↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/58

第56話 鶏肉に似てるけど、同じじゃない

『……ふむ。やっぱり、いい肉だな』


 俺は作業台の上に並べた肉を、じっくりと眺めていた。


 昨日、緑葉の洞窟で手に入れた新食材。


 ブルーバードチキンだ。


 鮮やかな青い羽毛を持つ鳥型魔物、ブルーバード。その肉は、普通の鶏肉にかなりよく似ている。


 ただ、こうして並べてみると、少し違うところもあった。


 胸肉は、筋肉の繊維がきゅっと締まっている。もも肉はもう少し柔らかそうで、皮の下にはほどよく脂がついていた。


『……おお』


 これは、なかなか期待できそうじゃないか。


 昨日の探索では、ユウマがブルーバードを見事に倒してくれた。


 あの鳥、青くてきれいな見た目をしているくせに、なかなか素早かったんだよな。


 翼を広げて跳びかかってくるし、嘴も爪も鋭い。


 でも、ユウマは相手の動きを落ち着いて見極め、着地する瞬間を狙って倒していた。


 ……うむ。


 頼もしくなったものだ。


 そんなユウマが頑張って手に入れてくれた肉なんだから、美味しく料理してやりたい。


『よし。今日は焼くぞ!』


「おっ、もう決めたんだ?」


 キッチンへ入ってきたユウマが、嬉しそうに声を上げた。


『おう! まずは肉そのものの味を確かめたいからな』


「じゃあ、シンプルに焼く感じ?」


『ただ焼くだけじゃないぞ。香草とバターを使うつもりだ!』


「……あっ!」


 ユウマが目を輝かせた。


「橘さんに教えてもらったやつ?」


『そうそう!』


 俺は得意げに尻尾を立てた。


 食彩堂で橘と料理をした時、いろいろな技術を教わった。


 肉の表面を焼く時の火加減。


 熱したバターを肉へ回しかける方法。


 焼き上げた後に少し休ませて、肉汁を落ち着かせること。


 あの時は、同じ肉でも調理の仕方によってこんなに違うのかと驚いたものだ。


 もちろん、まだ橘と同じようにはできない。


 でも、何度か試しているうちに、少しずつ感覚が分かってきた気がするんだよな。


『今日は、その練習も兼ねてるんだ』


「いいね! 楽しみ!」


『へへっ。期待しててくれ!』


 俺が胸を張ると、ユウマが笑いながら頭を撫でてくれた。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 ごろごろ。


 ……いや。


 今は撫でられている場合じゃないな。


 肉が待ってるんだから!


『さて、まずは材料をそろえるぞ!』



――――――



 今日は、皮付きのもも肉と胸肉を使うことにした。


 昨日、一羽分を解体して、胸肉、もも肉、手羽肉、それから適切に処理した皮を分けてある。


 全部を一度に使うつもりはない。


 今夜はユウマとマコト、それから俺が味を確かめられる分だけにして、残りは別の料理に取っておこう。


『……うむ。これくらいでいいかな』


「残りはどうするの?」


『また料理するぞ! せっかくだし、配信でも紹介したいからな』


「おお、いいね!」


 ユウマが頷いた。


 この前のムーンキャベツも、家で一度食べてから配信で紹介した。


 初めて扱う食材は、まず自分たちで安全に調理して、味を確かめておきたい。


 それに、実際に作ってみないと分からないこともあるからな。


 ……さて。


 ブルーバードチキンは、昨日の解体で危険な脂腺を除去してある。


 尾羽の付け根にあった、青みがかった脂腺だ。


 あそこには苦みと胃腸への刺激がある分泌物が含まれている。


 だから、周囲の組織ごと傷つけずに取り除いておいた。


 今日はもう一度、肉の状態を確かめるところから始めよう。


『ユウマ、昨日の危ないところ、覚えてるか?』


「うん。尻尾の羽の付け根にある脂腺でしょ?」


『正解だ!』


「ホーンラビットとは違う場所だったよね」


『そうなんだよ。肉の種類が違えば、気をつけるところも違うからな』


 俺は鑑定で食用部分を確認し、解体した肉を改めて調べた。


 ……うむ。


 危険な部分は残っていない。


 分泌物による汚染も見当たらないな。


 これなら調理に進めそうだ。


 ただし、食用部位だからといって、そのまま食べられるわけじゃない。


 鳥肉だから、中心まで十分に加熱する必要がある。


『よし。下ごしらえを始めるぞ!』


 俺は宮本に作ってもらった専用包丁を、念動力で浮かせた。


 すうっと刃が持ち上がる。


 ……うむ。


 今日もいい感じだ。


 まずは、もも肉の厚い部分を確認する。


 そのまま焼くと、薄いところだけ先に火が通ってしまいそうだ。


『……ここを少し開くか』


 俺は刃を寝かせ、厚みのある部分へ慎重に入れた。


 すっ。


 筋肉の繊維に沿って、肉がゆっくり開いていく。


 ……おお。


 なかなかしっかりした肉質だな。


 普通の鶏もも肉と比べると、少しだけ弾力が強い気がする。


 でも、硬すぎるというわけじゃない。


 むしろ、噛み応えがありそうだ。


「ニャル、何してるの?」


『厚さをそろえてるんだ。こうした方が、火を通しやすいからな』


「なるほど」


 ユウマが興味深そうに覗き込む。


『胸肉も、厚いところは少し整えておこう』


 今度は胸肉だ。


 こっちは、もも肉よりずっと脂が少ない。


 繊維が締まっている分、火を入れすぎると硬くなりそうだな。


 ……ふむ。


 これは、焼き方を少し変えた方がよさそうだ。


 同じ鳥から取れた肉でも、部位によって扱いが違う。


 こういうところが、料理の面白いところなんだよな。


『……よし!』


 俺は肉を整え終え、作業台を片づけた。


 次は下味だ。


 塩と胡椒を少し。


 それから、乾燥させた香草を軽く振る。


 肉の表面へ、指先ならぬ念動力でむらなく広げていく。


『……うむ。こんなものかな』


「結構シンプルだね」


『そうだな。最初から味を濃くしすぎると、肉そのものの味が分からないからな』


「ああ、そっか」


 ユウマが頷く。


 ……そうそう。


 初めての食材なんだから、まずは素の美味さを知りたい。


 濃いソースをたっぷりかける料理も好きだけど、それはまた今度だ。


『あとは、付け合わせだな!』


「昨日採ったニンジン?」


『おう!』


 俺は収納していた妖精ニンジンを取り出した。


 昨日、ブルーバードを倒した帰り道で採ったものだ。


 葉の付け根と根の上部を適切に取り除き、よく洗ってから食べやすい大きさに切る。


 ……うむ。


 これも甘くて美味いんだよな。


 今日は肉が主役だから、ニンジンはシンプルに火を通して、バターを少し絡めるくらいにしておこう。


「ニャル、何か手伝う?」


『じゃあ、皿を出してくれ!』


「了解!」


 ユウマが食器棚へ向かった。


 ……へへっ。


 こうやって一緒に準備するのも、結構好きなんだよな。


 料理は俺が担当しているけど、ユウマが近くにいてくれるだけで楽しい。


 さて。


 準備はできた。


 いよいよ、焼くぞ!



――――――



 俺は宮本製の専用鍋を用意した。


 均熱晶鉄と柔鋼石を使って作ってもらった、俺のお気に入りの鍋だ。


 少し大きめだけど、念動力で扱いやすいように工夫されているし、熱の伝わり方も安定している。


 煮込みだけじゃなく、こういう焼き料理にも使えるのがありがたい。


『……よし』


 鍋を温め、油を少しだけ広げる。


 最初に焼くのは、皮付きのもも肉だ。


 皮目を下にして、そっと鍋へ置く。


 じゅうっ!


『……おお!』


 いい音!


 肉が鍋底に触れた瞬間、勢いのいい音が立ち上がった。


 皮の下にある脂が、熱を受けて少しずつ溶け出していく。


 じゅう、じゅう……。


 ……ああ。


 いいなあ、この音。


 焼き料理って、やっぱり楽しいぞ!


「わあ、いい音だね」


 ユウマも嬉しそうに鍋を覗き込んだ。


『そうだろ! でも、今はあんまり動かさない方がいいんだ』


「へえ、そうなの?」


『おう。皮にちゃんと焼き色をつけたいからな』


 俺は肉の状態を確かめながら、火加減を調整した。


 強すぎれば、表面だけ焦げてしまう。


 弱すぎれば、なかなか香ばしくならない。


 ……うむ。


 このあたりの見極めは、橘に教わったことを思い出すな。


 あの人は、肉の音や香りを確かめながら、驚くほど自然に火を調整していた。


 見ている時は簡単そうに感じたけど、実際にやってみると結構難しい。


『……むむ』


 俺は鍋の中をじっと見つめた。


 皮の縁が、少しずつ色づいてきた。


 溶け出した脂が鍋底に広がり、香ばしい匂いが漂い始める。


 ……おっ。


 いいぞ。


 そのまま、もう少し。


 じゅううっ。


 ……おおお。


 これは、たまらんな!


 俺の鼻が勝手にひくひく動いた。


「ニャル、すっごく食べたそう」


『……そりゃ食べたいさ』


「まだ焼いてる途中だよ?」


『分かってるって!』


 ユウマが笑った。


 ……むう。


 こういう時、人間はずるいな。


 俺の顔を見て、すぐ何を考えてるか分かってしまうんだから。


 ……まあ、実際に食べたいんだけどな。


『……よし。そろそろ返すぞ!』


 俺は念動力で肉を持ち上げ、そっと裏返した。


 じゅっ!


 今度は肉の側から、美味しそうな音が響く。


 そして、ひっくり返した皮目には。


『……おおっ!』


 きれいな焼き色がついていた。


 こんがりとした黄金色。


 ところどころに、少し濃い焼き目もある。


 ……うむ。


 これは、なかなかいいんじゃないか?


「すごい! 皮がぱりっとしてそう!」


『へへっ。いい感じだろ!』


 俺は得意げに尻尾を立てた。


 ただし、表面が美味しそうだからといって、もう完成というわけじゃない。


 中までちゃんと火を通さないとな。


 俺は火を少し弱め、肉の厚い部分まで熱が届くように調整した。


 ここからは、焦らずじっくりだ。


 ……それから。


『よし。バターを入れるぞ!』


 俺は小さく切ったバターを鍋へ落とした。


 じゅわっ。


 熱を受けたバターが、あっという間に溶けていく。


 そこへ香草の香りが重なった。


『……おおお!』


 これは!


 ものすごくいい匂いだ!


 バターの甘く香ばしい香り。


 肉の脂が焼ける匂い。


 それから、温められた香草の爽やかな香り。


 それぞれが混ざり合い、キッチンいっぱいに広がっていく。


 ……ああ。


 もう駄目だ。


 腹が減った!


「うわあ……!」


 ユウマまで声を上げた。


「ニャル、すごくいい匂い!」


『だろ!?』


 俺は勢いよく頷いた。


 ……よし。


 ここからが、橘に教わった技術の出番だ。


 鍋を少し傾け、溶けたバターを片側へ集める。


 そして、念動力で持ち上げたスプーンを使い、熱いバターを肉の表面へ回しかけていく。


 すくって。


 かける。


 また、すくって。


 かける。


 じゅわっ。


 肉の表面で、バターが小さな音を立てた。


『……うむ!』


 いい感じだな。


 ただ、バターは焦がしすぎないようにしないといけない。


 香りをつけるつもりが、苦くなってしまったらもったいないからな。


 俺は鍋の傾きと火加減を細かく調整しながら、肉へバターを回しかけた。


「……すごいね」


 ユウマがぽつりと呟いた。


『ん?』


「橘さんのお店で見た時もすごかったけど、ニャルも上手になったね」


『……おお?』


 俺は思わずユウマを見た。


「前より動きが自然になってる気がする」


『……へへっ』


 そうか?


 ……そう言われると、嬉しいな。


 あの時は、橘の動きを真似するだけで精一杯だった。


 でも今は、俺自身の念動力を使いやすい形に変えながら、少しずつ試せている。


『まだまだ橘には敵わないけどな!』


「でも、ニャルらしい料理になってると思うよ」


『……おお』


 ……うむ。


 そうか。


 俺らしい、か。


 それは、なかなかいい言葉だな。


『よし! もっと美味しくするぞ!』


「うん!」


 俺は満足して、もう一度鍋へ意識を戻した。



――――――



 もも肉の焼き色が整ったら、今度は中まで十分に火を通していく。


 鍋の蓋を使いながら、火加減を落としてじっくり加熱する。


 肉の中心にもしっかり熱が届くよう、厚い部分の状態を確かめることも忘れない。


 ……ふむ。


 表面がこんがりしていても、中が生では駄目だからな。


 特に、初めての鳥肉だ。


 安全を確かめるところは、手を抜くつもりはないぞ。


『……よし。これなら大丈夫そうだな』


 肉の中心まで十分に火が通っていることを確認し、俺はもも肉を鍋から取り出した。


 すぐに切り分けるのではなく、少し休ませておく。


 ……うむ。


 これも橘に教わったことだな。


 焼き上げた肉を落ち着かせる時間も、料理の一部なんだ。


「もう食べられる?」


『まだ胸肉があるぞ!』


「あっ、そっか!」


 ユウマが笑った。


 ……ふふん。


 今日は二種類の部位を比べるつもりだからな。


 次は胸肉だ。


 もも肉を焼いた後の鍋は、余分な脂を調整してから使う。


 胸肉は脂が少なく、もも肉より締まっている。


 だから、同じように強く焼き続けたら、硬くなってしまうかもしれない。


『……さて』


 俺は胸肉を鍋へ置いた。


 じゅっ。


 表面が焼ける音は、もも肉より少し控えめだ。


 ……ふむ。


 この違いも面白いな。


 脂の量が違うと、音や香りまで変わってくる。


 俺は表面に軽く焼き色をつけ、火を弱めた。


 途中で少量のバターを加え、肉の表面へ回しかける。


 ただし、もも肉の時ほど長くは焼かない。


 肉の厚さと状態を確かめながら、ゆっくり熱を通していく。


 ……うむ。


 しっかり加熱する。


 でも、必要以上に焼きすぎない。


 言葉にすると簡単なんだけど、実際はなかなか難しいな。


 それでも、今の俺なら少しずつできるようになってきた気がする。


『……よし!』


 胸肉も中心まで十分に火が通ったことを確認し、鍋から取り出した。


 こちらも少し休ませておこう。


 ……さて。


 次は付け合わせだな。


 別に用意しておいた妖精ニンジンは、すでに火を通してある。


 そこへ少量のバターを絡め、軽く味を整えた。


 鮮やかな橙色に、つやが出る。


『……おお』


 いいじゃないか。


 肉の焼き色とも、よく合いそうだな。


 それから、ソース。


 鍋に残った肉の旨みを活かし、少量の水を加えて焼き汁をなじませる。


 最後に醤油をほんの少し。


 ……うむ。


 今日はこれくらいでいいだろう。


 肉自体の味を確かめたいから、ソースは控えめで十分だ。


「ニャル、そろそろ完成?」


『おう! あとは盛りつけだ!』


 俺は休ませていた肉を、食べやすい大きさに切り分けた。


 すっ。


 刃が入る。


 もも肉の断面には、しっかり火の通った肉の繊維が見えた。


 胸肉も同じように確認する。


 ……うむ。


 いい感じだな。


 俺は皿の上へ、もも肉と胸肉を分けて並べた。


 皮目のこんがり焼けた部分が見えるようにして、横には妖精ニンジン。


 最後に、焼き汁のソースを少しだけ添える。


『……よし!』


 俺は一歩下がり、完成した料理を眺めた。


 黄金色の皮。


 香草の香りをまとった肉。


 つやつやした妖精ニンジン。


 ……うむ!


 なかなかいい出来じゃないか!


『完成だ! ブルーバードチキンの香草バターソテー!』


「やった!」


 ユウマが嬉しそうに声を上げた。


 ……へへっ。


 これは、食べるのが楽しみだぞ!



――――――



「まあ……いい匂いねえ」


 夕食の時間。


 食卓へ料理を運ぶと、マコトが嬉しそうに顔を上げた。


「今日は鶏肉?」


『おう! でも、普通の鶏肉じゃないぞ!』


「昨日の新しい食材なんだ」


 ユウマが説明する。


「ブルーバードチキンっていうんだって」


「ああ、昨日話してくれた青い鳥ね」


『そうそう!』


 俺は満足して頷いた。


「見た目は普通の鶏肉に似てるんだけど、味はまだ分からないんだよね」


「そうなの?」


『おう! 今日は初めて食べるからな!』


 マコトが楽しそうに笑った。


「じゃあ、みんなで味を確かめましょうか」


『そういうことだ!』


 ……うむ。


 いよいよだな。


 俺は自分用の小さな皿へ目を向けた。


 肉は食べやすい大きさに切ってあるし、熱すぎないように少し冷ましてある。


 ……準備万端だぞ。


「いただきます!」


「いただきます」


『にゃ!』


 まず箸を伸ばしたのは、ユウマだった。


「じゃあ、もも肉から食べてみようかな」


『おう!』


 ユウマがこんがり焼けたもも肉を持ち上げる。


 皮の表面には、きれいな焼き色がついていた。


 ふわっと香草とバターの香りが立つ。


 ……おお。


 やっぱり美味そうだな。


 ユウマが肉を口へ運んだ。


 ぱくっ。


 もぐ。


 もぐもぐ。


 ……どうだ?


 俺は思わず身を乗り出した。


 ユウマはゆっくり噛んでから、目を丸くした。


「……あっ!」


『おおっ!?』


「美味い!」


『本当か!?』


「うん! すごく美味しい!」


 ……おおお!


 よかった!


 でも、まだ聞きたいことがあるぞ。


『ユウマ、普通の鶏肉と比べてどうだ?』


「うーん……」


 ユウマは少し考え、それからもう一口食べた。


 もぐもぐ。


「……鶏肉に似てるけど、同じじゃないね」


『……おお!』


 来たぞ!


 まさに、俺が知りたかったことだ。


「味は鶏肉っぽいんだけど、もっとしっかりしてる感じがする」


『ほほう!』


「噛むと、肉の旨みがどんどん出てくるんだよね」


『おお!』


 ……なるほど。


 普通の鶏肉より、旨みが力強いのか。


「あと、歯応えがいいね。硬いわけじゃないんだけど、ちゃんと肉を食べてる感じがする」


『いいな、それ!』


 俺は尻尾を振った。


 ……うむ。


 これは期待できそうだ。


「皮もすごく美味いよ!」


 ユウマが嬉しそうに続けた。


「ぱりっとしてて、噛むと脂の旨みが広がるんだ」


『おおお!』


 ……くうっ。


 早く食いたい!


 でも、マコトの感想も聞いておきたいな。


「じゃあ、私もいただこうかしら」


 マコトがもも肉を一切れ口へ運んだ。


 もぐもぐ。


 少し噛んでから、ゆっくり頷く。


「あら、本当に美味しいわね」


『おお!』


「普通の鶏もも肉より、旨みが濃い感じがするわ」


『ほほう!』


「でも、不思議と脂っこさが残らないのね」


『……おっ?』


 なるほど。


 脂の旨みはあるけど、後味は重くないのか。


 それは、なかなかいいな。


「香草とバターの香りもちょうどいいわ。お肉の味を邪魔してないのね」


『へへっ。ありがとな!』


 俺は嬉しくなって、胸を張った。


 ……うむ。


 よし。


 二人とも気に入ってくれたみたいだ。


 それなら。


『……そろそろ、俺も食うぞ!』


 俺は自分の皿へ顔を近づけた。


 くんくん。


 ……おお。


 いい匂い。


 香ばしく焼けた皮。


 バターの優しい香り。


 そこに重なる香草の香り。


 ……もう、我慢できんな!


『いただきます!』


 ぱくっ。


 もぐ。


 ……ん?


 もぐもぐ。


『……おおおっ!』


 うまい!


 これは、うまいぞ!


 最初に感じたのは、香ばしい皮の美味しさだった。


 ぱりっとした表面を噛むと、脂の旨みがじゅわっと広がる。


 でも、その脂がしつこくない。


 香草の爽やかな香りが、後味をすっきりさせてくれる。


 そして。


 ……肉だ!


 噛めば噛むほど、しっかりした旨みが出てくる。


 普通の鶏肉に似ているけど、確かに少し違う。


 肉の味そのものが、もう一段濃い感じだ。


『……うむむ!』


 俺は夢中でもう一口食べた。


 もぐもぐ。


 ……おお。


 この歯応えもいいな!


 柔らかすぎず、硬すぎず。


 しっかり噛んで味わう肉だ。


 ……うむ。


 これは、なかなかの当たり食材じゃないか!


「ニャル、すっごく幸せそう」


 ユウマが笑った。


『当たり前だろ! 美味いんだからな!』


「ははっ。そうだね」


 ……むう。


 また顔に出てたか。


 でも、仕方ないじゃないか。


 こんなに美味いんだから!


『……よし。次は胸肉だな!』


 俺は胸肉へ顔を向けた。


 こっちは皮の香ばしさより、肉そのものの味が中心になる。


 ……さて。


 どうかな?


 ぱくっ。


 もぐもぐ。


『……おっ!』


 これは、また違うな!


 もも肉より脂が少ない。


 その分、口に入れた瞬間の旨みは控えめだけど、噛んでいるうちにじわじわと味が広がってくる。


 ……おお。


 この感じ、好きだぞ。


 筋肉が少し締まっているせいか、普通の鶏胸肉より歯応えがある。


 でも、焼きすぎなかったおかげで、ぱさぱさしていない。


『……うむ!』


 いいじゃないか!


 これは、焼き方が大事な肉だな。


 火を入れすぎると、きっと硬くなってしまう。


 でも、ちゃんと加熱しながら仕上げれば、噛むほど旨みの出る美味しい胸肉になるんだ。


「こっちも美味しいね!」


 ユウマが胸肉を食べながら言った。


「もも肉よりあっさりしてるけど、味はしっかりしてる」


『そうなんだよ!』


「これ、いろんな料理に使えそうだね」


『おお!』


 ……いいところに気づいたな、ユウマ。


 俺も今、同じことを考えてたぞ!


 もも肉は、皮の香ばしさと濃い旨みを楽しむ料理に向いている。


 胸肉は、脂が少ない分、別の調理法でも面白そうだ。


 ……煮込み。


 蒸し料理。


 薄く切って焼くのもいいな。


 いや、スープにしても美味いかもしれない。


『……むむむ』


「ニャル?」


『……おう?』


「また次の料理考えてる?」


『よく分かったな!』


 ユウマが声を上げて笑った。


 マコトまで、くすくす笑っている。


 ……むう。


 そんなに分かりやすいのか、俺。


 でも。


 新しい肉の味を知ったら、次に何を作るか考えたくなるのは当然だろ?


『ブルーバードチキン、いい食材だな!』


「うん。俺もそう思う!」


「ふふっ。また食べたいわね」


 マコトが嬉しそうに笑った。


 ……おお。


 また食べたい、か。


 それは、料理する側にとって最高の言葉だな。



――――――



 食事を終えた後。


 俺はユウマの膝の上で、満足して丸くなっていた。


 ……ふう。


 腹いっぱいだ。


 今日の料理は、なかなかいい出来だったな。


 新しい肉も美味かったし、橘に教わった焼き方も活かせた。


 それに、ユウマとマコトが喜んでくれた。


 ……うむ。


 大成功だ!


「ニャル、お疲れさま」


『おう!』


 ユウマが頭を撫でてくれる。


 耳の後ろから、首のあたりへ。


 ……おお。


 そこ、気持ちいい。


 ごろごろ。


 俺は思わず目を細めた。


 ……ふう。


 美味い飯の後に、ユウマの膝で撫でられる。


 これ以上の幸せがあるだろうか。


 ……いや。


 きっとないな。


「今日の料理、本当に美味しかったよ」


『へへっ。ありがとな!』


「特に、もも肉の皮がぱりっとしてたのが好きだったなあ」


『おお。俺もあれは気に入ったぞ!』


 俺は尻尾を揺らした。


 ブルーバードチキンは、普通の鶏肉より少し旨みが濃い。


 胸肉ともも肉では、歯応えも脂の量も違った。


 ……ふむ。


 こうなると、まだ試したいことがいろいろあるな。


『次は、胸肉だけで別の料理を作ってみるか』


「いいね!」


『もも肉は、もう少し香草を変えても面白そうだな』


「それも美味しそう!」


 ……うむ。


 ユウマは何を言っても嬉しそうだな。


 でも、そういうところが好きだぞ。


 俺が料理の話をすると、いつも楽しそうに聞いてくれる。


 それに、作った料理をちゃんと美味しそうに食べてくれるんだからな。


「そうだ、ニャル」


『ん?』


「今日の料理、配信でも作ってみない?」


『……おっ?』


 配信か。


 俺は顔を上げた。


「この前、違う種類の肉料理も見たいってコメントがあったでしょ?」


『おう!』


「ブルーバードチキンなら、ちょうどいいんじゃないかなって」


『なるほどな!』


 確かにそうだ。


 視聴者からのリクエストがきっかけで探しに行った肉なんだから、料理して見せたら喜んでもらえるかもしれない。


 それに。


『……そうだな。今度は、初めて扱うやつにも分かるようにしたいな』


「うん。下処理も説明したいよね」


『おう!』


 俺は大きく頷いた。


 ムーンキャベツの時も、危険な部分を見せながら説明した。


 あの配信を見て、作り方をメモしてくれた人がいたらしい。


 あとから下処理を確認したいって声も届いた。


 ……うむ。


 ちゃんと作ってみたいと思ってくれるのは、嬉しいことだ。


 ただし、ブルーバードチキンはホーンラビットとは危険部位が違う。


 尾羽の付け根にある脂腺を、傷つけずに除去する必要があるんだ。


 同じ肉料理だからって、処理方法まで同じだと思われたら困る。


『今度は、ホーンラビットとの違いも見せたいな』


「うん。間違えないように説明しないとね」


『それから、ちゃんと中まで焼くところもな!』


「そうだね!」


 ユウマが嬉しそうに頷いた。


 ……うむ。


 やることが決まってきたな。


 ただ、美味しく焼いて見せるだけじゃない。


 初めて作るやつにも、安全な扱い方が分かるようにする。


 それができたら、きっともっと喜んでもらえるはずだ。


『……よし!』


 俺はユウマの膝の上で立ち上がった。


『次は初めて作るやつにも分かるようにやってみるか!』


「うん! 俺も説明を頑張るよ!」


『頼んだぞ、ユウマ!』


 俺は嬉しくなって、尻尾をぴんと立てた。


 ブルーバードチキン。


 青い羽の鳥から取れた、ちょっと変わった肉。


 鶏肉に似ているけど、同じじゃない。


 その違いを知ったら、料理の楽しみがまた一つ増えた。


 ……へへっ。


 やっぱり、新しい食材っていいな!


 今度は、この美味しさを画面の向こうにも伝えてやろう。


 俺はそう決めて、もう一度ユウマの膝へ身体を預けた。


 ……まあ。


 その前に、ちょっと昼寝でもするか。


 腹いっぱいになったら、眠くなってきたからな。


『……ユウマ』


「ん?」


『もうちょっと撫でてくれ』


「もちろん!」


 ユウマの手が、優しく頭を撫でてくれる。


 ……おお。


 最高だな。


 俺は気持ちよく喉を鳴らしながら、次の料理のことを考えた。


 今度は、もっと美味しく。


 それから、もっと分かりやすく。


 ……うむ。


 楽しみだぞ!



――――――



【猫のレシピ帳】


Recipe.016


■料理名

ブルーバードチキンの香草バターソテー


■使用食材(1人前)

・ブルーバードチキン(皮付きもも肉) …… 約90g

・ブルーバードチキン(胸肉) …… 約60g

・妖精ニンジン(安全に下処理したもの) …… 約40g

・バター …… 約8g

・乾燥香草 …… 少々

・塩 …… 少々

・胡椒 …… 少々

・醤油 …… 小さじ1/2

・調理用油 …… 少々

・水 …… 少量


■作り方

① ブルーバードチキンは、尾羽の付け根の脂腺と周囲組織が適切に除去され、食用部分が汚染されていないことを確認する。もも肉と胸肉を分け、厚みが均等になるように整えてから、塩、胡椒、香草で下味をつける。


② 妖精ニンジンは危険な葉の付け根と根の上部を除去し、よく洗って切り分ける。十分に加熱し、少量のバターを絡めて付け合わせにする。


③ 鍋を温めて少量の油を広げ、もも肉を皮目から焼く。皮に香ばしい焼き色がついたら裏返し、火加減を調整する。途中でバターを加え、焦がさないよう注意しながら肉へ回しかける。中心まで十分に加熱する。


④ 胸肉も同様に焼く。ただし、もも肉より脂が少ないため、焼きすぎて硬くならないよう火加減を調整する。こちらも中心まで十分に火を通す。


⑤ 焼き上がった肉を少し休ませる。鍋に残った焼き汁へ少量の水と醤油を加えて軽くなじませ、ソースにする。


⑥ もも肉と胸肉を食べやすく切り分けて盛りつけ、妖精ニンジンを添える。ソースを少量かけて完成。


■味の評価

★★★★★


 これは、かなり美味いぞ!


 普通の鶏肉に似ているけど、旨みがもっと力強いんだ。


 もも肉は噛み応えがよく、皮をぱりっと焼くと脂の旨みが広がる。


 胸肉はあっさりしているけど、噛むほど味が出てくる。


 どちらも美味いけど、俺は今回の焼き方だともも肉が特に気に入ったな!


■ワンポイント

 ブルーバードチキンは、尾羽の付け根にある青みがかった脂腺と周囲組織に注意が必要。


 脂腺の分泌物には苦みと軽い胃腸刺激性があるため、解体時には傷つけず、周囲ごと十分に取り除くこと。


 危険部位が除去されていない肉や、分泌物で汚染された可能性がある肉は、自己判断で調理しない。


 また、食用部分も中心まで十分に加熱すること。


 もも肉は皮目をじっくり焼くと香ばしく仕上がる。胸肉は焼きすぎると硬くなりやすいので、厚みと火加減に気をつけよう。


 バターは焦がしすぎず、香りが立つ程度に使うと肉の旨みを活かしやすいぞ!


■ユウマの感想

「鶏肉に似てるけど、同じじゃないね! 噛むほど旨みが出てくるし、もも肉の皮がぱりっとしてるのがすごく好き。胸肉もあっさりしてるのに味がしっかりしてて美味しかった! また食べたいな!」


─ 今日のひとこと ─


 新しい肉を焼くのって、やっぱり楽しいな!


 じゅうっと焼ける音も、バターの香りも、こんがりした皮も最高だったぞ。


 橘に教わった技術も、少しずつ自分のものになってきた気がする。


 ……へへっ。まだまだ練習したいな!


 次は配信で、安全な扱い方からちゃんと見せてやろう。


 美味い肉を知らないままなんて、もったいないからな!


──────────────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。