280:覚えるか死ぬか
完全ロールプレイ中。
世間は色々大変ですけど今は我慢してみんなで一緒に頑張りましょう。日常が戻ってきたら焼肉食べに行きたい私。
「待て待て待て待て!!? 覚えられなけりゃ死ぬってどういうことだよ!!?」
「そのままの意味だ」
「はぁ!!?」
「俺は手加減を知らん。覚えるつもりもない。覚えられなければ死ね。さっさと始めるぞ」
悠長に慌てている場合か。だが始めると決めたんだ。付いてこれない奴のことなど一々待つのはゴメンだ。
「アルトス様。それだけでは伝わらないかと」
「・・・そうか? わかりやすく伝えたつもりだが?」
単純だろう。俺についてこられなければ死ぬだけだ。だから死ぬ気で覚えろ。こんなにも簡単なのに何がわからないのだというのだ。
「少しお時間いただけますか? 私が彼らに話してきますので」
「・・・」
「そんな不満そうな顔をしないでください。すぐに終わりますから」
「・・・・・・納得いかんが仕方ない」
これほどわかりやすいのになぜ理解できないんだこいつらは。やはり時代が進んで気が緩くなってしまったんだろうか。時代というのは思った以上に無能を生み出す時間なのだろうか?
――――◇――――
「先に言っておきます。私たちはアルトス様に忠義を示した集まりです。故にアルトス様に害あるものは躊躇いなく殺します」
いきなり『出来なければ殺す』発言でどうしたらいいのかわからない私たちの心を代弁してくれたXと呼ばれていた女性が、私たちの元に来ての第一声がこれだった。
「ある目的のために私たちはこの塔に命を縛られ拘束されています。目的が何かは貴方たちは薄々察していると思いますが」
さっき彼が見せてくれたアールも使ったことがある『極星十二宮奥義』を見たとき、頭の中に響いた特殊ワールドシナリオの概要を聞いて理解はしている。
簡単に言えばこの塔に挑み、制覇することがこのワールドシナリオクリアの条件。それとは別で今とんでもない発言があったんだけど?
「拘束されているってどういうこと?」
「そのままの意味です。私たちはこの塔から外に出ることができません。塔の目的、向かってくる者たちを迎え撃ち、困難として立ちはだかる。そして最後には殺される存在として」
「つまりXさんもアルトスさんも、どこかに行ったお三方もここに軟禁されているってことですか?」
異世界RP中の女子生徒らしき立ち振る舞いの彼女の言葉を肯定するように、Xは首を縦に振った。つまり、彼らは私たちに倒される為だけにここにいるってこと?
「私たちは食事も休息も必要としない存在です。言うならばモンスターに近い存在としてここにいます。そして貴方たちはそんなモンスターを倒す勇者一行とでもいうのでしょうね」
「ゆ・・・勇者か。しかし君たちの状況は余りにも・・・!!!」
ニコニーコの言う通りだ。ただの敵、もしくはクリアのための刺客なら遠慮なく倒せるのに、彼らは死んだにも関わらず、命の冒涜的行為をこの塔にされている。
一般的な感性を持つなら彼らは敵などではなく、被害者でもあるということだ。そして私たちはそんなことを知らずに塔で戦い、そして殺してきた。
見方を変えれば、状況が変わることは当たり前だし、私からすればいつものことではあるけど、そんな日常にいない人からすれば話が重い。
「同情は不要です。私たちは世界を敵に回し、そして殺された罪人のような存在です。ですが後悔はありません。私たちはそれを望み、あの時代を戦いました。私たちへの同情は私たちへの冒涜です」
「す・・・すまない! 君の誇りを傷つけてしまったことを謝罪する!」
「分かればいいのです。わからないのならばこの場で首を捩じ切っていたところです」
ぞっとする発言を笑顔で言うXに対して、『冗談とかじゃなくて本気で言っている』と思ったのはきっと私だけではないはず。
さっきまで戦っていたけどこの女、鉤爪と剣、そしてサブミッションの搦手等を得意とする完全なインファイター。殺られた参加者達の内、半数はこの女に殺られている。
ある人は関節を外されて悶えた瞬間に首を切られ、ある人は首をへし折られ、またある人は生きてはいたものの、身動きできない身体に変えられた。
今はアイテムを使って残った面々は全回復したけど、次に戦えば恐らくこの女一人が相手だったとしても勝てるビジョンが見えない。
と言うか、この女と戦っていると、『剣聖物語』の『リアルハードモード』を除く五段階の内、最も難易度が高い『カオスモード』に出てくるボスたちを思い出す。序盤のボスなのに殺意高いし、勝てないしで、死にゲーと間違えるレベルには強いし。
『リアルハードモード』だと、動きが現実の自分を参照にする+『カオスモード』のボスよりも強い敵が出てくるのでもうむちゃくちゃだし。
「話を戻しましょう。塔に縛られている私たちですが『はいそうですか』とそのまま言うことを聞いてやるつもりはありませんでした。来るなら全員皆殺しにしてやろうと皆で決めましたので」
この女笑顔でなんて事いうのよ。攻略させるのがイベントのはずなのにあろう事か攻略させずに全滅させると笑顔で言い切りやがったわ。過去形だったからまだいいけど。
「しかしアルトス様の気まぐれで、貴方達には、アルトス様の持つ『月光滅流』で最も習得しやすい『天翔サジット』を教えてくれるそうです。良かったですね? あのまま私たちに全滅させられずに済みましたよ?」
うん。この女笑顔で滅茶苦茶言ってくれる。事実だから何も言い返せないけどさぁ!!
「しかしアルトス様は容赦しません。そしてあの方の親友である『アール』と同じようにはできません。貴方達に見込みがなければ、死ぬ覚悟と生きる覚悟を持たぬ者は容赦なく斬り捨てます。弱音も文句も、その一切を認めません。口に出すだけでなく、考えただけで斬り捨てます」
「む・・・むちゃくちゃにも程があるでしょう!!?」
メス猫の言うとおりだ。不満一つ言えば殺されるってどんな不条理な世界なのよ。聞いたことないわよそんな世界。
「えぇ、ですがさっきの瞬間アルトス様が私たちを止めなければ、今頃全滅していたことくらいは理解できますよね? もし仮に私たち四人を殺せたとしても、私たち”風情”に苦戦をしていた貴方達ではアルトス様には勝てません」
言葉が出ない。正直あれはもう時間の問題であったと理解できないほどバカじゃない。寧ろあの時、私はこの女に剣を突きつけられ、そのまま殺られる事を覚悟した。もし数秒止める声が遅ければ間違いなく死んでいた。
「言うならば今の時間は貴方達に与えられた最後のチャンス。生き残りアルトス様の奥義を身に付けることが出来れば貴方たちの勝利。出来なければ全滅。私たちとやり合うよりもよっぽど可能性はありますよ?」
「・・・殺された大切な友人の敵に素直に教えを乞えと、そういうのですか?」
「強要はしません。ですが断るならば死んでもらいます。アルトス様に害を成す可能性があるならば余計に」
「・・・・・・ッ」
「水澄ちゃん・・・」
一緒に今日まで生きてきた友人を、まさにこのXという女に殺されており、『氷川水澄』が怒りを隠すこと無くXへと向ける。そんなXはどこ吹く風と何も反応せず、ただ水澄を見ていた。発言次第ではこのあと即座に殺されるのが目に見えている。
「・・・納得はしない。けど理解はした。けどこの感情を私は絶対に忘れないわ」
「構いません。貴女が最後まで生きていたならば、この首、貴女に上げてもいいですよ?」
「今言ったことを忘れないでもらうわよ。生き抜いて必ずあなたを殺す・・・!!」
彼女がそう言って以降、特に不満などが上がることもなく、私たちは生きるか死ぬかの修行へと挑むことになった。
情け容赦ないです。
そもそも最初の時点で運営側は全滅させるつもりでしたのでこれでもかなり甘いのです。というかアルトス様の一声なければ全滅まで秒読みでした。




