281:下手くそ
アールと違ってアルトスは人に何かを教えてたことがありません。
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初めてレビューを頂きました...初めて感想を頂いたときと同じくらい嬉しかったです。
黒味噌白味噌様。ありがとうございます。
「お待たせしましたアルトス様。彼らは皆貴方へ挑むとのことです」
「そうか。では始めようか」
やっと理解したのか。少しばかり時間がかかったが理解できたのならばいいだろう。
「その前に、彼らの名を知って頂きたいのです。呼ぶ時も名を知っていた方が便利でしょう?」
「・・・人の名前を覚えるのは苦手なんだがな。Xが言うならば俺も頑張ろうか。お前には色々と迷惑をかけているからな」
「ッッ・・・ゥオッホン!! そんな気にしないでくださいませアルトス様。私の忠義は貴方に捧げたのですから」
一瞬で顔を赤くした後涙を浮かべたが、即座にいつもの顔に戻っていた。指摘しないほうがのちの為にもいいだろう。
ぶっちゃけ言えばいつもの事なので見なかったことにしようと言うだけなんだけどさ。おっといけない素が出た。切り替え切り替え、今の俺は『アルトス』。これでよし。
「左から順々に『リーク』『レイレイ』『ニコニーコ』『チーザー紫』『氷川水澄』『ライーダ』『ヴァンレイ』『剣部零司』『鈴原綾子』『ルシオン』『雷華』というそうです」
「わかった。覚えるようには努力しよう。では始めようか」
「・・・えっと・・・なんで構えてるの?」
俺が剣を抜いた瞬間に、最後から二番目に呼ばれた男が武器を構えつつも疑問を抱いていた。あぁ、そうか。
「言い忘れていた。一から十まで教えてやるつもりはない。殺す気でなるべくゆっくりやるから身体で覚えろ」
「え・・・・・・?」
俺は生涯において誰かに教えたことなどない。だがまぁアールの奴は戦いの中で俺の動きを見て常に強くなっていったしこいつらもなんとかなるだろう。ならなければ死ぬだけだし問題ない。
「天翔サジットの攻撃範囲はおよそ5m、アルトス様の天翔サジットはおよそ10m程度ならば既に射程範囲内です。動きを見てまずは回避できるようになるまで避けましょうか」
Xが理解の追いついていない連中へ細かく噛み砕いた内容を教えてくれた。ここまで言わなければ理解しないのか。難しいものだ。
「始めるぞ。死ぬ気で避けろ」
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三十分後。
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「「「「「「「「じ・・・じぬ゛ぅぅぅ・・・」」」」」」」」
「まだ時間は経っていないだろうが」
始めてからわずか数百回程度の回避にも関わらず、連中は皆バテていた。体力が無さ過ぎる。これでよく今日まで生きていたものだ。
「ですがアルトス様。元は一般人であるならばこの程度が限界です。少々休ませてはいかがでしょうか?」
確かにこのまま続けても数十回以内には全員殺してしまうのは目に見えている。俺が始めると言った手前、数時間も経過していないのに殺してしまうのは恥になる。
「わかった。5分の休憩の後またやるぞ」
「・・・アルトス様。一時間ほど休ませてあげましょう? 流石に少々可哀想です」
「そうか・・・難しいものだな」
幼い時に俺に剣を教えた旅の男は数時間以上扱いた上に1分ほどの休憩だったので、それから見ればかなり優しいものだと思うのだが。感覚が違うのだろうか?
「それと彼らは私たちと違い命あるもの。食事も必要でしょう。先程の戦闘もあります。また明日でもいいとは個人的に思いますが?」
「わかった。生憎俺はそういうことはよくわからん。お前の言うとおりにした方が良さそうだ」
戦うことしか知らん男だ。それがアールの様に誰かに教える施すなんて思いもしなかった。しかし教えるというのは思っていたよりも遥かに難しいものなんだな。
今晩の内にVやXに教えるという事はどうすればいいのか聞いておこう。だが三日ほど経過しても今のように変わらぬのなら時間の無駄だろう。
――――◇――――
「ゼェ・・・ゼェ・・・ゼェ・・・」
死ぬ。これは死ぬ。寧ろ生きてることが辛いくらいには死ぬ。何回傷をつけられたかわからない。何度死を覚悟したかわからない。
体力にはそれなりに自信があったけど、その考えを粉々にされるくらいには辛い。私だけじゃなく、十一人全員がナメクジのように地面に這いつくばっていた。
「一応30分ではありますが、全員生き残りましたね」
過呼吸状態で返事を返すことができない私たちを見下ろすようにXがこちらに来た。たぶんこの女があの場で助言をしてくれなかったらもう全滅してる。正直今私にはこの女が女神にすら思えるくらいには感動してる。
私たちの体力を悉く奪ったアルトスは戻ってきた三人に連れられてどこかへ行ってしまった。この塔変幻自在みたいでアルトスが望むように内部を変化させるみたい。
なんかこんなダンジョンあったわね。確か『挑戦者の巨塔』だったかしら? 出現するモンスターが全部ボスクラスで高難易度ダンジョンとして帝都の東にあったはず。
「食事に関しては私が用意しましょう。飲み水に関しては塔の裏手に小川がありますので各自で」
正直食事を用意してくれるだけでありがたいと思った私はきっと末期だと思う。でもこの女含めて塔から出られないのにどうやって食事を用意するんだろう? まさか食事も塔の構造を変えて肉に変えるとか?
「確かこの辺に・・・ありました」
どこからともなく取り出したのは縄だった。まさか縄を投げて捕まえると言うつもり? 縄で捕まえられる動物なんてこの辺いないわよ?
そんなこちらのことなど露知らず、Xは塔の入口ギリギリに立つと見える範囲を見渡した。
「んんー・・・いましたね。ふぅ・・・」
何をしたのか、きっとわからない人が多いとは思う。けどこの光景を私は、そしてメス猫も知っている。気配を弱く見せる『桜花戦流』の『桜奏呼吸』の応用だ。アールがたまにやっていたのを覚えている。
同時にXはどこからともなく取り出した『におい袋』のようなものを自身の足元に投げおいた。直後、地面を走る音が聞こえた。視線を外に向ければ、こちらに向かって『モンスターベアフ』の進化版とでも言う『タイラントベアフ』が数頭こちらに向かって疾走してきていた。嘘でしょ?
『タイラントベアフ』は『モンスターベアフ』よりもはるかに強い上に、知性もある。万全の私たちが『タイラントベアフ』に挑む時ですら5人で互を庇いあって数分かけて仕留める相手。
それが何匹も集まってこちらにやってくるんだ。流石に一人では無理がある。そう思っていた。
「呼びすぎましたね。まぁいいでしょう」
けどXは、『タイラントベアフ』が距離を詰め、飛びかかってきた瞬間、体を入れ替えるように右へ避け、そのまま流れるように顎下から脳を鉤爪で貫いた。そのまま次々と向かってきた『タイラントベアフ』を、まるでカモでも仕留めるように次々と殺していった。
戦闘とすら言えない一瞬の出来事だった。さっきXが『私たち程度』といった理由がはっきりした。こいつら初めから本気じゃなかったんだ。
動いていた『タイラントベアフ』が全て死に絶えるのを確認すると、Xは振り向き笑顔で言った。
「理解できましたか? これが貴方達と私たちとの格の差です。理解したなら唯一残された僅かな可能性を掴み取るために死に物狂いで食らいつきなさい。では私もこれで失礼します」
誰ひとり意見することもできず、Xが階段を登っていくのをただただ見ていることしかできなかった。
「・・・とりあえず、飯にしよう。食わないと明日何もできなくなる」
剣部の言うとおりだ。『アルトス』との手ほどきを受けていた時に、わかりきっていた事実を改めて突きつけられただけだ。一々落ち込んではいられない。
「そうね。ここで折れれば待つのは死。意地でも生き残ってやるわ」
自分に喝を入れるように、立ち上がり、明日へ向けて出来ることをしていくしかないわね。
生かしているだけ温情あり
励久>越える気がない壁>エクスゼウス社員≧プレイヤー&NPC




