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サラエボの丘  作者: はまゆう


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14/22

第13章 「逃げる者、隠れる者、裁かれる者」

1


包囲解除から数週間後。

サラエボの街はゆっくりと息を吹き返しつつあったが、

アミールの胸には、まだ一つの影が残っていた。


――丘の上で笑っていた富裕層たちは、どこへ行ったのか。


彼らは、包囲が解ける直前に姿を消していた。

軍の車両に紛れて、夜のうちに国境を越えたらしい。


アミールは、

彼らの“その後”を追うことを、自分の使命だと感じていた。


2


■ 逃亡した者


最初に行方が分かったのは、

スーツ姿でワインを飲んでいた男――

ドイツの投資家、ハインリッヒ・Kだった。


彼は戦後、

自国の別荘に戻り、

何事もなかったかのように生活を再開していた。


だが、

“料金表”が国際メディアに流れたことで、

彼の名前は匿名の告発者によって浮上した。


記者が自宅を訪ねると、

彼はこう言ったという。


「私はただ、金を払って“体験”しただけだ。

 戦争を作ったのは私ではない」


その言葉は、

アミールの胸に再び怒りを灯した。


3


■ 隠れた者


ブランドコートの女――

フランスの実業家夫人、マリオン・Dは、

戦後すぐに姿を消した。


彼女の名前は、

複数の証言で浮上したが、

本人はメディアの前に一度も姿を見せなかった。


後に分かったのは、

彼女が南仏の別荘に“引きこもり”、

外界との接触を断っていたこと。


近隣住民はこう語った。


「夜になると、

 彼女は丘の方角を見つめて震えていた。

 “あの影がまだ私を見ている”と呟いていた」


罪悪感か、恐怖か、妄想か。

誰にも分からない。


だが、

彼女は“自分のしたこと”から逃げ切れなかった。


4


■ 裁かれた者


双眼鏡の男――

アメリカの元軍事コンサルタント、ロバート・Sは、

戦後、国際法廷に召喚された。


彼は最初、

「私はただ案内されただけだ」と主張した。


だが、

“料金表”のコピーに残された彼の署名、

富裕層向けの“特別枠”の調整メモ、

そして複数の証言が、

彼を追い詰めた。


裁判官が問いただした。


「あなたは、民間人を標的とする行為に関与したのか」


ロバートは沈黙した。

その沈黙が、

すべての答えだった。


彼は有罪となり、

国際法廷で初めて

“娯楽目的の戦争犯罪”として裁かれた人物となった。


5


■ そして――


アミールは、

富裕層たちの“その後”を追いながら、

一つの真実に気づいた。


戦争は終わっても、

 人間の悪意は終わらない。


逃げる者。

隠れる者。

裁かれる者。


だが、

誰一人として“無傷”ではいられなかった。


金で買ったスリルは、

戦争が終わった瞬間、

重い罪と恐怖に変わった。


6


アミールは、

丘の上に立ち、

かつて富裕層が笑っていた場所を見つめた。


そこには今、

ただ風が吹いているだけだった。


「……ここで笑っていた者たちは、

 どこへ逃げても、

 この風から逃げられないだろう」


アミールは静かに呟いた。


真実は、

 彼らの背中を一生追い続ける。


そして彼は、

その真実を記録し続けることを決意した。


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