282:可能性と、未来を見た男の答え
それは拷問といっても過言ではなかった。しかし、彼にとっては命をかけてでも成すべき事のためには通る道である。
初めて教えるからとか、やり方がわからないとか、そういう話じゃない。『アルトス』としての励久くんにとってはそれが常識だった。
「――――」
「あグッ!!?」
「いっ!!?」
知らない人間が見れば見るも無残な光景であると口を揃えて言うだろう。修行という名目で行われているなぶり殺しであると。
簡単には死なない様に狙う部分は急所を外しているけど、それでも彼ら十一人の傷は次々に増えていく。それでも誰ひとり文句を言うことなく、互いに守り合うこともせず、自分が生き残るために必死だった。
この数日、それが毎日続いた。それでも誰も文句の一つも言わず、嬲られているだけなのに立ち上がり続けた。
その光景が、私たちは微笑ましいものだった。私たちの理想の世界がそこにあった。今の私は『アルトス』様の従者の一人『X』としてここにいる。けれど叶うならこの光景をみんなと見て壮大に語り合いたい。
きっと向こうでは酒盛りパーティーしながら世界を滅ぼす勢いで騒いでいるでしょうね。ちょっと・・・いやかなり羨ましい。けどこっちの特権としては、その理想郷をこの目で直接拝めているのだからトントンよ。
でもやっぱりおしゃけのみたい。このこうけいみてわいわいはしゃぎたい。
ヤバイ崩壊しかけた。戻れ私。よし戻った。横をチラ見したら案の定『V』『S』『W』が超ポーカーフェイスと見せかけて内心大はしゃぎしているのがわかる。だって彼ら皆私たちにしか見えない特別な映像下で騒いでいるんだもの。マルチタスクの使い方を間違っているわよ。
私もすごくやりたいけど流石にここでは弁える。あくまでも今の私は従者『X』よ。主任Xではないのよ。
でもやっぱり羨ましい!!
困難に挑むその姿勢!! 生きる為だけに動くその精神力!! 何より目の輝き!! どれをとっても理想郷!! 藤宮くんほどじゃないにしろ!! その生きるための覚悟はもう語彙力失いそうになう!! 多分失ってるぃ!!
プレイヤーもさる事ながらNPCの彼らも素晴らしい!! 向こうチームもいい仕事するじゃない!! 今度社長に報告するときイイ話ができそう!! 正直全部投げ捨ててこの愉悦に浸りたい。
けど我慢。出来る女は我慢くらい出来て当然なのよ。欲に溺れてはダメよ。うん。その代わり我慢したら励久くんにちょっとお願いして色々やってもらおう。うん決定。
私たちはご褒美がもらえる。励久くんは更に強く素晴らしくなる。WINWINよね。うん決定。
そんなことを考えていたら、『アルトス』RP中の励久くんが攻撃の手を止めた。そしてボロボロで死にかけの中、それでも立ち上がる彼らに口を開いた。
「率直に言おう。いい顔ができるようになったな」
あの、あの『魔剣聖アルトス』の皮肉めいているけど相手を認めた感じの笑みを浮かべる表情・・・もうご褒美すぎて吐きそうです。だれかたすけて
――――◇――――
今になって、最期の時に感じたあの感情について俺は理解したんだ。
「正直に言えばお前達がここまでやれるとは思っていなかった」
あの日から五日が経過した。正直初日の様子から、二日ほどで全員死ぬと思っていた。だが実際はこうだ。
全員満身創痍でありながらも、地面に足をつけて立っている。完全に見慣れたとは世辞にも言えないが、俺の攻撃を回避できるようにはなってきている。何度も言うがまだまだではあるが。
血まみれながらも、力強い目をしている女、口から血を吐きながらもまだ強く輝く目をしている男。恐らく俺よりも若いだろう二人以外にも、全員、目の輝きだけは今も残り続けていた。
だが同時に、誰の目から見ても限界であることも事実だ。立ってはいるが、それだけだ。動けるかといえば動けるわけがない。立っているのもやっとだという事くらいは馬鹿じゃない限りわかる。
コイツらも自覚しているのだろう。だが最後まで抗うと、生きるという決意を失っていない。そこには確かに、俺たちと同じ意志があったんだ。故に俺はコイツらを賞賛する。
「その覚悟、その決意、その意志。本物だろう。俺たちと初めて戦う時からその覚悟が出来ていたなら、少しくらい結末は変わっていただろうな」
十一人の誰もが返事も反応もしない。いや、出来ないと言うべきだ。何度も言うが既に満身創痍。立っていることすら奇跡だといっても過言じゃないだろう。
もしかしたら俺の声も既に届いていないのかもしれない。俺自身、この塔に呼び出されてからいい気は全くしなかった。
こんなつまらない事のために俺を蘇らせたこの塔を何度破壊しようかと思ったことか。でも、破壊しなくて良かったと心からそう思った。
未来には””俺たちの思いを胸に””生きることが出来る人間がいるのだと知れたのだから。
まだまだひよっこだが、コイツらは近い将来、俺や『アール』がそうだったように、夢のため、目的の為、そして自らの信念にその命をかけて戦える剣士になるだろう。
だが今じゃない。今はまだその段階には至っていない。こいつらをそこまで面倒を見てやるつもりなど俺はない。そういうのは死者ではなく生者がやるべきだ。死者にできることなど多くはない。それに、こいつらの居場所には”アール”がいる。
俺の夢。俺という存在を世界に残し、歴史と共に生きてゆきたい。ただそれだけだった。それが例え世界を一度滅ぼすことになっても、俺は誰にも残らない、つまらない死など迎えたくなかった。
矛盾していると、見知らぬ誰かに言われたこともあった。だがそれがどうした。俺は俺が成し遂げたい夢のために生きていた。それを誰にも否定はさせない。
だが結局、俺はアールに破れて死んだ。でも、あの時のアイツの顔は今でも覚えている。俺の夢を託したとき、あいつは頷いた。その時俺は・・・満足していた。なぜだったのか、その答えは今の今までわからなかった。
・・・・・そして今。死んで、そして蘇って、今になって気がついた。
少なくとも、俺という存在は、アールの中には残せたんだ。大きな歴史には残っていなくとも、『アール』と言う個人の歴史に、俺の事は残っていたんだ。そして、その歴史は今も細々とでも続いていた。
本当に遅すぎる答え合わせだ。たった一人で良かったんだ。俺のことを、俺の全てを残す相手は。もっと早く気づいていれば、俺の人生は変わっていたのかもしれない。
だって、俺の夢は、気づかないうちに、『アール』によって叶えられていたんだから。あいつは今も違う世界で生きている。そして俺たちの意志を先へと残している真っ最中だという。
アイツは、俺の夢を今でも覚えていてくれたんだ。その繋がれた意志が、俺の目の前にいる。止まっていた俺の中の何かが動き出した。
「アルトス様・・・!? 身体が・・・っ!!?」
「あぁ・・・そうだな」
この塔、俺が満足したのを知ってか、知らずか、俺を還すつもりらしい。最後まで気に入らないクソ塔だ。この感情にもう少し浸らせろボケ。
X達も同じようで、身体がゆっくりと消えていく。俺と共に呼ばれた存在は皆撤収させるというわけか。本当に気に食わない。
「あぁ今決めた。どうせ最後だ。後先考えず心の準ずるままに動いてみるか。アールのようにな」
「・・・分かりました。それが貴方の望みならば、最後まで共に」
「大将、思いっきりやっちゃってください」
「貴方とこうして再び会えたこと、僕は死んでも忘れません」
本当にいい奴らだ。そういえば、一度もこいつらに言った事がなかったかもしれない。本当に、俺も死んでからアイツに感化されすぎたみたいだ。
「X、W、V。お前たちには・・・俺と共に来てくれた全ての奴らには感謝している。ありがとう」
「「「っっっっっ!!!?!?!?!?」」」
「そしてだ。この塔へやってきた全ての者たちよ。忘れるな。生き残るために戦うための覚悟を。俺たちが紡いできた全てを忘れるな。そうすれば必ずお前たちは俺たちのように強くなるだろう。俺が・・・魔剣聖アルトスが保証してやる」
「「「「「「「「っっっ」」」」」」」」
「死に土産だ。遠慮なく喰らって身体で知って死んでいけ・・・月光滅流の最終奥義をな!!!月光滅流極星十二宮最終奥義『天極星道エストレア』!!!」
この塔ごと、ここに来た連中もろとも全部ぶっ壊していくとするか!! ここに勝手に呼びだされた気に食わない感情も、今俺が感じている全ての感情も、俺が持つ全ての奥義をもって全て逝ってしまえ!
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はっ!?
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星が見せていた記憶は改変された。
そして世界からその記憶は完全に消えてしまうことになった。しかし・・・
この記憶を見た者たちはこの事を忘れない。もしもの可能性の物語を。最後まで夢のために走り抜いた男のことを。
そして、その男の夢を継いでいる大切な友人、アールと共に彼らが戦うことを・・・アルトスは願い、輪廻へと帰っていった。
最後に、己が持つ全てを使い、文字通り全てを破壊して。
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特殊ワールドクエスト『星の記憶』:特殊クリア
※報酬に関しては後日配布いたします。皆さんご参加ありがとうございました。※
エクスゼウス社員一同より
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死んでも尚、夢に囚われていたアルトスさん。しかし、参加者たちに、あの日最後に見たアールの姿を見て、『未来も悪くないのかもしれないな』と納得。
故に塔がそれを参加者の勝利と見なしたが、最後まで利用されっぱなしは気に入らないので最終奥義で全部ぶっ壊してぶっ殺したアルトスさん。
運営もこれにはにっこにこ&放心。
じかいは、はんせいかいだよ?




