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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第50話 三組で、初めての買い出し

『……なんか、すごい荷物だな』


 俺は目の前の大きなリュックを見上げ、思わず呟いた。


 今日の目的地は、緑葉の洞窟。


 ユウマと何度も通っている、馴染みのダンジョンだ。


 いつもならユウマと俺の二人で出かけるところだけど、今日は違う。


 レンとレオ。


 小春ときなこ。


 三人と三匹で、初めて一緒に探索することになっている。


 ……で。


 今、俺の目の前にあるのが、レンの背負ってきた大きなリュックだ。


『レン、それ全部持って潜るのか?』


「おう。いつもこんなもんだぞ」


『ほほう』


 いつも?


 俺は改めてリュックを眺めた。


 背中をすっぽり覆うくらいの大きさがある。しかも、かなり使い込まれているようだ。


「蓮、相変わらず荷物多いなあ」


 ユウマが笑った。


「まあな。ソロで潜ってた頃からの癖だよ」


 レンはそう言いながら、肩のベルトを締め直した。


「水も食料も予備を持っておきたいし、応急処置の道具も必要だろ? 帰りに素材を拾うかもしれないしな」


『なるほどな!』


 そうか。


 レンはレオと出会う前、一人でダンジョンの奥へ進んでいたんだった。


 誰かに荷物を持ってもらうわけにもいかないし、必要なものは全部自分で用意していたんだな。


 しかも、腰には短剣。


 手には長い槍を持っている。


 動きやすそうな防具も身につけていて、いかにも探索者という格好だ。


『レン、槍使いだったんだな』


「ん? そうだぞ」


 レンは槍を軽く持ち直した。


「剣も使えなくはないけど、俺はこっちの方が得意なんだ」


『おお!』


 そうなのか。


 ユウマが使っているのは剣だから、並ぶとずいぶん違うな。


 レンは槍を持つ姿も自然で、長い武器なのに邪魔そうな様子がない。


 ……うむ。


 これは、ちょっと戦うところも見てみたいぞ。


「クルルッ!」


 その足元で、レオが元気よく鳴いた。


 今日は身体に合った軽いハーネスをつけている。


 大きくなっても調整できるらしく、窮屈そうな様子はない。


『レオも準備万端だな!』


「クル!」


 レオが胸を張るように顔を上げた。


 ……おお。


 やる気満々じゃないか。


 まあ、あんまり張り切りすぎないでくれよ?


「ニャル、こっちも見て!」


 小春が嬉しそうに声をかけてきた。


 振り向くと、いつもより探索者らしい格好をしている。


 軽い防具に、小さめのリュック。


 腰には短剣があり、片手には短い杖を持っていた。


 そして、肩の近くにはきなこがふわふわ浮いている。


「にゃあ」


『おう、きなこ。今日もよろしくな!』


「んにゃ」


 きなこはのんびり瞬きをした。


 ……うむ。


 こっちは相変わらずだな。


「小春、その杖は?」


 ユウマが尋ねた。


「これ? 魔法を使う時に持ってるの。狙いをつけやすいんだよ」


『ほう!』


 魔法か!


 そういえば、小春は魔法が得意なんだったな。


 ユウマもレンも自分では魔法を使えないから、俺たちの中では貴重な戦力になりそうだ。


「私は近づいて戦うのが得意じゃないから、離れたところから攻撃することが多いかな」


「へえ。じゃあ、今日は俺たちが前に出た方がよさそうですね」


 レンが頷く。


「うん。よろしくね!」


 小春がにっこり笑った。


 ……なるほどな。


 それぞれ得意なことが違うわけだ。


 レンは槍。


 ユウマは剣。


 小春は魔法。


 レオは、あの爪と嘴がある。


 ……あれ?


『俺ときなこは?』


 俺が呟くと、ユウマが笑った。


「ニャルは荷物と食材担当でしょ?」


『おお、そうだった!』


「きなこは危険を見つけるのが得意だよ」


 小春が肩のきなこを撫でる。


「だから、私たちは周りをよく見ながら歩くね」


『うむ。それなら完璧だな!』


 俺は満足して尻尾を立てた。


 戦うやつ。


 危険を見つけるやつ。


 荷物を持つやつ。


 ……そして、美味い食材を見つけるやつ!


 これは、なかなかいい組み合わせじゃないか。


「じゃあ、そろそろ行こうか」


 ユウマが言った。


「今日は浅い階層だけにして、慣れてる道を回ろう」


「賛成!」


「俺もそれでいいぞ」


 小春とレンが頷く。


 レオが嬉しそうに鳴き、きなこは小さく翼を動かした。


『よーし! 買い出し開始だ!』


「……ニャルだけ、いつもの買い物みたいに言うよね」


 ユウマが苦笑する。


『実際、買い出しだろ?』


「まあ、そうなんだけどね」


 ……うむ。


 今日の夕飯の材料を探しに行くんだから、間違ってないよな!



――――――



 緑葉の洞窟へ入ると、ひんやりした空気が身体を包んだ。


 洞窟なのに、あちこちから植物が生えている。


 岩壁には苔が広がり、足元には草。


 少し進めば、木々の生い茂った場所まである。


 相変わらず不思議なところだ。


 でも、俺にとってはすっかり馴染みの景色でもある。


『うむ。今日も食材がいっぱいありそうだな!』


「まだ入ったばっかりだよ」


 ユウマが笑った。


 俺はユウマの肩に乗り、周りを見渡していた。


 この位置なら草に埋もれずに済むし、食材も探しやすい。


 ……まあ、歩かなくていいのもありがたいけどな。


「じゃあ、俺が先頭でいいか?」


 レンが言った。


「道の様子を見ながら進むよ」


「うん。俺は後ろと周りを見ておく」


 ユウマが答える。


「小春さんは真ん中で大丈夫ですか?」


「うん。きなこの様子も見やすいし、助かる!」


 こうして、レンとレオが前。


 その後ろに小春ときなこ。


 ユウマと俺が周囲を警戒しながら続く形になった。


 ……おお。


 なんだか本格的だな。


 普段はユウマと俺だけだから、隊列なんてあまり意識していなかった。


 でも、人数が増えると考えることも増えるらしい。


「レオ、俺より前に出すぎるなよ」


「クル!」


 レンが声をかけると、レオは素直に足を緩めた。


 ……えらいじゃないか。


 この前会った時より、ずいぶん落ち着いている気がするな。


 もっとも、歩きながらあちこちに顔を向けているところは、相変わらずだけど。


「きなこ、大丈夫?」


「にゃあ」


 小春が声をかけると、きなこは肩の近くでゆっくり翼を動かした。


 ……うむ。


 こっちは実にのんびりしてるな。


 でも、何も考えていないわけじゃない。


 きなこは時々耳を動かし、周囲の音を確かめているようだった。


「きなこって、いつもこうやって周りを見てるの?」


 ユウマが尋ねる。


「うん。何か気になるものがあると、耳や翼の動きが変わるんだ」


「へえ」


「危ない時は、私の服を引っ張って教えてくれることもあるよ」


『ほほう!』


 それは便利だな。


 ただ、きなこが何も反応しなければ絶対安全、というわけでもないだろう。


 だからこそ、レンもユウマも自分で周囲を警戒しているわけだ。


『それぞれ確認できるのはいいな』


「そうだね」


 ユウマが頷いた。


「一人だけに頼るより安心だよ」


 ……うむ。


 なるほど。


 こういうのが、パーティで探索するってことなのかもしれないな。


 それからしばらく、俺たちはゆっくり進んだ。


 途中でレンが足を止め、先の道を確かめる。


 ユウマが後方を振り返る。


 小春はきなこの様子を見ながら、無理のない速度で歩く。


 誰かが止まれば、ほかの全員も足を止める。


 ……うん。


 慣れてくると、なかなかいい感じだ。


 俺も一人で先へ行ったりせず、ユウマの肩から食材を探すことに集中する。


 すると。


『……おっ!』


 見覚えのある葉っぱを見つけた。


『ユウマ、あそこ!』


「ん? ああ、妖精ニンジン?」


『そうそう!』


 少し離れたところに、細長い葉が何本も伸びている。


 あれは、間違いなく妖精ニンジンだ。


 ……うむ。


 早速、収穫だな!


「じゃあ、周りを確認してから採ろうか」


 ユウマが言った。


『おう!』


 ……あ。


 そうだった。


 今日は三組で探索してるんだから、勝手に動いちゃ駄目なんだったな。


 俺は尻尾を揺らしながら、レンの確認が終わるのを待った。



――――――



 ところが。


「……にゃ」


 きなこが小さく鳴いた。


 さっきまで落ち着いていた耳が、ぴくりと動く。


 次の瞬間、きなこは小春の服を前足で引っ張った。


「……あれ?」


 小春が立ち止まる。


「みんな、ちょっと待って」


 その声で、全員の足が止まった。


「きなこが何か気にしてる」


 小春が声を落とした。


 俺もきなこを見る。


 小さな翼が少し開き、視線は前方の草むらへ向いていた。


 ……おっ?


 何かいるのか?


 レンもすぐに槍を構えた。


「……ああ。俺も少し気になってた」


 レンは前方へ目を向けたまま、静かに言った。


「草の向こうに何かいるな」


「魔物?」


 ユウマが尋ねる。


「多分。まだ姿は見えてないけど」


 ……ふむ。


 さすが、ソロで何度も探索してきたレンだな。


 きなこの反応がなくても、何かの気配には気づいていたらしい。


「小春さん、少し下がっててください」


 ユウマが剣へ手をかけた。


「うん」


 小春が頷き、きなこと一緒に一歩下がる。


 俺もユウマの肩から周囲を見渡した。


 ……さて。


 何が出るんだ?


 がさっ。


 草が揺れた。


 そして、そこから姿を現したのは。


『……ゴブリンか』


 小柄な人型の魔物。


 手には粗末な棍棒を持っている。


 緑葉の洞窟では珍しくもない、弱い魔物だ。


 ……まあ、弱いとはいえ、油断していい相手じゃないけどな。


「一匹だな」


 レンが短く言った。


「レオ、待て」


「クルッ!」


 レオが前へ出ようとする。


 ……おいおい。


 やる気満々だな!


 ゴブリンを見つけた途端、翼まで少し広げている。


 でも、レンは落ち着いていた。


「まだだ。俺の合図を待て」


「……クル」


 レオは一瞬だけ不満そうな顔をしたものの、その場で止まった。


 ……おお。


 ちゃんと我慢できたな。


 その間に、レンが槍の穂先を前へ向ける。


 ゴブリンが棍棒を振り上げた。


「ギィッ!」


 ……来るぞ!


 レンは一歩踏み込み、槍を突き出した。


 すっ、と鋭い動き。


 穂先はゴブリンの正面を牽制し、こちらへ近づく道を塞ぐ。


 ゴブリンが慌てて足を止めた。


 ……おお。


 速い!


 しかも、リュックを背負っているのに動きがぶれない。


 いつもあんな荷物で探索してるだけのことはあるな。


「小春さん、右側から狙えますか?」


「うん!」


 小春が短杖を構えた。


 杖の先に、小さな光が集まる。


 ……おおっ。


 魔法だ!


 俺の生活魔法とは違う、攻撃のための魔力の動きだ。


 小春はレンとレオの位置を確かめてから、杖をわずかに傾けた。


 次の瞬間。


 ぱしゅっ!


 光の塊が飛び出した。


 それはゴブリンの肩を捉え、敵の身体をぐらりと傾かせる。


「ギャッ!」


 ゴブリンの足が止まった。


 ……おお!


 すごいな、小春!


 普段はきなことのんびりしているから、こんなにしっかり戦えるとは思ってなかったぞ。


「今だ、レオ!」


「クルッ!」


 レンの合図と同時に、レオが地面を蹴った。


 小さな身体が勢いよく飛び出す。


 ……速い!


 翼を広げて一気に距離を詰め、鋭い前足を振り下ろした。


 どんっ!


 強烈な一撃。


 ゴブリンは地面へ倒れ、そのまま動かなくなった。


 ……おおお。


 あっという間だったな。


「よし、レオ!」


 レンが槍を構えたまま声をかけた。


「そのまま待て」


「クル!」


 レオは倒れたゴブリンへ近づこうとしたけど、レンの声で足を止めた。


 レンは周りに別の魔物がいないことを確かめ、それからゆっくり槍を下ろした。


「……うん。大丈夫そうだな」


 ユウマも剣から手を離す。


「お疲れ、蓮」


「おう。そっちもありがとうな」


「俺はほとんど何もしてないよ」


「いや、小春さんたちの前を空けないようにしてくれただろ」


「ああ、うん」


 ユウマが少し笑った。


 ……なるほど。


 そういうことか。


 確かに、ユウマは戦っていなかった。


 でも、小春たちの近くに立って、後ろから別の魔物が来ても対応できるようにしていたんだな。


 俺を肩に乗せたまま、周囲への警戒も続けていた。


 ……うむ。


 ユウマも、ちゃんと自分の役目を果たしていたわけだ。


「小春さんの魔法もすごかったですね」


 ユウマが言った。


「えへへ。ありがとう!」


 小春が少し照れたように笑った。


「きなこが早めに教えてくれたから、落ち着いて狙えたんだと思う」


「にゃあ」


 きなこが小さく鳴いた。


 ……そうだな。


 きなこも大活躍だったぞ。


 最初に異変を教えてくれたおかげで、みんな慌てずに済んだんだからな。


『きなこ、偉かったぞ!』


「んにゃ」


 きなこが満足そうに目を細めた。


 ……うむ。


 かわいいな。


 そして、もう一匹。


『レオもすごかったな!』


「クルル!」


 レオが嬉しそうに胸を張った。


 ……おお。


 得意げだ。


「こいつ、ゴブリンくらいなら一匹で倒せるんだけどさ」


 レンがレオの頭を撫でながら言った。


「だからこそ、勝手に突っ込まないように教えてるんだ」


『なるほどな』


「一匹だと思って飛び出したら、奥に別の魔物がいるかもしれないだろ?」


「確かに」


 ユウマが頷いた。


「レオが強くても、危ない時はあるもんね」


「そういうこと」


 レンは笑って、もう一度レオを撫でた。


「今日はちゃんと待てたな。偉いぞ」


「クルル!」


 ……うむ。


 強いだけじゃ駄目ってことだな。


 レオもまだまだ勉強中らしい。


 それにしても、レンの槍とレオの動きは相性がよさそうだった。


 レンが相手を止めて、レオが一気に仕留める。


 今はまだ単純な連携だけど、もっと息が合うようになったら、きっとすごいことになるぞ。


『……楽しみだな』


「ん? 何が?」


 ユウマが聞いてきた。


『レンとレオがもっと強くなった時のことだ!』


「ああ、確かにね」


 ユウマも嬉しそうに笑った。


「二人とも、すごいコンビになりそうだよね」


『おう!』


 ……まあ。


 うちのユウマだって、負けてないけどな!



――――――



「よし。じゃあ、今度こそ食材を採ろうか」


 周囲の安全を確かめた後、ユウマが言った。


『待ってました!』


 俺の耳がぴんと立つ。


 ……そうそう。


 今日は買い出しに来たんだった!


 戦闘も見応えがあったけど、やっぱり俺の本番はこっちだな。


 まずは、さっき見つけた妖精ニンジン。


 周りに魔物がいないことをもう一度確認してから、ユウマが俺を地面へ下ろしてくれた。


『よし。掘るぞ!』


 俺は念動力で小さな採取道具を浮かせた。


 土を傷つけすぎないように、根の周りを少しずつ掘っていく。


 さくっ。


 さくさく。


 やがて、赤みの強い根が顔を出した。


『おお! いいのが採れたな!』


「本当だ。立派なニンジンだね」


 ユウマが笑った。


「ニャル、これ何に使うの?」


 小春が興味深そうに覗き込む。


『そうだなあ。煮込みもいいし、炒め物にしても美味いぞ!』


「へえ!」


『普通のニンジンより香りも甘みも強いからな。使い方を考えるのが楽しいんだ』


 俺が説明すると、小春が嬉しそうに頷いた。


「いいね! 私も少し採ってみたいな」


『もちろんだ!』


 俺は近くに生えている別の妖精ニンジンを示した。


『根を折らないように、周りの土から掘るといいぞ』


「分かった!」


 小春がしゃがみ込み、丁寧に土を掘り始める。


 そのすぐ隣にはきなこ。


「にゃあ」


 きなこは小春の手元を、のんびり眺めている。


 ……うむ。


 実に平和な光景だな。


「よいしょ……あっ、採れた!」


『おお!』


 小春が妖精ニンジンを持ち上げた。


 少し土がついているけど、なかなか立派な一本だ。


「やった!」


「にゃあ」


 きなこが嬉しそうに鳴く。


 ……お前も手伝った気分なのか?


 まあ、かわいいからいいけどな。


「こっちにも何かあるぞ」


 今度はレンが声をかけた。


 見ると、草の間から見慣れた葉が伸びている。


『おお、ゴブリンポテトだ!』


「これか!」


 レンがしゃがみ込む。


「動画で見たことはあるけど、採るのは久しぶりだな」


『ほほう』


「俺、普段は鉱石とか魔物素材を集めることが多いからさ」


『なるほどな!』


 確かに、レンは今まで一人で奥へ進むことが多かったらしいしな。


 食材探しが目的の俺たちとは、探索の仕方も違うんだろう。


「でも、こうして見ると面白いな」


 レンが葉の周りの土を掘りながら言った。


「いつも素通りしてるものが、ちゃんと食材になるんだもんな」


『そうだぞ!』


 俺は大きく頷いた。


『ダンジョンには美味いものがいっぱいあるんだからな!』


「ははっ。ニャルと来ると、見方が変わるな」


 ……おお。


 それは嬉しいな。


 俺にとっては、ゴブリンポテトも立派な収穫物だ。


 もちろん、芽や緑化した部分には気をつけなきゃいけないけど、正しく処理すれば美味しく食べられる。


 ポテトサラダもいい。


 塩バター炒めもいい。


 ……いや。


 今日は妖精ニンジンも採れたから、具だくさんのスープなんかもよさそうだな。


『……じゅるり』


「ニャル?」


 ユウマがこちらを見た。


「今、何か食べたいもの考えてたでしょ」


『……何で分かった?』


「顔に出てるから」


 ……むう。


 そんなに分かりやすいのか、俺。


 レンと小春が笑い出した。


「ははっ。ほんと料理のことばっか考えてるんだな!」


「かわいい……!」


 ……おい。


 笑うなって。


 美味しい料理を考えるのは大事な仕事なんだぞ!


 その後も、俺たちは慣れた道だけを回った。


 岩陰ではケイブマッシュルームを少し採った。


 こっちは、石突きと根元に付いた洞窟菌糸をちゃんと除去して、十分に加熱して食べる必要がある。


 だから、採取したものはほかの食材と分けておく。


 レンが採取袋を取り出してくれたので、まずはそこへ入れた。


 ……おお。


 やっぱり、いろいろ持ってるんだな。


「これくらいでいいか?」


『おう! 助かるぞ!』


「よし」


 レンが袋の口を閉じる。


 俺は、それを収納魔法でしまった。


 すうっ。


 袋が消えると、レンが感心したように目を丸くした。


「……やっぱ便利だな、ニャルの収納魔法」


『へへっ。そうだろ!』


「俺、今まで素材を持ち帰るのが結構大変だったからさ」


 レンが自分の大きなリュックを叩く。


「たくさん採れても、持ちきれなきゃ意味ないし」


『それなら、今日の食材は俺がまとめて持っておくぞ』


「助かる!」


 ……うむ。


 こういうところでも役に立てるのは嬉しいな。


 ただし、水や応急処置の道具まで全部預かるつもりはない。


 俺とはぐれた時に、必要なものが何もないんじゃ困るからな。


『レン、自分で使う道具はそのまま持っててくれよ』


「ああ。もちろん」


「俺も水と救急用品は持ってるよ」


 ユウマが自分のリュックを軽く持ち上げた。


「私も持ってる!」


 小春も小さなリュックを見せる。


 ……うむ。


 それなら安心だ。


 便利な魔法があるからって、全部頼りきりになる必要はないからな。



――――――



「そろそろ休憩しない?」


 しばらく歩いたところで、小春が言った。


「きなこも少し休ませたいし」


「いいですね」


 ユウマが頷く。


「俺もちょうど水を飲みたいと思ってました」


 レンが周囲を見渡した。


「じゃあ、少し戻ったところに広い場所があったから、そこで休もうか」


『おお! 休憩だな!』


 ……よし。


 それなら、俺の出番だ!


 安全を確認してから、俺は収納魔法を使った。


 まずは、地面に敷くための小さなシート。


 続いて、休憩用の水や携帯食。


 さらに、俺が腰を下ろすための小さな敷物も取り出す。


『どうだ!』


「……おお」


 レンが目を丸くした。


「準備いいなあ」


『へへっ。休憩も大事だからな!』


「すごい。ちょっとしたピクニックみたい!」


 小春も嬉しそうだ。


 ……うむ。


 いい反応だ。


 探索中だからって、休憩まで味気なくする必要はないからな。


「じゃあ、私もちょっと手伝おうかな」


 小春が短杖を取り出した。


『おっ?』


 何をするんだ?


 俺が見ていると、小春は持参した飲み物の入った容器へ杖を向けた。


 小さな光が灯り、容器がほんのり温まっていく。


「はい。温かいお茶が飲めるよ」


『おおっ!』


 生活魔法か!


 ……なるほど。


 小春も普段から、こうやって休憩を快適にしてるんだな。


「きなこと二人で探索することが多いから、休憩は結構大事にしてるの」


『いいな、それ!』


「ふふっ。ニャルも生活魔法が得意なんだよね?」


『おう! 俺は収納もできるから、いろいろ持ってこられるぞ!』


「それ、すっごく羨ましい!」


 小春が笑った。


 ……うむ。


 同じ生活魔法でも、使い方はいろいろあるんだな。


 俺は荷物を持ち込める。


 小春は温かい飲み物を用意できる。


 こうして合わせれば、休憩もずっと快適になるわけだ。


「クルル……」


 レオがレンの隣に伏せた。


 さっきまで元気いっぱいだったけど、ようやく落ち着いたらしい。


 きなこも小春の近くで身体を丸めている。


 俺はというと。


 ……ふむ。


 いい場所を見つけたぞ。


 ユウマの膝だ。


『よいしょっと』


 俺が膝へ乗ると、ユウマが嬉しそうに笑った。


「ニャル、お疲れさま」


『おう!』


 頭を撫でられる。


 ……おお。


 これは最高だな。


 適度に歩いて。


 食材を採って。


 休憩して。


 しかも撫でてもらえる。


 ……うむ。


 いい探索じゃないか!


「それにしても、今日の連携はよかったな」


 レンが温かいお茶を飲みながら言った。


「最初はどうなるかと思ってたけど」


「うん。きなこが早く気づいてくれて助かったよ」


 ユウマが頷く。


「でも、蓮も気配に気づいてたんでしょ?」


「ああ。ただ、きなこの方が先だったな」


「ふふっ。きなこ、偉かったね」


 小春がきなこの頭を撫でた。


「にゃあ」


 きなこが満足そうに目を細める。


「レオもちゃんと待てたしな」


 レンもレオを撫でる。


「クル!」


 ……うむ。


 二匹とも褒められてるな。


 俺も頑張ったぞ。


 食材をいっぱい見つけたし。


 荷物も持ってるし。


 ……あと、休憩用品も出したし!


「ニャルもありがとうね」


 ユウマが俺の頭を撫でた。


『おお!』


 ……よし。


 ちゃんと分かってるじゃないか。


「今日、ニャルがいなかったら、こんなに食材採れてなかったと思うよ」


「確かになあ」


 レンが頷く。


「俺、いつもならあのニンジンも素通りしてたと思うし」


「私はケイブマッシュルームの採り方、勉強になった!」


 小春も嬉しそうだ。


 ……おお。


 そんなに褒められると、ちょっと照れるな。


『まあ、俺は美味いものを探してるだけなんだけどな!』


 三人が笑った。


 レオも釣られたように鳴き、きなこがゆっくり尻尾を動かす。


 ……うむ。


 何だか、いい感じだな。


 全員が同じことをできる必要はない。


 得意なことを持ち寄って、足りないところを補えばいい。


 ……なるほど。


 パーティで探索するのも、なかなか楽しいじゃないか。



――――――



 休憩を終えた俺たちは、それ以上奥へは進まず、来た道を戻ることにした。


 収穫は、妖精ニンジンが数本。


 ゴブリンポテトが少し。


 それから、ケイブマッシュルーム。


 普段の俺たちの買い出しと比べれば、そんなに多くはない。


 でも、今日はこれで十分だ。


「最初の合同探索としては、ちょうどよかったんじゃない?」


 ユウマが言った。


「うん。楽しかった!」


 小春が嬉しそうに頷く。


「きなこも落ち着いて探索できてたし、また一緒に来たいな」


「俺も賛成!」


 レンが笑った。


「レオもいい練習になったしな」


「クルル!」


 レオが元気よく鳴いた。


 ……おお。


 まだまだ余裕がありそうだな。


 さすがグリフォン。


 幼体でも元気いっぱいだ。


『俺も楽しかったぞ!』


「そっか。よかった」


 ユウマが笑いながら、俺を抱き上げた。


 ……うむ。


 帰りはいつもの場所だな。


 俺はユウマの腕に収まり、満足して喉を鳴らした。


 ごろごろ。


「かわいい……」


 小春が小さく呟く。


「きなこもかわいいけど、ニャルも本当にかわいいねえ」


「世界一かわいいですから!」


 ユウマが即座に答える。


「いや、レオも負けてないだろ」


 レンまで参加してきた。


 ……おい。


 また始まったのか?


「きなこが一番だよ!」


 小春も負けていない。


 ……やれやれ。


 ダンジョンから出るまで続けるつもりか?


 俺は呆れて尻尾を揺らした。


 でも、三人とも楽しそうだ。


 さっきまで戦闘や警戒をしていたのに、今はいつもの友達同士に戻っている。


 ……うむ。


 こういうのも悪くないな。


 やがて、ダンジョンの出口が見えてきた。


 外の明るさが少しずつ近づいてくる。


 俺は収納魔法の中に入れた食材を思い浮かべた。


 ゴブリンポテト。


 妖精ニンジン。


 ケイブマッシュルーム。


 ……どれも美味いんだよな。


 今日は何を作ろうかな。


 やっぱり、みんなで採った食材を使った料理がいいよな。


 ……でも。


『……なあ、ユウマ』


「ん?」


『緑葉の洞窟って、まだ行ったことない道が結構あるよな?』


「うん。もちろん」


 ユウマが頷いた。


「いつも通ってるところは慣れてるけど、まだ調べてない枝道もあるよ」


『ほほう』


 ……そうか。


 未探索の場所か。


 このダンジョンには、ゴブリンポテトや妖精ニンジンみたいな美味しい野菜がいっぱいある。


 だったら。


 まだ行ったことのないところには、俺の知らない野菜が生えてるかもしれないよな。


 ……おお。


 考えただけで、ちょっとわくわくしてきたぞ!


「ニャル、何か考えてる?」


『おう!』


「……また食材のこと?」


『よく分かったな!』


 ユウマが笑った。


「分かるよ。だって、すごく楽しそうな顔してるもん」


『へへっ』


 ……まあ、隠すつもりもないけどな。


『今度、まだ行ったことない道も見てみたいな』


「いいね。でも、今日は行かないよ?」


『分かってるって!』


 俺は大きく頷いた。


 今日は三組で、無事に帰るのが一番大事だ。


 知らない場所を探索するなら、ちゃんと準備してからにしないとな。


「また別の日に、二人で少しずつ調べてみようか」


『おお! 頼むぞ、ユウマ!』


 ……よし。


 次の楽しみも決まったな。


 今日は三組で探索できた。


 みんなの得意なことも分かった。


 食材だって、ちゃんと採れた。


 ……うむ。


 初めての合同買い出し、大成功じゃないか!


 俺はユウマの腕の中から、もう一度ダンジョンの方を振り返った。


 いつも通っている、馴染みの洞窟。


 でも、まだ知らない場所がある。


 まだ見たことのない食材も、きっとあるはずだ。


『……今度は、新しい野菜が見つかるといいな!』


 そう呟くと、ユウマが嬉しそうに笑った。


「うん。楽しみだね、ニャル」


『おう!』


 俺は尻尾をぴんと立てた。


 さて。


 今日は帰ったら、まず飯だな!


 みんなで採った野菜を、どう料理しようかな。


 ……やっぱり、探索の後は美味い飯が一番だ!

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