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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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16/58

第15話 魚のダンジョンは猫に危険です

「魚いる?」


 そう聞いた俺に。


 悠真は少し考えてから。


「……いるみたいだな」


 と言った。


 その瞬間。


 俺の中で。


 次の休日の予定が決まった。


 ――――――


 碧水の地下湖。


 朝倉家から電車で一時間弱。


 いつもの緑葉の洞窟よりは遠い。


 でも。


 休日に日帰りで行くなら、別に大した距離ではない。


『魚』


「分かったって」


『魚がいる』


「昨日から何回言ってんだよ」


『確認だ』


「何の?」


『今日の目的』


「探索だよ」


『魚だ』


「探索!」


 意見が合わない。


 俺は悠真の肩の上で。


 前を見た。


 碧水の地下湖への入口。


 ここから見える範囲では。


 普通の洞窟だ。


 岩。


 暗い道。


 少し湿った空気。


 緑葉の洞窟ほど植物は多くない。


 代わりに。


 奥から。


 水の匂いがする。


「ニャル」


『なんだ』


「まだ魚見えてないのに尻尾動いてるぞ」


 見る。


 動いている。


『気のせいだ』


「自分の尻尾だろ」


『猫だから仕方ない』


「最強の言い訳だな、それ」


 うむ。


 便利だ。


 それに。


 別に浮かれているわけではない。


 新しいダンジョンだ。


 初めて見る食材がある。


 魚もいる。


 料理の種類も増える。


 だから。


 これは。


 料理人として。


 冷静に。


 期待しているだけだ。


 魚だからではない。


 たぶん。


「じゃあ行くか」


『うむ』


 悠真が歩き出す。


 俺も。


 尻尾を揺らしながら。


 奥を見た。


 魚。


 ――――――


 洞窟を進んで。


 少し。


 湿った空気が強くなった。


 壁の隙間から。


 水が流れている。


 地面にも。


 細い水路が増える。


『近いな』


「分かるの?」


『水の匂いがする』


「猫ってそんなの分かるんだ」


『俺だからかもしれん』


「便利だなあ」


 いや。


 本当にそうか?


 魚が近いから。


 俺が勝手に敏感になっているだけかもしれない。


 その可能性は。


 考えないことにする。


「この先みたいだな」


 悠真が。


 少し先を見る。


 洞窟が。


 急に広がっている。


 俺たちは。


 そこへ出た。


「……うわ」


 悠真が立ち止まった。


 俺も。


 止まった。


 広い。


 ものすごく。


 広い。


 洞窟の中なのに。


 向こう岸が遠い。


 大きな湖が。


 目の前いっぱいに広がっている。


 洞窟の天井や壁には。


 淡く光る鉱石のようなものが点々とある。


 その光が水面へ映って。


 青く。


 ゆらゆら揺れていた。


「すげえな……」


 悠真が呟く。


「これ、本当に地下なんだよな」


『…………』


「ニャル?」


『…………』


「おーい」


 聞こえている。


 でも。


 今。


 それどころではない。


 水面。


 何かが動いた。


 俺の耳が。


 ぴん。


 尻尾が。


 すっ。


 左右へ動く。


「ニャル」


『…………』


「お前、何見て――」


 ばしゃっ!


 銀色の魚が。


 水面から跳ねた。


「にゃっ!」


 身体が。


 勝手に動いた。


「待て!」


 走る。


 水辺へ。


 魚。


 魚がいた。


 大きい。


 美味そう。


 捕まえる。


「ニャル!」


 あと少し。


 水際。


 前足を伸ばして。


 跳ぶ。


 その直前。


「捕まえた!」


「にゃあ!?」


 身体が浮いた。


 魚ではない。


 俺が。


 悠真に捕まった。


 両脇の下。


 後ろから。


 ぶらん。


『放せ!』


「放したら湖に突っ込むだろ!」


『魚!』


「見れば分かる!」


『魚がいる!』


「だからって飛び込むな!」


『捕まえる!』


「お前泳げるの!?」


『…………』


「今考えたな!?」


 俺は。


 水面を見る。


 もう魚はいない。


「にゃ……」


「そんな悲しそうな声出すなよ」


『行った』


「行ったな」


『魚が』


「またいるから!」


 悠真が。


 俺を抱え直す。


 両腕の中。


 俺は水面を見る。


 絶対いる。


 今の一匹だけではない。


 この湖。


 魚がいる。


 たくさん。


「……ニャル」


『なんだ』


「今日、下ろして大丈夫?」


『大丈夫だ』


「本当に?」


『俺は冷静だ』


 ばしゃっ。


「にゃっ!」


「はい駄目!」


『今のは大きかった!』


「サイズの問題じゃない!」


 どうやら。


 このダンジョン。


 危険だ。


 主に。


 俺に。


 ――――――


『下ろせ』


「飛び込まない?」


『飛び込まない』


「魚が跳ねても?」


『…………飛び込まない』


「間が怖いな」


『約束する』


 悠真は。


 ようやく俺を地面へ下ろした。


 信用がない。


 失礼な。


 俺だって。


 一度状況を理解すれば。


 いつまでも同じことはしない。


 俺は料理人だ。


 魚は。


 ちゃんと食材として扱う。


 だから。


 まず。


 探す。


「今度はそっちから離れすぎるなよ」


『分かってる』


 水際。


 近付きすぎない。


 でも。


 見える範囲。


 俺は歩く。


 そして。


 すぐに見つけた。


『悠真』


「今度は何?」


『いた』


「魚?」


『違う』


 岩場。


 大きな岩の隙間。


 何か。


 動いた。


 ごそ。


 ごそごそ。


 硬そうな。


 茶色っぽい甲羅。


 大きな爪。


「カニ?」


 悠真が剣へ手を伸ばす。


 そのカニが。


 岩陰から出てくる。


 普通のカニより。


 ずっと大きい。


 俺と比べたら。


 かなり大きい。


『岩ガニ』


「分かる?」


『食える』


「最初にそれなんだ」


 重要だ。


 鑑定。


 見れば分かる。


 殻の中の身は食える。


 ただし。


 ダンジョン産。


 普通のカニと同じ感覚で。


 そのまま食べていいわけではない。


『ちゃんと処理して火を通せばいける』


「じゃあ持って帰るか」


『うむ』


 悠真が。


 剣を抜く。


 岩ガニが。


 爪を上げた。


 俺は。


 少し下がる。


 戦闘は。


 悠真の仕事だ。


 岩ガニの大きな爪が振られる。


 悠真が横へ避ける。


 速い。


 前より。


 ずっと。


 危なげがない。


 踏み込み。


 一撃。


 硬い殻へ。


 剣が当たる。


 岩ガニがよろめいた。


「硬っ」


『脚の付け根』


「そこ?」


『殻が薄い』


「了解!」


 もう一歩。


 悠真が入る。


 狙い通り。


 動きが止まった。


 俺は。


 倒れた岩ガニを見る。


『持って帰る』


「やっぱりそこなんだ」


『カニ汁』


「もう料理決めてるの?」


『まだ候補だ』


 カニ。


 汁。


 出汁。


 絶対美味い。


 でも。


 今日は。


 まだ。


 本命がいる。


 魚だ。


 ――――――


 そのあとも。


 歩くたびに。


 新しいものが見つかった。


『悠真』


「今度は?」


『あれ』


 水中。


 透明な何かが。


 ふわふわしている。


「クラゲ?」


『たぶん』


 湖なのにクラゲ。


 でも。


 ダンジョンだ。


 細かいことはいい。


 透明な身体。


 淡い光を受けて。


 水晶みたいに見える。


『水晶クラゲ』


「それも食える?」


『食える』


「……ニャルに聞くと大体食えるな」


『食えるものを見つけてるからな』


「逆じゃない?」


 たぶん。


 違わない。


 鑑定してみる。


 食用にできる部分はある。


 でも。


 そのままは駄目。


 きちんと処理が必要だ。


『これも持って帰りたい』


「捕まえ方どうする?」


『…………』


 水の中。


 俺。


 悠真。


 剣。


『網いるな』


「持ってきてないな」


『次は持ってくる』


「もう次来る気満々じゃん」


 当然だ。


 この湖。


 すごい。


 あっちにカニ。


 水の中にクラゲ。


 そして。


 魚。


 魚。


 魚。


 さっきから。


 視界の端を。


 銀色が通る。


 そのたびに。


 耳が勝手に。


 ぴく。


 動く。


「ニャル」


『なんだ』


「今、魚いた?」


『いない』


「尻尾動いたけど」


『風だ』


「洞窟の中だぞ」


『風くらい吹く』


 ばしゃ。


「にゃっ!」


「いたじゃん!」


『今のは別だ!』


「何が別なの!?」


 危ない。


 理性が。


 魚に削られる。


 新しい食材を探す。


 料理を考える。


 それが目的だ。


 飛び付くことではない。


 落ち着け。


 俺。


 猫だけど。


 料理人。


 猫だけど。


 料理人だ。


 ばしゃっ。


「にゃ!」


「ニャル!」


 半歩だけだった。


 まだ大丈夫。


 ――――――


 しばらく歩いたところで。


 悠真が。


 湖の一部を指差した。


「あそこ、浅いな」


『うむ』


 岩に囲まれた場所。


 水が浅い。


 流れ込んだ魚が。


 何匹か。


 見える。


「近付くなよ」


『分かってる』


 近付かない。


 俺は。


 少し離れたところから。


 じっと。


 見る。


 銀色。


 大きい。


 背中側の色は少し濃い。


 身。


 絶対。


 美味そう。


 鑑定。


 情報が。


 頭へ入る。


『…………』


「どうした?」


『ケイブサーモン』


「サーモン?」


『サーモン』


 鮭。


 魚。


 赤身。


 焼く。


 脂。


 香り。


 ムニエル。


 塩焼き。


 いや。


 汁物もありだ。


 身が厚い。


 これは。


 いい。


「食べられる?」


『食える』


 即答した。


 危険な部分。


 処理。


 加熱。


 頭の中で整理する。


 普通の魚と。


 完全に同じではない。


 でも。


 ちゃんと処理すれば。


 美味しく食える。


『悠真』


「何?」


『欲しい』


「だと思った」


『取って』


「俺が?」


『俺が行ったら止めるだろ』


「分かってるじゃん」


『だから悠真が取る』


「釣り道具も網もないけど」


『剣』


「魚に剣使わせる気!?」


 できるだろ。


 たぶん。


 悠真なら。


 俺は。


 魚を見る。


 向こうも。


 こっちを。


 見ていない。


 当たり前だ。


『悠真』


「無理だって」


『悠真』


「そんな目で見るな」


『悠真』


「……やってみるだけだからな?」


『よし』


「絶対これ、甘やかしてるよな俺……」


 何か言っている。


 聞こえない。


 悠真が。


 浅瀬へ近付く。


 剣を抜く。


 待つ。


 魚が。


 近くへ。


 すい。


 悠真。


 動かない。


 すい。


 もう少し。


「今!」


『そこ!』


「分かってる!」


 水しぶき。


 魚が跳ねる。


 剣そのものを突き刺すというより。


 逃げ道を塞ぐように。


 水面を叩いた。


 ケイブサーモンが。


 驚いて。


 岩場へ。


 ばしゃ。


「うおっ!」


『逃がすな!』


「ニャル、そっち!」


『任せろ!』


 気付けば。


 俺も走っていた。


 でも。


 今度は。


 湖ではない。


 浅い岩場。


 跳ねたサーモンが。


 水の外へ出る。


「にゃ!」


 飛び付く。


 今度こそ。


 捕まえた。


「にゃあ!」


「ニャル!」


 大きい。


 俺より。


 大きい。


 暴れる。


 ぬるぬるする。


 でも。


 放さない。


『取った!』


「お前ごと水に戻りそうなんだけど!」


『押さえろ!』


「はいはい!」


 悠真が。


 魚を押さえる。


 俺も。


 両前足で。


 抱き付く。


 ケイブサーモン。


 大きい。


 重い。


 美味そう。


「ニャル」


『なんだ』


「すげえ幸せそうな顔してる」


『当然だ』


 魚だぞ。


 しかも。


 ダンジョンの魚。


 新食材。


 どう料理する。


 焼くか。


 ムニエル。


 カニもある。


 汁物も。


 ああ。


 忙しい。


 食べたいものが。


 多すぎる。


 このダンジョン。


 危険だ。


 俺にとって。


 楽しすぎる。


「で」


 悠真が聞く。


「今日、何食う?」


 決まっている。


 俺は。


 大きなケイブサーモンを。


 ぎゅっと抱きしめた。


『今日はこれ食う』


──────────────

【ダンジョン食材辞典】


No.006


■名称

ケイブサーモン


■危険度

★★☆☆☆


■ニャル評価

★★★★★


■見た目

碧水の地下湖に生息する大型のサーモン系食材。


銀色の身体で、身は厚い。

水から跳ねると猫の目をものすごく引く。


危険。


俺に。


■食用部位

身。


■危険な部位

内臓などはそのまま食べない。

普通の魚と同じ感覚で雑に処理するのは禁止。


■おすすめ調理法

◎ 焼き魚

◎ ムニエル

○ 汁物


■調理のコツ

内臓などをきちんと取り除き、身を十分に加熱して使う。


厚い身を活かして焼くのが良さそう。

脂のある部分は絶対美味いにゃ。


■一人前

切り身で適量。


■メモ

魚。


★★★★★。


以上にゃ。


……本当はもっと書く。


碧水の地下湖にはこいつ以外にも食べられそうな魚がいる。


また行く。

絶対行く。

──────────────


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