第49話 三匹いれば、食べ方も三通り
『……うむ。準備は万全だな!』
俺はキッチンの作業台を見渡し、満足して頷いた。
今日は、ちょっと特別な料理を作る予定だ。
ユウマとレンと小春。
それから、レオときなこと俺。
三人と三匹で、朝倉家に集まって飯を食うことになっている。
この前、もふもふ堂で三匹一緒に遊んだ時に約束したんだ。
レオには、まだ俺の料理を食べてもらったことがない。
きなこには以前、鶏肉を使った煮込みを作ってやったけど、せっかくだから今日は少し違うものにしたい。
……いやあ。
楽しみだな!
「ニャル、朝から張り切ってるね」
『当たり前だろ!』
ユウマがキッチンへ顔を出した。
俺は作業台の上に用意した鶏肉を見上げる。
『今日は三匹分の料理を作るんだからな!』
「三匹って、ニャルも入ってるの?」
『もちろんだ!』
「ははっ。そっか」
ユウマが笑って、俺の頭を撫でた。
……おお。
気持ちいい。
でも、今はそれより料理のことだ。
『ただ、まだ作り始めないぞ』
「そうなの?」
『レオが何を食べられるのか、ちゃんと聞いてからな』
「ああ、そうだったね」
ユウマが頷いた。
きなこについては、前に小春からいろいろ教えてもらった。
普段は専用フードを食べていて、加熱した肉や魚も好きらしい。
でも、初めての食材は慎重に試すようにしているそうだ。
一方、レオはグリフォンの幼体。
俺やきなことは種族も違うし、まだ成長途中なんだ。
何でも食わせていいわけじゃない。
『今日は、二匹とも食べ慣れてるものを使うつもりだ』
「うん。それが安心だね」
『おう!』
美味いものを作りたい気持ちはあるけど、無理をさせるつもりはないからな。
……まあ、俺自身は何を食おうか考えるだけで楽しいんだけど。
その時だった。
ぴんぽーん。
「あ、来たみたい!」
『おお!』
ユウマが玄関へ向かう。
俺も急いで後を追いかけた。
とことこ。
……いや、別に急ぐ必要はないんだけどな。
でも、楽しみなんだから仕方ないだろ!
――――――
「お邪魔しまーす!」
「こんにちは!」
玄関にいたのは、レンと小春だった。
そして、それぞれの足元と腕の中には。
「クルルッ!」
「にゃあ」
『おう、二匹とも来たな!』
レオが元気よく鳴き、きなこは小春の腕の中でのんびり瞬きをした。
……うむ。
相変わらず対照的だな。
「レオ、待てって!」
「クル!」
レオは俺を見つけるなり駆け寄ろうとしたけど、レンに声をかけられて立ち止まった。
前足がそわそわ動いている。
『ははっ。元気そうだな、レオ』
「クルル!」
「今日は朝からずっとこんな感じなんだよ」
レンが笑った。
「出かけるって分かったら、もう落ち着かなくてさ」
『ほほう』
それは、今日を楽しみにしていたのかもしれないな。
俺だって朝から落ち着かなかったし。
「ニャル、久しぶり!」
『おう、小春』
「今日もかわいいねえ!」
小春が嬉しそうにしゃがみ込む。
……ああ。
いつものやつだな。
俺が小春を見上げていると、きなこが腕の中からふわりと浮き上がった。
「にゃ」
『おっ、きなこ』
きなこは俺の隣へ降りると、鼻先を近づけてきた。
くんくん。
俺も挨拶を返す。
『また来てくれて嬉しいぞ』
「にゃあ」
きなこはゆっくり瞬きをした。
……うむ。
いい感じだ。
そこへレオも顔を寄せてくる。
「クル?」
きなこがちらりとそちらを見る。
でも、前みたいに距離を取ることはなかった。
少し鼻先を近づけて、それからまた俺の横へ座った。
……おお。
ちゃんと覚えてるみたいだな。
「すごい! きなこ、レオくんにも慣れたみたい!」
小春が嬉しそうに声を上げた。
「レオもちゃんと挨拶できたな」
レンがレオの頭を撫でる。
「クルル!」
……うむ。
よしよし。
これなら、今日も楽しく過ごせそうだ。
「じゃあ、みんな入って!」
ユウマが二人をリビングへ案内した。
俺も三匹の最後尾を歩いていく。
……おや。
いつもはユウマと俺だけで歩いている廊下なのに、今日はずいぶんにぎやかだな。
レオはあちこちを見ながら歩き、きなこは落ち着いた足取りでついてくる。
俺はというと。
……早く料理を始めたいな。
そんなことばかり考えていた。
――――――
『さて、早速聞きたいことがあるんだが』
リビングへ着くと、俺は二人へ声をかけた。
「ん? 何だ?」
『今日の飯のことだ』
「ああ!」
レンが嬉しそうに頷く。
「そうだった。レオに料理作ってくれるんだよな!」
『おう。ただし、普段何を食ってるか教えてくれ』
「なるほどな」
レンは足元のレオを見た。
「普段は、もふもふ堂で相談して決めた幼体用のフードが中心だよ」
『ふむふむ』
「今のところ、それで問題なく育ってるしな」
『じゃあ、それはちゃんと食わせた方がいいな』
「うん。今日も持ってきたぞ」
レンが鞄からレオ用のフードを取り出した。
……おお。
ちゃんと用意してきたのか。
『助かるぞ』
「ニャルに何か作ってもらうにしても、普段の飯は必要だと思ってさ」
『その通りだな!』
俺は頷いた。
今日作るのは、あくまで特別なご馳走だ。
普段の食事を全部置き換えるつもりはない。
『そういえば、レオは鶏肉を食えるんだったな?』
「ああ。ちゃんと火を通したやつなら、前にも食べさせてる」
『好きなのか?』
「好きだと思う。結構喜んで食べてたし」
レンが笑った。
「ただ、まだ小さいから、一度にたくさんは食べさせないようにしてる」
『なるほどな』
それなら、少量の鶏肉料理がよさそうだ。
食べ慣れている食材なら、初めてのものをいきなり試すより安心できる。
『じゃあ、レオには鶏肉を柔らかく加熱して、食べやすい大きさにしてやろう』
「おお、いいな!」
「クル?」
名前を呼ばれたレオが、嬉しそうに顔を上げた。
……ふむ。
まだ何も作ってないんだけどな。
気が早いやつだ。
『小春、きなこはどうだ?』
「うん。前に作ってもらった鶏肉の煮込み、すごく気に入ってたよ!」
『おお! それは嬉しいな!』
「今日も専用フードは持ってきたから、そっちも食べさせるつもり」
『分かった』
きなこも、いつもの食事を基本にするわけだな。
それなら、こっちも無理にたくさん作る必要はない。
「きなこは、柔らかくて水分のあるお肉が好きみたい」
『なるほど。じゃあ、前と同じように細かくほぐすか』
「うん。ありがとう!」
小春が嬉しそうに笑った。
その腕の中で、きなこがゆっくり瞬きをする。
……お前は相変わらずのんびりしてるな。
『よし。これで決まりだ!』
俺は尻尾を立てた。
『レオには、柔らかいひと口サイズの鶏肉。きなこには、しっとりしたほぐし鶏肉だな!』
「じゃあ、ニャルは?」
ユウマが聞いてきた。
『俺か?』
「うん。ニャルの分も作るんでしょ?」
『もちろん!』
俺は胸を張った。
『俺は香ばしく焼いた鶏肉にするぞ!』
「おお、美味しそう!」
『ユウマたちの分も作るからな』
「やった!」
ユウマが嬉しそうに笑う。
レンと小春も顔を見合わせた。
「えっ、俺たちの分も?」
『当たり前だろ!』
「わあ、楽しみ!」
小春が目を輝かせる。
……うむ。
作る前からそんなに喜んでもらえると、こっちまで嬉しくなるな。
『よし、料理開始だ!』
――――――
キッチンに戻った俺は、まず鶏肉を三つに分けた。
レオ用。
きなこ用。
それから、俺と人間たちの分。
今日は全部同じ鶏肉を使うけど、仕上げ方は別だ。
『最初に二匹の分から作るぞ』
「どうして?」
ユウマが聞いてきた。
『人間用の味つけをする前に、分けて調理したいからな』
「ああ、なるほど」
『それに、冷ましておく時間も必要だろ?』
「そっか!」
俺は念動力で包丁を浮かせた。
すうっと刃が持ち上がる。
すると。
「おおっ!」
レンが声を上げた。
「やっぱり目の前で見るとすごいな、これ!」
「でしょ!?」
なぜかユウマが得意げに頷いた。
「ニャルの料理、何回見ても飽きないんだよ!」
「分かる! 動画もすごいけど、実際に見るともっとすごいよね!」
小春まで参加してきた。
……おいおい。
そんなに見られると、ちょっとやりにくいぞ。
『お前ら、ちゃんと料理を見てろよ』
「見てるよ!」
『俺じゃなくて、食材の方だ!』
三人が笑った。
……まったく。
相変わらずだな。
俺は気を取り直して、鶏肉へ刃を入れた。
すっ。
柔らかい肉に、包丁が滑らかに入っていく。
レオ用は、加熱した後でも食べやすい大きさになるように切り分ける。
きなこ用は後で細かくほぐすから、今は扱いやすい大きさのままでいい。
骨や硬い部分が残っていないかも、念入りに確かめる。
『よし』
続いて、二匹用の小鍋をそれぞれ用意した。
水を入れて火にかける。
温まったところへ、鶏肉をそっと沈めた。
ことこと。
小さな泡が鍋の底から浮かんでくる。
今回は香草も塩も入れない。
余計な味をつけず、肉そのものの旨みを楽しんでもらうつもりだ。
「へえ。二匹で鍋も別なんだな」
レンが覗き込む。
『おう。同じ鶏肉でも、仕上げ方が違うからな』
レオ用は、しっかり火を通しながらも、噛みやすい柔らかさを残したい。
きなこ用は、あとで細くほぐして水分を含ませる。
食べる時の口当たりを変えるわけだ。
「ニャル、ちゃんと考えてくれてるんだね」
小春が感心したように言った。
『そりゃそうだろ。食べるやつが違うんだからな』
きなこに作ったものを、そのままレオへ出せばいいというわけじゃない。
逆も同じだ。
……まあ、鶏肉そのものは二匹とも好きみたいだけどな。
しばらくすると、鍋から温かい湯気が立ち上り始めた。
ふわっ。
『……おお』
いい匂いだな。
鶏肉の優しい香りが鼻をくすぐる。
まだ味つけもしていないのに、結構うまそうだ。
……いや。
これは二匹の分だからな。
味見したくなっても、勝手に減らしちゃ駄目だぞ。
俺は自分にそう言い聞かせた。
「ニャル、鼻がひくひくしてる」
『……気のせいだ』
「ふふっ。いい匂いだもんね」
小春が笑った。
……むう。
ばれてたか。
俺は尻尾を揺らしながら、鍋の中を確認した。
中まで十分に火が通ったところで、肉を引き上げる。
レオ用は食べやすい大きさに整え、きなこ用は念動力で細かくほぐしていく。
ほろっ。
繊維に沿って肉がほどける。
きなこ用には、調理した時の水分を少し含ませて、しっとり仕上げた。
『うむ。いい感じだ』
「わあ、柔らかそう!」
小春が嬉しそうに言った。
「きなこ、好きそうだなあ」
『そうだといいな!』
俺は二匹の料理を小さな器に盛りつけ、食べやすい温度まで冷ましておくことにした。
……さて。
次は俺たちの分だな。
『よし。今度は香ばしく焼くぞ!』
俺は人間用の鶏肉を用意した。
こちらには香草と少しの塩を使う。
さっきの二匹用とは違って、香りと焼き色を楽しむ料理だ。
フライパンを温め、肉を並べる。
じゅううっ!
『おおっ!』
いい音!
表面から脂がにじみ、香草の香りが広がっていく。
……うむ。
やっぱり、肉を焼く音はいいな。
レオ用ときなこ用の鶏肉も美味しそうだったけど、こっちはまた別の魅力がある。
焼き色がついたところでひっくり返すと、こんがりした表面が現れた。
「うわ、美味そう!」
レンが声を上げた。
「これ、絶対飯が進むやつだろ!」
「そうそう。ニャルの香草焼き、美味しいんだよ!」
ユウマが嬉しそうに言った。
「前にもホーンラビットで作ってくれたけど、あれも最高だった!」
『へへっ。そうだろ!』
俺は満足して尻尾を立てた。
……おっと。
自慢してる場合じゃない。
ちゃんと焼き加減を見ないとな。
肉の厚みを確かめ、火を調整する。
外側は香ばしく。
中は、しっかり火が通った状態で柔らかく。
そうやって焼き上げた鶏肉を、食べやすい大きさに切り分けた。
横には普通の野菜を使った付け合わせ。
白いご飯も用意する。
『よし、完成だ!』
「やった!」
ユウマが元気よく声を上げた。
……うむ。
今日もなかなかいい出来だぞ!
――――――
「いただきます!」
「いただきます!」
「いただきまーす!」
『おう!』
食卓には、ユウマとレンと小春が並んでいる。
そして、その近くには三匹分の食事場所も用意した。
レオときなこは、少し距離を空けている。
初めて一緒に飯を食うんだから、無理に隣同士にする必要はない。
俺は二匹の様子を見守りやすい位置に、自分の器を置いた。
……さて。
いよいよ実食だな!
「レオ、待てよ」
「クル!」
レオはレンの足元で、早くもそわそわしていた。
どうやら、鶏肉の匂いが気になるらしい。
「こっちはいつものフード。で、こっちがニャルの料理な」
「クルル!」
『落ち着いて食えよ、レオ』
レンが食べやすい温度になっていることを確かめ、小さく切り分けた鶏肉を少しだけ器へ入れる。
「よし、どうぞ」
その瞬間。
「クルッ!」
レオが勢いよく顔を近づけた。
ぱくっ。
もぐもぐ。
……おお。
食いつきがいいな!
レオは鶏肉を噛み、飲み込むと、すぐに次を探し始めた。
「クルル!」
「ははっ。気に入ったか?」
レンが嬉しそうに笑った。
「でも、ゆっくりな」
「クル?」
「ちゃんと噛んで食べろよ」
レオは一度レンを見上げ、それから残りの鶏肉へ顔を戻した。
今度は少し落ち着いて食べ始める。
……うむ。
いいぞいいぞ。
『美味いか、レオ?』
「クルル!」
レオが嬉しそうに鳴いた。
……おお!
これは、気に入ってくれたみたいだな!
俺の尻尾が思わずぴんと立った。
「ニャル、すげえな!」
レンが顔を輝かせる。
「レオ、めちゃくちゃ喜んでるぞ!」
『へへっ。そりゃよかった!』
「ほら、もう次欲しがってる」
レオが器を見つめ、前足をそわそわ動かしている。
……おいおい。
そんなに喜んでくれるのか。
これは作った甲斐があるな!
『でも、今日は少しだけにしておこうな』
「うん。あとはいつものフードを食べさせるよ」
レンが頷いた。
レオは少し名残惜しそうだったけど、普段のフードにもちゃんと口をつけ始めた。
……よし。
それでいい。
特別なご馳走は、たまに食べるから楽しいんだからな。
さて。
もう一匹はどうだ?
『きなこ』
「にゃ?」
きなこがゆっくり顔を上げた。
小春の隣で、いつものように落ち着いている。
「きなこ、こっちも食べてみる?」
「にゃあ」
小春が器を置くと、きなこはそっと顔を近づけた。
くん。
くんくん。
……おお。
まずは匂いを確認するんだな。
きなこは少しだけ首を傾げ、もう一度匂いを嗅いだ。
それから、小さくほぐした鶏肉をひと口。
もぐ。
もぐもぐ。
……どうだ?
俺はじっと見守った。
きなこはゆっくり飲み込む。
そして。
「……にゃあ」
もう一度、器へ顔を近づけた。
『おっ!』
気に入ったか?
きなこは次のひと口を食べ、またゆっくり噛んでいる。
レオみたいに勢いよく食べたりはしない。
一口ずつ、確かめるように味わっている。
「ふふっ。美味しいみたい」
小春が嬉しそうに笑った。
「きなこ、好きなものだとこうやってゆっくり食べるんだよ」
『ほほう』
「食べ終わったら、満足そうに座るの」
……なるほどな。
同じ鶏肉でも、こんなに食べ方が違うのか。
レオは嬉しくなると全身で表現する。
きなこは落ち着いて、ゆっくり味わう。
……面白いなあ。
俺は二匹を見比べた。
レオはレンの隣で、次のひと口を期待しているような顔。
きなこは小春の近くで、のんびり鶏肉を噛んでいる。
『……うむ』
どっちも美味そうに食ってくれている。
いいじゃないか!
「ニャル、よかったね」
ユウマが笑った。
『おう!』
「二匹とも気に入ってくれたみたいだね」
『それが一番嬉しいぞ!』
俺は満足して頷いた。
……さて。
今度は俺も食うか!
自分用の皿へ顔を向ける。
そこには、こんがり焼けた鶏肉が並んでいる。
香草のいい匂い。
表面には、うっすらと焼き色。
……うむ。
こっちも最高だな!
俺は食べやすく切り分けた肉をひと口。
ぱくっ。
もぐもぐ。
『……おおっ!』
うまい!
表面は香ばしく、中はしっとり柔らかい。
噛むと鶏肉の旨みが広がり、香草の風味が鼻へ抜ける。
……うむ。
これはいい出来だ!
俺は満足して尻尾を揺らした。
「……ねえ、悠真くん」
小春が小声で言った。
「ニャル、すっごく幸せそうに食べてるね」
「でしょ?」
ユウマが嬉しそうに答える。
「自分で作った料理なのに、毎回あんな感じなんですよ」
「かわいい……!」
……おい。
また俺を見てるのか?
『小春、自分の飯も食えよ』
「あっ、そうだった!」
小春が慌てて箸を持つ。
そして香草焼きを一口食べた。
「……んっ!」
目が大きくなる。
「美味しい!」
『おお!』
「鶏肉が柔らかいし、すっごくいい香り!」
「だろ!?」
ユウマがなぜか自慢げに頷いた。
レンも鶏肉を頬張る。
「うまっ! これ、ご飯が進むな!」
『へへっ。そうだろ!』
「ニャル、本当に料理上手だなあ」
レンがしみじみと言った。
「レオの分まで作ってもらえて、今日は得した気分だよ」
『喜んでくれたなら何よりだ!』
……うむ。
やっぱり、食べてくれる相手が増えると楽しいな。
みんな同じものを食べられるわけじゃない。
でも、それぞれに合った料理を考えるのも、なかなか面白い。
むしろ、違うからこそ作りがいがあるんだよな。
――――――
食事が終わると、三匹はリビングでくつろぐことになった。
……と言っても。
「クルルッ!」
『おい、レオ!』
レオは全然くつろいでいない。
さっきまで飯を食っていたのに、もう遊びたそうにしている。
……元気だなあ。
俺が尻尾を動かすと、レオの視線がぴくっと動いた。
『……また俺の尻尾か?』
「クル?」
レオが首を傾げた。
……うむ。
どうやら、そのつもりらしい。
俺は少しだけ尻尾を揺らした。
ぴく。
レオの前足が動く。
俺は尻尾を引っ込める。
空振り。
「クル!」
『ははっ。残念だったな!』
……おっと。
つい遊んでしまった。
別に嫌じゃないけど、今は食後だからな。
あんまり激しく動き回るのはよくないだろう。
『続きは後でな』
「クル?」
レオが少し残念そうな顔をした。
……むう。
そんな顔するなって。
俺だって遊びたいんだから。
その時。
「にゃあ」
きなこが横から歩いてきた。
そして、俺の隣へ座る。
……おお。
こっちはもう昼寝する気か?
『きなこ、満足したか?』
「んにゃ」
きなこがゆっくり瞬きをする。
それから、前足を折りたたんで身体を丸くした。
……うむ。
実に猫らしい。
俺も隣へ座ってみる。
すると、きなこの尻尾がふわりと動き、俺の背中に触れた。
……おっ。
これ、前にもやったな。
あの時は二匹で箱に入ってたんだった。
『……ふむ』
何だか眠くなってきたぞ。
飯も食ったし。
隣にはきなこがいるし。
窓からは、暖かい日差しが入ってきている。
……これは、寝ろと言っているようなものじゃないか?
俺が目を細めると、レオがそっと近づいてきた。
「クル?」
『ん?』
レオは俺たちを見て、少し首を傾げた。
そして。
どさっ。
俺たちから少し離れたところへ伏せた。
……おお。
お前も休むのか。
『よしよし。それでいいぞ』
俺は満足して頷いた。
するとレオが嬉しそうに鳴いた。
「クルル……」
……うむ。
何だかいい感じだな。
三匹で同じ場所にいるけど、それぞれ好きなように過ごしている。
レオは遊びたい。
きなこはのんびりしたい。
俺は……。
……うん。
今は眠いな。
「……見て、三匹並んでる」
ユウマの声が聞こえた。
「かわいい……!」
小春の声も。
「レオ、ちゃんと休んでるな」
レンも嬉しそうだ。
……お前ら。
また見てるのか。
俺は薄目を開けた。
三人とも、少し離れたところから俺たちを見守っている。
……うむ。
まあ、楽しそうならいいけどな。
「これ、写真撮っていい?」
小春が小声で聞いた。
「いいですよ! でも、今日は内輪だけにしましょう」
ユウマが答える。
「うん。私も、きなこのこういう写真は大事にしておきたいから」
「俺もそれでいいですよ」
レンが頷いた。
「三匹の初めての食事記念だしな」
……おお。
それはいいな。
俺も、今日のことは大事に覚えておきたいぞ。
ニャルの台所の配信は楽しい。
いろんな人に料理を見てもらえるのも嬉しい。
でも、こうして友達だけで飯を食って、のんびりする時間も悪くない。
むしろ、こういう時間があるから料理が楽しいんだよな。
俺は満足して喉を鳴らした。
ごろごろ。
すると、きなこも小さく喉を鳴らし始めた。
レオはその音を聞いて、不思議そうに首を傾げる。
……ふむ。
食べ方だけじゃなくて、くつろぎ方も三通りか。
なかなか面白い組み合わせだな。
――――――
「そういえばさ」
しばらくして、レンが口を開いた。
「今度、三組でダンジョンに行ってみない?」
『……おっ?』
俺の耳が立った。
ダンジョン?
それは、なかなかいい提案じゃないか!
「三組で?」
ユウマが聞き返す。
「うん。せっかくみんな探索者なんだしさ」
レンが楽しそうに笑った。
「レオもきなこちゃんも一緒に、軽く探索してみるのも面白いんじゃないか?」
「いいね!」
ユウマがすぐに頷いた。
でも、小春は少し考えるような顔をした。
「私、そんなに強くないけど大丈夫かな?」
「ああ、もちろん無理なところには行かないですよ」
レンが答える。
「みんなが慣れてる範囲で、ちょっと食材を採ったりするくらいで」
「それなら楽しそう!」
小春が笑った。
「きなこも、普段から安全なところを中心に探索してるから」
「うん。最初は軽く様子を見るだけでもいいと思う」
ユウマも頷く。
「レオだってまだ幼体だし、無理はさせたくないよね」
「ああ。そこは気をつける」
レンが真面目な顔になった。
……うむ。
いい心がけだ。
俺だって、みんなを危険なところへ連れていきたいわけじゃない。
美味い食材が見つかれば嬉しいけど、安全が一番だからな。
『じゃあ、知ってる場所へ行くのがよさそうだな』
「そうだね」
『新しい魔物が出そうなところは避けて、のんびり食材でも探すか!』
「おっ、ニャルも乗り気だな!」
『当たり前だろ!』
俺は尻尾を立てた。
『みんなで食材を採って、また美味いものを作ればいいじゃないか!』
「あ、それいいね!」
小春が嬉しそうに言った。
「自分たちで採った食材を、ニャルが料理してくれるんだ!」
「また食べられるのか!」
レンも笑う。
「楽しみだなあ」
……おいおい。
まだ行く場所も決めてないんだぞ。
まあ、俺も楽しみだけどな!
「じゃあ、行く場所と日程はまた相談しようか」
ユウマが言った。
「うん。ちゃんと安全なところを選ぼう」
「私もきなこの様子を見ながら参加するね!」
三人が頷き合う。
……うむ。
これで次の楽しみもできたな。
レオときなこと一緒に探索する。
考えてみれば、今まではユウマと二人で食材を探すことが多かった。
レンとレオがいて、小春ときなこもいて。
そんな探索がどんなものになるのか、ちょっと楽しみだ。
……ただし。
『なあ、ユウマ』
「ん?」
『今日は、もう少し休んでから帰ってもらおうぜ』
「え?」
『せっかく来たんだから、まだ遊びたいだろ』
俺がそう言うと、ユウマが嬉しそうに笑った。
「うん。そうだね!」
レンも小春も頷いた。
「レオもまだ遊びたそうだしな」
「きなこも、もう少しのんびりしていこうか」
「にゃあ」
きなこが小さく返事をした。
レオも嬉しそうに尻尾を揺らしている。
……うむ。
いいじゃないか。
今日の飯は、三匹とも美味しく食べられた。
食べるものも違えば、食べ方も違う。
遊び方だって、それぞれだ。
でも、同じ場所で楽しく過ごせるなら、それで十分だろう。
俺は満足して尻尾を揺らした。
……さて。
次は三組で食材探しか。
どんなものが採れるか分からないけど、みんなで行けばきっと楽しいだろうな。
そして、採ってきた食材でまた料理を作る。
……うん。
それが一番楽しみだ!
『よし。次も美味いものを作るぞ!』
「にゃあ」
「クルル!」
きなことレオが、それぞれ返事をするように鳴いた。
……おお。
何だか、賛成してくれたみたいだな!
俺は嬉しくなって、二匹の方へ歩いていった。
今日はまだ、もう少し遊んでいこうじゃないか。




