↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生猫ですが、最弱テイマーをダンジョン飯で最強に育てます  作者: 悪癖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/58

第12話 今までなら売ってたんだけどな

 蓮の剣が、ゴブリンの棍棒を弾いた。


 そのまま一歩。


 懐へ入る。


 横薙ぎ。


 一体目が倒れるより先に、横から二体目が迫ってきた。


「っと」


 蓮は慌てない。


 半歩下がって棍棒をかわす。


 振り下ろされた武器が地面を叩いた瞬間。


 空いた胴へ剣を叩き込んだ。


 二体目も倒れる。


「ふう」


 剣を下ろす。


 息は少し上がっている。


 でも。


 まだ余裕はある。


 ここは緑葉の洞窟。


 悠真が最近、ニャルと一緒に夕飯の食材を集めている辺りよりは、もう少し奥。


 浅い場所ほど道は歩きやすくない。


 敵も一体ずつ都合よく出てきてはくれない。


 それでも蓮にとっては、無理をしなければ十分に探索できる範囲だった。


「今日もうちょい行けるかな」


 倒したゴブリンを確認する。


 怪我はない。


 体力もある。


 装備にも問題なし。


 なら進める。


 そう判断して数歩進んだところで。


「……ん?」


 蓮が足を止めた。


 道の脇。


 太い木の根が岩壁へ絡みついている。


 その隙間。


 何か白いものが見えた。


「石……じゃないな」


 近付く。


 周囲を確認。


 モンスターはいない。


 根の隙間を覗き込む。


 そして。


「マジか」


 卵があった。


 普通の卵ではない。


 両腕で抱えるくらいの大きさ。


 探索者なら、見間違えるものではない。


「モンスターエッグじゃん」


 蓮はしゃがみ込んだ。


 少しだけ慎重に手を伸ばす。


 持ち上げる。


 ずしり。


 確かな重さが腕へ来た。


「うわ。久しぶりに拾ったな」


 驚きはした。


 でも。


 初めてではない。


 蓮はこれまでにも何度かモンスターエッグを入手している。


 その時は。


 全部売った。


 モンスターエッグは高い。


 何が生まれるか分からない卵を自分で孵すより、売って探索用の装備や資金にした方が分かりやすい。


 テイマーになりたいと思っていたわけでもない。


 だから。


 今回も。


「……売るか」


 自然にそう考えた。


 いつも通りだ。


 持ち帰る。


 査定してもらう。


 売る。


 それで終わり。


「…………」


 なのに。


 なぜか。


 蓮の頭へ。


 小さな猫が浮かんだ。


 二本足で歩いて。


 頭の中へ直接しゃべってきて。


 空中で包丁を操って。


 料理を作る。


 そして。


 その猫を膝へ乗せて。


 当たり前みたいに撫でていた親友。


『撫でるの止めるな』


「はいはい」


 先日見た光景を思い出す。


「…………」


 蓮は腕の中の卵を見る。


 少し考えた。


 そして。


「とりあえず」


 スマホを取り出す。


 送る相手は決まっていた。


『悠真。今日家いる?』


 ――――――


 その日の夕方。


 インターホンが鳴って。


 俺が玄関を開けると。


「よ」


「…………」


 蓮がいた。


 それはいい。


 昨日も来たし。


 別に珍しくない。


 問題は。


 蓮が両腕で抱えているものだった。


「蓮」


「何?」


「お前、それどうした?」


「拾った」


「どこで?」


「今日ダンジョンで」


 見間違えるわけがない。


 俺も少し前まで。


 同じものを家へ持ち帰ったんだから。


「モンスターエッグじゃん!」


「そう」


 蓮が笑った。


「出た」


「出た、じゃないだろ!」


 俺だって半年潜って、ようやく一個だったのに。


 こいつ。


 前にも拾ったことがあるって言ってなかったか?


「どこまで行ったんだよ」


「緑葉の洞窟。お前がいつも夕飯拾ってる辺りより、ちょっと奥」


「夕飯拾ってるのはニャルだから!」


「お前も手伝ってるだろ」


「それはそうだけど」


 何か違う。


 俺たちの中で緑葉の洞窟の扱いがおかしくなってきている気がする。


「にゃ?」


 足元から声。


 ニャルが来た。


 俺の横から顔を出す。


 そして。


 蓮の腕の中を見る。


 耳が立った。


『卵?』


「おう」


 蓮が少ししゃがんで見せる。


「モンスターエッグ」


『おお』


 ニャルの尻尾が。


 ぴん。


 分かりやすい。


『悠真』


「何?」


『俺と同じやつか?』


「そう。お前もこれから出てきたんだぞ」


『そうなのか』


「覚えてないの?」


『孵ったあとは覚えてる』


 ニャルが卵へ近付く。


 右から見る。


 左から見る。


 鼻を近付ける。


 すんすん。


「食うなよ?」


『食わん』


「今ちょっと匂い嗅いだじゃん」


『確認だ』


「何の?」


『卵の』


「そのまんま!」


 蓮が笑う。


「相変わらずだな、こいつ」


『触っていいか?』


「いいけど、優しくな」


『分かってる』


 ニャルが前足を伸ばす。


 ぺた。


 卵の殻へ触れる。


「にゃ」


『硬い』


「そりゃ卵だからな」


『何が出る?』


「分からん」


 蓮が答える。


「モンスターエッグなんて孵すまで分からないだろ」


『猫か?』


「お前が猫だったからって全部猫じゃないぞ」


『魚かもしれない』


「魚が卵から出たら、お前食おうとするだろ」


『食わん』


 一拍。


『たぶん』


「そこは断言して!」


 俺は蓮を家へ上げた。


 とりあえず。


 玄関でモンスターエッグ観察会を続けるわけにもいかない。


 ――――――


 リビング。


 テーブルの上にタオルを重ねて。


 その中央へ卵を置く。


 ニャルは。


 その隣。


 座っている。


「…………」


 卵を見る。


「…………」


 じー。


「ニャル」


『なんだ』


「近い」


『見てるだけだ』


「顔くっつきそうだぞ」


『見てるだけだ』


 気になるらしい。


 当然か。


 こいつも少し前まで。


 卵だったんだもんな。


 向かい側。


 蓮はソファへ座っている。


「で?」


「ん?」


「これどうするんだ?」


 俺が聞く。


「売りに行く前に見せに来た?」


「まあ」


 蓮が卵を見る。


「最初はそのつもりだった」


「最初は?」


「今までなら売ってたんだけどな……」


 蓮は前にもモンスターエッグを拾ったことがある。


 その時は。


 全部売った。


「高いからな、これ」


「まあね」


 俺もよく知っている。


 俺の場合。


 売っても母さんの治療費には全然足りなかったから。


 なら孵して。


 探索者として強くなれる可能性へ賭けようと思った。


 その結果が。


「にゃ」


 今。


 テーブルの上で卵へ前足を置いている。


「ニャル」


『なんだ』


「叩くなよ」


『叩いてない。触ってる』


 ぺた。


 もう一回。


「同じじゃん」


『違う』


「何が?」


『力が違う』


 よく分からない。


 でも。


 かわいいからいいか。


「……ほら」


 蓮が指差した。


「それ」


「何?」


「それだよ」


「どれ?」


「お前がニャル見てる顔」


「顔?」


「こないだもしてた」


「普通だけど」


「普通じゃねえよ」


 何の話だ。


 蓮はため息をついて。


 少し笑った。


「俺さ」


「うん」


「前に卵拾った時、孵そうとか全然思わなかったんだよ」


「そうなんだ」


「何が出るか分からんし。俺、別にテイマーじゃなくても普通に探索できるし」


 そこは。


 蓮ならそうだと思う。


 俺とは違う。


 蓮はAランク適性。


 普通に探索して。


 普通にモンスターを倒して。


 それだけでもかなり伸びる。


 だから。


 強くなるためだけなら。


 わざわざ正体不明の卵を孵す必要はない。


「売れば結構な金になるし」


「うん」


「装備買えるし」


「うん」


「だから、今までなら今日も売ってた」


 蓮が卵を見る。


「でも」


 少し間を置いた。


「こないだ、お前んち来ただろ」


「来たね」


「ニャル見て」


『俺?』


「そう」


 ニャルの耳がこっちを向く。


「こいつが変なのも面白かったけど」


『変じゃないぞ』


「二足歩行して念話して料理する猫が普通だったら俺が困る」


『む』


「でも、それより」


 蓮が俺を見る。


「お前ら見てたらさ」


「俺ら?」


「一緒にダンジョン行って。帰ってきて。一緒に飯食って」


 ニャルを見る。


「ニャルが料理して」


 俺を見る。


「お前が食って」


 またニャル。


「こいつがお前の膝で寝て」


 また俺。


「お前がずっと撫でてて」


「ずっとではない」


『もっと撫でてもいいぞ』


「ほらこれだよ!」


 蓮が笑う。


「そういうの」


「どういうの?」


「相棒っていうか」


 卵へ視線を戻す。


「なんか、いいなって」


 その言い方は。


 こないだ帰り際に聞いた。


『俺もテイムモンスター、ちょっといいかもな』


 あれ。


 本気だったのか。


「強いのが出たら、もちろん嬉しいけどさ」


 蓮が続ける。


「それだけじゃなくて」


「うん」


「一緒にダンジョン行ったり」


「うん」


「家で世話したり」


「うん」


「そういうの、ちょっとやってみたい」


 俺は。


 卵を見る。


 それから。


 ニャルを見る。


「にゃ?」


 目が合った。


 俺は。


 あの日。


 卵を孵してよかったと思っている。


 最初は。


 強くなれるかもしれない。


 そんな理由だった。


 出てきたニャルを見て。


 かわいいけど戦闘には向かなそうだと思って。


 それでも。


 すぐ気に入った。


 今はもう。


 強くしてくれるとか。


 料理してくれるとか。


 そういうことより先に。


 普通に。


 うちの猫だ。


「いいんじゃない?」


 俺は言った。


「孵してみれば」


「だよな」


 蓮が少し笑う。


「ただ」


「何?」


「何が出てもちゃんと面倒見ろよ」


「分かってるって」


「強くなくても売るなよ?」


「そこまで薄情じゃねえよ」


「でかくなるやつかもしれないぞ」


「その時は考える」


「めちゃくちゃ食うかも」


「食費で困るほどじゃねえよ。こっちもちゃんと探索者やってんだから」


「……まあ、お前ならそうか」


「何だよ、その言い方」


「いや。俺より奥まで普通に潜ってるし」


「別に自慢するほどじゃねえって。潜って、素材持ち帰って売ってるだけだし」


「その『だけ』でちゃんと稼げるのが探索者だろ」


「お前も探索者だろうが」


「俺はまだお前ほどじゃない」


「でも食費で困るほどじゃないだろ?」


「まあ、それはそう」


『飯なら俺が作れるぞ』


「ニャル」


『なんだ』


「今から餌付けする気?」


『何が出るか分からないから、まだ決めてない』


「決める気ではあるんだ……」


 蓮が笑う。


「じゃあ」


 卵へ手を置く。


「今回は孵してみるか」


 その言葉を聞いて。


 ニャルの尻尾が大きく揺れた。


『よし』


「なんでニャルが一番嬉しそうなんだよ」


『新しいやつが出るんだろ』


「まあな」


『楽しみだ』


 ニャルが卵の前へ座り直す。


 完全に待機姿勢だ。


「いや、今すぐ孵るとは限らないからな?」


『待つ』


「今日中じゃないかもしれないぞ」


『待つ』


「明日かも」


『待つ』


「強いな」


 こういう時の猫は強い。


 ニャルは本当に動かなくなった。


 卵。


 凝視。


 耳だけが時々動いている。


「ニャル」


『しっ』


「え?」


 ニャルの耳が。


 ぴく。


『音した』


「音?」


 俺と蓮が黙る。


 静かになる。


「…………」


「…………」


 ぴし。


 小さな音。


 俺は。


 その音を知っていた。


「蓮」


「お、おう」


 卵の表面。


 細い線が走っている。


「これ」


「孵る?」


 ぴし。


 また。


 ひびが広がる。


 ニャルが立ち上がった。


『来るぞ』


「何が?」


『分からん!』


「分からないのに言ったの!?」


 ぱき。


 殻の一部が。


 内側から持ち上がった。


「うお……」


 蓮が身を乗り出す。


 俺も。


 ニャルも。


 卵を見る。


 少しずつ。


 殻が開く。


 その隙間から。


 ふわり。


 小さな何かが飛び出した。


「……翼?」


 小さな翼だった。


──────────────

【猫のレシピ帳】


Recipe.002


■料理名

スライムゼリーの冷製デザート


■使用食材(1人前)

・スライムゼリー …… 約200g

・砂糖 …… 少々


■作り方

① スライムゼリーを軽く湯通しして、余分な成分を抜く。

② 水気を切り、食べやすい状態へ整える。

③ 少し甘みを加える。

④ しっかり冷やして完成。


■味の評価

★★★★☆


ぷるぷるして、冷たくて、ほんのり甘い。

飯のあとでも食べやすいデザートにゃ。


■ワンポイント

スライムゼリーはそのまま食べないこと。


一度きちんと湯へ通してから冷やす。

冷たくすると、ぷるぷるした食感がさらにいい。


■悠真の感想

「最初はスライム食うのかって思ったけど、

こうなると普通にデザートだな」


─ 今日のひとこと ─


ぷるぷるは見てると前足で触りたくなる。


食べ物だから我慢したにゃ。

──────────────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。