第58話 強くなったのは、身体だけじゃ足りない
『……ユウマ。今日も剣が気になるのか?』
「うん。ちょっとね」
緑葉の洞窟へ向かう途中、俺はユウマの腰に下がった剣を見つめていた。
いつも探索で使っている、見慣れた剣だ。
刃が欠けているわけでも、柄が壊れているわけでもない。昨日、ユウマが手入れをしていた時も、特におかしなところは見当たらなかった。
でも、ユウマは少し気になることがあるらしい。
「最近さ、剣を振る時の感覚が前と違うんだよね」
『ほう?』
「何て言えばいいのかな。身体はちゃんと動くんだけど、剣の方が少し合わない感じがして」
……ふむ。
身体はちゃんと動く、か。
確かに、最近のユウマはずいぶん強くなった。
最初に出会った頃と比べたら、踏み込みも速くなったし、剣を振る動きにも余裕がある。以前なら苦労していたゴブリンだって、今では落ち着いて倒せるようになった。
この前のブルーバードとの戦闘も、見事だったな。
羽ばたきながら跳びかかってくる相手をよく観察して、着地の隙を狙っていた。
……うむ。
俺の飼い主、ちゃんと育ってるぞ!
『でも、剣がおかしくなったわけじゃないんだろ?』
「たぶんね。見たところ、傷んでいる感じはしないんだ」
『だったら、今日は少し確かめてみるか?』
「うん。そのつもり」
ユウマが頷いた。
「ただ、違和感が大きいようなら無理はしないよ。今日は慣れた場所だけにしておこう」
『おう! それがいいな!』
俺は満足して尻尾を立てた。
何しろ、探索は安全第一だからな。
強くなったからといって、無理をしていいわけじゃない。
……それに。
『帰りにケイブマッシュルームも採れたらいいな!』
「ははっ。やっぱり食材も探すんだね」
『当然だろ!』
俺は胸を張った。
せっかく緑葉の洞窟へ行くんだぞ。
何も持たずに帰るなんて、もったいないじゃないか!
……まあ、今日の目的はユウマの剣の確認だけどな。
そこは、ちゃんと分かってるぞ。
――――――
緑葉の洞窟へ入ると、湿った土と草の匂いが鼻をくすぐった。
岩壁には苔が広がり、天井の高い場所では木々が枝を伸ばしている。葉の間から差し込む柔らかな光が、足元にまだらな模様を作っていた。
……うむ。
何度来ても、落ち着く場所だな。
最初の頃は、何がどこに生えているのかも分からなかった。
それが今では、ゴブリンポテトのありそうな場所も、妖精ニンジンが育ちやすい場所も、だいたい見当がつくようになっている。
俺にとっては、すっかり大きな冷蔵庫みたいなものだ。
『……おっ』
道の脇に、見覚えのある茶色い傘が見えた。
ケイブマッシュルームだ。
『ユウマ、あそこ!』
「ん?」
『キノコがあるぞ!』
「あ、本当だ」
ユウマが笑った。
「帰りに採ろうか」
『……むむ』
すぐに採りたい。
でも、今日は剣の確認が先だ。
……うむ。
俺だって、それくらいの我慢はできるぞ。
『分かった! 帰りにな!』
「うん」
ユウマは頷き、周囲を確認しながら先へ進んだ。
今日歩いているのは、何度も通ったことのある浅い区域だ。地形もよく知っているし、出てくる魔物も比較的弱いものが多い。
ただし、ダンジョンであることに変わりはない。
ユウマは足元の木の根や岩を避けながら、いつでも剣を抜けるようにしていた。
……ふむ。
こうして見ると、歩き方も前とは違うな。
以前は、足元を確かめるたびに少し動きが止まっていた。
今は周囲へ目を配りながら、自然に足場を選んでいる。
身体がよく動くようになっただけじゃない。
探索にも慣れてきたんだな。
『……へへっ』
「ニャル?」
『ん?』
「何か嬉しそうだね」
『そりゃそうだろ! ユウマがちゃんと強くなってるからな!』
「ははっ。ありがとう」
ユウマが照れたように笑った。
……うむ。
もっと褒めてもいいくらいだぞ。
俺は美味い料理を作って、ユウマにたくさん食わせてきた。
その食事が身体を育てていることは、俺たちも経験から分かっている。
でも、それだけじゃない。
ユウマは毎回ちゃんと剣を振って、敵の動きを覚えて、危ない時には無理をしないようにしてきた。
食事だけで、ここまで上手く戦えるようになったわけじゃないんだ。
……そう考えると、ますます嬉しくなるな。
俺が尻尾を揺らしていると、ユウマが急に足を止めた。
「……ニャル」
『ん?』
「前」
俺は耳を立て、ユウマの視線を追った。
少し先の茂みが、がさりと揺れる。
そして。
「キュルッ!」
草の間から、一本角のウサギが飛び出してきた。
『おっ!』
ホーンラビットだ!
……うむ。
今日の相手には、ちょうどいいかもしれないな。
――――――
「ニャル、いつものところで待ってて」
『おう!』
ユウマは俺を近くの岩陰へ下ろした。
ここなら戦闘に巻き込まれにくいし、周囲の様子も確認しやすい。
俺は岩の後ろへ移動し、耳をぴんと立てた。
……さて。
ユウマの動きを、よく見ておこう。
ホーンラビットは、地面を蹴って素早く跳びかかってくる魔物だ。
頭の角を前へ向けて突っ込んでくるから、真正面で受け止めるのは危ない。
でも、今のユウマなら十分に対応できる相手でもある。
「キュルルッ!」
ホーンラビットが身を低くした。
……来るぞ。
次の瞬間、地面を蹴って跳び上がる。
速い!
けど。
「……っと」
ユウマは落ち着いて半歩横へ動いた。
角が空を切り、ホーンラビットがそのまま着地する。
……おお。
いい避け方だな。
必要以上に大きく動いていないし、足場も崩れていない。
相手の動きをちゃんと読めている。
ユウマは剣を構え直した。
ホーンラビットがもう一度こちらを向く。
……ふむ。
さっきの動きから考えると、次も跳びかかってくるかな?
「キュッ!」
案の定、ホーンラビットが地面を蹴った。
今度は少し斜めからだ。
ユウマは身体をひねりながら、剣を振り下ろした。
……おお!
速いな!
以前より、剣の動きがずっと鋭くなっている。
ただ。
「……っ」
ユウマの表情が、ほんの少し変わった。
剣が、思っていたより速く振り抜けたらしい。
相手を捉える位置は間違っていない。
でも、振り下ろした後の剣を止める動きが、いつもより少し大きくなった。
ユウマはすぐに姿勢を整え、次の動きへ備える。
……ん?
今の、何だ?
攻撃そのものは問題なかったように見える。
でも、何だか少しぎこちなかったぞ。
ホーンラビットが着地した。
その瞬間、ユウマは剣を構え直す。
相手の動きに合わせ、今度は余計に力を入れず、短く踏み込んだ。
「はっ!」
剣が走る。
ざしゅっ!
鋭い一撃が決まり、ホーンラビットが地面へ倒れた。
……おお!
やったな!
ユウマはすぐに剣を収めず、周囲を確認した。
新しい敵がいないことを確かめてから、ようやく息を吐く。
「……ふう」
『ユウマ!』
俺は岩陰から顔を出した。
『大丈夫か!?』
「うん。怪我はないよ」
ユウマが笑った。
……よかった。
それなら一安心だな。
『今の戦い、すごかったぞ!』
「ありがとう」
『でも、途中でちょっと変だったな』
「……うん」
ユウマが剣を見下ろした。
「やっぱり、少し変な感じがする」
……ふむ。
どうやら、俺の見間違いじゃなかったらしい。
――――――
戦闘が終わった後、ユウマは剣の状態を確かめ始めた。
刃の表面。
柄の取り付け部分。
それから、全体の様子。
ひと通り確認しても、大きな傷や破損は見当たらなかった。
「……剣が壊れてるわけじゃなさそうだね」
『そうみたいだな』
俺も近くから見てみた。
……うむ。
いつもの剣だ。
少なくとも、俺が見て分かるような異常はない。
でも、ユウマはまだ少し考え込んでいる。
『ユウマ、何が変なんだ?』
「うーん……」
ユウマは剣を持った手を見つめた。
「さっき、いつもの感覚で振ったら、思ってたより速く動いたんだ」
『ほう?』
「攻撃はちゃんとできたんだけど、その後に剣を止める時、少し余計に力を使った感じがして」
……なるほど。
確かに、さっきはそんな動きだったな。
剣そのものが変になったというより、ユウマの身体の動きと、剣を扱う感覚が少しずれているように見えた。
「それに、最近は切り返す時もちょっと気になるんだよね」
『切り返し?』
「うん。身体はもう次の動きに入れるのに、剣を動かす感覚が前と違って」
ユウマは少し考え、言葉を選ぶように続けた。
「軽く感じるんだけど、ただ軽いだけじゃないっていうか……」
『……ふむ』
軽い、か。
そういえば、前にもそんなことを言ってたな。
最初にダンジョン飯を食べた後だったか。
翌日の探索で、ユウマは剣が軽く感じると言っていた。
踏み込みも速くなって、前より身体が動くようになったんだ。
あの時は、二人でずいぶん驚いたものだ。
でも、今は少し違うらしい。
『前は、剣が軽くなって喜んでたよな』
「うん。最初はすごく嬉しかったよ」
ユウマが笑った。
「前より速く振れるし、疲れにくくなったからね」
『そうだったな!』
「でも、最近は……」
ユウマは剣へ目を落とした。
「前の身体に合わせて覚えた感覚と、今の身体の動きが合わなくなってきたのかもしれない」
……おお。
なるほどな。
それは、ちょっと分かる気がするぞ。
俺だって、念動力で料理道具を動かしていると、道具の重さや重心で扱いやすさが変わる。
宮本に作ってもらった専用包丁は、そのあたりをきちんと調整してもらったから使いやすいんだ。
鍋もそうだったな。
最初は、ただ丈夫で大きければいいと思ってた。
でも、宮本は中身を入れた状態でどう動かすかまで考えてくれた。
……ふむ。
そう考えると、剣だって同じなのかもしれない。
『ユウマ、今の身体には剣が合わなくなってきたのか?』
「……まだ分からないけど、そうかもしれないね」
ユウマが頷いた。
「この剣を使い始めた頃は、ちょうどよかったんだ」
『うむ』
「重さも、振りやすさも、特に気にならなかったし」
でも、今は違う。
ユウマの身体は、以前よりずっと強くなっている。
剣を振る速さも、踏み込みの力も、昔とは変わってきた。
だったら、同じ剣でも扱う感覚が変わるのは、おかしなことじゃないのかもしれないな。
「……それに」
『ん?』
「このままもっと強くなったら、剣の方は大丈夫なのかなって」
……おっ。
それも大事な話だな。
「今は特に問題なさそうだけど、力が強くなった分、剣にかかる負担も変わってるかもしれないでしょ?」
『そうだな』
……うむ。
その可能性はある。
でも、俺には剣の強度なんて詳しく分からない。
料理用の包丁なら、切れ味や使いやすさを考えられるけど、戦闘用の剣となると話が違うからな。
何しろ、相手は魔物だ。
硬い角や爪に当たることだってある。
もし戦闘中に剣が折れたりしたら、大変なことになるぞ。
……むむ。
それは困る。
絶対に困るぞ!
『ユウマ、無理して使い続けるのはよくないな』
「うん。俺もそう思う」
ユウマが剣を鞘へ戻した。
その表情は、少し真剣だった。
「今日は、もう十分確認できたかな」
『おっ。帰るのか?』
「うん。剣の感覚が気になる状態で、奥へ進む必要はないからね」
……ほほう。
なるほどな。
まだ探索を続けられそうな余裕はある。
でも、それと安全に戦えるかどうかは別の話だ。
違和感があるなら、無理をしない。
……うむ。
いい判断じゃないか!
『そうだな。今日は帰ろう!』
「うん!」
ユウマが笑った。
……へへっ。
こういうところも、ちゃんと育ってるな。
――――――
帰る前に、俺たちは倒したホーンラビットの状態を確認した。
……うむ。
せっかく倒したんだから、無駄にはしたくない。
ホーンラビットの肉は、我が家でもよく使う食材だ。
角の根元にある臭腺と周囲の組織に注意すれば、美味しく食べられる。
……さて。
『ユウマ、少しだけ回収していこうぜ』
「うん。周りにほかの魔物がいないか見ておくね」
『頼んだ!』
ユウマが周囲を警戒している間に、俺はホーンラビットを鑑定した。
食用にできる部分。
危険な臭腺の位置。
肉の状態。
……よし。
いつもの処理で大丈夫そうだな。
俺は念動力で解体用の道具を扱い、危険な部分を傷つけないように取り除いた。
周囲の組織ごと余裕を持って切り離し、食べる肉とは分けておく。
……うむ。
こういう作業は、ずいぶん慣れたものだ。
適切に処理した肉を分け、収納魔法へ収める。
『よし。これで夕飯の材料も確保できたな!』
「ははっ。よかったね」
『おう!』
俺は満足して尻尾を振った。
……ふふん。
やっぱり、何か食材を持って帰れると嬉しいな。
でも、今日はここまでだ。
さっき見つけたケイブマッシュルームも気になるけど、あっちは帰り道にあるからな。
安全に採れそうなら、少しだけ持って帰ろう。
……いや。
それより、今はユウマの剣の方が大事だな。
『ユウマ、帰りは気をつけて行こうな』
「うん。もちろん」
俺はユウマの肩へ乗せてもらい、来た道を戻り始めた。
洞窟の中は相変わらず静かで、葉の擦れる音が遠くから聞こえてくる。
……ふむ。
今日は、新しい食材も見つけてないし、珍しい魔物と戦ったわけでもない。
でも、何だか大事なことが分かった気がするな。
ユウマの身体が強くなっている。
それは、前から知っていたことだ。
でも、強くなるっていうのは、身体が速く動くようになるだけじゃないんだな。
使う道具だって、今の自分に合っている必要がある。
……うむ。
なるほど。
『……あっ』
俺は思わず声を上げた。
「ん? どうしたの、ニャル?」
『そうだ! 宮本だ!』
「……宮本さん?」
『おう! 黒鉄堂の宮本に相談しようぜ!』
ユウマが少し驚いた顔になった。
「ああ、そっか!」
『剣のことなら、俺たちよりずっと詳しいだろ!』
「そうだね!」
ユウマが大きく頷いた。
……ふふん。
いいことを思いついたぞ。
宮本は、もともと探索者向けの武具を作っている鍛冶職人だ。
俺の包丁や鍋を作ってもらったから、つい料理道具の職人みたいに考えてしまうけど、本来は剣や防具の方が本職なんだよな。
そういえば、最初に黒鉄堂へ行った時も、持ち込んだ鉱石を見て、剣ならいいものが作れると言ってたっけ。
……あの時は包丁を頼んだから、ちょっと驚かれたけどな。
『宮本なら、何が合ってないのか分かるかもしれないぞ』
「うん。今の剣を見てもらおうかな」
『それがいい!』
ユウマが少し考え、腰の剣へ目を向けた。
「この剣にも、ずいぶん助けられてきたんだよね」
『そうだな』
「最初の頃からずっと使ってきたから、慣れてるつもりだったんだけど」
……うむ。
確かにそうだ。
俺と出会う前から、ユウマは探索者として頑張っていた。
Gランクの適性だからって、諦めずに剣を振っていたんだ。
その時から、ずっと一緒に戦ってきた剣なんだよな。
……そう考えると、ちょっと感慨深いな。
「でも、今の俺に合ってないなら、ちゃんと考えないとね」
『おう!』
俺は頷いた。
別に、今までの剣が悪いわけじゃない。
ユウマが強くなったんだ。
……へへっ。
それは、ちょっと嬉しいことでもあるな。
『新しい剣が必要かどうかも、宮本に聞いてみようぜ』
「うん。まずは相談だね」
『そうそう!』
俺は満足して尻尾を揺らした。
……ふむ。
それにしても、宮本のところへ行くのか。
しばらく顔を出してなかったし、ちょうどいいかもしれないな。
俺の包丁も鍋も、相変わらずよく働いてくれている。
……あ。
そういえば。
『……ユウマ』
「ん?」
『宮本に会うなら、俺の道具も見てもらおうかな』
「ニャルの?」
『おう。包丁も鍋も、結構使ってるからな』
……うむ。
別に、何か壊れたわけじゃない。
でも、長く使う道具なんだから、時々ちゃんと見てもらうのも大事だろう。
ユウマの剣だって、きっと同じだ。
「いいね。一緒に持っていこうか」
『おう!』
……へへっ。
宮本に会う楽しみが、また一つ増えたな。
――――――
ダンジョンを出る頃には、日が少し傾き始めていた。
外の空気は洞窟の中より乾いていて、風が吹くたびに毛並みがふわりと揺れる。
……ふう。
やっぱり、無事に帰ってこられるのが一番だな。
俺はユウマの腕に抱かれながら、満足して喉を鳴らしていた。
ごろごろ。
「ニャル、今日はあんまり食材を採れなかったね」
『ん? ホーンラビットがあるじゃないか』
「うん。でも、ケイブマッシュルームは結局採らなかったでしょ?」
『……おお』
そうだった。
帰り道で見つけたキノコは、まだそこに残っている。
……むむ。
ちょっと惜しいな。
あれがあれば、今夜はホーンラビットとキノコの炒め物にできたかもしれない。
……いや、待てよ。
別にキノコがなくても、美味い料理は作れるじゃないか。
ホーンラビットの肉を香ばしく焼くのもいいし、野菜と一緒に煮込むのもいい。
……うむ。
献立なら、いくらでも考えられるぞ。
『まあ、今日はいいんだ』
「そうなの?」
『おう! ユウマの剣の方が大事だからな』
俺がそう言うと、ユウマが少し驚いた顔をした。
「……ニャル」
『ん?』
「ありがとう」
『何だよ、急に』
「いや。俺のこと、ちゃんと考えてくれてるんだなって」
……むう。
そりゃそうだろ。
『当たり前じゃないか!』
俺は胸を張った。
『ユウマが怪我したら、美味い飯も楽しく食えなくなるだろ!』
「ははっ。そうだね」
『それに、ユウマが強くなるのは俺も嬉しいしな!』
ユウマが笑いながら、俺の頭を撫でてくれた。
……おお。
いいぞ、そこ。
俺は目を細め、喉を鳴らした。
ごろごろ。
……ふう。
幸せだな。
俺はユウマを強く育てたい。
美味い料理をたくさん食わせて、もっといろんなダンジョンへ行けるようにしたい。
そうすれば、まだ知らない食材にだって出会えるはずだ。
でも、そのためには。
ユウマが安全に戦えることが、一番大切なんだよな。
どれだけ身体が強くなっても、使う剣が合っていなかったら困る。
……うむ。
今まで俺は、ユウマの身体を育てることばかり考えていた。
でも、どうやらそれだけじゃ足りないらしい。
強くなった身体に合った道具も、ちゃんと考えないとな。
『……よし!』
俺は勢いよく顔を上げた。
「ん?」
『今度、黒鉄堂へ行こうぜ!』
「うん。そうしよう!」
『宮本なら、きっといい相談に乗ってくれるぞ!』
ユウマが笑った。
「まずは今の剣を見てもらって、何が合わないのか聞いてみよう」
『おう!』
俺は満足して尻尾を立てた。
……へへっ。
強くなったユウマに、今度はどんな剣が合うんだろうな。
今の剣を調整するだけで済むのか、それとも新しく作ってもらった方がいいのか。
そこは、宮本に聞いてみないと分からない。
でも、何だか楽しみになってきたぞ。
俺の包丁を作った時も、鍋を作った時も、あの人はいろいろ考えてくれた。
使うやつがどう動かすのか。
どこに重さがあると扱いやすいのか。
何に使う道具なのか。
そういうことを、ちゃんと聞いてくれる職人なんだ。
だったら、ユウマの剣だって、きっと真剣に考えてくれるはずだ。
「ニャル、また何か考えてる?」
『おう!』
「今度は何?」
『ユウマにぴったりの剣ができたら、もっと強くなれるかなって!』
ユウマが少し照れたように笑った。
「そうだといいね」
『なるに決まってるだろ!』
俺は胸を張った。
『ユウマは、まだまだ強くなるんだからな!』
「……うん!」
ユウマが嬉しそうに頷いた。
その顔を見ていたら、俺まで嬉しくなってきた。
……へへっ。
やっぱり、うちの飼い主は最高だな。
俺はユウマの腕の中で身体を丸め、満足して目を細めた。
美味い飯を食わせて。
身体を育てて。
それから、今のユウマに合った剣も用意する。
……うむ。
なかなか忙しくなりそうじゃないか。
でも、それも楽しそうだ。
『よし。次は黒鉄堂だな!』
「うん。宮本さんに相談しに行こう!」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
強くなったのは、ユウマの身体だけじゃない。
戦い方も、安全を考える力も、少しずつ育っている。
だったら、使う道具だって、それに合わせて変わっていっていいはずだ。
……へへっ。
俺の飼い主育成計画、まだまだやることがいっぱいあるな!




