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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第29話 配信のためじゃなく、魚を食べに行く

『魚』


「うん」


『魚』


「分かったって」


『魚だぞ、ユウマ』


「昨日からずっとそれじゃん」


 朝からユウマに三回目の確認をした。


 昨日の配信が終わったあと、魚料理を見たいというコメントがあった。


 だから今日は魚を取りに行く。


 もちろん、配信はしない。


 ダンジョンで料理するわけでもない。


 ただ魚を取りに行く。


「今日は魚料理用の食材探すか」


『魚』


「そのつもり」


『いっぱい取ろう』


「取れる範囲でな」


 ユウマはいつもの探索用装備を確認している。


 武器。


 防具。


 回復用の道具。


 必要なものを一つずつ確認していく。


 俺も準備はできている。


 収納魔法があるから、食材を持ち帰る準備は問題ない。


 それに今日は、前に来た時にはなかったものもある。


『網もあるぞ』


「ちゃんと入ってる?」


『ずっと入ってる』


 収納魔法の中を確認する。


 あった。


 長い柄の先に網がついた、ごく普通の網だ。


 前に碧水の地下湖へ来た時、水晶クラゲを見つけたのに捕まえられなかった。


 食えるのに。


 目の前に食材があるのに。


 捕まえられなかった。


 あれは悔しかった。


 だから帰ったあと、次に来る時のためにユウマとホームセンターへ行って買っておいた。


 それからずっと収納魔法の中に入れてある。


「普通の網だから、あんまり無茶な使い方はするなよ」


『クラゲ取るだけなら大丈夫だろ』


「たぶんな。もっとでかいのとか、力が強いのを取るなら無理だと思うけど」


『その時はもっといいの作る』


「ダンジョンの鉱物とかで?」


『うん』


「採取道具までダンジョン素材製になっていきそうだな……」


 それで美味いものが取れるならいい。


 包丁だって、宮本に作ってもらって使いやすくなった。


 網も必要になったら、その時にもっといいものを用意すればいい。


 でも今日は、これで十分だ。


『早く行こう』


「まだ出発前だから」


『魚が待ってる』


「待ってないと思う」


『クラゲもいるかもしれない』


「それは前回逃がしたもんな」


『今度は取る』


「はいはい」


 ユウマが最後に装備を確認する。


「ニャル」


『何?』


「今日は配信しないからな」


『知ってるぞ』


「昨日コメントで魚料理見たいって言われたからって、ダンジョンで撮ったりはしないから」


『料理は家でするぞ?』


「うん。分かってるならいい」


 当然だ。


 ダンジョンは食材を取りに行くところ。


 料理するのは家。


 食うのも家。


 それでいい。


「あと、魚見つけても勝手に突っ込むなよ」


『分かってる』


「前も聞いた気がする」


『今日は網もある』


「網があるから不安なんだけど」


 失礼だな。


 俺だって成長している。


 魚を見たくらいで――。


     ――――――


 いた。


『魚!』


「ニャル!」


 水面の下を銀色の影が走った。


 身体が勝手に前へ出る。


 ユウマの手が俺の胴を掴んだ。


『魚! ユウマ、魚!』


「分かってる! 見えてる!」


『離せ!』


「駄目!」


 目の前には大きな地下湖が広がっている。


 碧水の地下湖。


 前にも来たことがある。


 暗い洞窟の奥にあるのに、水は青く澄んでいる。


 天井や壁に生えた淡い光を放つ苔が、水面へゆらゆら映っていた。


 その下を魚が泳いでいる。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 いっぱい。


『ユウマ』


「駄目」


『まだ何も言ってないぞ』


「顔見れば分かる」


『魚がいる』


「いるな」


『網』


「まだ出すな」


『何で?』


「まず周り確認する」


『魚が逃げる』


「ニャル」


『……待つ』


 仕方ない。


 俺はユウマの腕の中から水面を見る。


 魚がいる。


 銀色のやつ。


 少し大きいやつ。


 岩の陰にも何かいる。


 美味そう。


 焼くか。


 煮るか。


 あの大きさなら丸ごと焼いてもいい。


「ニャル。周り」


『見てるぞ』


「魚以外」


『……見てる』


 ちゃんと見る。


 洞窟の壁。


 岩場。


 水際。


 魔物はいない。


 少なくとも、すぐ襲ってきそうなやつはいない。


 ユウマも確認を終えたらしい。


 ようやく俺を地面へ下ろした。


「いいぞ」


『魚!』


「走るな!」


 走ってない。


 少し早く歩いただけだ。


 水際まで行って、中を覗く。


 水が澄んでいる。


 泳いでいる魚がよく見える。


 前に来た時も思ったけど、ここはいい。


 魚がいっぱいだ。


 緑葉の洞窟もいいけど、あそこはジャガイモとキノコとニンジンと肉だ。


 ここは魚。


 すごくいい。


「完全に目が魚しか見てないな」


『ちゃんと見てるぞ』


「何を?」


『魚』


「だろうな」


 ユウマがため息をついた。


 俺は水面から目を離さない。


 今日は網もある。


 今度こそ、食材を逃がさない。


     ――――――


 碧水の地下湖は、水際に立って待っているだけで魚が網に入ってくるような場所じゃない。


 当たり前だけど。


 だから探索しながら、捕まえやすい場所を探す。


 ユウマが前を歩く。


 俺はその少し後ろ。


 湖沿いの岩場を進んでいく。


 途中で小さな水棲モンスターが出てきたけど、ユウマがすぐ倒した。


 速い。


 前にここへ来た時より、さらに動きがよくなっている気がする。


『強くなったな』


「ん?」


『今の』


「ああ。まあ、毎日ニャルの飯食ってるし」


『いっぱい食ってるからな』


「そこ?」


『大事だぞ』


 食わないと育たない。


 ユウマはちゃんと食う。


 だから育つ。


 いいことだ。


「でも、油断はしないからな」


『うん』


「魚見つけても一人で水に飛び込むなよ」


『分かってる』


「本当に?」


『……たぶん』


「そこは言い切れよ」


 魚を見た時のことは、その時にならないと分からない。


 仕方ない。


 しばらく進む。


 水面が少し静かな場所へ出た。


 大きな岩がいくつも突き出していて、その間を細い水路みたいに水が流れている。


 ここなら魚が近くを通る。


『ユウマ』


「ん?」


『あそこ』


 岩陰。


 透明なものが揺れている。


 水。


 じゃない。


 丸い傘。


 その下から細い触手が伸びている。


 光を受けるたびに、身体がきらきらする。


「あれ……」


『前にいたやつだ』


「水晶クラゲ?」


『うん』


 前に来た時、見つけた。


 でも捕まえられなかった。


 あの時は水の中をふわふわ逃げていって、結局諦めた。


 食えるのに。


 ずっと気になっていた。


 でも今日は違う。


『網』


「出番来たな」


 俺は収納魔法から網を出す。


 長い柄。


 先端には丸い枠。


 その中に張られた網。


 ホームセンターで買った普通のやつ。


 でも今の俺には、とても頼もしく見える。


「ニャル、まず鑑定な」


『分かってる』


 水晶クラゲを見る。


 鑑定。


 やっぱり食える。


 危ないのは触手だ。


 微弱な麻痺毒。


 傘の方は問題ない。


 触手を根元から取って、よく洗えば食える。


 特別難しい処理じゃない。


『食えるぞ』


「触っても大丈夫?」


『触手は駄目。痺れる』


「じゃあ網で取るの正解だったな」


『だから買った』


「買った時は毒のこと知らなかっただろ」


『捕まえられなかったから買った』


「そっちね」


 大事なのは捕まえることだ。


 俺は網を浮かせる。


 念動力で柄を動かすだけなら、包丁を使うのと変わらない。


 水晶クラゲそのものを念動力で押さえたり、引っ張ったりはしない。


 網を使って取る。


 それなら普通の採取だ。


『行くぞ』


「ゆっくりな」


 網を水へ入れる。


 水晶クラゲがふわりと動く。


『待て』


「クラゲに言っても待たないぞ」


『前も逃げた』


「だから慎重に」


 網を少し先へ回す。


 水晶クラゲが岩陰へ動く。


 逃げ道を読んで、網を動かす。


 もう少し。


 あと少し。


『今だ』


 すくう。


 水面が跳ねた。


 透明な身体が網の中に入る。


『取れた!』


「おお!」


 水晶クラゲが網の中でぷるぷる揺れている。


 光を受けて、きらきらする。


『ユウマ!』


「取れたな」


『取れたぞ!』


「触手に気をつけろよ」


『分かってる』


 網から直接、用意してきた容器へ移す。


 触手には触らない。


 蓋を閉じる。


 それから収納魔法へ。


 今度こそ、ちゃんと取れた。


『食えるぞ!』


「嬉しそうだなあ」


『前は逃げられたからな』


「網買った甲斐あったな」


『うん』


 俺は網を見る。


 普通の網。


 今日はこれで十分だった。


『もっと強いやつも取れるかな』


「やめとけ。壊れるぞ」


『じゃあ、その時はもっといい網作ろう』


「宮本さんに相談する?」


『材料も取りに行く』


「本当に採取道具までダンジョン仕様になりそうだな」


『取れない食材が出たら必要だろ?』


「まあ、そうだけど」


 まだ今は必要ない。


 でも、いつか普通の網じゃ取れない食材が出てくるかもしれない。


 その時はダンジョンの鉱物を取って、もっと丈夫な網を作る。


 それもいい。


 取れる食材が増える。


 作れる料理も増える。


 俺は収納魔法へ網を戻した。


 また使う。


     ――――――


 水晶クラゲを取れた。


 これだけでも来た意味はある。


 でも、まだ帰らない。


 魚を取っていない。


『魚』


「分かってるって」


 ユウマと湖沿いをさらに進む。


 途中で何度か魚影を見つけたけど、遠い。


 網を入れる前に逃げられる。


 一度近くまで来たけど、俺が動いた瞬間にいなくなった。


『速い』


「魚だからな」


『俺より速い』


「水の中ならそうだろうな」


『悔しい』


「張り合うなよ」


 さらに進む。


 湖の一部が浅くなっている場所があった。


 岩の隙間から水が流れ込み、小さな入り江みたいになっている。


 そこに。


 きらっ。


 光った。


『魚』


「いたな」


 今度は声を抑えた。


 逃げられたら困る。


 銀色の魚。


 俺よりずっと大きい。


 水の中をゆっくり泳いでいる。


 鱗が光を反射して、動くたびにきらきらする。


 美味そう。


 すごく美味そう。


「ニャル」


『分かってる』


「まだ止めてないぞ」


『じゃあ網出す』


「その前に鑑定」


 そうだった。


 魚を見ると忘れる。


 鑑定。


 分かる。


 食える。


 名前は――銀鱗マス。


 身は淡い桃色。


 脂は控えめ。


 でも旨味が強くて、加熱するとふっくらする。


 危ないところもある。


 腹の中。


 内臓を取ったあとに残る黒い膜。


 そこに少し刺激のある成分がある。


 でも、取れば問題ない。


『食えるぞ』


「安全?」


『腹の中の黒い膜は取る。あとは大丈夫だ』


「危険度は?」


『低い』


「ならよかった」


 ユウマが周囲を見る。


 俺も見る。


 今度は魚以外も。


 大丈夫そうだ。


「で、どうやって取る?」


『網』


「クラゲより速いぞ」


『ユウマが追う』


「俺?」


『浅いから入れるだろ?』


「俺が追い込んで、ニャルが網ですくう?」


『うん』


 いい作戦だ。


 ユウマが水へ入る。


 膝くらいまで。


 俺は少し離れた岩場で網を構える。


「ニャル、そっち行ったら頼むぞ」


『任せろ』


「魚しか見てないだろ」


『魚を取るんだから魚を見る』


「それはそうだけど」


 ユウマがゆっくり進む。


 銀鱗マスが気づいた。


 離れる。


 でも奥には行かない。


 ユウマが逃げ道を限定するように動く。


「そっち行くぞ!」


『来い』


 網を構える。


 銀鱗マスが泳ぐ。


 速い。


 こっちへ来る。


『今だ!』


 網を入れる。


 銀色の身体が横へ曲がった。


『あっ!』


「まだいる!」


 逃げられた。


 でも入り江の中だ。


 ユウマが反対側へ回る。


「もう一回!」


『今度は取る!』


 網を水の中へ入れて待つ。


 追いかけない。


 ユウマが少しずつ魚をこっちへ誘導する。


 銀鱗マスが泳ぐ。


 右。


 左。


 こっち。


 来る。


 まだ。


 まだ。


 今。


 網を動かす。


 ばしゃん!


『入った!』


「上げろ!」


 網を持ち上げる。


 重い。


 魚が中で暴れる。


『重い!』


「貸せ!」


 ユウマがすぐに柄を掴んだ。


 二人で網を水から上げる。


 銀色の魚がばたばた跳ねる。


『魚!』


「取れた!」


『魚だ!』


「見れば分かる!」


 網の中を覗く。


 銀鱗マス。


 近くで見ると、もっときれいだ。


 銀色の鱗。


 丸々した身体。


 身も厚そうだ。


『美味そう』


「生きてる魚に最初に言うことがそれ?」


『だって食材だぞ』


「ニャルらしいけど」


 すぐにユウマが適切に締める。


 それから収納魔法へ入れる。


 これで持って帰れる。


 水晶クラゲ。


 銀鱗マス。


 二つ。


 どっちも新しい食材だ。


 嬉しい。


「今日はこれくらいにするか」


『もう一匹』


「欲張るな」


『網あるぞ』


「だからって全部取る必要ないだろ」


『魚いるぞ』


「安全に帰るところまで探索だから」


『……分かった』


 それは大事だ。


 魚を取っても、家に帰れなかったら料理できない。


 料理できなかったら食えない。


『帰る』


「よし」


『早く帰ろう』


「急に素直」


『料理するからな』


「結局それか」


 当然だ。


     ――――――


 帰り道。


 俺はユウマの肩に乗っていた。


 行きより少し疲れた。


 でも気分はいい。


 収納魔法の中には食材がある。


 水晶クラゲ。


 銀鱗マス。


 それから網。


 前に取り逃がしたから用意したものが、ちゃんと役に立った。


『ユウマ』


「ん?」


『魚、どうする?』


「どうするって?」


『焼くか、煮るか』


「もう料理のこと考えてるの?」


『魚だからな』


「理由になってる?」


 なってる。


 銀鱗マスは加熱するとふっくらする。


 なら焼く。


 でも、ただ焼くだけでもいいし、バターを使ってもいい。


 包んで蒸し焼きにするのもいい。


 水晶クラゲは食感を残したい。


 こりこり。


 ぷるぷる。


 さっぱりした味付けが合いそうだ。


 何かと和えるのもいい。


「そういえばさ」


『何?』


「昨日、魚料理も見たいってコメントあったじゃん」


『うん』


「次の配信、今日の魚使う?」


『いいぞ』


「お」


『料理するんだろ?』


「する」


『ならいい』


 配信するために魚を取りに来たわけじゃない。


 魚を食いたいから取りに来た。


 でも、料理するところを見たいなら見せればいい。


 それでユウマが喜ぶなら、それもいい。


「どっち使う?」


『どっちも』


「二品作る?」


『うーん』


 それもいい。


 でも、水晶クラゲは初めてだ。


 銀鱗マスも初めてだ。


 せっかくなら、それぞれ一番美味そうな食い方を考えたい。


『家で見てから決める』


「了解」


 俺はユウマの肩の上で尻尾を揺らす。


 魚。


 新しい魚。


 それから、前に取り逃がしたクラゲ。


 今日はいい日だ。


「ニャル、嬉しそうだな」


『魚取れたからな』


「やっぱ配信よりそっちなんだ」


『当たり前だろ?』


「うん。知ってた」


 ユウマが笑った。


 俺も収納魔法の中身を思い出す。


 水晶クラゲは、触手を取って洗う。


 銀鱗マスは腹を開いて、内臓と黒い膜を取る。


 それから。


 どう料理するかな。


 焼く。


 蒸す。


 煮る。


 和える。


 考えていたら、また腹が減ってきた。


『ユウマ』


「何?」


『早く帰ろう』


「はいはい」


 家に帰ったら、まず食材を見る。


 それから決める。


 今日取った魚を、一番美味く食う方法を。


 それが一番大事だ。



――――――



──────────────

【ダンジョン食材辞典】


No.014


■名称

水晶クラゲ


■危険度

★★☆☆☆


■ニャル評価

★★★★☆


■見た目

水晶のように透き通った身体を持つクラゲ。

光を受けるときらきら輝く。

傘はぷるぷるしているが、噛むとこりこりした独特の食感。


■食用部位

傘


■危険な部位

触手


■おすすめ調理法

○ 酢の物

◎ さっぱりした和え物

○ 中華風の冷菜


■調理のコツ

触手には微弱な麻痺毒があるため、根元から完全に取り除く。

傘をよく水洗いしてから調理する。

味が淡泊なので、食感を活かせる味付けと相性がいい。


■一人前

傘 約100g


■メモ

『ぷるぷるしてるのに、噛むとこりこりするらしい。さっぱりした味で食べたら美味そうだ。……見てたら腹減ってきた』


──────────────

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