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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第55話 今度の肉は、ちょっと違う

『ユウマ! 今日は肉だぞ、肉!』


「うん。分かってるよ」


『ホーンラビットとは違う肉だからな!』


「それも分かってるって」


 ユウマが笑いながら、リュックの肩紐を締め直した。


 今日の目的地は、いつもの緑葉の洞窟。


 ただし、今回の買い出しは野菜でもキノコでもない。


 肉だ!


 この前の配信の後、視聴者から「ホーンラビット以外の肉料理も見たい」という声が届いたらしい。


 それを聞いて、俺も気づいたんだ。


 そういえば、最近は野菜の新食材を探したり、料理の作り方を教えたりすることが多かったな、と。


 もちろん、それも楽しい。


 ムーンキャベツなんて、見つけて大正解だった。


 豚肉との重ね蒸しは美味かったし、ユウマとマコトにも喜んでもらえた。


 でも、新しい肉となれば話は別だ。


 肉の種類が違えば、味も変わる。


 脂の量も、筋肉の硬さも、適した火入れも違ってくる。


 ……うむ。


 考えただけで腹が減ってきたぞ!


『今日は何か美味そうな肉を見つけたいな!』


「そうだね。でも、知らない魔物を見つけたからって、すぐに近づいちゃ駄目だよ」


『分かってるって!』


 俺はユウマの肩に乗り、胸を張った。


 この前の未探索の枝道でも、ちゃんと待てたんだからな。


 ……まあ、ムーンキャベツを見つけた時は、ちょっとそわそわしたけど。


「今日は、いつもの浅い階層から少し道を変えてみようか」


『ほう?』


「木が多いところがあるんだ。あの辺りなら、鳥型の魔物が見つかるかもしれない」


『鳥!』


 俺の耳が、ぴんと立った。


 鳥か!


 鳥肉といえば、焼いてよし、煮てよし、揚げてよし。


 皮をぱりっと焼くのもいいし、骨からだしを取るのもいい。


 ……いや、待てよ。


 普通の鳥肉とは違うかもしれないんだよな。


 だったら、どんな味がするのか確かめるだけでも面白そうだ。


「ニャル、すごく嬉しそう」


『そりゃそうだろ! 鳥肉だぞ!』


「まだ見つかってもいないけどね」


『それはそうだな!』


 俺は尻尾を揺らした。


 ……へへっ。


 今日は、いい買い出しになりそうだぞ。



――――――



 緑葉の洞窟へ入ると、見慣れた湿った空気が身体を包んだ。


 岩壁には苔が広がり、足元には草が生えている。天井の高い場所では木々が枝を伸ばし、洞窟の中とは思えないほど緑が豊かだ。


 俺にとっては、すっかり馴染みの景色である。


『おっ、ゴブリンポテト』


「今日は採らないの?」


『帰りに考える!』


 俺が答えると、ユウマが笑った。


 ……何だ、その顔は。


 いつもなら絶対に採りたがるのに、って思ってるんだろ?


 ふふん。


 今日は肉が目的なんだ。


 さすがの俺も、目当ての食材が見つかるまでは寄り道を我慢できるぞ。


 ……たぶんな。


 しばらく歩くと、道の両側に木が増え始めた。


 太い根が地面を這い、岩の隙間から伸びた枝が頭上で重なっている。葉の向こうから差し込む光は細く、足元にまだらな模様を作っていた。


『……おお』


 俺は思わず周囲を見回した。


 同じダンジョンなのに、少し場所が変わるだけで雰囲気が違う。


 前にムーンキャベツを見つけた枝道は、湿り気のある日陰だった。


 こっちは木が多く、葉の擦れる音があちこちから聞こえてくる。


『鳥がいそうな場所だな』


「うん。ただ、上ばっかり見ないで足元も気をつけないとね」


『おう!』


 ユウマは剣の柄に手を添えながら、ゆっくり進んでいく。


 俺は肩の上で耳を立てた。


 さらさらと葉が揺れる音。


 どこかで水が滴る音。


 時々、枝が小さく軋む音もする。


 ……ふむ。


 こういう場所で鳥を探すとなると、目だけじゃなく耳も大事だな。


 俺が周囲の音に集中していると、ユウマが足を止めた。


「……ニャル」


『ん?』


「ちょっと、あそこ見て」


 ユウマが声を落とし、少し先の地面を示した。


 そこには、何かが土を引っかいたような跡があった。


『……おっ?』


 細い溝がいくつもついている。


 しかも、近くの草が一部だけ倒れていた。


「何かが通ったみたいだね」


『ほほう』


 俺は身を乗り出した。


 ……あ。


 草の上に、何か青いものが引っかかっているぞ。


『ユウマ、あれ!』


「ん?」


『青いやつだ!』


 ユウマが近づき、落ちていたものを拾い上げた。


 ……羽だ。


 細長い、鮮やかな青色の羽。


 普通の鳥のものより、少し硬そうに見える。


「青い羽か……」


『おお! これは期待できそうだな!』


「うん。でも、近くにいるとは限らないからね」


『分かってるぞ』


 俺は羽をじっと見つめた。


 青い鳥か。


 どんな姿をしてるんだろうな。


 青い羽が全身に生えてるんだろうか。


 それとも、翼だけが青いのか?


 ……まあ、どっちでもいい。


 大事なのは、肉が美味いかどうかだ!


 ……いや、もちろん、安全に食べられるかも大事だけどな。


「もう少しだけ進んでみよう」


『おう!』


 ユウマは羽をその場に置き、再び歩き始めた。


 草を踏む音をなるべく抑えながら、木々の間を進んでいく。


 その時だった。


 がさっ。


 少し離れた茂みが、大きく揺れた。


 俺とユウマは同時に動きを止めた。


「……何かいるね」


『おう』


 次の瞬間。


「ギョッ、ギョッ!」


 聞き慣れない鳴き声が響いた。


 ……おっ?


 今の、鳥か?


 俺は耳を立て、声のした方向を見つめた。


 葉が揺れる。


 枝の間に、鮮やかな青色がちらりと見えた。


 ……おお。


『ユウマ!』


「うん。見えた」


 俺は思わず前足を握りしめた。


 ……いたぞ!


 青い鳥だ!



――――――



 茂みの向こうから現れたのは、大きな鳥だった。


 体長は七十センチから八十センチくらいだろうか。


 丸みのある胴体を鮮やかな青い羽毛が覆い、太い脚が地面をしっかり踏みしめている。嘴は鋭く、足の爪もなかなか立派だ。


 普通のニワトリより、ずいぶん迫力があるな。


『……おおお』


 青い!


 本当に全身が青いぞ!


 翼の羽は少し濃い色をしていて、動くたびに光の当たり方が変わる。


 ……うむ。


 見た目だけなら、なかなかきれいな鳥だ。


 ただし。


「ギョッ!」


 鳥がこちらに気づき、首を伸ばした。


 鋭い嘴が、俺たちの方を向く。


 ……あ。


 これは、あんまり友好的な顔じゃないな。


「ニャル、下がろう」


『おう!』


 ユウマは後ろへ数歩下がり、近くの岩陰へ俺を下ろしてくれた。


「ここで待ってて」


『気をつけろよ!』


「うん」


 ユウマが剣を抜く。


 青い鳥は翼を半分広げ、こちらを睨むように身体を低くした。


 ……ほほう。


 飛ぶつもりか?


 いや、翼はそれほど大きくない。


 あの身体で長く飛び続けるのは難しそうだな。


 でも、だからといって油断はできない。


 実際、脚はかなり頑丈そうだ。


 俺がそう考えていると、鳥が突然地面を蹴った。


「ギョオッ!」


『おおっ!?』


 速い!


 青い翼を広げ、低く跳び上がる。


 ……いや、飛ぶというより、跳躍だな!


 翼の力も使って、一気に距離を詰めてくる。


 鋭い嘴が、ユウマへ向かった。


 でも。


「……っと!」


 ユウマは横へ身体をずらした。


 鳥の嘴が空を切る。


 そのまま剣を振ろうとしたけど、相手は翼を広げ、すぐに向きを変えた。


 ばさっ!


 羽音とともに、鳥が地面へ着地する。


 ……おお。


 思ったより身軽だな。


 あの体格で、あんな動きができるのか。


「……なるほど」


 ユウマが小さく呟いた。


 剣を構え直し、鳥の脚へ視線を向ける。


 ……ん?


 何か考えてるみたいだな。


 青い鳥が再び鳴いた。


「ギョッ、ギョッ!」


 今度は正面から突っ込んでくる。


 ユウマはすぐには動かなかった。


 足元の木の根を避け、平らな場所に立っている。


 ……なるほど。


 足場を選んでるのか。


 鳥が跳び上がった。


 羽ばたきながら、斜め上から嘴を突き出してくる。


 ユウマは半歩下がり、剣で攻撃の向きを逸らした。


 きんっ!


 硬い音が響く。


 鳥はそのまま着地しようとしたけど、ユウマは無理に追わなかった。


 ……ほほう。


 さっきのゴブリンとは戦い方が違うな。


 あの鳥は、地面にいる時より跳びかかってくる時の方が厄介そうだ。


 なら、動きをよく見て、確実に隙を狙った方がいいってことか。


「……よし」


 ユウマが少しだけ剣を下げた。


 青い鳥が再び身構える。


「ギョオッ!」


 ばさっ!


 三度目の跳躍。


 今度は鋭い爪を前へ突き出してきた。


 ……おおっ!


 ユウマは横へ踏み込み、爪の届く位置から身体を外した。


 鳥が着地する。


 その瞬間。


「はっ!」


 ユウマの剣が走った。


 ざしゅっ!


 鋭い一撃が決まり、青い鳥が地面へ倒れた。


 翼が一度大きく動き、それから静かになる。


 ……おお!


 やったぞ!


 ただ、ユウマはすぐに剣を収めなかった。


 周囲の茂み。


 頭上の枝。


 俺のいる岩陰。


 順番に確認してから、ゆっくり息を吐いた。


「……よし。大丈夫そうだね」


『ユウマ!』


 俺は岩陰から顔を出した。


『すごかったな!』


「ははっ。ありがとう」


『あんなに跳ねる相手でも、ちゃんと倒せるんだな!』


「うん。でも、ちょっと驚いたよ」


 ユウマは倒れた鳥を見ながら言った。


「最初、普通に飛んでくるのかと思ったんだけど、ほとんど跳ぶみたいに動くんだね」


『そうだったな!』


「着地するところを狙えばいいって分かったから、何とかなったよ」


 ……うむ。


 なるほどな。


 さっきは三回も飛びかかられたけど、ユウマは慌てずに動きを見ていた。


 以前なら、もっと急いで攻撃していたかもしれない。


 今は相手の特徴を確かめてから戦えるようになってるんだな。


『ユウマ、また強くなったな!』


「そうかな?」


『そうだぞ! 前よりずっと落ち着いてる!』


 ユウマが少し照れたように笑った。


「ニャルのおかげで、身体も動かしやすくなったからね」


『へへっ。そうだといいな!』


 俺は満足して尻尾を揺らした。


 でも、まだ終わりじゃない。


 今日の目的は、戦闘に勝つことだけじゃないからな。


『……さて』


 俺は倒れた青い鳥を見つめた。


 鮮やかな羽毛。


 太い脚。


 丸みのある胴体。


 ……うむ。


 これは、なかなか肉が取れそうじゃないか。


『ユウマ!』


「ん?」


『ここからが俺の出番だ!』


 俺は胸を張った。


 さあ。


 この青い鳥、美味しく食べられるのか!?



――――――



 まずは鑑定だ。


 俺は倒れた鳥へ近づき、食材としての情報を確かめた。


 ……おっ。


 名前は、ブルーバード。


 その肉は、ブルーバードチキンというらしい。


『ブルーバードか!』


「ブルーバード?」


『おう。この魔物の名前らしいぞ!』


 ユウマが頷いた。


「見た目にぴったりの名前だね」


『そうだな!』


 全身が青い鳥なんだから、確かに分かりやすい。


 ただ、俺が気になるのは名前より中身だ。


『……ふむふむ』


 鑑定を続ける。


 食用にできるのは、胸肉、もも肉、手羽肉。


 皮も、適切に処理すれば食べられるらしい。


 ……おお!


 いいじゃないか!


 しかも、肉質は普通の鶏肉に近いようだ。


 胸肉は少し締まっていて、もも肉には適度な脂がある。


 ……ほほう。


 これは、焼いてみたくなるな。


 ただし。


『……ん?』


 気になる情報が出てきた。


 ……ああ。


 やっぱり、危険な部位があるのか。


「ニャル、どう?」


『食えるぞ! でも、解体で気をつけるところがあるな』


 ユウマの表情が少し引き締まった。


「どこ?」


『尾羽の付け根だ』


 俺は鳥の身体を確かめた。


 青い尾羽が伸びている根元。


 そのあたりに、青みがかった脂腺があるらしい。


『ここに、苦みの強い分泌物が入ってるみたいだ』


「へえ……」


『しかも、口に入ると腹の調子を悪くすることがあるらしいぞ』


「じゃあ、そこは食べられないんだね」


『おう。傷つけずに、周りごと取り除く必要があるな』


 ……うむ。


 ホーンラビットとは違う危険部位だ。


 あっちは角の根元付近に臭腺があって、分泌物には軽い麻痺性の成分がある。


 でも、ブルーバードは尾羽の付け根。


 しかも、苦みと胃腸への刺激が問題になるらしい。


『……なるほどなあ』


 俺はしみじみと頷いた。


 同じ肉の食材でも、気をつけるところは全然違うんだな。


 普通の鶏肉みたいに見えるからといって、同じ解体方法でいいわけじゃない。


 やっぱり、最初にちゃんと鑑定するのは大切だ。


「ニャル、ここで解体する?」


『おう。危ない部分は先に取っておきたいな』


「分かった。準備するね」


 ユウマがリュックを下ろした。


 中から取り出したのは、解体用の道具と手袋、それから肉を分けて入れるための袋だ。


 ……うむ。


 今日も準備がいいな。


 俺は念動力を使い、道具を扱いやすい位置へ並べた。


 まず、ブルーバードの身体を確認する。


 尾羽の付け根にある危険な脂腺。


 これを傷つけると、分泌物が肉についてしまうかもしれない。


 だから、ぎりぎりを狙って切る必要はない。


 周囲の組織ごと、余裕を持って取り除けばいいんだ。


『ユウマ、ここを押さえてくれ』


「うん」


『そうそう。あんまり強く押さえないでくれよ』


「分かった」


 俺は解体用の刃を念動力で動かした。


 すっ。


 尾羽の付け根を避けながら、周囲の組織へ慎重に刃を入れる。


 危険な脂腺そのものには触れないようにする。


 ……よし。


 こっちからなら、うまく切り離せそうだな。


 刃の向きを少し変える。


 すっ、すっ。


 切り進めていくと、青みがかった脂腺を周囲ごと取り外すことができた。


『……よし!』


 俺は思わず尻尾を立てた。


『取れたぞ!』


「おお。きれいに取れたね」


『おう! 中身も破れてないな!』


 ……うむ。


 これなら、危険な分泌物を肉につけずに済んだはずだ。


 取り除いた部分は、食用にする肉とは別にしておく。


 続いて、羽毛や内臓を処理し、食べる部分を汚さないように解体していく。


 ……ふむ。


 鳥の解体は、ホーンラビットとは勝手が違うな。


 身体の形も違うし、骨のつき方も違う。


 でも、だからこそ面白い。


 どこに筋肉がついているのか。


 どの部分に脂が多いのか。


 そういうことを確かめながら作業するのも、料理の勉強になる。


「ニャル、こっちの肉は胸肉?」


『おう。そっちが胸肉だな』


 俺は取り分けた肉を見た。


 ……おお。


 なかなか立派じゃないか。


 色合いは普通の鶏肉に近いけど、少し締まった感じがする。


 それから、もも肉。


 こっちは胸肉より柔らかそうで、適度に脂もついている。


『……ほほう』


 これは、どっちも試してみたいな。


 胸肉は、火を入れすぎないように気をつけながら、しっかり加熱する。


 もも肉は、皮をぱりっと焼いても美味そうだ。


 ……いや、待て。


 まだ食ってないんだから、味は分からないぞ。


 でも。


『……じゅるり』


「ニャル?」


『……ん?』


「もう料理のこと考えてるでしょ」


『当たり前だろ!』


 俺は堂々と答えた。


『こんないい肉が取れたんだぞ!』


 ユウマが笑った。


「まだ下処理の途中だよ」


『分かってるって!』


 ……むう。


 確かに、まだ食うには早いな。


 俺は気を取り直し、残りの作業を進めた。


 食用にできる部分を分け、汚れがついていないことを確認する。使った道具もきちんと手入れして、肉とは別に片づけた。


 家へ帰ったら、もう一度状態を確認して、調理しやすいように整えよう。


 危険部位を取り除いたからといって、生のまま食べていいわけじゃない。


 そこは普通の鶏肉と同じように、しっかり加熱する必要があるからな。


『……よし!』


 俺は袋に分けた肉を眺めた。


 胸肉。


 もも肉。


 手羽肉。


 それから、適切に処理した皮。


 ……うむ。


 思っていたより、なかなかの収穫だぞ!


「これなら、何回か料理できそうだね」


『おう!』


 俺は満足して頷いた。


『まずは家で食ってみて、それから配信でも使いたいな!』


「いいね!」


 ユウマが嬉しそうに笑った。


 ……へへっ。


 楽しみになってきたぞ。


 安全に分けた肉を収納魔法へしまい、残りの解体物も適切に処理できるようにまとめる。


 これで回収は完了だ。


 俺は改めてユウマを見上げた。


『よし。今日の買い出し、大成功だな!』


「うん。でも、まだ帰り道があるからね」


『……おお。そうだった!』


 危ない危ない。


 新しい肉が手に入ったからって、もう家に帰った気分になってたぞ。


 ユウマが笑いながらリュックを背負い直した。


「じゃあ、戻ろうか」


『おう!』


 俺はユウマの肩に乗せてもらい、満足して尻尾を揺らした。


 ……うむ。


 帰ったら、まず何を作ろうかな!



――――――



 来た道を戻りながら、俺は収納魔法の中にある肉のことを考えていた。


 ブルーバードチキン。


 青い羽を持つ魔物から取れる、新しい肉。


 見た目は鶏肉に似ている。


 でも、まったく同じとは限らない。


 ……さて。


 どう料理したものかな。


『ユウマ』


「ん?」


『ブルーバードチキン、まずは焼いてみたいな』


「焼くんだ?」


『おう。肉そのものの味を確かめたいからな!』


 煮込むのもよさそうだけど、最初はシンプルに焼くのがいい気がする。


 ただ、適当に焼くだけじゃもったいない。


 ……そうだ。


 橘に教わったことを試してみよう。


 あの人は、肉を焼く時の火加減にとても気を配っていた。


 表面に焼き色をつけること。


 中まで適切に熱を通すこと。


 それから、肉の状態に合わせて火の当て方を変えること。


 同じ焼き料理でも、そこまで考えるのかと驚いたものだ。


『……うむ』


 今回の肉は、普通の鶏肉に近いらしい。


 でも、胸肉は少し締まっているし、もも肉には脂がある。


 だったら、それぞれに合った火入れを考えた方がよさそうだ。


 ……おお。


 これは、勉強したことを試すいい機会じゃないか!


「ニャル、何か思いついた?」


『おう! 橘に教わった焼き方を試してみるぞ!』


「ああ、食彩堂で習ったやつ?」


『そうそう!』


 あの時は、肉の表面を焼く音だけでもずいぶん勉強になった。


 じゅうっと肉が焼ける音。


 立ち上る香り。


 表面に少しずつついていく焼き色。


 ……ああ。


 思い出したら、ますます腹が減ってきた。


「楽しみだね」


『おう!』


 ユウマが笑った。


「でも、新しい肉だから、ちゃんと火が通ってるか確認しないとね」


『もちろんだ!』


 そこは大事だ。


 橘に教わったのは、ただ肉を美味しく焼くための技術じゃない。


 食材の状態を見て、必要な加熱をきちんと行うことも、料理人の仕事なんだ。


 特に今回は鳥肉だからな。


 安全に食べられるよう、中心まで十分に加熱する。


 そのうえで、できるだけ美味しく仕上げたい。


『……よしよし』


 俺は満足して頷いた。


 ……何だか、もう焼くのが楽しみで仕方ないぞ。


 そうして歩いているうちに、見慣れた広い通路へ戻ってきた。


 足元にはゴブリンポテト。


 少し離れたところには、妖精ニンジンも生えている。


 ……おっ。


『ユウマ、ちょっと待ってくれ!』


「ん?」


『あそこのニンジン、少し採っていこうぜ!』


「やっぱり採るんだね」


『おう!』


 俺は胸を張った。


『肉を焼くなら、付け合わせも欲しいだろ!』


「ははっ。そうだね」


 ……うむ。


 別に寄り道したくなったわけじゃないぞ。


 これは立派な献立の準備だ。


 せっかく新しい肉が手に入ったんだから、付け合わせまで美味しくしたいじゃないか!


 俺たちは周囲の安全を確認し、妖精ニンジンを数本だけ採取した。


 ……よし。


 これで準備は万端だな。


 あとは、家へ帰るだけだ!



――――――



 ダンジョンを出ると、外の空気がいつもより暖かく感じられた。


 俺はユウマの腕に抱かれながら、満足して喉を鳴らしていた。


 ごろごろ。


「ニャル、ご機嫌だね」


『そりゃそうだろ!』


 今日は新しい肉を手に入れたんだぞ。


 しかも、ユウマが初めての魔物にも落ち着いて対応できたところまで見られた。


 ……うむ。


 実にいい探索だったな。


「母さんにも早く見せたいね」


『おう!』


 マコトなら、きっと面白がってくれるだろう。


 青い羽の鳥から取れた肉だと聞いたら、どんな顔をするかな。


 ……ふふん。


 楽しみだぞ。


 ただ、今日はまだ料理するつもりはない。


 帰ったら、まず肉の状態をもう一度確認して、部位ごとに整えておこう。


 それから、どんな焼き方が合うか考えるんだ。


 ……そうだな。


 胸肉と、もも肉。


 両方を少しずつ焼いて、味の違いを確かめるのもいいかもしれない。


 でも、いっぺんに使い切るのはもったいないな。


 次の配信でも紹介したいし。


 ……むむむ。


 悩ましいぞ。


「ニャル?」


『……ん?』


「また料理のこと考えてる?」


『おう!』


 ユウマが笑った。


「本当に料理が好きだね」


『当たり前だろ!』


 俺は胸を張った。


『美味いものを食うために、新しい食材を探してるんだからな!』


「ははっ。そうだね」


 ユウマが俺の頭を撫でた。


 ……おお。


 いいぞ、そこ。


 俺は目を細め、喉を鳴らした。


 ごろごろ。


 ……ふう。


 肉が手に入って。


 ユウマに撫でてもらえて。


 帰ったら美味い料理の準備ができる。


 ……最高じゃないか。


 俺は腕の中から空を見上げた。


 あのブルーバードは、見た目からして普通の鳥とは違っていた。


 だったら、肉だって何か違うところがあるかもしれない。


 でも、それは実際に食べてみないと分からない。


 ……へへっ。


 こういう時が、一番わくわくするんだよな。


『ユウマ!』


「何?」


『帰ったら、まず肉を見せてくれ!』


「うん。もちろん」


『それで、焼き方を考えるぞ!』


「楽しみだね!」


『おう!』


 俺は満足して尻尾を立てた。


 ブルーバードチキン。


 新しく手に入れた、青い鳥の肉。


 さて。


 お前は、どんな味がするんだろうな。


 あの時、橘に教わった火入れを思い出しながら、俺はにんまりと笑った。


『……よし。今度は、あの焼き方を試してみるか!』



――――――



【ダンジョン食材辞典】


No.017


■名称

ブルーバードチキン


■危険度

★★☆☆☆


■ニャル評価

★★★★☆(未実食・暫定評価)


■見た目

緑葉の洞窟の浅層、樹木の多い区域に生息する鳥型魔物「ブルーバード」の肉。


ブルーバードは体長70~80センチほど。鮮やかな青色の羽毛に覆われ、太い脚と鋭い嘴、爪を持つ。


長距離の飛行は苦手だが、翼を使った素早い跳躍が得意。


肉は普通の鶏肉に近い色合いで、胸肉は締まりがあり、もも肉には適度な脂がある。


■食用部位

胸肉、もも肉、手羽肉。


適切に処理した皮も食用可能。


■危険な部位

尾羽の付け根にある青みがかった脂腺と、その周囲の組織。


脂腺の分泌物には強い苦みと軽い胃腸刺激性があり、誤って口にすると腹の調子を悪くすることがある。


■おすすめ調理法

◎ ロースト

○ ソテー

○ 煮込み料理


■調理のコツ

解体する際は、尾羽の付け根にある脂腺を傷つけず、周囲の組織ごと十分に除去する。


分泌物が食用肉につかないよう注意し、羽毛や内臓などの食用外部分も適切に処理すること。


肉は部位ごとに分け、調理時には中心まで十分に加熱する。


胸肉ともも肉では肉質や脂の量が異なるため、それぞれに合った火入れを考えるとよさそうだ。


■一人前

食用肉 約150g


■メモ

『青い羽の鳥から、こんなに立派な肉が取れるとはな!


 見た目は鶏肉に似てるけど、まだ食ってないから味は分からん。そこが楽しみなんだよな。


 まずは橘に教わった焼き方を試してみたいぞ。皮をぱりっと焼くのも美味そうだし、もも肉の脂も気になる!


 評価は今のところ期待込みだ。


 ……へへっ。早く食べてみたいな!』


──────────────

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