第52話 まずは、うちで食べてみよう
『……さて、どう料理するかな』
俺はキッチンの作業台に立ち、目の前の野菜をじっと見つめていた。
淡い銀緑色の葉。
うっすら青みを帯びた葉脈。
普通のキャベツより少し小ぶりな、丸くて立派な野菜だ。
名前は、ムーンキャベツ。
昨日、ユウマと一緒に緑葉の洞窟で見つけた、新しいダンジョン食材である。
『……うむ。やっぱり面白い色だな』
俺は鼻先を近づけた。
くんくん。
……ふむ。
見た目は変わっているけど、香りはそこまで強くないな。
ただ、普通のキャベツとまったく同じというわけでもなさそうだ。
これは、加熱したらどうなるんだろう。
……気になる。
ものすごく気になるぞ!
「ニャル、もう料理するの?」
ユウマがキッチンへ顔を出した。
『おう! 今日はこれを食ってみるぞ!』
「ムーンキャベツだね」
『そうだ!』
俺は胸を張った。
昨日は見つけただけで、まだ一口も食べていない。
鑑定で食べられる部分や下処理は分かったけど、実際の味は分からないままだ。
だから、今日はそれを確かめたい。
「何を作るか決めた?」
『それなんだよなあ』
俺はもう一度ムーンキャベツを眺めた。
煮込み。
炒め物。
蒸し料理。
いろいろ考えたけど、最初はあんまり難しいものにしたくない。
せっかく初めて食べる野菜なんだから、ムーンキャベツ自体の味を確かめたいからな。
『……よし。重ね蒸しにするか!』
「重ね蒸し?」
『おう。豚肉と葉っぱを重ねて、蒸し煮にするんだ』
「ああ、美味しそう!」
ユウマが嬉しそうに笑った。
「キャベツと豚肉って合うもんね」
『そうなんだよ!』
普通のキャベツなら、甘みと肉の旨みがよく合う。
ムーンキャベツも似たような味なら、きっと美味いはずだ。
……もちろん、実際に食べてみないと分からないけどな。
「昨日採った妖精ニンジンも使う?」
『おっ、いいな!』
そうだった。
昨日は帰り道で、ゴブリンポテトと妖精ニンジンも少し採ってきたんだった。
妖精ニンジンなら、彩りにもなるし、甘みも加えられる。
『よし。今日はムーンキャベツと豚肉の重ね蒸しだ!』
「やった!」
ユウマが嬉しそうに頷いた。
……うむ。
献立も決まったことだし、早速始めるか。
ただし。
『ユウマ、今日は下処理が大事だからな』
「うん。昨日言ってた危ないところでしょ?」
『そうそう』
さすがだな。
ちゃんと覚えてるじゃないか。
『まずは、そこをしっかり処理するぞ!』
――――――
俺はムーンキャベツを一玉、作業台の上へ置いた。
昨日は二玉採ってきたけど、今日は一玉だけ使うつもりだ。
残りは状態を確認して、また別の料理に使おう。
……さて。
ここからが大切なところだ。
『ユウマ、ちょっと見ててくれ』
「うん」
俺は念動力で専用包丁を浮かせた。
宮本に作ってもらった、俺専用の包丁だ。
何度使っても、この扱いやすさはありがたいな。
刃の向きを細かく調整できるし、狙ったところへ正確に入れられる。
……よし。
今日は特に慎重に使おう。
『危ないのは、芯の根元と、その周りの葉の付け根なんだ』
「うん。白い汁が出てたところだよね」
『そうだぞ』
昨日、採取した時にも見た。
切り口からにじんでいた、白く濁った汁液。
あれには刺激性の成分が含まれていて、口に入れると腹の調子を悪くすることがあるらしい。
だから、芯の根元を残したまま料理するわけにはいかない。
『まずは危険な部分を十分に落とす』
俺は包丁を動かした。
すっ。
硬い芯の基部へ刃が入る。
普通のキャベツより、少ししっかりした感触だな。
切り口から、白く濁った汁がにじんできた。
『……おっと』
俺は刃の動きを止め、切り口を確かめた。
……うむ。
やっぱり、ここだな。
「ニャル、昨日と同じ汁だね」
『おう。だから、この部分は食べないぞ』
芯の基部だけでなく、その周囲に接する葉の付け根も切り落としていく。
食用部分を残そうとして、危険なところまでぎりぎりに切る必要はない。
少しもったいなくても、安全な部分だけ使えばいいんだ。
「結構しっかり取るんだね」
『そうだな。ここはケチっちゃ駄目だぞ』
俺が答えると、ユウマは真剣な顔で頷いた。
……よし。
危険なところはこれで除去できたな。
切り落とした部分は、食用の葉とは別の容器へ移す。
汁液がほかの材料につかないようにして、包丁と作業台もきれいに洗った。
それから、残した葉を一枚ずつ確認していく。
『……ふむ』
葉の付け根に、危険な部分が残っていないか。
切り口に白い汁がついていないか。
何枚か重なっていた葉を広げ、丁寧に確かめる。
……うむ。
大丈夫そうだな。
最後に、流水でしっかり洗う。
念動力で葉を一枚ずつ支えながら、水を全体へ行き渡らせた。
さらさらと流れる水の下で、銀緑色の葉が揺れている。
……おお。
こうして広げると、結構きれいな葉っぱだな。
青みのある葉脈が、薄い葉の中を伸びている。
『……よし!』
俺は洗い終えた葉を、きれいなざるへ移した。
『下処理完了だ!』
「お疲れさま!」
『へへっ』
ユウマが嬉しそうに笑う。
……いやあ。
ちゃんとできたな。
でも、これで全部終わりじゃない。
ムーンキャベツは加熱も必要な食材だ。
下処理ができたからって、そのままかじるわけにはいかない。
……まあ。
ちょっとだけ味見してみたい気持ちはあるけど。
『……むむ』
「ニャル?」
『……何でもないぞ』
「今、食べようとしてなかった?」
『してないぞ!』
……危ない。
顔に出てたか。
ユウマは笑っている。
まったく。
俺だって、危ないと分かってるものを食べたりしないって。
……ただ、早く味を知りたいだけだ。
『よし。次は調理だな!』
――――――
下処理を終えたムーンキャベツを、食べやすい大きさに整えていく。
重ね蒸しだから、葉を細かく切り刻む必要はない。
豚肉と重ねやすい大きさにそろえるだけだ。
すっ、すっ。
念動力で包丁を動かす。
葉に刃が入ると、しゃきっとした感触が伝わってきた。
……おお。
なかなかいい歯応えをしてるな。
普通のキャベツより、葉が少し厚い気がする。
これは、加熱した時の変化が楽しみだぞ。
続いて、妖精ニンジン。
こちらも危険な葉の付け根と根の上部をきちんと除去して、よく洗う。
薄めに切りそろえれば準備完了だ。
豚肉は、普通の薄切り肉を使う。
ダンジョン食材じゃないけど、こういう料理にはぴったりだ。
『さて、重ねるぞ!』
俺は専用鍋を用意した。
宮本に作ってもらった、少し大きめの鍋だ。
念動力でも扱いやすくて、熱が均一に伝わりやすい。
こういう蒸し煮料理にも使いやすいんだよな。
まずは、ムーンキャベツの葉。
その上に豚肉。
またムーンキャベツ。
そして豚肉。
何層か重ねたら、食べやすい幅に切り分けて、鍋へ並べていく。
葉の淡い銀緑色と、豚肉の薄い桃色が交互に並んでいった。
『……おお!』
なかなかきれいじゃないか!
「わあ。もう美味しそう!」
ユウマが隣から覗き込んだ。
「まだ火も通してないのに、ちゃんと料理っぽいね」
『へへっ。そうだろ!』
俺は満足して頷いた。
でも、ここからが本番だ。
空いているところへ妖精ニンジンを添え、少量のだしと酒を加える。
味つけは、塩と醤油をほんの少し。
……うむ。
今日はこれくらいでいいだろう。
ムーンキャベツの味を確かめたいからな。
「いつもより薄味?」
『そうだな。最初から濃い味にしちゃうと、野菜の味が分からなくなるだろ?』
「ああ、なるほど」
ユウマが頷いた。
『それに、豚肉からも旨みが出るからな』
この前、マコトに生姜焼きを教わった時のことを思い出す。
あの時、マコトはユウマの好みに合わせながらも、調味料を入れすぎないようにしていた。
簡単に作る。
でも、美味しく作る。
家庭料理には、そういう工夫があるんだよな。
それから、橘に教わったことも大切だ。
肉の厚さ。
火の通り方。
加熱しすぎた時の変化。
同じ肉でも、調理法によって気をつけるところが変わる。
今日は豚肉だから、中心まで十分に加熱することが必要だ。
ただ、強火で一気に煮詰めればいいってわけでもない。
『よし。蓋をするぞ!』
鍋に蓋をして、火をつける。
最初は少し強めに。
中のだしが温まり、湯気が上がり始めたら火を弱める。
ことこと。
鍋の中から、小さな音が聞こえてきた。
……おっ。
始まったな。
俺は耳をぴんと立てた。
しばらくすると、蓋の隙間から白い湯気が立ち上ってきた。
ふわっ。
『……おお』
いい匂い!
最初に感じたのは、だしの優しい香り。
そこへ豚肉の旨みを含んだ湯気が混ざってくる。
それから、温まった葉物野菜の香り。
……うむ。
これは、なかなか期待できそうだぞ。
俺の鼻が勝手にひくひく動いた。
「ニャル、いい匂いだね」
『おう!』
ユウマも嬉しそうだ。
……ただし、まだ蓋を開けるには早いな。
豚肉にもムーンキャベツにも、ちゃんと火を通さないといけない。
『もう少し待とう』
「うん」
俺は鍋の温まり方を確かめながら、火を調整した。
……ふむ。
専用鍋のおかげで、全体へ均等に熱が回っているみたいだな。
あんまり強く加熱し続けると、せっかくの葉が崩れてしまうかもしれない。
だから、火が通った後に無駄に煮続ける必要はない。
そういう見極めも、料理の腕の見せどころだ。
ことこと。
ふわっ。
湯気が立つたびに、いい匂いが広がっていく。
……むう。
腹が減ってきたな。
『……まだかな』
「ニャル、さっきから何回も言ってるよ」
『そうか?』
「うん」
ユウマが笑った。
……仕方ないだろ。
初めての食材なんだぞ。
早く食べてみたいじゃないか!
それでも、ちゃんと待つ。
加熱状態を確かめ、豚肉に十分火が通っていることも確認する。
ムーンキャベツも、厚い部分までしっかり熱が入っていた。
『……よし!』
俺は蓋を持ち上げた。
ふわあっ!
温かな湯気が、一気に広がった。
『おおお!』
これは……。
うまそうだ!
鍋の中では、ムーンキャベツと豚肉がきれいに重なっている。
さっきまで銀色が目立っていた葉は、加熱されて柔らかい緑色に変わっていた。
ただ、青みのある葉脈はまだうっすら残っている。
そして、葉の間には豚肉の旨みを含んだだしが染み込んでいるようだった。
……うむ。
これは、かなりいい出来じゃないか?
「わあ……!」
ユウマも鍋を覗き込んだ。
「すごく美味しそう!」
『へへっ。そうだろ!』
俺は満足して尻尾を立てた。
……ああ。
でも、まだ分からないぞ。
見た目が美味そうでも、実際の味は食べてみないと分からないからな。
『よし。盛りつけるぞ!』
俺は重ねた葉と豚肉が崩れないよう、念動力でそっと持ち上げた。
温かいだしも少し添える。
最後に、柔らかくなった妖精ニンジンを皿の端へ。
……うむ。
完成だ!
ムーンキャベツと豚肉の重ね蒸し。
さて。
いよいよ、初試食だな!
――――――
「わあ。今日はまた新しい料理なのね」
夕食の時間。
食卓へ並んだ皿を見て、マコトが嬉しそうに笑った。
『おう! 昨日採ってきたムーンキャベツだぞ!』
「これがそうなの?」
マコトが興味深そうに皿を覗き込む。
「きれいな色ねえ。普通のキャベツとはちょっと違うわ」
『そうなんだよ!』
加熱した後でも、葉には独特の色合いが少し残っている。
見た目だけでも、普通のキャベツとは違う野菜だと分かるくらいだ。
「どんな味がするのかしら」
『俺もまだ食ってないから、楽しみだぞ!』
「ふふっ。じゃあ、みんなで確かめましょうか」
『おう!』
「いただきます!」
「いただきます」
『にゃ!』
ユウマが箸を伸ばした。
重ね蒸しの一切れを持ち上げると、ムーンキャベツの葉と豚肉がきれいに重なっている。
湯気がふわりと立った。
「……うわ、いい匂い」
ユウマが嬉しそうに笑う。
そして、そのまま口へ運んだ。
もぐ。
もぐもぐ。
……どうだ?
俺は思わず身を乗り出した。
ユウマはゆっくり噛んでから、目を丸くした。
「……あっ!」
『おおっ!?』
「これ、美味い!」
『本当か!?』
「うん! すごく美味しい!」
おおお!
やったぞ!
……いや、待て。
何がどう美味いんだ?
『ユウマ、葉っぱはどうだ?』
「葉っぱ?」
『おう! 普通のキャベツと違うか?』
「うーん……」
ユウマはもう一口食べ、少し考えた。
「普通のキャベツより、甘みがはっきりしてる気がする」
『ほほう!』
「あと、柔らかいんだけど、ちゃんと歯応えが残ってる」
『おお!』
なるほど!
鑑定で分かっていた調理適性とも合っているな。
「豚肉と一緒に食べると、すごくいい感じ」
ユウマは嬉しそうに頷いた。
「葉っぱの甘さとお肉の旨みが合ってるんだよね」
『よし!』
俺は尻尾をぴんと立てた。
狙い通りじゃないか!
「私も食べてみようかしら」
マコトが箸を伸ばした。
ムーンキャベツと豚肉を一緒につまみ、ゆっくり口へ運ぶ。
もぐもぐ。
……どうだ?
「あら……」
マコトの表情が柔らかくなった。
「本当に甘いのね」
『おお!』
「それに、香りもいいわ」
『香りか!』
「ええ。普通のキャベツより少しすっきりした感じがするかしら」
……ほほう。
なるほどな。
そういう違いもあるのか。
「でも、主張が強すぎないから、豚肉ともよく合ってるわね」
『おお!』
俺は嬉しくなった。
甘みだけじゃなく、香りも違う。
しかも、肉との相性もいい。
……うむ。
これはなかなか使いやすそうな野菜じゃないか!
「こういう料理なら、普段の食卓にも出しやすそうね」
マコトが言った。
『本当か?』
「ええ。材料を重ねて蒸すだけなら、そんなに難しくないもの」
『おお!』
そうだよな。
今日の料理は、下処理さえきちんとできれば、それほど複雑なものじゃない。
味つけだって、だしと少しの調味料だけだ。
……いや、だからこそ美味しくできるのかもしれないな。
「ニャル、前に私が言ったこと覚えててくれたの?」
『ん?』
「普段の料理は、手軽に作れるのも大事だってこと」
『もちろんだ!』
俺は胸を張った。
『マコトに教わってから、そういう料理ももっと覚えたいと思ってたんだ』
「あら……」
マコトが嬉しそうに笑った。
「そう言ってもらえると、教えた甲斐があるわね」
『へへっ』
……うむ。
今日は、ちゃんと勉強したことを活かせたみたいだな。
橘に教わった火加減。
マコトに教わった家庭料理の工夫。
どっちも役に立ったぞ!
……さて。
そろそろ、俺も食うか。
俺は自分用に小さく切り分けた重ね蒸しへ顔を近づけた。
ふわっ。
温かな湯気が鼻をくすぐる。
……おお。
これは、たまらんな!
『いただきます!』
ぱくっ。
もぐ。
……ん?
もぐもぐ。
『……おおっ!』
うまい!
最初に感じたのは、ムーンキャベツの甘みだった。
噛むと、柔らかい葉から優しい甘さが広がってくる。
でも、全部がくたくたになっているわけじゃない。
葉の厚い部分には、ほんの少しだけ歯応えが残っていた。
しゃくっ。
……おお。
この食感、いいな!
しかも、豚肉の旨みが染み込んでいる。
葉を噛むたびに、だしと肉の美味しさが一緒に広がってくるんだ。
……うむ。
これは、普通のキャベツとはまた違う美味さだぞ!
『ユウマ!』
「ん?」
『これ、すごく美味いな!』
「ははっ。自分で作ったのに?」
『当たり前だろ! 初めて食うんだからな!』
ユウマが楽しそうに笑った。
……いやあ。
いいものを見つけたな。
ムーンキャベツ。
見た目も面白いし、味もいい。
しかも、いろんな料理に使えそうだ。
……ああ。
これは、次に作るものも考えたくなるぞ。
俺はもう一口食べた。
ぱくっ。
もぐもぐ。
……うまい。
本当にうまいな、これ。
思わず尻尾がゆらゆら動いてしまう。
「ニャル、すっごく幸せそう」
ユウマが笑った。
『そりゃそうだろ!』
美味い新食材を見つけて。
ちゃんと料理できて。
みんなにも喜んでもらえた。
……こんなに嬉しいこと、なかなかないぞ!
――――――
「ごちそうさま!」
「ごちそうさまでした」
『にゃ!』
夕食を終えた後。
俺はユウマの膝の上で、今日の料理を振り返っていた。
……うむ。
初めてのムーンキャベツ。
結果は大成功だな!
ただ、改善できそうなところもある。
『……次は、もう少し葉っぱの大きさをそろえてみるか』
「ん?」
『今日の重ね蒸しだ』
「ああ」
『葉っぱの厚いところと薄いところで、ちょっと食感が違っただろ?』
「うん。そうだったかも」
『次は切り方を変えてみたいな』
厚い部分と薄い部分を、もう少し均等に重ねる。
そうすれば、火の通り方もそろえやすくなるはずだ。
それに、豚肉の重ね方だって工夫できそうだ。
『あと、だしの量も少し調整してみたい』
「へえ」
『今回は甘みを確かめたかったから薄味にしたけど、もう少しだしを効かせても美味そうだぞ』
「それも食べてみたいな!」
ユウマが嬉しそうに笑った。
……おお。
そう言われると、また作りたくなるじゃないか。
「でも、今日のもすごく美味しかったよ」
『へへっ。ありがとな!』
俺は満足して喉を鳴らした。
ごろごろ。
ユウマが耳の後ろを撫でてくれる。
……おお。
いいぞ、そこ。
もう少し撫でてくれ。
俺が目を細めていると、ユウマがふと思い出したように言った。
「そうだ、ニャル」
『ん?』
「今日の料理、配信でも作ってみない?」
『……配信か?』
「うん」
ユウマは頷いた。
「ムーンキャベツって、まだあんまり知られてない食材でしょ?」
『そうだな』
「それに、ちゃんと危ないところを取らないと食べられないんだよね」
『おう』
「だったら、安全な下処理から作り方まで見せたら、喜ばれるんじゃないかな」
……ほほう。
なるほどな。
俺は少し考えた。
確かに、今日の重ね蒸しは美味かった。
マコトもユウマも気に入ってくれたし、俺自身も満足している。
しかも、作り方はそこまで難しくない。
ただし。
『危ないところは、ちゃんと見せないとな』
「うん。そこが一番大事だと思う」
『芯の根元と葉の付け根。それから、洗うところと加熱するところもな』
「そうだね」
ユウマが真面目な顔で頷いた。
……うむ。
今までも配信で下処理を説明することはあった。
でも、今回は初めて扱う人が分かるように、もう少し丁寧に見せた方がよさそうだ。
俺は料理すること自体が好きだけど、ほかのやつが安全に美味いものを作れるようになるのも嬉しい。
この前だって、俺の料理を参考にしてくれた人がいたからな。
『……よし!』
俺は尻尾を立てた。
『じゃあ、今度は作り方を見せてやるか!』
「やった!」
『ただし、今日と同じ料理でも、もっと分かりやすく作るぞ』
「うん。俺も説明を頑張るよ!」
ユウマがにっこり笑った。
……へへっ。
それなら安心だな。
俺は料理。
ユウマは説明。
いつもの役割分担だ。
ただ、今度は見ている人がちゃんと作れるように、少し工夫してみよう。
今日見つけた改善点も、試してみたいしな。
『ユウマ』
「何?」
『これ、作り方を教えたら喜ばれそうだな!』
「うん。俺もそう思う!」
ユウマが俺を抱き上げ、嬉しそうに笑った。
……うむ。
楽しみがまた一つ増えたな。
ムーンキャベツ。
昨日までは名前も知らなかった野菜だけど、今日は家族みんなの「また食べたい」になった。
……いいじゃないか。
やっぱり、新しい食材を見つけるのは楽しいな!
俺はユウマの腕の中で満足して尻尾を揺らした。
さて。
次はもっと美味しく、もっと分かりやすく。
……よし。
また腕の見せどころだな!
――――――
【猫のレシピ帳】
Recipe.015
■料理名
ムーンキャベツと豚肉の重ね蒸し
■使用食材(1人前)
・ムーンキャベツ(安全に下処理した葉) …… 約100g
・豚薄切り肉 …… 約100g
・妖精ニンジン(安全に下処理したもの) …… 約20g
・だし …… 約60ml
・酒 …… 小さじ1
・醤油 …… 小さじ1/2
・塩 …… 少々
■作り方
① ムーンキャベツの芯の基部と、そこに接する葉の付け根部分を十分に取り除く。危険な汁液が食用部分に残らないようにし、使用した包丁や作業台を洗浄する。残した葉も流水でよく洗う。
② 妖精ニンジンは葉の付け根と根の上部をやや厚めに除去し、よく洗って薄切りにする。豚肉とムーンキャベツは重ねやすい大きさに整える。
③ ムーンキャベツと豚肉を交互に重ね、食べやすい幅に切って鍋へ並べる。妖精ニンジンを添え、だし、酒、塩、醤油を加える。
④ 蓋をして蒸し煮にする。豚肉の中心まで十分に火を通し、ムーンキャベツの厚い部分にも確実に熱が入ったことを確認する。
⑤ 葉を崩さないように皿へ盛り、鍋に残っただしを少しかけて完成。
■味の評価
★★★★★
ムーンキャベツ、すごく美味いぞ!
普通のキャベツより甘みがはっきりしていて、柔らかいのに軽い歯応えも残っている。
豚肉の旨みが葉に染み込んで、噛むたびに美味しい!
最初は薄味で作ってみて正解だったな。
■ワンポイント
ムーンキャベツは、芯の根元と周囲の葉の付け根に刺激性の汁液を含む。
危険部位を十分に除去し、洗浄と加熱を確実に行うこと。見た目が普通のキャベツに似ていても、生食や通常のキャベツと同じ下処理では安全とは限らない。
重ね蒸しは、葉と肉の厚みをできるだけそろえると火が通りやすい。豚肉は必ず十分に加熱する。
最初は控えめな味つけにすると、ムーンキャベツの甘みを楽しみやすいぞ!
■ユウマの感想
「葉っぱがすごく甘くて、お肉とも合うね! 柔らかいのにちゃんと歯応えがあって、これ好きだなあ。また食べたい!」
■マコトの感想
「優しい甘みで、とても美味しかったわ。普通の家庭料理にも使いやすそうね。危ない部分の処理さえきちんとできれば、いろいろな料理に合わせられそう」
─ 今日のひとこと ─
新しい食材を見つけて、初めて料理して、みんなで食べる。
やっぱりこれが一番楽しいな!
ムーンキャベツは大成功だったぞ。
今度は配信で、ちゃんと安全な作り方を見せてやろう。
……その前に、残りの一玉でも何か作ってみたいな。
へへっ。楽しみだ!
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