第51話 あの葉っぱ、食べられるのか?
『ユウマ、今日はあっちの道へ行くんだよな?』
「うん。前に話してた枝道だね」
『よし!』
俺は思わず尻尾を立てた。
今日は、緑葉の洞窟へ探索に来ている。
目的はもちろん、食材探しだ!
ただし、いつもとは少し違う。
今回は、まだ俺たちが立ち入ったことのない枝道を調べてみることになっている。
この前、レンたちと一緒に探索した時に、ユウマが教えてくれたんだ。
緑葉の洞窟には、まだ調べていない場所がたくさんあるって。
……それを聞いてから、ずっと気になってたんだよな。
だって、考えてみてくれ。
いつも通っている場所ですら、ゴブリンポテトや妖精ニンジンみたいな美味しいものが採れるんだぞ?
だったら、まだ行ったことのない場所には、もっといろんな食材があるかもしれないじゃないか!
『なあ、ユウマ。新しい野菜が見つかったらどうする?』
「まずは安全に食べられるか確認するんでしょ?」
『……おお』
先に言われた。
「もう何回も一緒に食材探してるからね」
『へへっ。さすがユウマだな!』
俺が褒めると、ユウマは嬉しそうに笑った。
今の俺は、ユウマの肩の上に乗っている。
ここなら周囲がよく見えるし、草に埋もれる心配もない。
何より、歩かなくていい。
……いや、ちゃんと自分でも歩けるぞ?
ただ、こうして運んでもらうのも悪くないってだけだ。
「でも、知らない道だからね。今日は慎重に行こう」
『分かってるって!』
「ニャルが食材を見つけたら、急に飛び出さないようにね」
『……おう』
むう。
信用されてないな。
……まあ、食材を見つけるとちょっと興奮することはあるけど。
ちゃんと危険な場所だって分かってるぞ。
俺はユウマの肩に前足を置き、洞窟の奥へ視線を向けた。
さて。
今日は何が見つかるかな!
――――――
緑葉の洞窟は、今日も緑に包まれていた。
洞窟なのに、あちこちから草木が生えている。
岩壁を覆う苔。
足元に広がる草。
天井近くまで伸びた木々。
見慣れた光景だけど、何度来ても不思議な場所だ。
『おっ、ゴブリンポテト』
「ほんとだ」
歩いている途中で、見覚えのある葉が目に入った。
その少し先には妖精ニンジンも生えている。
……うむ。
いつもの食材たちだな。
『帰りに少し採っていくか?』
「そうだね。でも、今日は新しい道が目的だから」
『分かってるって!』
俺は頷いた。
今は、いつもの買い出しとは違う。
新しい食材を探すのが目的だ。
……まあ、帰りにいいものがあったら持って帰るけどな!
しばらく進むと、ユウマが足を止めた。
「ここだね」
『おお?』
正面には、いつも通っている道が続いている。
その脇に、岩と草に隠れるような細い通路があった。
以前も見かけたことはあるけど、そっちへ進んだことはない。
『あそこか!』
「うん。地図にも枝道があることは載ってるけど、俺たちはまだ入ってないんだ」
『ほほう』
なるほど。
まったく知られていない場所というわけじゃないのか。
でも、俺たちにとっては初めての道だ。
……これは楽しみだな!
「まずは入口を確認しよう」
ユウマは剣の柄に手を添え、通路の奥を確かめた。
俺も耳を立てる。
……ふむ。
水の滴るような音がするな。
それから、草が擦れる小さな音。
さっきまでの広い通路より、少し空気が湿っている気がする。
『なんか、雰囲気が違うな』
「そうだね。こっちはあんまり日が差さないみたい」
ユウマが周囲を見渡した。
緑葉の洞窟には、洞窟なのに明るい場所がいくつもある。
でも、この枝道は岩が張り出していて、光の届き方が少し違っていた。
足元の草も、いつもより背が低い。
代わりに、岩の隙間から小さな葉がたくさん伸びている。
『……おお』
これは期待できそうだぞ。
植物の種類が違えば、生えている食材も違うかもしれない。
「ニャル、周りを見ててね」
『おう!』
ユウマは目印になる岩の形を確かめながら、ゆっくり枝道へ入っていった。
通路は思ったより狭い。
ところどころ草が伸びていて、足元も少し滑りやすそうだ。
ユウマは歩幅を小さくし、慎重に進んでいく。
……うむ。
こうして見ると、ユウマもずいぶん探索に慣れたな。
前は初めての場所へ行く時、もっと緊張していた気がする。
今だって油断しているわけじゃない。
でも、周りを確かめる動きに余裕がある。
……よしよし。
いい感じに育ってるじゃないか!
俺が満足して頷いていると、ユウマが小さく息を吐いた。
「……ニャル、ちょっと待って」
『ん?』
声が低い。
俺も耳を立てた。
……あ。
何か聞こえる。
がさっ。
草の向こうで、何かが動いた。
「魔物がいるみたい」
『……ゴブリンか?』
「多分ね。足音が複数ある」
ユウマは剣を抜いた。
……おお。
複数か。
これは、ちょっと注意した方がよさそうだな。
――――――
ユウマは通路の少し広い場所へ戻り、俺を安全な岩陰へ下ろしてくれた。
「ニャル、ここで待ってて」
『おう。気をつけろよ!』
「うん」
俺は岩陰に身を寄せた。
すぐ近くにはユウマがいる。
何かあれば、すぐに動ける位置だ。
……とはいえ。
俺は戦闘員じゃないからな。
ここはユウマに任せよう。
がさがさっ。
草が揺れた。
そして、細い通路の向こうから姿を現したのは、やっぱりゴブリンだった。
一匹。
二匹。
……おっ。
三匹いるな。
「ギィッ!」
先頭のゴブリンが、こちらを見つけて鳴いた。
手には粗末な棍棒を持っている。
後ろの二匹も、それぞれ武器を握っていた。
……ふむ。
ゴブリン三匹か。
以前のユウマなら、かなり慎重に戦う相手だっただろう。
でも、今はどうかな?
俺は岩陰から顔を出し、ユウマの様子を見守った。
「……よし」
ユウマが剣を構える。
ゴブリンたちが、こちらへ近づいてきた。
先頭の一匹が棍棒を振り上げる。
「ギャッ!」
……来るぞ!
ユウマは横へ一歩動いた。
ぶんっ!
棍棒が空を切る。
その直後、ユウマの剣が振り抜かれた。
ざしゅっ!
ゴブリンが倒れる。
『おおっ!』
速い!
それに、無駄な動きが少ないな。
前なら、攻撃を避けた後に一度距離を取っていた気がする。
今は、避けた動きからそのまま反撃している。
……これは、なかなかいいぞ!
「ギィィッ!」
残った二匹が動き出した。
一匹が正面から。
もう一匹が、少し横へ回ろうとしている。
……おいおい。
挟み撃ちにするつもりか?
でも、ユウマは慌てなかった。
横へ回ろうとしたゴブリンの動きを確かめ、足場のいい場所へ移動する。
これなら、二匹を正面に捉えられる。
……なるほど。
無理に攻撃せず、先に立ち位置を整えたのか。
さっきレンが槍で敵の動きを止めていた時も思ったけど、戦い方って本当にいろいろあるんだな。
「ギャアッ!」
正面のゴブリンが飛びかかる。
ユウマは剣で攻撃を受け流し、その勢いを利用して相手の横へ回った。
すっ。
刃が走る。
二匹目が倒れた。
……おお!
いいぞ、ユウマ!
残るは一匹。
ゴブリンは一瞬足を止めたけど、すぐに棍棒を振り上げた。
ユウマは相手との距離を測り、半歩だけ前へ出る。
ゴブリンが攻撃しようとした瞬間、その腕より先に剣が届いた。
ざんっ!
最後の一匹が倒れる。
……おおお!
『ユウマ!』
「うん。終わったよ」
ユウマはすぐには剣を下ろさなかった。
草むらの奥。
枝道の先。
そして、俺のいる岩陰。
順番に周囲を確かめてから、ようやく息を吐く。
「……よし。ほかにはいなさそうだね」
『おお! すごかったぞ!』
俺は岩陰から飛び出し、ユウマの足元へ駆け寄った。
『三匹とも、あっという間だったな!』
「そうかな?」
『そうだぞ! 前よりずっと動きがよかった!』
ユウマは少し照れたように笑った。
「最近、剣が前より軽く感じるんだよね」
『ほほう』
「踏み込む時も、あんまり力まなくなった気がする」
『おお!』
やっぱり成長してるんだな。
飯を食って、探索して、また飯を食って。
そうやって過ごしてきたうちに、少しずつ強くなっている。
もちろん、ユウマ自身が練習してきたことも大きいんだろう。
さっきの立ち回りなんて、力が強いだけじゃできないからな。
『よしよし。いい感じだ!』
「ははっ。ニャルに褒められると嬉しいな」
ユウマがしゃがみ込み、俺の頭を撫でた。
……おお。
そこ、気持ちいいぞ。
ごろごろ。
……いや。
今は撫でられてる場合じゃなかったな。
『でも、怪我はしてないか?』
「うん。大丈夫」
『本当か?』
「本当だよ。ほら」
ユウマは腕や足を軽く動かしてみせた。
防具にも、大きな傷はなさそうだ。
……うむ。
それならよし!
強くなってくれるのは嬉しいけど、怪我をしてほしいわけじゃないからな。
俺にとっては、ユウマが無事に帰ってくれることが一番大事だ。
「もう少しだけ奥を見てみようか」
『おう!』
「でも、危なそうなら引き返すからね」
『もちろんだ!』
俺は大きく頷いた。
……さて。
戦闘は終わった。
次は、俺の出番だな!
――――――
ゴブリンと遭遇した場所を抜けると、通路は少しずつ広くなっていった。
岩壁には苔が増え、足元の土もしっとりしている。
さっきまでとは、明らかに植物の種類が違う。
『……おお』
俺はユウマの肩の上から、周囲をじっと見つめた。
見慣れない草。
小さな葉。
岩の隙間に生えた植物。
……うむ。
これは、何かありそうだぞ。
「ニャル、何か見つかった?」
『まだだ。でも、面白そうな場所だな!』
「そうだね。いつもの道とは雰囲気が違う」
ユウマがゆっくり進む。
その先には、岩壁が少しへこんだ場所があった。
上から張り出した岩のせいで、周囲よりも日陰になっている。
地面には薄く湿り気があり、苔の間から何かの葉が顔を出していた。
……ん?
『……ユウマ』
「どうしたの?」
『ちょっと待ってくれ』
俺は耳を立てた。
今、何か変なものが見えたぞ。
いや、変というか。
……見慣れない色だったような。
『あそこ、見てくれ!』
「どこ?」
『右の岩の下だ!』
ユウマが視線を向けた。
「……あれ?」
俺たちは同時に首を傾げた。
そこにあったのは、丸く葉が重なった植物だった。
形は、普通のキャベツによく似ている。
でも、色が違う。
緑色の葉に、うっすらと銀色が混ざっている。
葉脈は少し青みを帯びていて、光の当たる部分だけが淡く輝いて見えた。
『……おおお!』
何だこれ!
キャベツか?
いや、普通のキャベツじゃないよな?
それに、よく見ると一玉だけじゃない。
岩の陰に、同じような植物がいくつも生えている。
大きさは、だいたい十五センチから二十センチくらいか。
普通のキャベツより、ちょっと小さいな。
「ニャル、これ知ってる?」
『いや、初めて見るぞ!』
「やっぱり?」
『おう!』
……うむ。
新しい食材かもしれない!
俺の尻尾が、ぴんと立った。
『ユウマ、近くで見てもいいか?』
「うん。でも、先に周りを確認するね」
『おう!』
……むう。
早く見たい。
早く調べたい。
……でも、我慢だ。
さっきだってゴブリンが出てきたばかりだしな。
俺がそわそわしながら待っていると、ユウマが慎重に周囲を確認した。
岩の陰にも、草むらの奥にも、魔物の気配はなさそうだ。
「……よし。大丈夫そうだよ」
『待ってました!』
俺はユウマの肩から地面へ下ろしてもらい、植物の前へ歩いていった。
とことこ。
……おお。
近くで見ると、ますますキャベツみたいだな。
何枚もの葉が重なって、丸い玉になっている。
ただ、普通のキャベツより少し葉が厚そうだ。
葉の縁には淡い銀色が混ざり、青みのある葉脈が中心へ向かって伸びている。
……うむ。
見た目は、なかなか美味そうじゃないか。
『……さて』
まずは鑑定だな。
俺は目の前の植物へ意識を向けた。
すると、食材の情報が頭の中へ流れ込んでくる。
……おっ。
名前は、ムーンキャベツ。
『ムーンキャベツか!』
「ムーンキャベツ?」
『おう! そういう名前らしいぞ!』
ユウマが植物を覗き込んだ。
「へえ。確かに、ちょっと月みたいな色だね」
『そうだな!』
淡い銀緑色の葉。
青みのある葉脈。
確かに、月の光を思わせる色かもしれない。
……まあ、本当に月と関係があるかは分からないけどな。
大事なのは、ここからだ。
『……ふむふむ』
俺は鑑定の情報を確かめる。
食べられるのは、葉の部分。
ただし、芯の根元と、そこに接する葉の付け根には注意が必要らしい。
そのあたりから出る白く濁った汁液には、刺激性の成分が含まれている。
間違って食べると、腹の調子を悪くすることがあるそうだ。
……なるほど。
見た目は普通のキャベツに似ているけど、やっぱりダンジョン食材だな。
「ニャル、どう?」
『食えるぞ!』
「おっ!」
『でも、そのままじゃ駄目だ』
ユウマが真剣な顔になった。
「危ないところがあるの?」
『おう。芯の根元と、葉の付け根の一部だな』
俺は前足で、植物の下側を示した。
『ここをちゃんと取り除いて、よく洗ってから加熱する必要があるみたいだ』
「なるほど……」
ユウマが頷いた。
「じゃあ、普通のキャベツと同じように切るだけじゃ駄目なんだね」
『そういうことだ!』
正しい処理方法を知っていれば、そこまで難しい食材ではないらしい。
でも、知らずに芯まで使ってしまったら危ない。
……うむ。
やっぱり鑑定しておいてよかったな。
「味はどうなの?」
『まだ食ってないから分からん!』
「そっか」
『でも、加熱すると甘みが出るみたいだぞ』
「へえ!」
ユウマが興味深そうに目を輝かせた。
「それなら、いろんな料理に使えそうだね」
『だろ!?』
俺は思わず尻尾を振った。
煮込み。
炒め物。
肉と合わせるのもいいな。
……いや。
もしかしたら、蒸しても美味いかもしれない。
甘みが出る葉物野菜なら、使い道は結構ありそうだぞ!
『……じゅるり』
「ニャル?」
『……ん?』
「今、もう料理のこと考えてたでしょ」
『当たり前だろ!』
ユウマが笑った。
「まだ採ってもいないのに?」
『美味い料理は、食材を見つけた時から始まってるんだぞ!』
「ははっ。そうだね」
……うむ。
分かってくれたようで何よりだ。
それにしても。
ムーンキャベツか。
いいものを見つけたな!
――――――
『よし。少し採って帰るぞ!』
「うん。どれくらい必要?」
『そうだなあ……』
俺は周囲を見渡した。
岩陰には、大小いくつものムーンキャベツが生えている。
ただ、今日は初めての食材だ。
いきなり大量に持ち帰る必要はない。
まずは少し採って、実際に料理してみるのがいいだろう。
『二玉くらいでいいかな』
「分かった」
『状態のよさそうなやつを選ぼう』
俺は葉の色や傷み具合を確かめた。
銀緑色がきれいに出ているもの。
外側の葉に大きな傷がないもの。
芯の周りが傷んでいないもの。
……うむ。
あれと、あれがよさそうだな。
『ユウマ、こっちの二つにしよう!』
「了解」
俺は念動力で採取用の道具を浮かせた。
まずは周囲の土を少しずつ取り除く。
葉を傷つけないように。
それから、食用部分と根元の位置を確かめて、慎重に切り離す。
すっ。
『……おっ』
切り口に、白く濁った汁が少しにじんだ。
……なるほど。
これが刺激性のある汁液か。
『ユウマ、これ見てくれ』
「ん?」
『切り口の白い汁だ。危ないのは、このあたりらしいぞ』
「あ、本当だ」
ユウマが少し離れたところから覗き込んだ。
「普通の野菜にも汁が出るものはあるけど、これは注意が必要なんだね」
『おう。口に入れないようにしないとな』
俺は切り口に触れないよう、採取したムーンキャベツを持ち上げた。
次に料理する時は、専用の作業場所で危険な部分をきちんと切り落とそう。
道具や作業台も、その都度ちゃんと洗わないとな。
……うむ。
やることは普通の下処理に近いけど、気を抜いちゃいけないぞ。
採取した一玉を、持参した袋へ入れる。
続いて、もう一玉。
こちらも状態を確認してから切り離した。
『よし! 二玉採れたぞ!』
「おお。結構きれいだね」
『だろ!』
俺は二玉を並べて眺めた。
丸く重なった銀緑色の葉。
淡い青色の葉脈。
こうして見ると、なかなかきれいな野菜だな。
……美味いかどうかは、まだ分からないけど。
期待はできそうだぞ!
「ほかのは採らなくていいの?」
『おう。初めてだし、今日はこれだけで十分だ』
全部採り尽くす必要もないからな。
ほかのムーンキャベツは、そのまま残しておこう。
また食べたくなったら、ここへ来ればいい。
……もちろん、今日採ったものが美味かったらの話だけどな!
俺は二玉の入った袋を、収納魔法でしまった。
すうっ。
袋が消える。
『……うむ!』
新食材、入手だ!
俺は嬉しくなって、その場でくるりと一回転した。
「ニャル、嬉しそうだね」
『そりゃそうだろ!』
俺は胸を張った。
『新しい食材を見つけたんだぞ!』
「うん。よかったね」
ユウマがしゃがみ込み、俺の頭を撫でてくれた。
……おお。
いいぞ。
もっと撫でてくれてもいいぞ。
ごろごろ。
……はっ。
いかん。
このままだと撫でられる方に夢中になってしまう。
『ユウマ、そろそろ帰るか?』
「うん。今日はここまでにしよう」
『おう!』
枝道は、まだ奥へ続いている。
この先にも、知らない植物があるかもしれない。
……ちょっと気になるな。
でも、今日はもう十分だ。
新しい食材も見つかったし、ユウマの成長も見られた。
それに、知らない道で欲張る必要はないからな。
『また今度、続きも見に来ようぜ!』
「そうだね。ちゃんと準備してからにしよう」
『おう!』
俺はもう一度、枝道の奥を眺めた。
……うむ。
まだ知らない場所があるって、いいな。
次は何が見つかるんだろう。
そんなことを考えるだけで、なんだかわくわくしてきたぞ。
――――――
帰り道。
俺はユウマの肩に乗りながら、ずっとムーンキャベツのことを考えていた。
……さて。
どう料理しようかな。
まずは加熱が必要だ。
それから、芯の根元と葉の付け根をきちんと取り除く。
危険な汁液が残らないように洗うのも忘れちゃいけない。
そのうえで。
……うむ。
やっぱり、最初は温かい料理がいいかな。
キャベツみたいな野菜なら、煮込んでも美味そうだ。
肉と一緒に炒めるのも悪くない。
でも、初めて食べるんだから、ムーンキャベツそのものの味も確かめたい。
『……むむむ』
「ニャル?」
『……むう』
「また料理のこと?」
『おう!』
ユウマが笑った。
「今回は何を作ろうとしてるの?」
『まだ考え中だ!』
「そっか」
『でも、まずは普通の家庭料理に使ってみたいな』
「家庭料理?」
『おう! マコトが作ってた飯みたいなやつだ』
この前、マコトに生姜焼きを教わった時のことを思い出す。
あの時は、料理を手早く美味しく作る工夫をいろいろ学んだ。
橘に教わった技術も大事だけど、家庭で気軽に作れるっていうのも大切なんだよな。
せっかく使いやすそうな野菜なんだから、難しい料理にする必要はない。
『みんながまた食べたいって思える料理にしたいんだ』
「……うん。いいね、それ」
ユウマが嬉しそうに頷いた。
「母さんも喜ぶと思う」
『だといいな!』
……そうだ。
マコトにも食べてもらいたい。
ユウマとマコトが美味しそうに食べてくれたら、きっと最高だぞ。
俺は尻尾を揺らした。
……うむ。
ますます楽しみになってきたな!
「でも、今日はまだ食べないんでしょ?」
『おう。まずはちゃんと下処理を考えてからだな』
「了解」
ユウマは安心したように笑った。
……まったく。
そんなに俺がすぐ食いつくと思ってるのか?
……まあ。
普通のキャベツなら、ちょっと葉をかじってみたい気持ちもあったけど。
今回は危ない部分があるって分かってるからな。
そこはちゃんと我慢するぞ。
やがて、見慣れた通路へ戻ってきた。
行きにも見かけたゴブリンポテトや妖精ニンジンが、いつもどおり生えている。
……おっ。
そうだった。
『ユウマ、帰りに少し採っていこうぜ!』
「ああ、さっきの野菜?」
『おう! ムーンキャベツと合わせられるかもしれないからな!』
「ははっ。やっぱり採るんだね」
『もちろんだ!』
俺たちは周囲の安全を確かめ、ゴブリンポテトと妖精ニンジンを少しだけ採取した。
……よし。
これで材料の候補も増えたな。
あとは家に帰って、ゆっくり料理を考えよう。
洞窟の出口が見えてくる頃には、俺の頭の中はすっかり夕飯のことでいっぱいになっていた。
――――――
「ただいま!」
『にゃ!』
家へ帰ると、リビングからマコトが顔を出した。
「おかえりなさい。二人とも、怪我はない?」
「うん。大丈夫!」
『おう!』
「よかった」
マコトがほっとしたように笑った。
「今日は何かいいものが採れた?」
『もちろんだ!』
俺は勢いよく答えた。
『新しい野菜を見つけたぞ!』
「あら、新しい野菜?」
「ムーンキャベツっていうんだって」
ユウマが説明する。
「見た目はキャベツに似てるんだけど、葉っぱがちょっと銀色なんだ」
「へえ。そんな野菜があるのね」
『おう! ちゃんと処理すれば食えるらしいぞ!』
俺が胸を張ると、マコトが楽しそうに笑った。
「じゃあ、またニャルの新しい料理が食べられるのね」
『任せろ!』
「ふふっ。楽しみにしてるわ」
……おお。
これは頑張らないとな!
俺は収納していたムーンキャベツを思い浮かべた。
銀緑色の葉。
青みのある葉脈。
そして、まだ知らない味。
……うむ。
どんな料理にしようかな。
あったかい煮込みもいい。
肉と合わせても美味そうだ。
でも、せっかく初めての食材なんだから、まずは葉そのものの甘みを確かめたい。
『……よし!』
俺は尻尾を立てた。
今日の探索は大成功だった。
ユウマも強くなっていたし、新しい食材も手に入った。
あとは、これを美味しい飯にするだけだ!
俺はユウマとマコトを交互に見上げた。
『二人とも、楽しみにしててくれよ!』
「うん!」
「楽しみにしてるわ」
……へへっ。
そう言われると、ますますやる気が出てくるな。
ムーンキャベツ。
まだ食べたことのない、新しい野菜。
さて。
お前をどう料理してやろうかな!
――――――
【ダンジョン食材辞典】
No.016
■名称
ムーンキャベツ
■危険度
★★☆☆☆
■ニャル評価
★★★★☆
■見た目
直径15~20センチほどの、キャベツに似た葉物野菜。
淡い銀緑色の葉が幾重にも重なり、葉脈には薄い青みがある。
光が当たると葉の表面がほのかに銀色に見える。
緑葉の洞窟の、湿り気がある日陰で発見。
普通のキャベツよりやや小ぶり。
■食用部位
安全な下処理をした葉の部分。
■危険な部位
芯の根元と、そこに接する葉の付け根部分。
この付近から出る白く濁った汁液には刺激性の成分が含まれており、誤って食べると胃腸の不調を起こすことがある。
■おすすめ調理法
◎ 肉や野菜と合わせた温かい煮込み
○ 炒め物
○ 蒸し料理
■調理のコツ
芯の基部と、危険な葉の付け根部分を十分に除去する。
白濁した汁液が食用部分に残らないよう、流水でよく洗ってから加熱する。
加熱すると甘みが増し、柔らかくなりながらも軽い歯応えが残るらしい。
■一人前
葉の部分 約100g
■メモ
『初めて見つけた銀色っぽいキャベツ! まだ食べてないけど、煮込んだら美味そうだぞ。評価は今のところ期待込みだな。ちゃんと下処理して、まずはユウマとマコトに食べてもらいたい!』




