第48話 世界一かわいいが、三匹になった
今日は、ちょっと楽しみにしていることがある。
レンのところのレオと、小春のところのきなこ。
俺の知っている二匹のテイムモンスターが、初めて顔を合わせることになったのだ。
レオは元気いっぱいのグリフォン幼体。
きなこは、背中に小さな翼がある、のんびりしたケットシー。
……うむ。
考えてみると、ずいぶん性格が違うな。
レオは俺を見つけるとすぐに駆け寄ってくるし、遊び始めたらなかなか止まらない。
一方、きなこは隣に座っているだけでも満足そうだ。あいつとは一緒に箱へ入ったり、日向ぼっこをしたりしている。
そんな二匹が会ったら、どうなるんだろう。
『ユウマ、そろそろ行くのか?』
「うん。もうちょっとしたら出ようか」
休日の朝。
俺はリビングのテーブルに立ち、出かける準備をしているユウマを見上げていた。
今日の待ち合わせ場所は、もふもふ堂だ。
犬飼がやっているテイムモンスター用品店で、俺たちにとってはすっかり馴染みの店になっている。
「ニャル、楽しみ?」
『おう!』
「そっかあ」
ユウマが嬉しそうに笑った。
「ニャルの友達が増えるの、俺も嬉しいな」
『まだレオときなこが仲良くなるかは分からないぞ?』
「まあ、そうだけど。きっと大丈夫だよ」
『そうだといいな』
俺は尻尾を揺らした。
別に、無理して仲良くなる必要はない。
猫にも好みがあるし、グリフォンにも好みはあるだろう。
でも、せっかくなら三匹で一緒に遊んでみたいじゃないか。
「そういえば、小春さんもすごく楽しみにしてたよ」
『ほう』
「蓮がレオの写真を送ったら、かわいいって喜んでた」
『そりゃよかった』
「でも、最後にはきなこちゃんが世界一かわいいって言ってたけどね」
『……相変わらずだな』
「まあ、世界一かわいいのはニャルなんだけど」
『お前も相変わらずだな』
俺がそう言うと、ユウマは笑いながら頭を撫でてきた。
……おお。
朝からいい撫で心地だ。
思わず目を細めてしまう。
「じゃあ、行こうか」
『おう!』
俺はユウマに抱き上げられ、いつものように腕の中へ収まった。
さて。
今日はどんな一日になるかな。
――――――
「おっ、悠真!」
もふもふ堂の前へ着くと、見覚えのある少年が手を振っていた。
レンだ。
そして、その足元には。
「クルルッ!」
『おお、レオ!』
小さなグリフォンが、こちらを見つけて嬉しそうに鳴いた。
前足を弾ませ、今にも駆け寄ってきそうな勢いだ。
「レオ、待て待て。ニャルは小さいんだからな」
「クル?」
レンに声をかけられ、レオがぴたりと止まった。
……おお。
ちゃんと待てるじゃないか。
前に会った時より、少し落ち着いたのか?
『久しぶりだな、レオ』
「クルル!」
ユウマが俺を地面へ下ろしてくれたので、レオへ近づいてみる。
すると、レオも嬉しそうに鼻先を寄せてきた。
くんくん。
『おっと』
顔が近いな。
まあ、嫌じゃないけど。
俺も鼻を近づけて挨拶を返す。
……うむ。
元気そうで何よりだ。
「ははっ。レオ、ニャルに会えて嬉しいんだな」
「ニャルも嬉しそうだよ」
ユウマとレンが笑っている。
確かに、久しぶりに会えたのは嬉しい。
それに、こうして見るとレオもちょっと成長したような気がするな。
まだまだ幼体だけど、以前より身体つきがしっかりしてきたようにも見える。
『レオ、大きくなったか?』
「クル?」
「おっ、ニャルも分かる?」
レンが嬉しそうに頷いた。
「最近、ちょっとずつ大きくなってるんだよ」
『やっぱりか!』
「毎日見てると分かりにくいけどな」
そう言いながら、レンはレオの頭を撫でた。
レオは満足そうに目を細めている。
……うむ。
いい飼い主と相棒だな。
「ところで、小春さんたちは?」
「もうすぐ来るって連絡あったよ」
「そっか。じゃあ中で待とうか」
ユウマが店の扉を開ける。
すると、奥から聞き慣れた声がした。
「おっ、今日は二組一緒か!」
犬飼だ。
俺たちを見るなり、嬉しそうに笑っている。
「ニャルもレオも元気そうだな!」
『おう!』
「クルル!」
「ははっ。いい返事だ!」
犬飼はしゃがみ込み、まず俺たちの様子を確かめた。
……相変わらず、人間より先にテイムモンスターへ挨拶するんだな。
「今日は何か探しに来たのか?」
「買い物もしたいんですけど、今日は友達と待ち合わせで」
ユウマが説明する。
「もう一組、テイマーの知り合いが来るんです」
「ほう。新しい友達か」
「はい。ケットシーの子なんですけど」
「おお、ケットシー!」
犬飼の目が輝いた。
「それは楽しみだな!」
……うむ。
この人も、なかなかのモンスター好きだ。
まあ、今さらだけどな。
俺たちが話していると、店の扉が開いた。
「こんにちはー!」
明るい声。
振り向くと、そこには見覚えのある女の子が立っていた。
小春だ。
そして、もちろんその腕には。
「にゃあ」
『おう、きなこ!』
淡いきなこ色の猫が、のんびりした声で鳴いた。
小さな翼を背中にたたみ、小春の腕の中からこちらを見ている。
「ニャル! 久しぶり!」
『おう!』
「今日もかわいいねえ!」
小春が嬉しそうに笑った。
……ああ。
いつもの小春だな。
「小春さん、こんにちは!」
「こんにちは、悠真くん!」
ユウマが手を振る。
その隣で、レンが少し姿勢を正した。
「あ、初めまして。高橋蓮です。悠真の友達です」
「あっ、初めまして! 白石小春です!」
小春も笑顔で挨拶を返す。
「悠真くんから話は聞いてるよ。レオくんの飼い主さんだよね?」
「はい。こいつがレオです」
「クル!」
レンの足元から、レオが顔を上げた。
小春の視線が下へ向く。
そして。
「……わあ!」
目が一気に輝いた。
「本物のグリフォンだ!」
「はい。まだ小さいですけど」
「すごい! 翼もあるし、前足もかわいい!」
小春がしゃがみ込んだ。
でも、すぐに手を伸ばしたりはしない。
「レオくん、こんにちは」
「クルル?」
レオは首を傾げた。
……おお。
小春の挨拶が気になるらしい。
「かわいい……!」
小春が小さく呟く。
「グリフォンの赤ちゃんって、こんなにかわいいんだね……!」
「でしょ!」
レンが満面の笑みになった。
……あ。
これは、あれだな。
飼い主自慢が始まりそうだぞ。
そんなことを考えていた時だった。
「クル?」
レオの視線が、小春の腕の中へ向いた。
そこには、初めて見る翼のある猫。
きなこがいる。
……おっ。
いよいよだな。
――――――
「クルルッ!」
レオが嬉しそうに一歩踏み出した。
新しい友達を見つけた、とでも言いたげな顔だ。
一方、きなこは。
「……にゃ」
少しだけ耳を動かした。
そして、小春の腕の中からレオをじっと見つめている。
『ほう』
やっぱり、反応が違うな。
レオはすぐに近づきたい。
きなこは、まず相手を観察したい。
……なるほど。
これは、ちょっと間に入った方がいいかもしれないな。
「レオ、ちょっと待とうな」
レンも気づいたらしく、優しく声をかけた。
「クル?」
「きなこちゃん、初めて会うんだからさ。ゆっくりな」
レオはレンを見上げ、それからきなこへ視線を戻した。
前足が少しそわそわしている。
……うむ。
遊びたくて仕方ないんだな。
『レオ、こっちだ』
俺は二匹の間へ歩いていった。
レオが俺を見る。
「クル!」
『慌てるなって』
俺は前足を上げて、少し待つように合図した。
すると、レオはその場に腰を下ろした。
……おお。
いい子だな!
『そうそう。それでいい』
俺は今度はきなこの方を見る。
『きなこ、こいつがレオだ』
「にゃ?」
『俺の友達だぞ。元気だけど、悪いやつじゃない』
きなこがゆっくり瞬きをした。
言葉がどこまで通じているかは分からない。
でも、俺が普段通りにしているのは分かるだろう。
『降りてみるか?』
「んにゃ」
きなこは小さく鳴くと、小春の腕からふわりと浮き上がった。
背中の翼がゆっくり動く。
そのまま床へ降りようとして……。
「クルッ!」
レオが思わず立ち上がった。
おいおい。
『レオ、待て!』
「クル?」
俺の声に反応して、レオがまた止まる。
……危ない危ない。
別に飛びかかろうとしたわけじゃないんだろうけど、きなこからすれば、急に大きなグリフォンが動いたように見えるからな。
実際、きなこは少し浮いたまま、レオから距離を取っていた。
小さな翼がぴくりと動いている。
「きなこ、大丈夫だよ」
小春が優しく声をかけた。
「無理しなくていいからね」
「にゃ」
きなこは小春を見上げると、ゆっくり床へ降りた。
ただし、まだ小春のすぐ近くだ。
……うん。
それでいい。
知らない相手へ、いきなり近づく必要はないからな。
『レオ、まずは俺と遊ぶか?』
「クル!」
俺が声をかけると、レオは嬉しそうに尻尾を揺らした。
……おお。
すごい勢いだな。
俺は少しだけ離れた場所へ歩いていく。
レオもその後ろをついてきた。
とことこ。
とことこ。
俺が止まる。
レオも止まる。
俺が振り向く。
レオが首を傾げる。
『……何だこれ』
ちょっと面白いな。
「ふふっ。レオくん、ニャルの後ろついて歩いてる」
小春が笑った。
「ニャル、慣れてるなあ」
「前からレオとは仲いいんですよ」
ユウマが嬉しそうに説明している。
そうこうしているうちに、きなこも少しずつこちらへ興味を示し始めた。
最初は小春の足元から眺めていたけど、やがて一歩。
もう一歩。
ゆっくり近づいてくる。
「にゃ」
『おっ、きなこ』
俺は足を止めた。
レオも隣で止まる。
きなこは俺の鼻先へ顔を近づけた。
くんくん。
『おう。久しぶりだな』
「にゃあ」
いつもの挨拶だ。
俺も鼻を近づける。
すると、レオが興味深そうに顔を寄せてきた。
「クル?」
きなこがぴたりと動きを止める。
……おっと。
『ゆっくりな、レオ』
俺は二匹の間に立ったまま、様子を見守った。
レオは一度首を傾げた後、そっと鼻先を近づけた。
きなこも少しだけ顔を前へ出す。
くん。
くんくん。
……おお。
挨拶できたじゃないか。
きなこはすぐに一歩下がったけど、さっきみたいに浮き上がったりはしなかった。
レオも追いかけず、その場でじっとしている。
『よしよし』
俺は満足して尻尾を立てた。
すると、レオも嬉しそうに小さく鳴いた。
「クルル!」
きなこはその声に耳を動かした後、ゆっくり瞬きをした。
……うむ。
これは、なかなかいい感じじゃないか?
「……ねえ、悠真くん」
小春が小声で言った。
「今、挨拶したよね?」
「うん。したと思う!」
「レオ、ちゃんと待てたな!」
レンも嬉しそうだ。
俺は三人を見上げた。
……いやあ。
このくらいでそんなに喜ぶのか。
まあ、初対面だからな。
仲良くできそうなら嬉しいんだろう。
……俺も嬉しいけどな!
――――――
「それにしても、三匹並ぶとすごいなあ」
ユウマがしみじみと言った。
俺たちは今、店の奥の邪魔にならない場所で、少し休憩しているところだ。
もちろん、犬飼にはちゃんと許可をもらっている。
「おう、いいぞ。ただし、他のお客さんが来たら場所を空けてくれよ」
そう言いながら、犬飼も楽しそうに三匹を眺めていた。
レオはレンの足元。
きなこは小春の隣。
俺はユウマの前に座っている。
……うむ。
こうして並ぶと、本当にばらばらだな。
俺は二十センチくらいの小さなヌッコ。
きなこは俺より大きい、翼のあるケットシー。
レオはさらに大きな、獅子と鷲を合わせたようなグリフォン幼体。
同じテイムモンスターでも、全然違う。
「ねえ、見て。レオくんの前足、すごくかわいくない?」
小春が嬉しそうに言った。
「この丸っこいところ!」
「あ、分かります?」
レンがすぐに反応した。
「まだ幼体だから、結構ふわふわしてるんですよ」
「そうなんだ! かわいい!」
「でしょ!」
……おや。
意外と話が合うな、この二人。
と思っていたら。
「でも、きなこの前足もかわいいんだよ」
小春が自分の猫を抱き上げた。
「ほら、この小さな肉球!」
「にゃ?」
きなこが不思議そうに前足を動かす。
「おお、かわいい!」
レンも素直に褒めた。
「でも、レオの肉球もいいんですよ!」
……ん?
何か始まったぞ。
「ニャルの肉球もかわいいですよ!」
今度はユウマが参加してきた。
……おい。
何で俺の前足まで話題にするんだ?
「ニャルは身体が小さいから、肉球もすごく小さくて!」
「分かる! この前触らせてもらった時、すっごくかわいかった!」
「ですよね!」
ユウマが満足そうに頷いた。
……うむ。
何やら褒められているらしい。
でも。
「まあ、世界一かわいいのはニャルなんですけどね」
あ。
言った。
小春の笑顔が、ぴたりと止まった。
「……悠真くん?」
「はい?」
「世界一は、きなこだよ?」
「いや、ニャルですよ」
「きなこだもん」
「ニャルです」
……また始まった。
この二人、本当に会うたびに同じことを言ってないか?
俺は呆れて尻尾を揺らした。
すると、レンが首を傾げる。
「いやいや。ちょっと待ってくださいよ」
……ん?
「世界一かわいいのは、うちのレオですけど?」
……おお。
増えた。
「えっ、レオくん?」
「はい。もちろん!」
「いやいや、蓮。ニャルだって」
「お前はニャルしか見てないだろ」
「蓮だってレオしか見てないじゃん!」
「そうだよ。だってかわいいもん」
「それは分かるけど!」
ユウマとレンが言い合い始めた。
小春も負けていない。
「ちょっと待って! きなこのかわいさも見てよ!」
「いや、きなこちゃんもかわいいですよ!」
「そうそう。きなこちゃんもかわいいです!」
「でしょ!?」
小春が嬉しそうに笑う。
……おっ。
解決したか?
「でも世界一はニャルです」
「レオだろ」
「きなこだよ!」
……駄目だった。
『お前ら、何をそんなに争ってるんだ?』
三人が俺を見た。
「世界一かわいいテイムモンスターの話!」
……なるほど。
いや、分かってたけどな。
『三匹ともかわいいでいいだろ』
「それはそうなんだけど!」
「一番は別なんだよな!」
「そうなの!」
『……そうか』
もう好きにしてくれ。
俺は小さく欠伸をした。
すると。
「あっ、ニャルが欠伸した!」
「かわいい!」
「ちっちゃい口だなあ!」
……おい。
今度は何だ。
こいつら、俺が何をしても喜ぶんじゃないか?
俺が呆れていると、犬飼が横から笑いながら声をかけてきた。
「ははっ。三人とも、いい飼い主だな」
「そうですか?」
ユウマが聞く。
「ああ。自分の相棒が一番かわいいと思えるのは、いいことだ」
犬飼はそう言って、俺たちを見渡した。
「ただし、本人たちの前であんまり騒ぎすぎるなよ。三匹とも、もう呆れてるぞ」
……うむ。
さすが犬飼。
よく分かってるな。
俺が満足して頷くと、ユウマたちは顔を見合わせた。
そして、三人そろって笑い出した。
「確かに、ニャルは呆れてそう」
「レオも何の話か分かってないだろうしな」
「きなこなんて眠そうだよ」
……そうそう。
それくらいのんびりしてくれ。
俺たちは別に、世界一を決めてもらいたくて集まったわけじゃないんだからな。
もっとも。
ユウマたちが楽しそうなのは、悪くない。
……まあ、たまにはこういうのもいいか。
――――――
しばらくすると、レオが何かを見つけた。
「クル?」
視線の先にあるのは、俺の尻尾。
……ん?
何だ、その目は。
俺が尻尾を動かすと、レオの顔も動く。
右へ。
左へ。
ぴくっ。
「クル!」
『おい、レオ』
……その反応、覚えがあるぞ。
前にも俺の尻尾を追いかけようとしてただろ。
『これはおもちゃじゃないからな』
「クル?」
レオが首を傾げる。
……聞いてるのか?
俺が尻尾を身体の横へ寄せると、レオは少し残念そうな顔になった。
……むう。
そんな顔をされると、ちょっと遊んでやりたくなるじゃないか。
『……少しだけだぞ』
俺は尻尾の先をゆっくり動かした。
ぴくぴく。
レオの目が輝く。
「クルッ!」
前足が、そっと伸びてきた。
俺は尻尾を引っ込める。
空振り。
レオが首を傾げる。
もう一度、尻尾を動かす。
今度はレオが慎重に前足を伸ばした。
……おお。
さっきよりゆっくりだな。
『そうそう。そのくらいならいいぞ』
俺は少しだけ尻尾を揺らした。
レオは嬉しそうに前足を動かす。
……うむ。
こういう遊びなら悪くないな。
すると。
「にゃ」
横から声がした。
振り向くと、きなこがこちらを見ていた。
どうやら、俺たちの動きが気になったらしい。
『ん? きなこも遊ぶか?』
「にゃあ」
きなこはゆっくり近づいてきた。
レオが顔を上げる。
……おっ。
また近づこうとしてるな。
『レオ、ゆっくりな』
「クル」
レオはその場で止まった。
きなこは俺の隣まで来ると、少しだけレオを見つめた。
そして、ふわりと尻尾を揺らす。
レオがその尻尾を見た。
……おい。
今度はそっちか?
でも、きなこは嫌がる様子もなく、その場に腰を下ろした。
レオも少し離れたところへ座る。
……うむ。
さっきより、ずいぶん落ち着いたな。
「おお、三匹で並んでる!」
ユウマが嬉しそうに声を上げた。
「レオ、ちゃんと座ってるな」
レンも満足そうだ。
小春はきなこを見ながら、にこにこしている。
「きなこも慣れてきたみたい」
……そうだな。
最初は距離を取っていたけど、今はレオが隣にいても平気そうだ。
俺は二匹を見比べた。
元気いっぱいのレオ。
のんびりしたきなこ。
その間にいる俺。
……何だか、ちょっと面白い組み合わせだな。
でも、悪くない。
俺がゆっくり腰を下ろすと、きなこも隣で身体を丸めた。
レオはしばらく俺たちを見ていたけど、やがて同じように伏せた。
「クルル……」
『おお。落ち着いたか?』
「クル」
レオが小さく鳴いた。
……うむ。
いいじゃないか。
俺は満足して目を細めた。
すると、きなこの尻尾がふわりと動き、俺の背中に触れた。
……おっ。
懐かしい感触だな。
前に一緒に箱へ入った時も、こんな感じだった。
今度はレオもいる。
……うん。
三匹で過ごすのも、なかなかいいものだ。
――――――
「今日は集まってよかったね」
帰る前。
ユウマが満足そうに言った。
「うん! きなこも楽しそうだったし!」
小春が頷く。
「レオもいい経験になったと思う」
レンも嬉しそうだ。
「最初、ちょっと勢いよく近づきすぎたからな」
「でも、ちゃんと待ててたじゃない」
「そうそう。きなこちゃんも最後は落ち着いてたし」
三人が楽しそうに話している。
……うむ。
どうやら、人間たちもすっかり仲良くなったらしい。
最初は初対面だったレンと小春も、今では普通に会話している。
まあ、テイムモンスターの話なら、いくらでも続けられるみたいだからな。
「また三組で集まりたいね」
小春が言うと、ユウマとレンがすぐに頷いた。
「いいですね!」
「俺も賛成です!」
……おお。
また集まるのか。
それはいいな。
『ユウマ、次は何するんだ?』
「ん?」
『また遊ぶのか?』
「そうだね。みんなで集まって、ゆっくりするのもいいかも」
『ふむふむ』
ゆっくりする。
それも悪くない。
でも、せっかく三組で集まるなら、もう一つやりたいことがある。
……そうだ。
『なあ、ユウマ』
「何?」
『次は、みんなで飯でも食わないか?』
「ご飯?」
『おう!』
俺は尻尾を立てた。
『レオにもきなこにも、何か美味いものを作ってやりたいんだ』
「ああ、そうだったね!」
ユウマが笑った。
「ニャル、前からレオにも料理作りたいって言ってたもんね」
「えっ、レオに!?」
レンが驚いたように顔を上げた。
「ニャル、作ってくれるのか?」
『おう! もちろんだ!』
「やった!」
レンが嬉しそうに笑う。
「レオも喜ぶと思うぞ!」
「クル?」
自分の名前が聞こえたからか、レオが顔を上げた。
……うむ。
いい反応だ。
「きなこも、またニャルのご飯食べたいかもね」
小春が言う。
「前に作ってもらった鶏肉の煮込み、すごく気に入ってたし」
『おお! それは嬉しいな!』
そうだった。
きなこには以前、鶏肉を中心にした料理を作ったことがある。
普段の食事を小春に確認して、人間用とは別に薄味で仕上げたんだ。
あの時は美味しそうに食べてくれたな。
……よし。
今回もちゃんと考えよう。
『でも、レオときなこじゃ、食べられるものも違うだろ?』
「そうだね」
ユウマが頷いた。
『だから、先に普段何を食ってるか聞いておきたいんだ』
「なるほど。レオはまだ幼体だからな」
レンが少し考えた。
「普段の食事とか、犬飼さんにも相談しながら決めてるし」
「きなこも専用フードが中心だよ」
小春が続ける。
「好きなものはあるけど、初めての食材は少しずつ試すようにしてる」
『うんうん。それが大事だな』
俺は満足して頷いた。
自分が食べられるからといって、他のテイムモンスターも同じものを食べられるとは限らない。
特にレオはまだ幼体だ。
きなこだって、俺とは違う種族なんだからな。
『よし。じゃあ次は、みんなの好きなものを聞いてから料理を考えるか!』
「いいね!」
ユウマが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今度はうちに集まる?」
「いいの?」
小春が目を輝かせる。
「もちろん!」
「やった! またニャルの料理が食べられる!」
レンも嬉しそうに頷いた。
「俺も楽しみだな!」
……うむ。
決まりだな!
俺は三人を見上げた。
ユウマ。
レン。
小春。
そして、足元には。
レオ。
きなこ。
俺。
……こうして見ると、随分にぎやかになったものだ。
最初はユウマと俺だけだったのにな。
美味しいものを作って、ユウマに食べてもらう。
それが楽しくて料理を続けていたら、少しずつ食べてくれる相手も増えてきた。
レンがいて。
レオがいて。
小春ときなこもいる。
……うむ。
これは、ますます料理のしがいがあるじゃないか。
「ニャル、楽しそうだね」
『おう!』
ユウマが俺を抱き上げる。
いつもの腕の中へ収まると、自然と喉が鳴った。
ごろごろ。
「ふふっ。かわいい」
小春が笑った。
「ほんと、ニャルはかわいいなあ」
「でしょ!」
ユウマが即座に反応する。
……あ。
また始まるか?
「でも、きなこもかわいいよ?」
小春が自分の猫を抱き上げた。
「にゃあ」
「レオだって負けてないですからね!」
レンもレオの頭を撫でる。
「クルル!」
……やれやれ。
今日だけで何回目だよ、その話。
『もう三匹とも世界一でいいだろ』
俺が呟くと、ユウマが笑った。
「それはそうなんだけどね」
『だけど?』
「俺にとっては、やっぱりニャルが一番かな」
……そうか。
まあ、それなら仕方ないな。
レンにはレオがいて、小春にはきなこがいる。
そして、俺にはユウマがいる。
みんな、自分の相棒が大好きなんだろう。
だったら、それでいいじゃないか。
俺はユウマの腕に顎を乗せ、満足して目を細めた。
さて。
次は三匹で食べるご馳走か。
レオには何がいいかな。
きなこには、前とは違うものを作ってみたいな。
もちろん、ユウマたちの飯も忘れちゃいけない。
……うむ。
考えるだけで楽しくなってきたぞ!
世界一かわいいのが何匹いるかは知らないけど。
美味しいものを食べたい相手が増えるのは、大歓迎だ。
俺は尻尾をゆっくり揺らした。
『よし。次はみんなに美味い飯を食わせてやるからな!』




