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転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


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第13話 親友の卵から小さなグリフォンが生まれた

 卵の隙間から。


 小さな翼が出ていた。


「……翼?」


 悠真が呟く。


「お、おう。翼だな」


 蓮も身を乗り出した。


 俺は二人よりさらに近く。


 テーブルの上。


 卵の真ん前で、その小さな翼を見つめていた。


「にゃ……」


 ぴし。


 また殻にひびが入る。


 翼がもぞもぞ動いた。


『頑張れ』


「ニャルが応援してる」


「いや、俺も応援するけど」


 蓮が卵へ顔を近付ける。


「頑張れ。もうちょいだぞ」


 さっきまで。


 この卵を売るかどうか考えていた男とは思えない声だった。


 ぱき。


 大きく殻が割れる。


「おっ」


 内側から何かが頭を押し出した。


 最初に見えたのは。


 鳥みたいな頭。


 小さなくちばし。


 まだ柔らかそうな羽毛。


 さらに殻が崩れる。


 翼。


 前足。


 身体。


 そして。


 後ろ半分は。


「……猫?」


 思わず俺は首を傾げた。


 鳥っぽい。


 でも。


 後ろ足や胴の形は、猫科っぽい。


 丸い身体をぶるぶる震わせながら。


 そいつは卵の中から転がり出た。


「きゅ……」


 小さく鳴く。


 まだ足に力が入らないらしい。


 ぺた。


 テーブルの上へ腹をつけた。


 三人とも。


 黙った。


 俺も。


 悠真も。


 蓮も。


 そして。


 蓮が最初に口を開いた。


「うお……グリフォン?」


「たぶん」


 悠真も目を丸くする。


 俺は知らない。


『グリフォン?』


「獅子と鷲が合わさったみたいなモンスター」


『ほう』


 なるほど。


 だから。


 鳥と猫みたいに見えたのか。


「グリフォンって、結構すごいやつだよな?」


「ああ。俺も実物は初めて見たけど」


 悠真が答える。


「成長したらかなり強いモンスターだったはず」


「マジか」


 蓮が生まれたばかりのグリフォンを見る。


「…………」


 探索者なら。


 普通は。


 強いか。


 珍しいか。


 どれくらい価値があるか。


 そういうところを見るんだと思う。


 俺だって新しい食材を見つければ。


 食えるか。


 美味いか。


 どう料理するか。


 そこから考える。


 だから。


 蓮も何か。


 探索者らしいことを言うのかと思った。


「ちっさ」


 違った。


「そっち?」


 悠真が笑う。


「いや、小さいだろ」


 蓮が両手を少し広げる。


 生まれたばかりのグリフォンは。


 俺よりは大きい。


 でも。


 強力なモンスターと聞いて想像する姿とは、かなり違う。


 翼も小さい。


 足も短い。


 頭も丸い。


 よろよろしている。


「これが、でっかくなるのか……」


 蓮がしゃがみ。


 目線を合わせる。


 グリフォンも顔を上げた。


「…………」


「…………」


 見つめ合う。


 少しして。


 蓮の口元が緩んだ。


「……かわいいな」


 その声は。


 さっきよりずっと柔らかかった。


 悠真が。


 俺を見る。


 俺も悠真を見る。


 たぶん。


 同じことを考えていた。


 こいつ。


 もう駄目だな。


 ――――――


 生まれたばかりのグリフォンは。


 まず。


 立つところから苦戦していた。


 前足を踏ん張る。


 立つ。


 ぐらっ。


「危なっ」


 蓮が手を伸ばす。


 ぺた。


 倒れる。


「……大丈夫か?」


 蓮が心配そうに覗き込む。


 グリフォンは。


 何でもないみたいにまた顔を上げた。


「元気そうだけど」


「心臓に悪いな、これ」


「まだ生まれたばっかりだからな」


 悠真が言う。


「ニャルも最初こんなだったっけ?」


『俺はもっとしっかりしてたぞ』


「孵った瞬間から二本足で立ってたもんな」


『うむ』


「比較対象がおかしいんだよ」


 蓮に言われた。


 失礼な。


 俺はちゃんとした猫だ。


 ちょっと立てて。


 ちょっと念話が使えて。


 ちょっと魔法が使えて。


 料理ができるだけだ。


 ……普通ではない気もする。


 まあいい。


 猫だからな。


「ほら」


 蓮がグリフォンへ手を差し出す。


「こっち来るか?」


「きゅ」


 小さく鳴いて。


 一歩。


 二歩。


 ふらふらしながら進む。


 途中で一度転びかけて。


 それでも。


 蓮の手のところまで来た。


「お」


 鼻先を。


 蓮の指へ押し付ける。


「……来た」


「蓮のこと分かってるんじゃない?」


「そうなのか?」


「ニャルも最初から俺に懐いてたし」


『飼い主だったからな』


「ほら」


「ニャル基準でいいのか?」


『いいだろ』


 グリフォンが。


 蓮の指を。


 ぺろ。


 舐めた。


「…………」


 蓮が固まる。


「どうした?」


「いや」


 もう一度。


 ぺろ。


「……これ、やばいな」


「何が?」


「かわいい」


「さっきも言ってたじゃん」


「思ってたよりかわいい」


 さっきから。


 強いモンスターが生まれた喜びより。


 かわいいしか言っていない。


 でも。


 それでいいんだと思う。


 悠真も。


 俺が戦闘に向いていないと分かったあと。


 普通に抱き上げて撫でていた。


 俺としても。


 あっちの方がありがたい。


「抱いても大丈夫かな」


「たぶん?」


『嫌なら暴れるだろ』


「じゃあ」


 蓮がそっと。


 両手を身体の下へ入れる。


 持ち上げる。


「軽っ」


 胸元へ抱えると。


 グリフォンは。


 少しだけ身体を動かしたあと。


 そのまま蓮の胸へ収まった。


「…………」


「…………」


 蓮。


 無言。


「蓮?」


「何?」


「顔」


「何だよ」


「すごいぞ」


「何が」


「昨日俺に言ってた顔してる」


「は?」


「ニャル見てる時の俺の顔がどうとか」


 蓮が俺を見る。


「してねえよ」


「してる」


『してるな』


「ニャルまで!」


 俺は正直に言っただけだ。


 グリフォンが。


 蓮の腕の中で鳴く。


「きゅ」


「あー、はいはい」


 蓮がすぐそっちを見る。


「何だ? どうした?」


 ほら。


 もう飼い主だ。


 ――――――


「名前どうする?」


 悠真が聞いた。


「名前か」


 蓮は。


 膝の上に乗せたグリフォンを見る。


 少しは足元もしっかりしてきたらしく。


 今は蓮の制服の袖を前足でちょいちょいしている。


「グリフォンなんだよな」


「そうだな」


「獅子と鷲」


「うん」


「獅子」


 蓮が少し考える。


「ライオン」


「うん」


「じゃあ、レオ」


「早っ」


 悠真が即座に突っ込んだ。


「いいだろ。レオ」


「悪くないけど」


「分かりやすくていいだろ」


 蓮は気にしていない。


 もう一度。


 グリフォンを見る。


「レオ」


 名前を呼ぶ。


 グリフォンが顔を上げた。


「きゅ?」


 蓮が笑う。


「よし。お前、今日からレオな」


 頭を撫でる。


「よろしくな、レオ」


「きゅっ」


 偶然かもしれない。


 でも。


 返事みたいに聞こえた。


 蓮は嬉しそうだ。


 尻尾があったら。


 たぶん振ってる。


『レオか』


「そう」


 俺は近付く。


 テーブルの端。


 レオの正面へ。


「にゃ」


 鳴いてみる。


 レオが。


 俺を見る。


「…………」


「…………」


 じー。


 さっきまで。


 蓮しか見ていなかった目が。


 今度は俺に固定された。


『俺はニャルだ』


「きゅ?」


『ニャル』


「きゅ」


『よし』


「通じてるの?」


 悠真が聞く。


『たぶん』


「たぶんかよ」


 仕方ない。


 こいつは念話を返してこない。


 でも。


 敵意はなさそうだ。


 俺が一歩近付く。


 レオも。


 一歩。


「きゅ」


 さらに一歩。


「にゃ」


 鼻先が近付く。


 すん。


 すんすん。


 お互いに匂いを嗅ぐ。


 なるほど。


 知らない匂いだ。


 鳥っぽくて。


 猫っぽい。


 なんとも言えない。


 ただ。


 嫌いではない。


『よろしくな、レオ』


 前足を上げる。


 ぺた。


 レオの頭へ置く。


「きゅ!」


 その瞬間。


 レオの目が輝いた。


『ん?』


 一歩。


 近付く。


 俺が下がる。


 一歩。


 また来る。


『近い』


「きゅ!」


『近いって』


 ばさ。


 小さな翼が開いた。


 まだ飛べるようには見えない。


 ただ。


 勢いだけはある。


 ぴょん。


「にゃ!?」


 飛び付いてきた。


『待て待て待て!』


 俺より大きい身体。


 真正面から来た。


 俺は横へ逃げる。


 レオが追ってくる。


「きゅっ!」


『なんだこいつ!』


「遊びたいんじゃない?」


 悠真が笑う。


『今孵ったばっかりだろ!』


「元気だなあ」


 蓮まで笑ってる場合じゃない。


 レオがもう一度近付く。


 俺の横。


 そこへ。


 ふわ。


 俺の尻尾が動いた。


 レオの目が。


 完全に尻尾へ向いた。


『……おい』


 尻尾を右へ。


 目も右へ。


 左へ。


 目も左へ。


『これは玩具じゃ――』


 ぱし。


「にゃっ!」


 前足で触られた。


『尻尾は玩具じゃない!』


「きゅ!」


 楽しそうだ。


 全然聞いてない。


「ニャル、嫌なら抱くけど」


 悠真が手を伸ばす。


『大丈夫だ』


 俺は。


 レオを見る。


 レオも。


 俺を見る。


 尻尾は。


 後ろへ隠す。


『遊びたいなら別のところで遊べ』


 前足を出す。


 軽く。


 ぺし。


 レオの額へ触れる。


「きゅ」


 レオも。


 前足を上げる。


 ぺし。


 俺の前足へ。


「…………」


「…………」


『もう一回』


「きゅ」


 ぺし。


 ぺし。


 何だこれ。


 よく分からん。


 でも。


 ちょっと面白い。


「仲良くなってない?」


 悠真が言う。


『まあ』


 レオがまた近付いてくる。


『悪いやつではなさそうだ』


「評価早いな」


 猫は。


 こういうのは早いんだ。


 たぶん。


 ――――――


 それから。


 しばらく。


 レオはリビング中を見て回った。


 テーブルの脚。


 ソファの下。


 カーテン。


 俺の箱。


『そこは俺のだ』


「きゅ?」


『入るなよ』


 レオが箱を覗き込む。


『絶対入るなよ』


「きゅ」


 前足を入れる。


『聞いてないな、こいつ』


「言葉分かってないだろ」


『雰囲気で分かれ』


「無茶言うなよ」


 悠真が笑う。


 蓮は。


 そんなレオのあとをずっと目で追っていた。


「そこ危ないぞ」


「きゅ」


「テーブルの下ならいいけど、ぶつかんなよ」


「きゅっ」


「翼引っ掛けるなって」


「きゅ」


 完全に。


 世話を焼いている。


『蓮』


「ん?」


『大変そうだな』


「まあな」


 言いながら。


 顔は笑っている。


『後悔したか?』


「は?」


 蓮がこっちを見る。


「するわけないだろ」


 即答だった。


 俺は。


 ちょっとだけ。


 尻尾が動いた。


 悠真と一緒に暮らし始めた時。


 俺も。


 ここが自分の家になるなんて。


 よく分かっていなかった。


 でも。


 今は。


 帰る場所だと思っている。


 レオも。


 これから。


 蓮のところが。


 そうなるんだろう。


「おい、レオ」


 蓮がしゃがむ。


「帰る時ちゃんと一緒に来いよ?」


「きゅ!」


 レオが走る。


 そのまま。


 蓮の足元へ。


 ぴた。


 座った。


「…………」


 蓮がまた黙った。


「蓮?」


「いや」


「何?」


「ちゃんと来た」


「来たね」


「賢くない?」


 悠真が。


 俺を見る。


 俺も。


 悠真を見る。


「もう始まったな」


『何が?』


「うちの子自慢」


「違うわ!」


 蓮が即座に否定する。


「普通に賢いと思っただけだから!」


「はいはい」


「その返事やめろ!」


 でも。


 レオの頭を撫でる手は止めない。


 なるほど。


 飼い主というのは。


 こうなるらしい。


 悠真だけじゃなかったんだな。


『悠真』


「何?」


『お前もあんな感じか?』


「……俺はもうちょっと普通だと思う」


「お前が一番ひどいからな?」


「蓮に言われたくない!」


 騒がしい。


 レオも。


 つられて鳴く。


「きゅー!」


 さらに騒がしくなった。


 まあ。


 悪くない。


 ――――――


 少し遊び疲れたのか。


 レオは。


 蓮の膝の上で丸くなっていた。


 鳥なのか。


 猫なのか。


 よく分からない寝方だ。


 翼を身体へ寄せて。


 目を閉じている。


「寝た」


 蓮が小声で言う。


「寝たな」


 悠真も声を落とす。


『寝たな』


「ニャルまで小声になるんだ」


『起こすのも悪いだろ』


 俺は。


 テーブルの上からレオを見る。


 さっきまで。


 あれだけ走っていたのに。


 今は静かだ。


 寝顔だけ見れば。


 普通に子供だな。


 蓮が。


 そっと背中を撫でる。


「……これ」


「何?」


「家帰ったら、まず何すればいいんだ?」


 悠真が止まった。


『何って?』


「寝床とか」


「うん」


「あと、トイレとか」


「うん」


「ブラシもいる?」


「いるんじゃない?」


「翼って手入れ必要なのか?」


「分かんない」


「爪は?」


「知らない」


「運動ってどれくらいさせるんだ?」


「俺に聞くなよ!」


「お前、先輩テイマーだろ!」


「俺が飼ってるの猫だぞ!」


『ヌッコだ』


「お前はそこ訂正するの!?」


 蓮が。


 膝のレオを見る。


「…………」


 そして。


 一番大事なことに。


 ようやく気付いた顔をした。


「……で、グリフォンって何食わせればいいんだ?」


「…………」


 悠真が。


 俺を見る。


 俺も。


 悠真を見る。


『知らん』


「俺も知らない」


「え」


「ニャルはダンジョン食材なら分かるけど、グリフォンの飼い方まで分かるわけじゃないし」


『俺は料理猫だ』


「今それ自分で言うんだ」


 蓮が困った顔になる。


 でも。


 俺には。


 一人。


 こういうことを聞くのに。


 ちょうどいい人間へ心当たりがあった。


 悠真も。


 同じだったらしい。


「蓮」


「何?」


「もふもふ堂行くか」


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