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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第45話 十匹食べた人の、その後

 世の中には、ホーンラビットを十匹分も食べる人間がいるらしい。


 昨日そんな話を聞いたばかりなのに、今朝になっても妙に頭から離れなかった。


 十匹だぞ、十匹。


 ホーンラビットはそれなりに肉が取れるモンスターだ。一匹分でも、ユウマなら十分満足できる量がある。


 それを一度に十匹分も食ったらしい。


 ……人間の胃袋って、どうなってるんだ?


「おはよう、ニャル」


『おう。おはよう、ユウマ』


 そんなことを考えていたら、キッチンにユウマがやってきた。


 まだ少し眠そうな顔をしているけど、俺を見つけるとすぐに笑顔になる。


「今日も早いね」


『朝飯を作るからな』


「いつもありがとう」


 ユウマはそう言って、俺の頭を撫でた。


 ……うむ。


 朝の撫でられ時間も悪くない。


 耳の後ろを指でくすぐられると、思わず喉が鳴ってしまう。


 ごろごろ。


「ふふっ。かわいいなあ」


『にゃ』


 もう少し撫でてほしい気もするけど、朝飯の準備もしなきゃいけない。


 俺は名残惜しさを振り切って、ユウマの手から離れた。


 さて、今日もうまいものを作るぞ。


 そう思っていたら。


「あ、そうだ。ニャル、昨日の人なんだけどさ」


『昨日の人?』


「ほら。ホーンラビットを十匹分食べた人」


『おお、あいつか!』


 どうやらユウマも、まだ気になっていたらしい。


「また投稿してるんだよ」


『何だ? 今度は二十匹食ったのか?』


「いやいや、違うから!」


 ユウマが慌てて首を振った。


「さすがに毎日そんなことしないでしょ」


『そうなのか』


「普通はしないと思うよ……」


 ふむ。


 大食いってのも大変なんだな。


 ユウマはスマートフォンを取り出すと、昨日見ていた大食い配信者の投稿を開いた。


「えっとね。昨日の続きなんだけど……」


 画面に表示されているのは、例の大食い配信者の投稿だ。


 ユウマが読み上げてくれる。


「『昨日から妙に調子がいい。今朝起きても身体が軽い感じがする。何なんだろう、これ』……だって」


『ほほう』


 俺は思わず耳を立てた。


 昨日だけじゃなくて、今朝も調子がいいのか。


 それなら、やっぱりダンジョン飯の効果かもしれないな。


『そいつ、普段はそんなに調子よくないのか?』


「どうなんだろう。普段の体調までは分からないけど、本人はいつもと違うって感じてるみたい」


『ふうん』


 俺は画面を覗き込んだ。


 小さな身体だから、スマートフォンを見ようと思うと、どうしても顔を近づけることになる。


 ……文字、小さいな。


 ユウマは俺の様子を見ると、画面を拡大してくれた。


「ほら、コメントも結構ついてるよ」


『おお』


 確かに、たくさんの人が何かを書き込んでいる。


 まあ、俺には全部読むのは面倒だから、ユウマに任せよう。


「『十匹も食べたらホーンラビットの力が宿ったんじゃない?』だって」


『おお!』


 なかなか面白いことを言うやつがいるな。


『角でも生えてきたのか?』


「いや、生えてないと思うけど」


『そうか。残念だな』


「残念なの?」


 ユウマが笑った。


 だって、ホーンラビットの角が生えた人間なんて、ちょっと見てみたいじゃないか。


 ……まあ、本人は困るだろうけど。


「他には、『いっぱい食べたから元気になっただけじゃない?』とか、『気のせいでしょ』って人もいるね」


『ふむふむ』


「『寝起きの調子がよかっただけかも』っていう人もいる」


『なるほどな』


 確かに、身体の調子なんて日によって変わるものだ。


 よく眠れた日は元気だし、疲れている日は動きたくない。


 俺だって、眠い時は何もしたくないからな。


 ……いや、それはいつものことか?


「でも、『昨日の動画の後半も元気だったよね』って言ってる人もいるんだ」


『ほう』


「『あれだけ食べて、まだあんなに動けるのすごい』って」


『それは確かにすごいな』


 十匹分も肉を食った後なんて、俺だったら絶対に動けない。


 いや、そもそも食い切れないか。


 俺の身体は二十センチくらいしかないからな。


 大きな肉の塊を前にしたって、食べられる量には限界がある。


 ……もっと大きな身体だったら、どれくらい食えるんだろう。


 ちょっと気になる。


 でも、今の身体は結構気に入っているし、大きくなりたいかと言われると微妙だな。


「ニャル?」


『ん?』


「何考えてるの?」


『俺も十匹食えるか考えてた』


「絶対無理だからね!?」


 即答された。


 ……まあ、分かってるけどな。


 ユウマは苦笑しながらスマートフォンに視線を戻した。


「でもさ。これ、本当にダンジョン飯の効果だったらすごいよね」


『そうだな』


「ニャルはどう思う?」


『可能性はあると思うぞ』


 ユウマが俺を見る。


『お前も、最初は気づかなかっただろ?』


「ああ……うん」


 ユウマは少し考えてから頷いた。


「最初に気づいたのは、ダンジョンで剣を振った時だったな」


『そうそう』


 俺が初めて作ったダンジョン飯。


 あれを食べた翌日、ユウマは前より身体が動くようになっていた。


 それからも、いろんな料理を食わせてきた。


 肉。


 野菜。


 キノコ。


 魚。


 新しい食材を見つけては料理して、ユウマに食べてもらう。


 そうしているうちに、最初は頼りなかった飼い主も、かなり強くなった。


 ……うむ。


 改めて考えると、なかなか順調な育成ぶりじゃないか。


『ユウマも、今じゃ随分強くなったもんな』


「それはニャルのおかげだけどね」


『へへっ』


 褒められると、やっぱり嬉しい。


 尻尾が勝手に揺れてしまう。


「でも、俺の場合は何度も食べて、何度もダンジョンに行って、それで少しずつ分かったんだよね」


『そうだな』


「この人は、一回で十匹分も食べてるわけだし……」


『一度にたくさん食ったから、変化が分かりやすかったのかもしれないな』


「うん。そうかもしれない」


 もちろん、本当にそうなのかは分からない。


 ダンジョン飯を食べれば身体能力が上がることは、俺たちが実際に確かめてきた。


 でも、あの大食いの人が感じている変化まで、同じものだと決めつけることはできない。


 何しろ、本人が言っているのは「調子がいい」とか「身体が軽い」とか、それくらいだからな。


「今のところ、ちゃんと調べたわけじゃないみたいだしね」


『そうなのか』


「うん。本人も不思議がってるだけで、何かの数値が変わったとか、そういう話は出てないよ」


『なるほど』


 だったら、まだ何とも言えないな。


 ……まあ、俺としては別に急いで結論を出す必要もないと思うけど。


 おいしいものを食べて、元気になった。


 それだけでも十分いいことじゃないか。


「でも、これでダンジョン飯に興味を持つ人が増えるかもしれないね」


『おお! それはいいな!』


 そいつは大歓迎だ。


 せっかく美味しい食材がたくさんあるんだから、もっといろんな人に食べてもらいたい。


 ただし。


『ちゃんと料理してから食ってほしいけどな』


「それは本当にそう」


 ユウマも真面目な顔で頷いた。


「コメントにも、真似して食べてみたいって人がいるんだよね」


『いいじゃないか』


「うん。でも、十匹分も食べる必要はないと思うんだ」


『……それはそうだな』


 俺は改めて考えた。


 ホーンラビットの肉を十匹分。


 昨日の動画に映っていた、山盛りの肉料理。


 確かに全部うまそうだった。


 けど。


『せっかくなら、十種類の料理を食った方が楽しそうだよな』


「……え?」


『同じ肉ばっかり食うより、肉も魚も野菜も食いたいだろ?』


「ああ、そういうことね」


 ユウマが笑い出した。


「ニャルはやっぱり、そこなんだ」


『当たり前だろ』


 強くなるのもいい。


 元気になるのもいい。


 でも、飯なんだから、まずは美味しく食べたいじゃないか。


 今日は肉。


 明日は魚。


 その次は新しい野菜。


 たまには甘いものだって作りたい。


 せっかくいろんな食材があるんだから、同じものばかり食べるなんてもったいない。


 ……そう考えると。


 そろそろ新しい食材を探しに行くのもいいかもしれないな。


「でも、ニャルが十種類作ってくれるなら、俺は全部食べたいけど」


『おっ、いいな!』


「いや、もちろん一度にじゃなくてね?」


『何だ。そうなのか』


「俺の胃袋、十匹食べた人とは違うから」


 なるほど。


 それなら仕方ない。


 無理して腹を壊されたら困るしな。


 俺は頷くと、朝飯の準備へ戻ることにした。


『よし。じゃあ今日も普通にうまいものを作るぞ!』


「うん。楽しみにしてる!」


 ユウマが笑った。


 ……さて。


 今日は何を食わせようかな。



――――――



 朝飯は、いつも通りの家庭料理にすることにした。


 今日の主役はホーンラビットの肉。


 ……十匹分じゃないぞ。


 ちゃんと朝飯にちょうどいい量だ。


 保存してあった下処理済みの肉を取り出し、エルフハーブと合わせて香草焼きにする。何度も作っている料理だけど、ユウマはこれが結構好きなんだ。


 他には目玉焼きとトースト、それから普通の野菜を使ったサラダも用意する。


 朝からあまり凝ったものを作る必要はない。


 温かくて、美味しくて、ちゃんと腹が満たされる。


 そういう朝飯が一番だ。


『よし、始めるか!』


 俺は念動力で専用包丁を持ち上げた。


 すっ、すっ。


 まな板の上で、肉を食べやすい大きさへ切り分ける。


 香草焼きだから、あまり小さくしすぎない方がいい。噛んだ時に、肉の旨みがしっかり感じられるくらいが好みだ。


 切り分けた肉へ軽く塩を振り、刻んだエルフハーブをまぶす。


 ふわりと爽やかな香りが広がった。


 ……うん。


 やっぱりこの匂い、好きだな。


 鼻をひくひくさせていると、背後から声がした。


「ニャル、何か手伝おうか?」


『ん?』


 振り返ると、ユウマがエプロンを手に立っていた。


『じゃあ、皿を並べてくれ』


「了解!」


 ユウマはさっそく食器棚へ向かった。


 こういう時、何も言わなくても人数分の皿を用意してくれるのがありがたい。


 俺が一人で全部やってもいいんだけど、一緒に準備するのも悪くないからな。


 さて、肉を焼こう。


 フライパンを温め、少量の油を引く。


 そこへ肉を並べると、じゅうっと気持ちのいい音が響いた。


 すぐに香草の香りが立ち上り、キッチンいっぱいに広がっていく。


『おお……いい匂いだ』


「ほんとだ。朝から食欲そそられるなあ」


 ユウマが皿を並べながら、こちらを覗き込んだ。


 俺は肉の焼き色を確かめ、念動力で一つずつひっくり返していく。


 表面はこんがり。


 中までしっかり火を通しながら、焼きすぎて硬くならないよう気をつける。


 この辺りは橘に教わったことが役に立っている。


 火を入れることと、火を入れすぎないこと。


 似ているようで、全然違うんだよな。


『よし。いい感じだ』


 焼き上がった肉を皿へ移し、少し休ませる。


 その間に、目玉焼きの仕上がりも確認する。


 白身はしっかり固まっていて、黄身はとろりと柔らかい。


 ……うむ。


 我ながらいい出来だ。


 焼きたてのトーストも皿へ並べると、キッチンには肉とバター、それからパンの香ばしい匂いが混ざり合った。


「おはよう。あら、いい匂いね」


 ちょうどそこへ、マコトがやってきた。


『おはよう、マコト!』


「おはよう、ニャル」


 マコトは俺を見るなり、にっこり笑って頭を撫でた。


 ……おお。


 今日は朝から二回も撫でてもらえたぞ。


「今日も朝ご飯、ありがとうね」


『にゃ!』


「ふふっ。いいお返事」


 マコトは手を洗うと、サラダを食卓へ運んでくれた。


「悠真、何か朝から楽しそうにしてたけど、どうしたの?」


「ああ、昨日の大食いの人の話をしてたんだ」


「大食い?」


「ほら、ホーンラビットを十匹分食べた人」


「ああ、あの人ね」


 マコトも昨日の話は聞いている。


 さすがに十匹という数字には驚いていたな。


「その人、今日も身体の調子がいいんだって」


「へえ。よかったじゃない」


「うん。でも、何で調子がいいのか分からないみたいで」


 マコトは少し考えてから、俺を見た。


「……もしかして、ニャルのご飯と同じ?」


『可能性はあるな』


「そうなのねえ」


 マコトはあっさり頷いた。


 俺たちの食生活をずっと見てきたから、ダンジョン飯で身体が強くなることには慣れているらしい。


「でも、あの人が本当に強くなったかどうかは、まだ分からないんだ」


「そうね。元気になったっていうだけなら、他にも理由はありそうだもの」


「うん」


「まあ、美味しく食べられて、元気ならいいことじゃない?」


『そうそう!』


 俺は思わず大きく頷いた。


 マコトは分かってるな!


「それに、悠真」


「ん?」


「あなたまで十匹分食べるとか言い出さないでよ?」


「言わないよ!?」


『大丈夫だ、マコト』


 俺は胸を張った。


『ユウマにはちゃんと美味しいものを食わせるからな!』


「ありがとう、ニャルちゃん」


「……いや、それ、答えになってる?」


 何がだ?


 ユウマが不思議なことを言っている。


 俺はちゃんと飼い主の食事を考えているぞ。


 量だけ増やしたって、料理の楽しさは増えないからな。


 ……まあ、おかわりは別だけど。


「じゃあ、そろそろ食べようか」


『おう!』


 俺は最後の皿を食卓へ運んだ。


 朝飯、完成だ!



――――――



「いただきます!」


「いただきます」


『にゃ!』


 ユウマがさっそくホーンラビットの香草焼きへ箸を伸ばした。


 こんがり焼けた肉を一切れ持ち上げ、口へ運ぶ。


 もぐもぐ。


 ……どうだ?


「んっ。うまっ!」


 おお!


 いい反応だ!


「やっぱりニャルの香草焼き、好きだなあ。肉が柔らかいし、香りもいい」


『へへっ。そうだろ!』


「朝からこんなの食べられるなんて、贅沢だよね」


 ユウマは嬉しそうにもう一切れ食べた。


 ……うむ。


 いい食べっぷりだ。


 こうやって目の前で美味しそうに食べてくれるのが、やっぱり一番嬉しい。


「ほんと、美味しいわね」


 マコトも香草焼きを口に運び、満足そうに頷いている。


「このハーブの香り、強すぎないのがいいわ」


『おっ、分かるか!』


「ええ。お肉の味もしっかりするし、朝でも食べやすいわね」


『そうなんだよ!』


 さすがマコト。


 ちゃんと狙ったところを分かってくれる。


 エルフハーブは香りがいいけど、入れすぎると肉の味を邪魔してしまうこともある。


 今日は朝飯だから、少し控えめにしたんだ。


 俺も自分用に小さく切り分けた肉を一口食べてみる。


 ……うん!


 表面の香ばしさ。


 噛むと広がる肉汁。


 そして、鼻に抜ける爽やかな香り。


 やっぱりうまいな、ホーンラビット!


 こんなに美味しい肉なのに、昔は危ないから食べない方がいいなんて言われていたんだよな。


 もったいない話だ。


 正しい処理さえすれば、こんなに美味しく食べられるのに。


「ニャル、目玉焼きも美味しいよ」


『おお、そっちも食ってくれ!』


「黄身がいい感じなんだよね」


 ユウマはトーストを小さくちぎり、目玉焼きの黄身をつけて食べている。


 ……おお。


 それもうまそうだな。


 俺もやってみよう。


 小さくちぎったパンを黄身につけ、口へ運ぶ。


 とろりとした黄身がパンに絡み、優しい甘みが広がった。


 ……うむ。


 朝飯って感じがするぞ。


 しばらくは三人とも、食事に集中していた。


 ユウマが肉を食べる。


 マコトがトーストをかじる。


 俺は小さな皿の上で、肉と目玉焼きを交互に楽しむ。


 そんな、いつも通りの朝だ。


 ……そういえば。


 昨日の大食いの人は、今朝も調子がいいって言ってたな。


 あれが本当にダンジョン飯の効果だったら、これからどうなるんだろう。


 他の人も食べてみるのかな。


 同じように身体が軽くなったって言う人が出てくるのかな。


 ……まあ、それはまだ分からない。


 でも。


 あの人がホーンラビットを食べてくれたのは、俺たちの配信がきっかけだったらしい。


 前には、配信を見てクリームシチューを作ってくれた人もいた。


 そして今は、他にも少しずつダンジョン食材を料理する人が増えている。


 それは、なかなか嬉しいことじゃないか。


「ニャル?」


『ん?』


 顔を上げると、ユウマが俺を見ていた。


「何か考え事?」


『ちょっとな』


「大食いの人のこと?」


『まあ、それもある』


 俺は残っていた肉を一切れ食べてから、ユウマへ念話を送った。


『でも、やっぱり俺は普通に料理してるのが好きだな』


「……うん?」


『ほら。こうやってお前たちが食ってくれるだろ?』


 ユウマが少し驚いたような顔をする。


『それが一番楽しいんだよ』


「……そっか」


 ユウマはふっと笑った。


「うん。俺も、ニャルの料理を食べるのが一番好きだよ」


『おう!』


 ……うむ。


 いい飼い主だな!


 俺は満足して尻尾を立てた。


 するとユウマが、また頭を撫でてきた。


「それに、ニャルが料理してるところを見るのも好きだし」


『そうか?』


「うん。めちゃくちゃかわいいから」


『……料理の腕の話じゃないのか?』


「もちろん料理もすごいよ!」


『ならいい』


 まったく。


 ユウマは俺のことをすぐかわいいって言うんだから。


 まあ、撫でてくれるのは嬉しいけどな。


 俺はしばらく撫でられた後、残りの朝飯を食べ終えた。


 ……ふう。


 満足、満足。


 大食いの人みたいに十匹分も食えなくたって、美味しいものをちょうどいい量だけ食べれば、十分幸せだ。


 ユウマも最後の一切れを食べ終えると、満足そうに息をついた。


「ごちそうさま!」


「ごちそうさま。今日も美味しかったわ」


『にゃ!』


 よし。


 今日の朝飯も大成功だ!



――――――



 食事の片づけを終えた頃、ユウマのスマートフォンが鳴った。


「あ、また通知だ」


『ん?』


「昨日の大食いの人の投稿、まだ話題になってるみたい」


『ほう』


 ユウマは画面を確認しながら、少し笑った。


「『次は何匹食べるんですか?』ってコメントがついてる」


『おお。次も食うのか?』


「いや、本人はまだ何も言ってないみたい」


『そうなのか』


「他にも、『本当に身体が軽くなったなら面白いね』とか、『たまたま調子がよかっただけじゃない?』とか」


 ふむ。


 やっぱり、いろんな意見があるんだな。


 ユウマはしばらく画面を眺めていたけど、やがてスマートフォンを置いた。


「まあ、今はまだ分からないよね」


『そうだな』


「でも、もし本当だったら……」


 ユウマはそこで少し言葉を止めた。


 そして、俺を見る。


「ニャルの料理って、やっぱりすごいんだな」


『おっ?』


 何だ、急に。


「だってさ。ニャルが料理してくれなかったら、俺もダンジョン飯で強くなれるなんて知らなかったわけだし」


『まあ、そうだな』


「今は他の人まで食べ始めてるんだよ? 改めて考えるとすごいよ」


 ユウマは感心したように言う。


 ……ふむ。


 言われてみれば、そうかもしれない。


 でも、俺がやってきたことって、そんなに大したことじゃないんだよな。


 美味しそうな食材を見つける。


 ちゃんと下処理する。


 美味しく料理する。


 そしてユウマたちに食べてもらう。


 それだけだ。


 ……いや。


 それだけってこともないか。


 橘に料理を教わったり、新しい調理器具を作ってもらったり、知らない食材を試したり。


 いろいろやってきたな。


 でも、結局は全部、美味しいものを作るためだった。


『ユウマ』


「ん?」


『俺はこれからも、いろんな料理を作るぞ』


「うん」


『もっと新しい食材も見つけたいし、まだ作ったことのない料理もあるからな』


「そっか」


『だから、お前もしっかり食ってくれよ!』


 ユウマは一瞬きょとんとした後、笑い出した。


「もちろん!」


『おう!』


「俺、ニャルの料理なら何でも食べるよ」


『そう言ってもらえると嬉しいな!』


 ……よし。


 ますますやる気が出てきたぞ。


 まずは次のダンジョン探索だな。


 何か新しい食材が見つかればいいんだけど。


 そういえば、最近は他のやつらと一緒に飯を食う機会も増えてきた。


 マコトはもちろん、レンもよく食べてくれる。


 この前は、キナコにも料理を作ったな。


 あいつは俺と同じ猫だけど、食べられるものや好みは少し違う。


 相手に合わせて料理を考えるのも、なかなか楽しかった。


 ……ああ、そうだ。


 レンのところには、レオもいるんだった。


 あいつにも、何か美味しいものを食わせてやりたいな。


 もちろん、食べ慣れているものを聞いてからだけど。


 きなこにも、また別の料理を作ってみたい。


 ふむ。


 そう考えると、次に作りたいものがどんどん増えてくるぞ。


『……レオたちにも、また何か作ってやりたいな』


 俺はそう呟きながら、尻尾をゆっくり揺らした。

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