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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第27話 かわいい猫……だけじゃない?

 朝からユウマがおかしい。


 いや。


 ユウマがおかしいのは、たまにある。


 俺を抱えたまま「かわいい」と何回も言ったり、寝ているだけなのに写真を撮ったりする。


 だから、ちょっとくらいならいつものことだ。


 でも今日は違う。


 さっきから何度も同じものを見ている。


 朝飯を食べる前に見る。


 食べながら見る。


 食べ終わってからも見る。


 スマートフォンを置いたと思ったら、少ししてまた見る。


 何かあるんだろうか。


『何してる?』


「ん?」


 ユウマが顔を上げる。


 俺はテーブルの上からスマートフォンを見る。


『それ。さっきからずっと見てる』


「ああ、これ?」


『うん』


「昨日の配信」


『昨日の?』


 俺も画面を覗き込む。


 昨日、俺が料理していた映像が小さく映っている。


 ホーンラビットを切っているところだった。


 自分が料理している姿を見るのは、まだ少し変な感じがする。


「再生数増えてる」


『そうか』


「昨日終わったあとより増えてるんだよ」


『よかったな』


「ニャルの動画なんだけど」


『ユウマがやりたかったんだろ?』


「そうだけどさ」


 なら、増えたならよかったじゃないか。


 俺は昨日ちゃんと飯を作った。


 ユウマもマコトも美味いと言った。


 配信も途中で壊れたりしなかった。


 それで十分だと思う。


「あ、またコメント増えてる」


『コメント?』


「昨日見てた人とか、あとから動画見た人が書いてくれてる」


 ユウマが画面を動かす。


「ほら。『小さくてかわいい』」


『そうか』


「『尻尾がずっと動いてるのかわいい』」


『そうか』


「『世界一かわいい』」


『よかったな』


「何で俺が褒められたみたいな言い方?」


『嬉しいんだろ?』


「嬉しいけど!」


 やっぱりよかったじゃないか。


 ユウマはまた画面を見る。


 口元が少し緩んでいる。


 俺がかわいいと言われて、なんでユウマがそんなに嬉しそうなんだろう。


 よく分からない。


「ニャルちゃん、悠真、朝からずっとそれよ」


 マコトが食器を片付けながら笑う。


「母さん」


「何回見たの?」


「別に何回でもいいだろ」


「駄目とは言ってないわよ」


 俺はユウマを見る。


『そんなに見るものあるのか?』


「ある」


『昨日の俺が料理してるだけだぞ』


「だから見るんだよ」


『今日もいるぞ』


「それとこれは別」


 分からない。


 目の前に俺がいるのに、画面の中の俺も見たいらしい。


 人間は不思議だ。


「ほら、そろそろ学校行かないと遅れるわよ」


「あ」


 ユウマが時間を見る。


「やば」


『行ってこい』


「ニャル、今日は家にいる?」


『うん』


「帰ったらまた見るから」


『何を?』


「コメント」


『好きだな』


「ニャルのことだからな」


 ユウマはスマートフォンをしまって、慌ただしく出ていった。


 玄関が閉まる。


 静かになった。


 俺はしばらく扉の方を見る。


 それから、残っていた水を飲む。


 今日はダンジョンへ行かない。


 料理も夜までしない。


 ユウマが帰ってくるまでは、のんびりしていよう。


 そう思って、俺は日当たりのいい場所を探した。


     ◇


「お前、今日ずっとそれ見てない?」


「ずっとじゃない」


「じゃあ何回目?」


「知らない」


 学校の休み時間。


 悠真は机の上に置いたスマートフォンを見ていた。


 その画面を、隣から蓮が覗き込む。


「昨日始めたんだろ?」


「うん」


「ニャルの配信」


「『ニャルの台所』」


「チャンネル名まで猫中心かよ」


「当たり前だろ」


 悠真が即答する。


 蓮は少し黙った。


 画面には、昨日の配信のアーカイブ。


 小さなニャルが包丁を念動力で動かしている場面だった。


「……本当に料理してるな」


「するって言っただろ」


「知ってるけど。動画で見ると変だな」


「どこが?」


「猫が包丁浮かせて料理してるところ」


「ニャルはヌッコ」


「そこ?」


 蓮は画面を見る。


 悠真も見る。


 コメントがまた一つ増えていた。


「ほら」


「何?」


「またかわいいって」


「よかったな」


「だろ?」


「いや」


 蓮が悠真を見る。


「お前、ニャルを自慢したかっただけだろ」


「悪い?」


「即答かよ」


「だってかわいいだろ」


「いや、分かるけど」


 蓮は少し考えてから続けた。


「まあ、うちのレオもかわいいし」


「ニャルの方がかわいい」


「は?」


「世界一だから」


「レオだってかわいい」


「でもニャルは料理できる」


「料理でかわいさ決めるなよ」


「立って包丁も使える」


「だからかわいさの基準おかしいだろ」


 二人とも譲らない。


 しばらくして、蓮がため息をついた。


「……まあいいけど」


「何が?」


「お前がニャル大好きなの、今さらだし」


「当然だろ」


「それも即答なんだな」


 悠真はもう一度スマートフォンを見る。


 再生数は、朝よりまた少し増えていた。


     ◇


 ユウマが帰ってきた。


『おかえり』


「ただいま、ニャル」


 俺は玄関まで迎えに行く。


 ユウマは靴を脱ぐと、俺の頭を撫でた。


 気持ちいい。


 もう少し。


 俺が頭を押しつけると、ユウマの手が耳の後ろへ移動した。


 そこだ。


 やっぱりユウマは撫でるのが上手い。


「ニャル」


『ん?』


「コメント増えてた」


 撫でながらそれか。


『学校でも見てた?』


「ちょっとだけ」


『好きだな』


「ニャルのだからな」


 朝も聞いた気がする。


 ユウマは鞄を置くと、俺を抱えて部屋へ行った。


 そのまま一緒に座る。


「読む?」


『何を?』


「コメント」


『別にいいけど』


 ユウマがスマートフォンを開く。


 俺はその膝の上で丸くなる。


 画面を見るつもりはない。


 文字は読めるけど、小さい画面をずっと眺めるより、ユウマに読んでもらった方が楽だ。


「『ちっちゃい』」


『知ってる』


「『手も足も小さくてかわいい』」


『そうか』


「『尻尾ふわふわ』」


『そうか』


「『味見の時の顔かわいすぎ』」


『味見?』


「昨日の」


『美味かったぞ』


「そこなんだよなあ」


 ユウマが何か言っている。


 俺は膝の上で姿勢を変える。


 丸くなる。


 尻尾を身体へ巻く。


「……今のもかわいい」


『何が?』


「何でもない」


 まただ。


 ユウマは少し画面を動かした。


「『料理うまそう』」


 耳が動いた。


『どこが?』


「え?」


『何が美味そうだった?』


「ちょっと待って」


 ユウマがコメントを見る。


「『肉焼いてる時の音がいい』だって」


『分かってるな』


「反応違いすぎない?」


『何が?』


「さっきまで『そうか』しか言わなかったのに」


『料理の話だろ?』


「うん」


『なら気になる』


 当たり前だ。


 かわいいと言われても、俺にはよく分からない。


 でも美味そうなら分かる。


 昨日のシチューはちゃんと美味かった。


「じゃあこれは?」


『何?』


「『包丁の切り方きれい』」


 俺は顔を上げた。


『本当?』


「本当」


『どこ見てた?』


「そこまで書いてない」


『そうか』


「めちゃくちゃ気にするじゃん」


『料理だからな』


 切り方を褒められるのは嬉しい。


 宮本に作ってもらった包丁も使いやすいし、前より細かいことができるようになった。


 同じ大きさに揃えれば、火の通り方も揃いやすい。


 ちゃんと見ている奴もいるらしい。


 少し嬉しい。


「尻尾動いてる」


『動くぞ』


「今、嬉しいんだろ」


『普通だ』


「はいはい」


 ユウマが笑う。


 俺は尻尾を押さえようとした。


 でもすぐ手を離す。


 別にいいか。


 嬉しいものは嬉しい。


「他にもあるぞ」


『料理の?』


「探してみる」


 ユウマがコメントを流していく。


 かわいい。


 小さい。


 欲しい。


 飼いたい。


 味見してる。


 猫舌。


 包丁が浮いてる。


 鍋も浮いてる。


 いろいろ書いてあるらしい。


 俺は半分くらい聞き流す。


 ユウマの膝が暖かい。


 このまま寝てもいい。


 そう思って目を細めた時だった。


「あれ?」


『ん?』


 ユウマの指が止まった。


『どうした?』


「これ」


『何?』


「『これ、ホーンラビットじゃない?』って」


 目を開ける。


『そうだぞ』


「うん」


『それが?』


「いや……」


 ユウマが次のコメントを見る。


「『鍋に入れてたのゴブリンポテトだよな?』」


『そうだな』


 何を今さら言っているんだろう。


 昨日使ったんだから、見れば分かる。


「こっちにもある」


『何て?』


「『妖精ニンジンに見える』」


『入れたぞ』


「だよな」


『昨日一緒に食っただろ』


「食べた」


 ユウマの返事が少し遅い。


 俺は身体を起こした。


『どうした?』


「いや」


 ユウマが画面を見つめる。


 さっきまで嬉しそうに「かわいい」を探していた時とは少し違う。


 さらにコメントを読む。


「『いや、それ食用じゃないだろ』」


『食えるぞ』


「ニャルは知ってるけど」


『ユウマも食っただろ』


「食ったけど」


「『ダンジョン素材じゃない?』」


『そうだぞ』


「あ」


 ユウマが声を出した。


『何だ?』


「昨日使ったの、普通にダンジョン食材だったなって」


『そうだけど?』


「……俺たち、普通になりすぎてた」


『何が?』


「これ食べるの」


 ユウマが画面を俺に向ける。


 昨日の映像。


 ホーンラビットの肉。


 ゴブリンポテト。


 妖精ニンジン。


 ケイブマッシュルーム。


 俺が切って、焼いて、煮込んでいる。


 いつもの光景だ。


 ダンジョンへ行く。


 食材を持ち帰る。


 俺が料理する。


 ユウマたちが食べる。


 もう何度もやっている。


『普通だろ?』


「俺たちにはな」


『他の奴は食わないのか?』


「少なくとも、こんな普通には食ってないと思う」


 そういえば。


 最初の頃は、ユウマもダンジョンで拾ったものを食べることに驚いていた。


 俺も食材として見ていいのか迷ったものがある。


 でも今は違う。


 見つけたら、どう食べるか考える。


 肉なら焼く。


 野菜なら煮る。


 果物なら甘いものにする。


 魚を見たら――。


 魚。


 食べたい。


「ニャル?」


『何だ?』


「今別のこと考えてなかった?」


『魚』


「なんで?」


『食いたくなった』


「今その話じゃないから」


 違ったらしい。


 ユウマはまた画面を見る。


 俺も今度は少しだけ覗く。


 文字が並んでいる。


 ユウマが指でゆっくり動かす。


「これも」


『読んで』


「『ホーンラビットって肉取れるの?』」


『取れるぞ』


「『ゴブリンポテトって毒とかないの?』」


『ちゃんと処理すれば食える』


「『本当に食ったの?』」


『食った』


「俺が答える前に全部答えるじゃん」


『質問なんだろ?』


「ニャルには聞こえてないけどな」


『ユウマが読んでる』


「そうだった」


 ユウマが笑う。


 でも、すぐまた画面へ目を戻した。


 コメントはまだ続いている。


「『ダンジョンのものって食材になるんだ』」


『なるぞ』


「『知らなかった』」


『美味いのに』


「それを知らないんだって」


『もったいない』


 俺は本気でそう思う。


 ホーンラビットは美味い。


 ゴブリンポテトもちゃんと料理すれば美味い。


 妖精ニンジンも甘い。


 ケイブマッシュルームも旨味が出る。


 月光リンゴも美味かった。


 エルフハーブだって肉に合う。


 食えるものがいっぱいあるのに。


 知らないなら、もったいない。


「……ニャル」


『何?』


「これ、もしかして結構気になる人いるのかも」


『飯が?』


「ダンジョン食材が」


『美味いぞ』


「それは俺も知ってる」


『なら教えればいい』


「簡単に言うなあ」


 ユウマが苦笑する。


 俺には難しいことには思えない。


 食えるものは食える。


 危ないものはちゃんと処理する。


 美味くなるように料理する。


 それだけだ。


 もちろん、何でも食えるわけじゃない。


 俺だって分からないものをいきなり口には入れない。


 でも、昨日使ったものはもう何度も食べている。


 ユウマもマコトも元気だ。


 俺も元気。


 問題ない。


「最初はさ」


『うん』


「ニャルがかわいいって知ってもらえればいいと思ってたんだけど」


『今も言ってるぞ』


「それは当然」


『そうか』


「でも、料理の方も気にされてるんだな」


『料理する配信なんだろ?』


「そうなんだけど」


 ユウマが少し笑う。


「なんか、思ってたのと違う方向にも行きそう」


『飯作るだけだぞ』


「ニャルはそれでいいよ」


『じゃあいい』


 話は終わった。


 俺はまたユウマの膝で丸くなろうとする。


 今度こそ寝よう。


 でも。


「あ」


 またユウマが声を出した。


『今度は何だ?』


「新しいコメント」


『かわいい?』


「いや」


『料理?』


「……料理っていうか」


 ユウマが少し黙る。


 画面を見る。


 俺も顔を上げた。


「『これ、本当に食べられるの?』」


 ユウマが読み上げる。


 俺は少し考えた。


 昨日のシチューを思い出す。


 柔らかいホーンラビット。


 ほくほくのゴブリンポテト。


 甘い妖精ニンジン。


 旨味の出たケイブマッシュルーム。


 美味かった。


 だから答えは一つしかない。


『食べられるぞ』


 ユウマを見る。


『美味いぞ』


 でも。


 それを知っているのは、まだ俺たちくらいなのかもしれない。

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