第54話 かわいい動画に、作り方のメモが増えた
「悠真、これ見たか?」
休み時間になってすぐ、蓮がスマホを片手に俺の席へやってきた。
「何?」
「昨日のニャルの配信。ちょっと面白いことになってるぞ」
「えっ、何かあった?」
思わず身を乗り出す。
昨日の配信では、ニャルが新しく見つけたムーンキャベツを使って、豚肉との重ね蒸しを作った。
ただ料理するだけじゃなく、安全な下処理をちゃんと見てもらうことを意識した配信だった。
芯の根元を切り落とすところも、危険な葉の付け根を取り除くところも、普段より大きく映した。白い汁液が出る部分についても、ニャルに確認しながら説明した。
配信が終わった後には、作り方を見返したいというコメントも届いていた。
だから、反応が気になっていたのは確かだけど。
「ほら、これ」
蓮がスマホを見せてきた。
画面には、見覚えのある小さな猫が映っている。
俺のニャルだ。
しかも、前足をきちんとそろえて、真剣な顔でムーンキャベツを見つめているところだった。
「……かわいい」
「いや、そこじゃなくて」
「だって、かわいいだろ?」
「かわいいのは分かったから、下の文章見ろって」
蓮が画面を指さす。
そこには、こんな言葉が書かれていた。
『ニャルちゃんのムーンキャベツ講座、自分用まとめ』
「……あれ?」
俺は思わず声を上げた。
投稿には、昨日の配信を見ながら書いたらしいメモが添えられている。
ムーンキャベツの特徴。
危険な部分。
下処理の手順。
それから、豚肉との重ね蒸しの作り方。
文章だけじゃなく、簡単な図まで描かれていた。
「これ、すごくない?」
「ああ。俺も最初見た時、びっくりした」
蓮が頷く。
「前はニャルのかわいいところを切り抜いた投稿ばっかりだったのにな」
「そうだね」
俺も画面を見つめた。
これまでの『ニャルの台所』に寄せられる感想といえば、やっぱりニャルのかわいさに関するものが多かった。
小さな身体で二本足になっている。
念動力で包丁を浮かせている。
料理中に耳がぴくぴく動く。
おいしそうな匂いがすると、鼻をひくひくさせる。
……いや、分かる。
全部かわいい。
特に、料理が完成した瞬間のニャルは最高だ。
尻尾をぴんと立てて、いかにも満足そうに胸を張るんだから。
あれを見てかわいいと思わない人がいるだろうか。
「……悠真?」
「ん?」
「今、ニャルのかわいいところ思い出してただろ」
「何で分かったの?」
「顔がにやけてる」
……そんなに分かりやすかったかな。
蓮が呆れたように笑った。
「まあ、かわいいのは確かだけどさ。今はこっちの話だろ」
「ああ、うん」
そうだった。
俺は改めてメモを見た。
投稿した人は、ムーンキャベツの芯の根元だけでなく、周囲の葉の付け根も取り除く必要があることを書いている。
食用部分を洗うこと。
調理器具を洗浄すること。
十分に加熱すること。
その後には、重ね蒸しの材料と調理手順までまとめられていた。
「……すごいな」
思わず呟く。
昨日、俺たちが説明したことを、こんなに丁寧に書き留めてくれた人がいるんだ。
「ほかにもあるぞ」
蓮が画面を動かした。
今度は、手書きのノートを撮影した投稿だった。
ページの上には『ムーンキャベツの注意点』と書かれている。
その横には、丸っこい猫の絵。
……これ、ニャルかな。
耳が大きくて、尻尾がぴんと立っている。
ちょっと得意げな顔まで似ていた。
「……かわいい」
「だから、そこじゃないって」
「いや、このニャルの絵、結構よく描けてない?」
「まあな。でも見てほしいのは、その横!」
蓮が指さした。
ノートには、ムーンキャベツの危険部位が図で示されている。
しかも、投稿文にはこう書かれていた。
『配信を何回も見返してメモしました。普通のキャベツと同じ感覚で扱っちゃ駄目なんですね』
「……へえ」
何だか、胸の奥がくすぐったくなった。
ニャルがかわいいと言ってもらえるのは、もちろん嬉しい。
でも、それとは別の嬉しさがある。
画面の向こうで、誰かが本当に料理を覚えようとしているんだ。
「ニャル、これ見たら喜びそうだね」
「だろ? だから教えようと思ってさ」
蓮が笑った。
「昨日の配信、ちゃんと役に立ってるみたいだぞ」
「……うん!」
俺は大きく頷いた。
帰ったら、絶対ニャルに見せてあげよう。
――――――
それから、俺と蓮はほかの投稿も少し確認してみることにした。
もちろん、いつもの感想がなくなったわけじゃない。
『今日もニャルちゃんが世界一かわいい』
『包丁を持ち上げる時の前足が好き』
『説明してる間、ずっと真剣な顔してるのかわいい』
『ムーンキャベツよりニャルちゃんを見てた』
……うん。
よく分かる。
最後の人には、ちゃんとムーンキャベツも見てほしいけど。
「人気だなあ、ニャル」
「うん。世界一かわいいからね」
「そこはレオも負けてないけどな」
「ニャルの方がかわいいよ?」
「レオの方がかっこかわいいだろ」
蓮が当然のように言い返してきた。
……ああ。
またこの話になっちゃった。
この前、三組でダンジョンへ行った時だって、結局最後はそれぞれのテイムモンスター自慢になったんだよな。
小春さんがいたら、きっときなこが一番だって言ったと思う。
「まあ、それはそれとして」
蓮が笑いながらスマホを操作した。
「ほら。料理の投稿も増えてるぞ」
そこには、普通のキャベツと豚肉を使った重ね蒸しの写真があった。
『ムーンキャベツは手に入らないので、普通のキャベツで作ってみました。おいしかった!』
「おお!」
思わず声が出る。
写真のお皿には、キャベツと豚肉がきれいに重なっていた。
横にはニンジンも添えられている。
ニャルが昨日作った料理を参考にしてくれたんだろう。
「こういうのもあるんだね」
「普通のキャベツなら手に入りやすいからな」
「うん。ムーンキャベツとは味も下処理も違うけど、料理の作り方は参考にできるもんね」
俺は写真を拡大した。
肉と葉の重なり方が、ニャルの作ったものによく似ている。
湯気までは写っていないけど、温かくておいしそうな料理だった。
……これ、ニャルが見たら喜ぶだろうな。
「あと、こっちも」
蓮が別の投稿を見せた。
今度はホーンラビットのクリームシチューだ。
以前にも視聴者から再現報告が届いたことがあるけど、こうして別の人の写真を見ると、少しずつ広がっていることが分かる。
『下処理を確認してから挑戦しました。初めてのホーンラビット料理、大成功です』
添えられた写真には、白いシチューがたっぷり盛られていた。
「……おいしそうだね」
「だよな。見てたら腹減ってきた」
「蓮も今度作ってみれば?」
「いや、料理はそこまで得意じゃないんだよな」
「じゃあ、またニャルに作ってもらおうよ」
「それは最高だな!」
二人で笑う。
こういう話をしていると、また三組で集まりたくなるな。
レオもきなこも一緒に、今度は何を食べようか。
……もっとも、三匹の料理はそれぞれ別に考えないといけないけど。
ニャルなら、きっと喜んで作ってくれるだろう。
「でもさ、悠真」
「ん?」
「これ、ちょっと気になるんだけど」
蓮の声が少し真面目になった。
見せられたのは、ムーンキャベツの下処理について書かれた短い投稿だった。
『ムーンキャベツは芯を取れば食べられるらしい。ニャルちゃんの動画で知った!』
「……あ」
俺は画面をじっと見た。
悪意のある投稿には見えなかった。
昨日の配信を見て、覚えていることを書いたんだと思う。
でも。
「これだけだと、足りないね」
「だよな」
蓮が頷いた。
「昨日、芯の周りも取ってたよな?」
「うん。芯の根元だけじゃなくて、そこに接する葉の付け根も取り除く必要があるんだ」
「それに、洗って加熱するんだろ?」
「そう」
投稿そのものが、全部間違っているわけじゃない。
確かに、ムーンキャベツの芯の根元は取り除く必要がある。
でも、そこだけ読んだ人が、芯さえ取れば生でも食べられると思ってしまったら危ない。
ムーンキャベツは、普通のキャベツじゃないんだ。
「……どうしようかな」
俺が呟くと、蓮が首を傾げた。
「補足した方がいいんじゃないか?」
「うん。そう思う」
ただ、書いた人を責めたいわけじゃない。
俺たちの配信を見て、興味を持ってくれたんだと思う。
だからこそ、必要なところをちゃんと伝えたい。
「少し返信してみるよ」
俺はスマホを取り出し、『ニャルの台所』の配信用アカウントから投稿を開いた。
文章を入力する。
『ムーンキャベツは芯の基部だけでなく、周囲の葉の付け根も十分に除去する必要があります。食用部分と調理器具をよく洗い、必ず十分に加熱してください。安全な処理範囲を確認できない場合は、無理に調理しないでください。配信アーカイブでも下処理の様子を紹介しています』
……うん。
こんな感じかな。
「蓮、ちょっと見てくれる?」
「どれどれ……」
蓮が文章を読んだ。
「いいんじゃないか? 大事なところがちゃんと入ってる」
「ありがとう」
俺は返信を送信した。
これで、投稿を見た人にも補足が届くといいな。
「それにしても、こういうこともあるんだな」
蓮が呟いた。
「うん」
俺も頷く。
「昨日、下処理を丁寧に見せたつもりだったんだけどね」
「いや、ちゃんと見せてたと思うぞ」
「そうかな」
「ああ。ただ、全部一回で覚えられるとは限らないだろ?」
……確かに。
俺だって、学校で習ったことを一度で全部覚えられるわけじゃない。
大事なところをメモしたつもりでも、後で見返したら抜けていることがある。
料理なら、なおさらかもしれない。
材料の名前。
切り方。
火加減。
味つけ。
覚えることはいろいろある。
ましてムーンキャベツは、安全に関わる注意点まであるんだから。
「……そっか」
俺はスマホの画面を見つめた。
「見せるだけじゃなくて、後から確認できるようにするのも大事なんだね」
「そうだな」
蓮が頷いた。
「俺もダンジョンに入る前、持ち物の確認はするし」
「ああ、あの大きいリュック?」
「そうそう。慣れてても、忘れ物はするからな」
蓮が笑った。
「水とか応急処置の道具とか、必要なものを毎回確認してる。分かってるつもりでも、ちゃんと見直す方が安心だろ?」
「……うん。そうだね」
探索と料理では違うところも多いけど、確認が大事なのは同じなんだな。
俺は自分のスマホをもう一度見た。
昨日の配信で、ニャルは危険な部分を丁寧に切り落としていた。
洗浄も、加熱も、きちんとやっていた。
だからこそ、その手順が途中で抜け落ちてしまうのは、ちょっと怖い。
「帰ったら、アーカイブの説明欄にも書いておこうかな」
「いいと思うぞ」
「あと、下処理の場面が見つけやすいようにしたいね」
「ああ。それなら、後から見る人も助かるだろうな」
……よし。
やることが決まった。
ニャルがせっかく丁寧に料理してくれているんだ。
俺も、ちゃんと伝わるように頑張らないと。
――――――
「ただいま!」
学校から帰って家に入ると、どこからか小さな足音が聞こえてきた。
とことこ、とことこ。
……あ。
来た。
「にゃ!」
廊下の向こうから、ニャルが駆けてくる。
小さな身体を二本足で動かし、尻尾をぴんと立てている。
……かわいい。
やっぱり世界一かわいい。
「ただいま、ニャル!」
『おかえり、ユウマ!』
俺がしゃがむと、ニャルが両前足を上げた。
これは、抱っこの合図だ。
……たぶん。
いや、絶対そうだよね。
俺はニャルを抱き上げた。
『学校、どうだった?』
「うん。今日はニャルの話をしてたよ」
『俺の?』
「そう。昨日の配信のこと」
『おお!』
ニャルの耳がぴんと立つ。
『何か面白いことあったか?』
「うん。いっぱいあった!」
俺はニャルを抱えたまま、リビングへ向かった。
今日は学校で見つけたものを、ゆっくり見せてあげたい。
まずは、みんなが書いてくれた料理メモだ。
「ほら、これ」
俺はソファに座り、スマホをニャルの前へ向けた。
画面には、ムーンキャベツの下処理についてまとめた投稿が映っている。
『……ほう?』
ニャルが首を傾げた。
「昨日の配信を見て、作り方をメモしてくれた人がいるんだよ」
『おお!』
「芯の周りを取ることとか、洗うこととか、ちゃんと書いてくれてる」
『へえ!』
ニャルは興味深そうに画面を覗き込んだ。
その小さな前足が、俺の腕にちょこんと乗っている。
……かわいい。
いや、今は説明しないと。
「それから、こっちも」
今度は手書きのノートの写真を見せる。
ムーンキャベツの図と、簡単な調理手順。
横には、得意げな顔をした小さな猫の絵がある。
『……ん?』
ニャルが絵を見つめた。
『これ、俺か?』
「そうだと思う」
『ほほう!』
ニャルが少し胸を張った。
『なかなかよく描けてるじゃないか!』
「でしょ?」
『尻尾もちゃんと立ってるな!』
……ああ。
やっぱりそこが気になるんだ。
俺は思わず笑ってしまった。
「しかも、この人、動画を何回も見返してくれたみたいだよ」
『何回も?』
「うん。危ないところをちゃんと覚えたくて、見返しながら書いたんだって」
『……おお』
ニャルがもう一度ノートを見た。
さっきまで得意げだった顔が、少し真剣になる。
『……そうか。そこまでしてくれたのか』
「うん」
『それは嬉しいな!』
尻尾がゆっくり揺れた。
……よかった。
喜んでくれたみたいだ。
「でもね、少し注意も必要だったんだ」
『ん?』
俺は学校で見つけた投稿について説明した。
芯を取れば食べられる、とだけ書かれていたこと。
それでは、ほかの危険部位や洗浄、加熱の必要性が伝わらないこと。
だから、配信用アカウントから補足の返信をしたこと。
ニャルは途中で口を挟まず、じっと聞いていた。
『……なるほどな』
説明が終わると、ニャルが頷いた。
『確かに、それだけだと危ないな』
「うん」
『俺はどこを取ればいいか鑑定で分かるけど、見てる人はそうじゃないもんな』
「そうなんだよね」
ニャルが少し考え込んだ。
『……じゃあ、ちゃんと見返せるようにした方がいいな』
「うん。俺もそう思った」
『ユウマ、頼めるか?』
「もちろん!」
俺は嬉しくなって頷いた。
「アーカイブの説明欄に注意点を追加して、下処理のところも見つけやすくしておくよ」
『おお! 助かるぞ!』
……よし。
これでニャルにも相談できたな。
俺はスマホをいったん置き、パソコンのある場所へ移動した。
ニャルも俺の肩に乗ってついてくる。
まずは昨日の配信アーカイブを開く。
説明欄に、ムーンキャベツの危険部位と必要な処理を書き足した。
それから、下処理を始める場面と、洗浄、加熱について説明している場面を確認して、見返しやすいように案内を追加する。
『……ここだな』
ニャルが画面を覗き込みながら言った。
『芯の根元を切ってるところ』
「うん」
『その後の葉の付け根も大事だぞ』
「もちろん。そこも入れておくよ」
俺はもう一度文章を読み返した。
危険部位の除去。
洗浄。
十分な加熱。
それから、安全な処理方法を確認できない食材を、無理に食べないこと。
……うん。
大切なところは、ちゃんと書けたと思う。
「よし。これでどうかな?」
『おお! いいじゃないか!』
ニャルが満足そうに頷いた。
『これなら、後から見に来た人も分かりやすいな』
「そうだね」
俺もほっとした。
たぶん、これで全部の誤解がなくなるわけじゃない。
でも、必要な時に正しい情報を確認しやすくすることはできる。
今の俺たちにできることを、少しずつやっていけばいいんだと思う。
……それにしても。
配信を始めた頃は、ニャルのかわいさを見てもらえれば十分だと思っていたのにな。
今は、料理の作り方を伝えるための工夫まで考えている。
何だか不思議な感じだ。
――――――
「そうだ、ニャル」
『ん?』
「まだ見せたいものがあるんだ」
『おお?』
俺はスマホを取り出し、学校で蓮と見つけた料理写真を開いた。
「ほら」
画面には、重ね蒸しの写真が映っている。
普通のキャベツと豚肉を使ったものだ。
その下には、短い感想が添えられている。
『ニャルちゃんの動画を参考に作りました。家族にも好評でした。おいしい!』
『……おっ?』
ニャルの耳が立った。
『これ、俺の料理を参考にしたのか?』
「そうみたい」
『ほほう!』
「ムーンキャベツは手に入らないから、普通のキャベツで作ったんだって」
『なるほどな!』
ニャルは写真をじっと見つめた。
葉と豚肉の重なり方。
添えられたニンジン。
皿に盛られた温かそうな料理。
『……おお。きれいに作れてるな!』
「うん。おいしそうだよね」
『おう! これはうまそうだ!』
ニャルが嬉しそうに尻尾を振る。
……ああ。
やっぱりこういう反応になるんだな。
俺は笑いながら、別の投稿も見せた。
ホーンラビットのクリームシチュー。
こちらも、以前の配信を参考に作ったという写真だ。
「この人も、下処理を確認して作ってみたんだって」
『おお!』
「それでね、初めて食べたけどおいしかったって」
『……おおお!』
ニャルが身を乗り出した。
『本当か!?』
「うん。ほら、ここ」
俺は感想の部分を指さした。
『初めてのホーンラビット料理、大成功です』
ニャルはしばらく画面を見つめてから、ぱっと顔を上げた。
『よかったなあ!』
「うん!」
『ちゃんとうまく作れたんだな!』
尻尾が勢いよく揺れている。
さっきの料理メモを見た時より、さらに嬉しそうだ。
『へへっ。そうか。うまかったのか!』
……ああ。
やっぱり、ニャルはニャルだな。
俺は思わず笑ってしまった。
『ん? どうした、ユウマ?』
「いや、ニャルって本当に料理が好きなんだなって」
『当たり前だろ!』
即答だった。
『美味いもんを作って、それを食ったやつが喜んでくれたら、最高じゃないか!』
「……うん。そうだね」
俺はニャルの頭を撫でた。
ニャルは気持ちよさそうに目を細める。
俺が『ニャルの台所』を始めたいと思ったのは、この子をみんなに見てもらいたかったからだ。
世界一かわいいニャルを、自分だけで知っているなんてもったいない。
最初は、そんな気持ちだった。
でも、ニャルが大切にしているのは、そこじゃない。
自分が作った料理を、誰かがおいしく食べてくれること。
知っている作り方を教えて、別の誰かもおいしいものを食べられるようになること。
それが何より嬉しいんだ。
……何だか、俺まで嬉しくなってくる。
「ニャル」
『ん?』
「これからも、いろんな料理を見せていこうね」
『おう!』
ニャルが大きく頷いた。
『まだまだ作りたいもんがいっぱいあるからな!』
「うん。楽しみ!」
俺が笑うと、ニャルも満足そうに胸を張った。
……ああ。
かわいい。
やっぱり世界一かわいい。
しかも料理まで上手なんだから、本当に最高の猫だと思う。
――――――
その日の夜。
俺はニャルを膝に乗せながら、もう一度コメントを確認していた。
ムーンキャベツの下処理についての質問は、相変わらずいくつか届いている。
でも、さっき追加した説明欄を見てくれた人もいるみたいだ。
『確認する場所が分かって助かりました』
『下処理の手順をもう一回見てきました』
『ムーンキャベツが手に入ったら、ちゃんと安全を確認してから挑戦したいです』
……うん。
こういう反応は嬉しいな。
説明を足してよかった。
『ユウマ、何か面白いのあったか?』
膝の上で丸くなっていたニャルが、顔を上げた。
「うん。説明を見てくれた人がいるみたい」
『おお! そりゃよかった!』
ニャルが満足そうに頷く。
それから、俺の手へ頭を押しつけてきた。
……あ。
撫でてほしいのかな。
もちろん、喜んで。
俺が耳の後ろを撫でると、ニャルは気持ちよさそうに喉を鳴らした。
ごろごろ。
……うん。
幸せだ。
俺はそのままコメントを眺めていた。
すると、料理のリクエストがいくつか目に入った。
『次はどんな料理を作るのかな?』
『野菜もいいけど、また肉料理が見たい!』
『ホーンラビット以外のお肉も料理してほしいです』
「……おっ」
俺は思わず声を上げた。
『ん?』
「ニャル、こんなコメントが来てるよ」
『どれだ?』
「次は、違う種類の肉料理も見たいんだって」
『……おお?』
ニャルの耳がぴんと立った。
『違う肉か!』
「うん。ホーンラビット以外の肉も見たいって」
『ほほう!』
ニャルは少し考えるように、尻尾をゆっくり動かした。
『そうだなあ。確かに、まだ料理してない肉もいっぱいあるだろうしな』
「そうだね」
『肉が違えば、味も違う。焼き方も変わるかもしれないし……』
だんだん、ニャルの声が弾んできた。
……ああ。
これは、もう料理のことを考え始めてるな。
『煮込みもいいけど、やっぱり焼くのもいいな。橘に教わった火入れも、もっと試してみたいし……』
「ニャル?」
『……いや、でも、どんな肉かによるよな。脂の多さとか、身の硬さとか……』
「ニャルー?」
『……おお!』
ようやくニャルが顔を上げた。
『ユウマ!』
「うん?」
『今度、何か新しい肉を探しに行かないか!?』
……やっぱり。
俺は思わず笑った。
「いいね!」
『おお!』
「でも、何がいるかはちゃんと調べてからね」
『もちろんだ!』
ニャルが元気よく頷いた。
『新しい食材を見つけたら、まず鑑定だな!』
「うん。危ないところも確認して、安全に持って帰ろう」
『それで、うまい料理にする!』
「ははっ。そうだね」
ニャルの尻尾が、嬉しそうに左右へ揺れる。
……うん。
また新しい楽しみができたみたいだ。
ムーンキャベツを見つけた時も、こんな感じだったな。
知らない食材を見つけて、どんな料理にするか考えているニャルは、本当に楽しそうだった。
今度は野菜じゃなくて、肉。
どんな食材が見つかるんだろう。
俺も少しわくわくしてきた。
「じゃあ、次の探索は新しい肉探しだね」
『おう!』
ニャルは俺の膝の上で立ち上がり、胸を張った。
『よーし! 今度もうまいもんを見つけるぞ!』
……ああ。
やっぱり、うちの猫は最高だ。
小さな前足を握りしめて、美味しい料理のことを考えている。
それだけでも十分かわいいのに、今度は見知らぬ誰かの夕飯まで楽しみにしているんだから。
俺はそんなニャルを抱き寄せ、頭を優しく撫でた。
「楽しみだね、ニャル」
『おう! 今度はどんな肉が食えるかな!』
俺たちは顔を見合わせて笑った。
画面の向こうには、今日も誰かが書いた料理のメモが増えている。
かわいい猫を見に来た人が、料理の作り方を覚えていく。
その料理を作って、おいしかったと教えてくれる。
そして、ニャルはそれを聞いて、また新しい料理を作りたくなる。
……うん。
これからも、そんな『ニャルの台所』であってほしいな。
俺はニャルの背中を撫でながら、次の探索で出会うかもしれない食材に思いを巡らせた。
今度は、どんな美味しいものが待っているんだろう。




