第53話 今日は、ちゃんと見せて教えるぞ
『ユウマ、もうちょっと右だ!』
「右? このくらい?」
『そうそう。……いや、少し戻してくれ』
「こっち?」
『おう! それなら見えるな!』
俺は作業台の上に立ち、カメラの画面を覗き込んだ。
今日の『ニャルの台所』は、いつもと少し違う。
作る料理は決まっている。
ムーンキャベツと豚肉の重ね蒸しだ。
昨日、ユウマとマコトに食べてもらった料理である。
二人とも気に入ってくれたし、俺自身も大満足だった。
……いやあ、あれはうまかったな。
加熱したムーンキャベツの甘みと、豚肉の旨み。
思い出すだけで、また食べたくなってくる。
でも、今日はただ料理を作るだけじゃない。
『ちゃんと危ないところが見えるようにしたいんだ』
「うん。だから今日は、手元をいつもより大きく映そうと思って」
『それがいいな!』
俺は満足して頷いた。
ムーンキャベツは、見た目こそ普通のキャベツに似ている。
だけど、芯の根元と、その周りの葉の付け根には刺激性のある汁液が含まれているんだ。
知らずに食べたら、腹の調子を悪くすることがある。
だから、安全な部分を使うには、ちゃんと下処理しないといけない。
……うむ。
この部分は、ぜひ見てもらいたいところだな。
「ニャル、ちょっとここに立ってみて」
『ん?』
ユウマが作業台の上にある目印を指さした。
俺がそこへ立つと、カメラの画面に小さな猫が映る。
……おお。
俺だ。
いつ見ても不思議な感じがするな。
「よし。これならニャルも材料も映るね」
『よし!』
俺は前足を上げた。
すると、画面の中の俺も前足を上げた。
……うむ。
当たり前なんだけど、ちょっと面白いな。
「ふふっ。ニャル、楽しそう」
『そりゃそうだろ!』
新しい食材を紹介するんだぞ。
しかも、今回はちゃんと美味しくできることも分かっている。
あとは、作り方をうまく伝えるだけだ。
……まあ、そこはユウマに頑張ってもらうんだけどな!
『ユウマ、説明は頼んだぞ!』
「うん。任せて!」
ユウマがにっこり笑った。
俺は料理。
ユウマは説明。
いつもの役割分担だ。
でも、今日はちょっとだけ気合を入れていこう。
美味しいものを作るなら、見ている人にも美味しく食べてもらいたいからな。
――――――
「こんばんは、悠真です! 今日も『ニャルの台所』を始めます!」
「にゃ!」
俺はカメラに向かって前足を上げた。
ユウマが画面を確認すると、すぐに嬉しそうな顔になった。
「おっ、今日もたくさん来てくれてるね」
『ほう!』
「『ニャルちゃん待ってた!』『今日もかわいい!』『お耳が立ってる!』だって」
『おお!』
耳か。
……確かに、今日はちょっと張り切ってるからな。
自然と立ってしまうのも仕方ない。
「あと、『今日は何を作るの?』って質問も来てるよ」
『よし。早速紹介だな!』
俺は念動力で、作業台の横に置いてあったムーンキャベツを持ち上げた。
ふわり。
丸い野菜が宙に浮く。
ユウマがそれをカメラへ見せた。
「今日の食材はこちら! ムーンキャベツです!」
淡い銀緑色の葉。
青みを帯びた葉脈。
普通のキャベツより少し小ぶりな、丸い野菜だ。
「この前、ニャルと一緒にダンジョンで見つけたんです」
『おう!』
「見た目はキャベツに似てますけど、ダンジョン食材なので、調理する前に注意が必要です」
ユウマが説明すると、コメントが増えたらしい。
「『銀色のキャベツ!?』『初めて見た』『ちょっときれい』だって」
『へへっ。そうだろ!』
見つけた時も思ったけど、なかなか面白い色なんだよな。
普通の野菜売り場に並んでいたら、思わず手に取ってしまいそうだ。
……もっとも、知らずに普通のキャベツだと思って料理したら危ないけどな。
「『これ、本当に食べられるの?』って質問が来てるよ」
『おっ。いい質問だな!』
俺はユウマへ顔を向けた。
『正しく処理して、ちゃんと加熱すれば食べられるぞ。昨日もう作ってみたからな』
「はい。安全な部分を使って、必要な下処理と加熱をすれば食べられます。実際にうちでも一度料理して、美味しく食べられることを確認しました」
『そうそう!』
「ただし、見た目が似ているからといって、普通のキャベツと同じ扱いはしないでくださいね」
……うむ。
そこが一番大事だ。
『よし。じゃあ、下処理を始めるぞ!』
「うん。ちょっと待ってね」
ユウマがカメラを動かした。
作業台の中央に置いたムーンキャベツが、画面に大きく映る。
……おお。
これなら、手元がよく見えるな。
『よし。始めよう!』
――――――
俺は念動力で専用包丁を浮かせた。
すうっと刃が持ち上がる。
……うむ。
今日も調子がいいな。
宮本に作ってもらったこの包丁は、何度使っても扱いやすい。
特に、細かい部分を正確に切りたい時にはありがたい道具だ。
「ニャル、今日はまずどこから切るの?」
『芯の根元だな』
俺は包丁の先を動かし、ムーンキャベツの下側を示した。
『ここ。それから、周りの葉の付け根も危ないんだ』
「はい。まず見てほしいのが、この芯の根元です」
ユウマがカメラを少し近づけた。
「ムーンキャベツは、芯の基部と、その周囲にある葉の付け根に刺激性の成分が含まれています」
『そうそう』
「なので、ここは食べずに取り除きます」
俺は刃を入れる位置を確かめた。
……うむ。
昨日もやった作業だけど、今日はカメラがあるからな。
いつもより、少しゆっくり動かそう。
すっ。
芯の基部へ包丁を入れる。
硬い部分に刃が通ると、切り口から白く濁った汁がにじんできた。
『……おっ。出てきたな』
「ニャル、これだね」
『おう!』
俺は包丁を止めた。
ユウマが切り口を画面に映す。
「今、白っぽい汁が出ているのが見えますか?」
ユウマは少し待ってから、画面を確認した。
「『見える!』『白い汁が出てる』『ここが危ないの?』ってコメントが来てるよ」
『そうだぞ。そのあたりに注意が必要なんだ』
「この付近の汁液には、口に入ると胃腸の不調を起こす可能性がある成分が含まれているそうです」
……うむ。
ちゃんと伝わってるみたいだな。
ただ、まだ終わりじゃない。
『ユウマ、芯だけ取ればいいわけじゃないぞ』
「そうだったね。周りの葉の付け根もだよね?」
『おう!』
俺は切り離した芯を別の容器へ移し、残った葉の付け根を確認した。
そこにも、まだ危険な部分がある。
……うん。
昨日と同じだな。
食べられるところを少しでも多く残したい気持ちはあるけど、危ない部分を残したら意味がない。
俺は包丁を動かし、付け根を十分に切り落としていった。
すっ。
すっ。
切った部分は、その都度、食用の葉とは別の容器へ移す。
「ここも取るんだね」
『そうだぞ!』
「皆さん、芯の根元だけじゃなくて、周りの葉の付け根まで取り除く必要があります」
ユウマが説明した。
「『思ったより広く取るんだ』『普通のキャベツと違うね』だって」
『そうなんだよ!』
……おお。
これはいい反応だな。
ちゃんと危ないところを見てくれている。
俺は少し嬉しくなった。
でも、次にユウマが読み上げた質問には、思わず耳が立った。
「『白い汁が出たら、その部分だけ洗えば大丈夫?』だって」
『……いや、それだけじゃ駄目だぞ』
「そうなの?」
『おう。先に危ない部分を取り除かないとな』
俺は切り落とした芯の入った容器を示した。
『洗うのは、その後だ。危ないところを残したまま洗うだけじゃ、安全な下処理にはならないぞ』
「なるほど」
ユウマは頷き、カメラへ向き直った。
「洗うだけで済ませるのではなく、危険な部分を十分に取り除く必要があるそうです。そのうえで食用部分を洗って、加熱します」
……うむ。
そういうことだ。
『あと、切る位置も適当に決めちゃ駄目だぞ』
「うん。そこも大事だね」
俺には鑑定で、どこを取り除けばいいか分かる。
でも、画面を見た人が同じように判断できるとは限らない。
だから、曖昧なまま真似してほしくはないんだ。
「安全な処理範囲を確認できない場合は、無理に調理しないでくださいね」
『おう!』
「今日の映像も、あくまで安全な部分を確認したうえで作業しているところを見てもらっています」
……よし。
大事なことは伝えられたな。
俺はほっとして、尻尾を揺らした。
……ところが。
「ニャル、『前足をそろえて真剣に見てるのかわいい』だって」
『……ん?』
「『小さい猫が安全講習してる』『包丁の先で説明してるのすごい』って」
『……おい』
何を見てるんだ、お前ら。
今は下処理の話だぞ?
「ははっ。ちゃんと手順を見てくれてる人も多いよ」
『……ならいいけどな』
まったく。
人間って、相変わらず不思議だ。
……まあ、褒められるのは嫌じゃないけど。
俺は気を取り直し、残った葉の状態を確認した。
『よし。次は洗うぞ!』
食用に残した葉を一枚ずつ広げ、切り口や付け根を確かめる。
危険な部分が残っていないことを確認してから、流水で丁寧に洗っていった。
さらさら。
銀緑色の葉に水が流れる。
その間に、危険部位の処理に使った道具と作業台も洗浄する。
「調理器具も洗うんだね」
『もちろんだ!』
「危険な汁液がついたまま、別の材料を切ったりしないようにするんですね」
『そうそう!』
俺は満足して頷いた。
……うむ。
ユウマも、ちゃんと分かってるな。
「『器具も洗うの忘れそう』『そこまで見せてくれるの助かる』だって」
『おお!』
なるほど。
そういうところも、見せた方がいいのか。
俺にとってはいつもの作業だけど、初めて料理する人には分からないこともあるんだな。
……よし。
今日の配信、なかなか勉強になるじゃないか!
……俺も、だけどな。
――――――
『さて。ここからは美味いものを作るぞ!』
「おっ、いよいよ調理だね!」
『おう!』
下処理を終えたムーンキャベツを、きれいな作業台へ並べる。
危険部位は取り除いた。
洗浄も済ませた。
あとは十分に火を通して、美味しい料理にするだけだ。
……ふふん。
ここからが俺の本番だな!
「今日の料理は、ムーンキャベツと豚肉の重ね蒸しです」
ユウマが材料を紹介した。
「豚肉と野菜を重ねて、少量のだしで蒸し煮にしていきます」
『おう! 簡単でうまいやつだ!』
「ニャルも張り切ってます」
……うむ。
もちろんだ。
昨日も作ってみたけど、まだ改善できそうなところがあったからな。
今日はそこも試してみたい。
俺はムーンキャベツの葉を広げ、厚い部分と薄い部分を見比べた。
……ふむ。
昨日は、葉の厚さによって少し食感が違ったんだよな。
それ自体は悪くなかったけど、もう少し均等に火を通せたら、もっと食べやすくなるかもしれない。
『ユウマ、今日は切り方を少し変えるぞ』
「そうなの?」
『おう。厚い部分をそろえてみるんだ』
「なるほど。昨日食べた時に言ってたことだね」
『そうそう!』
俺は包丁を動かした。
すっ。
しゃくっ。
ムーンキャベツの葉に、刃が滑らかに入っていく。
厚みのある部分は少し細めに。
薄い部分は、重ねやすい大きさに。
切り分けた葉を、念動力で順番に並べていった。
……うむ。
これなら、火の通り方もそろえやすそうだ。
「『葉っぱの厚さを変えてるんだ』『こういうの参考になる』って」
『おお!』
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
俺は満足して尻尾を揺らした。
次は豚肉だ。
薄切りの肉を用意し、ムーンキャベツと交互に重ねていく。
葉。
豚肉。
葉。
豚肉。
重ねたものを食べやすい幅に整えて、専用鍋へ並べる。
空いたところには、安全に下処理した妖精ニンジンを添えた。
「わあ。きれいに並んだね」
『へへっ。そうだろ!』
鍋の中には、銀緑色の葉と薄い桃色の肉が、きれいな層になって並んでいる。
……うむ。
見た目もいいな。
「『ミルフィーユみたい』『これなら家でも作れそう』『ニャルちゃん、並べ方まで丁寧』だって」
『おう! でも、今日はまだ完成じゃないぞ!』
俺は鍋に少量のだしと酒を加えた。
昨日より、だしの量をほんの少しだけ増やしてみる。
ただし、野菜そのものの甘みを邪魔しない程度だ。
「今日は昨日より、少しだしを増やしてるんだね」
『おう。どっちが美味いか試してみたいからな』
「なるほど。味つけは控えめなままなんだね」
『そうだぞ!』
醤油と塩も少しだけ加える。
あとは、蓋をして蒸し煮にするだけだ。
『よし。火をつけるぞ!』
鍋を温める。
しばらくすると、底の方から小さな音が聞こえ始めた。
ことこと。
ふつ、ふつ。
だしが温まり、ムーンキャベツからも少しずつ水分が出てくる。
……おお。
いい感じだな。
俺は火を弱め、鍋の様子を確かめた。
「ニャル、ここも昨日と同じ?」
『基本は同じだぞ。でも、葉っぱの厚さをそろえた分、火の通り方は確認したいな』
「うん。しっかり火を通すのが大事なんだよね」
『おう! ムーンキャベツも豚肉もな!』
ユウマがカメラへ向き直った。
「ムーンキャベツは下処理だけじゃなく、十分に加熱する必要があります。それから、豚肉も中までしっかり火を通してくださいね」
……うむ。
その通りだ。
料理は、美味しければ何でもいいってわけじゃない。
安全に食べられることが大前提だからな。
俺は鍋の様子を見守った。
やがて、蓋の隙間から白い湯気が立ち始める。
ふわっ。
『……おお』
いい匂い!
だしの優しい香りに、豚肉の旨みが混ざってくる。
そこへ、温まったムーンキャベツの甘い香り。
……うむ。
昨日も思ったけど、これがたまらないんだよな。
鼻が勝手にひくひく動いてしまう。
「ニャル、すごく食べたそう」
『……そりゃ食べたいに決まってるだろ』
「まだ料理中だよ?」
『分かってるって!』
ユウマが笑った。
「『ニャル先生、また鼻が動いてる』『お腹空いてきた』『自分で作って自分が一番食べたそう』だって」
『……むう』
まったく。
よく見てるな、お前ら。
……でも、仕方ないだろ。
いい匂いなんだから!
俺は気を取り直し、鍋の様子を確かめた。
蒸し煮を続け、豚肉とムーンキャベツの厚い部分にもしっかり火が通っていることを確認する。
……よし。
これなら大丈夫だな。
『ユウマ、そろそろ蓋を開けるぞ!』
「おっ、完成?」
『おう!』
俺は念動力で蓋を持ち上げた。
ふわあっ!
温かな湯気が、一気に広がる。
『おおお!』
これは……。
うまそうだ!
ムーンキャベツの銀色がかった葉は、加熱されて柔らかな緑色に変わっている。
淡い青みのある葉脈は、まだ少し残っていた。
その間には、十分に火の通った豚肉が重なっている。
葉の表面には、だしと肉の旨みを含んだ汁がきらきら光っていた。
「うわあ……!」
ユウマも思わず声を上げた。
「すごく美味しそう!」
『へへっ。そうだろ!』
……うむ。
昨日より、葉の形もきれいに残っている気がするな。
火の通り方もよさそうだ。
あとは、実際に食べて確かめるだけだな。
『よし。盛りつけるぞ!』
俺は重ねた葉と豚肉が崩れないよう、そっと皿へ移した。
温かなだしを少しかけ、柔らかくなった妖精ニンジンを添える。
……うむ。
完成だ!
ムーンキャベツと豚肉の重ね蒸し。
昨日より、少しだけ工夫した二回目の料理だ。
「わあ。これ、きれいにできたね!」
『おう!』
俺は満足して尻尾を立てた。
……さて。
早く食べたいな!
――――――
「それでは、今日の料理は完成です!」
ユウマが皿をカメラへ見せた。
画面には、温かな湯気を立てる重ね蒸しが映っている。
俺も隣から覗き込んだ。
……うむ。
なかなかいい見た目だな。
重ねた葉と肉が崩れず、きれいに並んでいる。
これは、見ている人も食べたくなるんじゃないか?
「『めちゃくちゃ美味そう』『甘いキャベツと豚肉、絶対合う』『晩ご飯これにしたい』だって」
『おお!』
やっぱりな!
俺は嬉しくなって、尻尾を揺らした。
「あと、『下処理のところ、すごく分かりやすかった』ってコメントも来てるよ」
『……おっ?』
そっちもか。
「『芯の周りが危ないって初めて知った』『道具を洗うところまで見せてくれて助かった』だって」
『おお!』
……いいじゃないか。
ちゃんと見てくれてたんだな。
ユウマは嬉しそうに画面を確認している。
「それから、『食べられるって聞いてたけど、処理の仕方を知らなかったから参考になった』って人もいるね」
『そりゃよかった!』
俺は大きく頷いた。
……うむ。
これは、思っていた以上に嬉しいな。
俺は料理を作るのが好きだ。
美味しいものを食べるのも好きだ。
でも、誰かが作り方を覚えて、美味しく食べられるようになるっていうのも、なかなかいい。
……へへっ。
なんだか、ちょっと得した気分だぞ。
「皆さん、今日はありがとうございました!」
ユウマがカメラへ向き直った。
「ムーンキャベツは、芯の根元と周囲の葉の付け根を十分に取り除いて、洗浄と加熱をする必要があります」
『おう!』
「安全な処理が確認できないものは、無理に調理しないようにしてくださいね」
……うむ。
最後までちゃんと説明できたな。
「それじゃあ、今日の配信はここまでです。また次回もよろしくお願いします!」
「にゃ!」
俺もカメラへ前足を上げた。
ユウマが配信を終了する。
……よし。
今日も無事に終わったな!
『ユウマ、お疲れ!』
「うん。ニャルもお疲れさま!」
ユウマが俺の頭を優しく撫でてくれた。
……おお。
気持ちいい。
ごろごろ。
思わず喉が鳴る。
「今日はいつもより説明することが多かったね」
『そうだな。でも、ちゃんと伝わったみたいでよかったぞ!』
「うん。俺も嬉しかった!」
ユウマがにっこり笑った。
……うむ。
それなら大成功だな。
『さて! 配信も終わったし、飯にするか!』
「ははっ。やっぱりそれが一番だね」
『当たり前だろ!』
せっかく美味そうにできたんだからな。
早く食わないと、冷めちゃうじゃないか!
――――――
「いただきます!」
「いただきます」
『にゃ!』
いつもの食卓。
ユウマとマコトと俺の三人で、出来上がった重ね蒸しを囲んでいる。
配信はもう終わった。
ここからは、家族だけの時間だ。
「今日もいい匂いねえ」
マコトが嬉しそうに笑った。
「昨日の重ね蒸し?」
『おう! でも、今日はちょっと工夫してみたぞ!』
「あら、そうなの?」
「葉っぱの切り方と、だしの量を変えたんだよね」
ユウマが説明する。
『そうそう!』
……うむ。
さて、どうかな?
ユウマが箸を伸ばし、ムーンキャベツと豚肉を一緒につまんだ。
ふわっと湯気が立つ。
もぐ。
もぐもぐ。
……どうだ?
「……うん!」
『おっ!?』
「美味い!」
『よし!』
俺は尻尾をぴんと立てた。
「昨日のも美味しかったけど、今日のは葉っぱの食感がそろってる感じがする」
『おお!』
「あと、だしの味がちょっとしっかりしてるね」
『そうだろ!』
……へへっ。
狙い通りだな。
マコトも一口食べて、ゆっくり頷いた。
「本当ね。野菜の甘みもちゃんと分かるし、豚肉ともよく合ってるわ」
『おお!』
「重ね方もきれいになってるわね」
『へへっ。ありがとな!』
……うむ。
二人とも気に入ってくれたみたいだ。
俺も自分の分を食べてみよう。
ぱくっ。
もぐもぐ。
『……おおっ!』
うまい!
柔らかいムーンキャベツの甘み。
その間に重なった豚肉の旨み。
だしの味が昨日より少しだけはっきりしていて、葉を噛むたびに美味しさが広がってくる。
……うむ。
これは、いいな!
昨日の優しい味も好きだったけど、今日のもなかなかだ。
『……よし。これはまた作りたいぞ!』
「俺もまた食べたい!」
ユウマがすぐに答えた。
「ふふっ。私もよ」
マコトも嬉しそうに笑う。
……おお。
やったな!
新しい食材だったムーンキャベツが、すっかりこの家の人気料理になりそうだ。
俺は満足して、もう一口食べた。
……うむ。
やっぱり美味いものは最高だな!
――――――
食事を終えた後。
俺はユウマの膝の上で、のんびりくつろいでいた。
……ふう。
腹いっぱいだ。
いい飯だったな。
しかも、配信もなかなかうまくいった。
下処理をちゃんと見てもらえたし、料理も美味しくできた。
……うむ。
今日は大成功じゃないか!
「ニャル、ちょっといい?」
『ん?』
ユウマがスマホを見ながら声をかけてきた。
「今日の配信、コメントが結構来てるよ」
『ほう!』
「美味しそうだったとか、作ってみたいっていうのが多いね」
『おお!』
それは嬉しいな。
……まあ、実際に作る時は安全に気をつけてほしいけど。
「それから、こんなのもあるよ」
『ん?』
ユウマは画面を見て、ゆっくり読み上げた。
「『芯の周りを切るところ、もう一回見たい』」
『おっ?』
「あと、『下処理の手順を後から確認できるようにしてほしい』って」
『……ほほう』
なるほど。
そういうことか。
配信中に一度見ただけじゃ、細かいところまでは覚えられないもんな。
俺だって、橘に教わった時は何度も手元を見ていた。
マコトの生姜焼きだって、次に作る時はもう一度確認したいと思っているし。
『……そりゃ、見返せた方がいいよな』
「うん。ほかにも、材料や手順をメモしてる人がいるみたい」
『おお!』
メモか。
……へえ。
俺の料理を見ながら、わざわざ書き留めてくれてるのか。
なんだか、ちょっと照れるな。
「ニャルの料理、作ってみたいって人が増えてるのかもね」
『……そうか』
俺はユウマの膝の上で、尻尾をゆっくり揺らした。
最初は、ただ美味いものを作りたかっただけだった。
ユウマとマコトに食べてもらって、喜んでもらえれば十分だった。
それが今では、画面の向こうにも、料理してみたいと思ってくれる人がいる。
……うむ。
悪くないな。
いや。
かなり嬉しいぞ!
『ユウマ』
「何?」
『せっかくなら、ちゃんと覚えてもらいたいな』
「……うん!」
ユウマが嬉しそうに頷いた。
『美味く作れるようになったら、きっと楽しいからな!』
「そうだね」
そう言って、ユウマは俺の頭を撫でてくれた。
……おお。
そこ、気持ちいい。
俺は目を細め、喉を鳴らす。
ごろごろ。
……ふむ。
下処理を見返したい。
作り方をメモしたい。
そういう声が出てくるってことは、俺の料理を本当に作ろうとしてくれてるんだろう。
だったら、ちゃんと安全に、美味しく作ってほしい。
俺はユウマの腕に顎を乗せながら、満足して尻尾を揺らした。
『……よし。次も、うまい料理を教えてやりたいな!』




