278:覚悟とそれを踏みにじるもの
不穏なタイトル
「な・・・一体どうなってるのよ・・・!!?」
塔に足を踏み入れた一同は皆、目の前に広がった光景に目を疑っていた。そりゃそうだ。一晩で塔の内部は劇的に変化しているのだから。
上に上る階段は消え去り、内部にあるのは外見の二倍はある広さの広間のみ。この記憶の塔は俺たちが・・・いいや、俺が意図するものに、内部を変化させることができる。
それの結果がこれだ。障害物も何もない、ただの空間。一度足を踏み入れれば、勝者と敗者が決まるまで出入りできないまさにコロシアム。
いい加減、待つのが飽きたといえばそれまでではあるが、せっかく俺もこの場所に呼ばれたんだ。彼らと一度交えたいと思うのは当然だろう。
「っ! 全員正面だ!」
「気づくのが遅い」
若干名最初から気づいてはいたが、ほぼ全員がこちらに気づいていなかった。気配を消していたのは事実だが、状況の変化の方にばかり気を向けている様ではまだまだだ。
「・・・つまらん連中だったというわけか」
正直期待外れではある。今日まで生き残ってきた連中なのだからそこそこ楽しませてくれると思っていたから余計にな。
及第点としては、即座に戦闘態勢を整えたことくらいか。こいつらは一体どんな緩い世界で戦ってきたのだろうな。そう考えてしまうと急に戦う気が失せてきた。雑草を刈るように相手を殺すことほどつまらないものはないのだから。
「アルトス様。いかがしますか?」
「・・・興が失せた」
「アルトス様?」
壁へ背を預けつまらない連中へと視線を向ける。本当ならこんなことすらやりたくはないのだが、ここに再誕した義理くらいは果たしてやらねばならんだろう。
「ムッ!!? どうやら君がこの塔の主のようだな! しかしなぜやる気がなくなったのだ?」
「つまらん人間とは戦わん。ただそれだけだ」
巨漢の男へ本心からの言葉を告げる。すると連中、つまらん意地なのか、はたまた図星を指されて怒りが湧いてきたのか知らないが、こちらの様子とは裏腹に戦う気は満々のようだ。
「テメェ・・・ちょっと強いからって調子乗ってんじゃねーぞコラ・・・!!」
「・・・実力差もわからん奴はよく吠えるな」
「上等だこの野郎!! お前から最初に倒してy」
「ア゛ァ゛!!?」
「このクズが、誰に向かって吠えていいと許可した?」
気が早いWとSが吠えた男の元へ飛び移り、そして首以外の全てを跳ね飛ばした。肉体を失い地面へと落ちる首、Wがそれを玉のように蹴り飛ばし消滅させる。
「吉川ッ!!?」
「安心しろ。今のクズ同様、お前らも即座に送ってやるよ」
「殺す殺す殺す殺すコロスゥゥゥx!!!!!!!!」
狂犬二人が戦い始めたことを皮切りに、戦いというには余りにも酷いものが始まった。
――――◇――――
「ほぅ?」
戦いが始まり既に10分程度。つまらん奴らだと思っていた連中は意外にも生き残っている。戦っているのがW、S、V、Xと恐らくこの場に再誕した面々では猛者の部類に入る者であり、今生き残っていることは評価に値してもいい。
まるで狂った戦士のように暴れる彼らの猛攻を必死に守り、互いに庇い合う戦い方。生き残る為の戦い方をしている。それはまるでアイツの戦い方を見ているかのようだった。
受け止めるのではなく、受け流す。俺に勝てなかったアイツが、俺と対抗するために取った戦法によく似ている。アイツの場合はその受け流した衝撃をそのまま倍返しにしてくるのだが、こいつらは完全に受け流して、衝撃を殺している。
俺の感覚が狂っていなければ、これが普通、これこそ常識というのだろう。俺やアイツが常識外れであることくらいはわかっているつもりだ。
だがそれでも、殺すだけではつまらんと思う俺がいるのも事実。アイツ・・・アールと似た様な戦いを見ているからだろう。物足りないと感じる。奴らの動きを見るたびに、アールの面影が見える。
アイツならここではこう動く。こうなった時はこう切り返すだろう。そんな以前の思い出と今の光景がリンクして、俺に幻を見せる。なぜこんなにもアールのことを思い出すのだろうか。
そう考えるが、答えは最初から目の前にあった。俺は結局、夢のために全てを捨てる覚悟さえあったというのに、最後の最後まで、アイツとの絆という奴を捨てきれなかったんだろう。
だからこそ、最後の瞬間。俺は俺の夢をアイツに渡したんだ。そして、俺の夢をアイツはアイツの形で叶えた結果が、目の前で戦う連中なのではないかと思う。名前ではなく、会得したモノを残す。なんというか、アイツらしいと思う。名を残せと言ったのにな。
そしてどうやら俺もそんなアイツの馬鹿な部分に感化される阿呆らしい。目の前で戦う奴らを見ていると、まるで幼い頃のアールを思い出す。勝てないくせに必死になって戦う馬鹿。
見かねて助太刀したり、修行に付き合ってやった時期もあった。まさかこんなことを再誕してまで思い出すことになるとは思っても見なかった。
「本当に、お前という奴は詰めが甘い」
どうせ残すならつまらん動きではなく、お前の全てを残さんか泣き虫アール。どうせ誰にでも戦えるようなものを残したんだろうが、それじゃあつまらん戦いしか出来なくなるだろうが。
仕方ない・・・・・・この塔の思惑に乗せられるのは癪だが、大事だった親友の後始末くらいはしてやろう。俺も随分と甘くなったものだ。
「お前たち、戻れ」
「「「「ハッ!!」」」」
徐々に追い詰めており、あと少しでまた一人落とせるという所で彼らを呼び戻す。彼らはそれまで行っていた全ての行為を中断し、俺のそばへと戻ってきてくれた。
「アルトス様? 如何なされましたか?」
「俺もつまらん人間に成り果てたと思ってな・・・少し癪だが、塔の思惑に手を貸してやろうと思っただけだ」
「・・・そうでしたか」
「失望したか?」
「そんなまさか。貴方様の望みこそ私たちの夢。たとえ望みが変わったとしても、私たちの忠義は揺るぎません」
「でも大将、いいんですか? こんなボロ塔の思惑もそうですけど、奴ら雑魚すぎて話にならない弱さですよ?」
Vの雑魚というの言葉に、先程まで死闘を続けていた彼らがムスっとしているのがまる解りだった。しかし怒りに身を任せて襲いかかってこない辺り、どうやら実力差は理解したらしい。
「懐かしさを魅せてくれたんでな・・・死ぬかもしれんがその時は自分が弱いだけだと自覚できるだろうし丁度いいだろう」
「その通りですアルトス様。獣のVにはわからないでしょうが、私にはわかりますよ」
「んだとSこのメガネ! お前こそ『ミナゴロシニスルコロスコロスゥゥ!!』って獣だったじゃねぇか!!」
「真の知性を持つ者は時に獣にすらなれるんですよ」
「うっわやっぱり腹立つわぁ・・・大将、先にこいつぶっ殺していですか?」
「死なない程度に遊んでこい。場所は用意してやる」
視線を向け扉を一つ作り出す、先にあるのは塔の頂上に作り出した決闘場のようなフロア。VはSとにらみ合いながら、と言うか一方的に睨みながら扉へと向かってく。Sも仕方なしと首を振りながら扉へと向かっていく。
「W、見張りは任せる」
「御意に」
Xが指示を出すと、Wも扉へと向かっていった。本当に殺さないように監視を頼むつもりだったのでありがたい。残ったのは満身創痍の塔の攻略者たちと、俺、Xの二人。
「一体・・・なんのつもり?」
特に傷が多く、そして特に見所がある女が彼らの代表のように口を開く。警戒心を解くことなく、臨戦態勢のままで。
「Vが言っていたようにお前たちは雑魚だ。遊ばれているにも関わらずボロボロになる程度には弱すぎる」
遊ばれている。Vも、Wも、Sも、Xですら最初から本気で戦ってはいなかった。怒りのまま適当に戦っていただけだったと彼らに告げると、まるでこの世の悪夢でも見ているかのように顔を歪ませる彼ら。
いい勝負ですらなかったのだと知る彼らの身体から、戦意が徐々に抜け始めていった。やはりまだまだ青い連中だ。
「だが・・・見込みがあるのもまた事実だ。お前たちの戦いに懐かしいアイツの面影を見た」
「あいつ・・?」
「アルトス様、もしや?」
「あぁ、アールの面影だ。アイツはアイツのやり方で、俺との約束を果たしたらしい。詰めが甘いがな」
「そうですか・・・そう・・・だったんですね・・・!! 良かった・・・!!!」
Xは普段見せない涙を浮かべているじゃないか。涙もろい訳ではないはずなのだがな。そして彼らも俺の言葉に驚いたのか、目を見張るように俺を凝視している。
「あ・・・あなたは一体?」
「俺の名はアルトス。かつて世界に名を刻むために世界を相手に戦った男。そしてアールに俺の全てを託して死んでいった男だ」
秒殺。でも一生懸命頑張ってる姿を見て絆されるアルトスさん。
剣聖ルートの死後アルトスさんは少し丸くなってます。じゃなかったら初日入った瞬間に全員殺してました。




