃晶鉄は、その先だ」


「先、ですか?」


「ああ。以前採った辺りより、もう少し奥へ進む必要がある」


 ……ふむ。


 やっぱり、新しい鉱石は少し先なのか。


「ただ、無理して一度に集める必要はねぇ」


 宮本が言った。


「岩鉄坑道は、まだ先がある。行ける範囲で探せ」


「はい」


 ユウマが頷く。


 ……うむ。


 そこは大事だな。


 今のユウマは前よりずっと強くなった。


 でも、剣に違和感がある状態で、無理に奥まで進むのはよくない。


 俺も、新しいフライパンが欲しいからって急がせるつもりはないぞ。


『ユウマ、安全に集めような!』


「うん。もちろん」


 俺が頷くと、宮本が小さな紙をもう一枚取り出した。


「鉱石の特徴、書いとく」


『おお!』


 均熱晶鉄は、暗い灰色で、割れた面に細かな銀色の結晶模様がある。


 柔鋼石は、黒っぽい岩の中に青黒い帯のように入っている。


 そして剛刃晶鉄は、暗い鋼色をした鉱石で、断面に細い銀色の筋が見えるらしい。


 ……ふむふむ。


 覚えておこう。


 俺の鑑定は食材の安全性や調理方法を調べるのが得意だけど、鉱石の品質まで何でも見抜けるわけじゃない。


 だから、宮本が教えてくれる特徴は大事なんだ。


「似た石もある。見た目だけで決めつけるな」


「はい」


「採ってきたら、こっちで品質を確認する」


『おう!』


 ……うむ。


 これなら安心だな。


 あとは、実際に岩鉄坑道へ行って探すだけだ!


「……ああ、それと」


 宮本がユウマへ目を向けた。


「剣の違和感があるうちは、無理するなよ」


「はい。気をつけます」


「新しい剣を作るために怪我したら意味ねぇからな」


『……おお』


 そのとおりだ。


 俺は思わず、何度も頷いた。


『そうだぞ、ユウマ! 安全第一だ!』


「分かってるよ、ニャル」


 ユウマが笑う。


 ……へへっ。


 よし。


 これで準備は整ったな。



――――――



 黒鉄堂を出る頃には、外の空気が少し涼しくなっていた。


 俺はユウマの肩に乗り、宮本から受け取った鉱石のメモを思い出していた。


 剛刃晶鉄が四キロ。


 均熱晶鉄が三キロ。


 柔鋼石が二キロ。


 ……うむ。


 ちゃんと覚えたぞ。


「ニャル、今日はいい相談ができたね」


『おう!』


 俺は嬉しくなって尻尾を揺らした。


『ユウマの剣も、俺のフライパンも作ってもらえる!』


「まだ材料を集めないといけないけどね」


『それは分かってるぞ!』


 ……まあ、ちょっと気が早いのは認める。


 でも、新しい料理道具のことを考えたら、嬉しくなるじゃないか。


『フライパンができたら、何を焼こうかな!』


「もう考えてるの?」


『当然だろ!』


 俺は胸を張った。


 まずは肉だな。


 ブルーバードチキンの皮を、今度は新しいフライパンでぱりっと焼いてみたい。


 それから、ホーンラビットの肉もいい。


 野菜を炒めるのも楽しそうだな。


 ……ああ。


 夢が広がるぞ!


「ははっ。ニャルらしいね」


 ユウマが笑った。


 ……ふふん。


 料理人なんだから、当然だろ。


 でも。


『ユウマの剣も楽しみだな!』


「……うん」


 ユウマが少し嬉しそうに頷いた。


「今の剣にもずいぶん助けられてきたけど、これからの自分に合った剣が必要なんだって分かったよ」


『そうだな!』


「宮本さん、ちゃんと動きを見てくれたし」


『おう! いい職人だろ!』


 俺は得意げに言った。


 ……まあ、俺が作ったわけじゃないんだけどな。


 それでも、宮本を褒めてもらえると嬉しい。


 あの人は、俺の包丁も鍋も、真剣に考えて作ってくれたんだから。


「でも、次の探索は慎重に行こうね」


『もちろんだ!』


 俺は大きく頷いた。


 岩鉄坑道には、以前にも行ったことがある。


 でも、全部を探索したわけじゃない。


 新しい鉱脈を探すなら、まだ知らない場所へ進むことになるかもしれない。


 ユウマの剣にも、少し違和感がある。


 だったら、無理せず行けるところから探せばいいんだ。


『一度で全部採れなくてもいいからな!』


「うん。危なかったら戻ろう」


『おう!』


 ……へへっ。


 そういうところも、ユウマはちゃんと成長したな。


 以前より身体が強くなっても、安全を優先できる。


 俺としては、そっちの方が嬉しいかもしれない。


 何しろ、ユウマが無事に帰ってこないと、美味い飯も一緒に食えなくなるからな。


「それじゃあ、次は岩鉄坑道だね」


『おう!』


 俺はユウマの肩の上で、前足を握りしめた。


 新しい剣。


 新しいフライパン。


 どっちも、まだただの材料の名前でしかない。


 でも、岩鉄坑道で鉱石を集めて、宮本のところへ持っていけば。


 ユウマの身体に合った剣と、俺がもっと上手に料理できるフライパンになるんだ。


 ……うむ。


 そう考えると、何だかわくわくするな。


『よし! 剣とフライパンの材料を探しに行くぞ!』


「うん!」


 ユウマが笑いながら、俺の頭を撫でた。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 俺は気持ちよく目を細め、喉を鳴らした。


 ごろごろ。


 ……へへっ。


 今度の探索は、ちょっと変わった買い出しになりそうだな。


 でも、目的はいつもと同じだ。


 ユウマをもっと強くして。


 そのユウマに、もっと美味いものを食わせる。


 ……うむ!


 剣もフライパンも、どっちも大事な道具ってことだな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。