259:アルバイト
ちなみに食事風景を見て社員一同はまた感動していた。と言うか挙動一つで感動できる集団だから仕方ない。
風花雪月全ルートクリアしました。次はハードモードで全ルートでしょうかね。最後に黒鷲選んだからエモすぎて限界オタクになってた私。
来週からの01も超楽しみ。
エクスゼウスの食堂にて絶品ハンバーグを食しているうちに、社長さん、もとい天城凱さんは別案件があったそうで、気が付くと姿を消していた。
俺がハンバーグに夢中になりすぎて周囲が見えていなかっただけなんだけど。代わりに食堂にいた人たちからはなぜか英雄でも見るかのような視線を向けられていた。
作った本人のおばちゃんもものすごく上機嫌でまた来いと言われ、今日はご馳走してくれるとまで言ってもらえた。あの量を無料提供してくれるとか神なのでは?
そんなこんなで、迎えに来てくれた綾地さんに連れられてビルの中を歩いていく。ビル内に特に変わった様子はなく、よくドラマで見るような普通のビルって感じだ。所々に自社宣伝ポスターのレイアウトと思われるものがあるくらいだ。
『自分の技術が優れていると思ったあなた。その自信を打ち砕かれる自信があるなら是非セクスゼウスまで』とか『人を超えた技術に興味がある皆さまへ』とか、それどうなの? と思えるキャッチコピーはおかしいとは思ったけど、エクスゼウスのポスターなら仕方ない。
「着いたわよ。ここが今日から君の作業場になるフルダイブルームよ」
「・・・綾地さん? 質問があるんですが?」
「なにかしら?」
現在の俺の居場所、エレベーターの中。扉が空いた直後。目の前に広がった空間は巨大な一室である。かなり良さげなVR設備が一人の作業者の空間と思われる場所にあり、割り当てられたスペースは、それぞれ個性が強く出ている。
「まさか1フロア全部VR関連の部署ですか?」
「いいえ? 違うわよ?」
「そうですか」
「ここと後3フロアがVR関連部署よ? このフロアは全部『プラクロ』関連のフロアよ? 他のフロアはVR全般を取り扱っていたり。周辺機器の開発とか、新システムの開発もやってるわ」
「すんげぇ・・・」
流石世界に誇るVR技術を持つエクスゼウス。スケールが俺の常識を超えていた。このフロア全てが『プラクロ』を取り扱っているのか。
「まぁウチの連中天災の集まりだから他の部署だと持て余しちゃうのよね。時代を先取りしすぎて世に出せないものとか思いつくバカばっかだし」
「あ・・・あはは・・・」
引き攣った笑いしか出てこない。間違いなく『天才』じゃなくて『天災』っていったと思う。どこのウサ耳博士だよ。いやあっちはあっちでヤバイけど。
俺完全に場違い感がある。そんな集まりの中に入るとか俺大丈夫なのか?
「こっちよ藤宮くん。君のスペースも用意したのよ」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
エレベーターから出て、広いフロアを進んでいく。ここで働く作業者の皆さんは皆、休憩中なのか懐かしのモン〇ンPをやっている人もいた。
他にもパソコンに釘付けになってる人もいれば、携帯をポチポチとイジっている人。していることは様々だが誰一人としてダイブしている人はいなかった。
皆さんこちらに気がつくと手を振ってくれたり、首を傾げて挨拶をしてくれたりと、さきほど綾地さんが言っていたキチガイ感は微塵にも感じない。
「騙されないでね藤宮くん。皆取り繕って常識人感出してるだけだから」
「「「「「主任それは酷いです!! どうして俺ら(私たち)の努力を無駄にするようなこというんですか!?」」」」」
「アンタたちこそ何してるのよ。全員揃ってこっちに戻ってきちゃって」
「だって主任!! 本物ですよ!? 我らが救世主が我々の現場に来たんですよ!? 見たいじゃないですか!?」
「生藤宮くん!! 本物の藤宮くん!! 映像越しじゃない生ガン藤宮くん!!」
「さっき無敗を誇っていた食堂ハンバーク伝説を打ち破った伝説を超えた男!!」
「「「「「これが会わないでいられる訳ないじゃないですか!?」」」」」
「どうしよう。私反論できない」
一斉に全員が大興奮で身を乗り上げるように、食いつくようにこちらを観てきた。正確には俺をだけど。なんだろうこの肉食獣の檻に放り込まれたウサギのような気分。
俺この感覚知ってる気がする。あれだよあれ。唯と湊が本気で俺のこと食い尽くそうとした時の感覚だ。もしかして今日命日?
・・・・・・待って? 今とんでもないこと言わなかった? 全員?このフロアに居る全員?
「藤宮くん。大丈夫よ。ウチのAIってかなり優秀だから三年くらいなら勝手に運営出来るから。それにこの前しっかり調教もしたし」
「よく俺が思ったこと分かりましたね」
「普通に考えれば誰だって思うことだもの。今年自分の技術を世界一だと思い込んで入社してきた若造も同じこと言ってたからね」
やっぱりこの企業頭おかしい。時代と共に進歩したAIテクノロジーがここだけ数十年単位で先を行ってるんだけど? しかもそのAIに今絶対調整じゃなくて調教って言ったよね?
AIを超える技術を持つこの人たち・・・もといこの企業やっぱりヤバイ。確信しました。
「でも君はあんな若造と同じじゃないから安心してね?」
「えっと・・・どういう反応したらいいのかわかりません」
全員揃って相槌を打ってくれた。その人今どうしてるんだろう。それが正直一番気になる。
「まぁ丁度いいかもね、全員聞きなさい。今日から私たちと作業をする藤宮励久くんよ。何かあったら命に代えて助けてあげなさい」
「命は掛けないでいいですって・・・初めまして、藤宮励久といいます。未熟者ですがよろしくお願い会います」
「そんな未熟者なんて言わなくていいのよ? 寧ろこれから私たちが君の経験に助けてもらうんだから」
そう。俺が今日ここに来た理由。アルバイトの内容は至極単純。与えられた御題をクリアする。そう聞いている。簡単に言えばモーションテストのようなものらしい。
――――◇――――
用意してもらったVRシステムはウチにある機器よりも数世代先を行っていそうなとんでもない物だった。読み込み時間などがほとんどなく、頭に被ってソファーに横になれば、瞬きをするくらいの一瞬で、俺はVR空間へとダイブしていた。
「藤宮くんどうかしら? 何か違和感とかあるかしら?」
「寧ろ違和感を感じない方が違和感ですよ。スゲェやこの感覚・・・!」
今の機器でもフルダイブには少なくとも十数秒は掛かる。だが、今、俺は一瞬でフルダイブ空間へとやってきたわけだ。
隣に居る綾地さんも、俺と同じタイミングでダイブしたのだが、同じ空間に瞬時にやってきた。言葉で表すのは簡単だが、それを実行するのは簡単じゃない。それを簡単にやってのけるエクスゼウスの凄まじさに圧倒されてばかりだ。
「良かった。感覚のリンクは問題ないわね。もし何か違和感があればすぐに教えてくれるかしら?」
「分かりました。それで、俺はこれから何を?」
「ちょっと待っててね。今準備してるはずだから・・・できたみたい」
「おっ?」
先程まで俺はここに来た普段着姿だったんだが、宇宙刑事のように光に包まれて全身を包み込んだのは、俺が『アール』の時に来ている『双子星シリーズ』装備だった。
「電話越しにやってもらうことは話したけど、今からこの時間軸で数週間、君には私たちが出すお題に挑戦してもらうわ。ぶっちゃけ言うと今度のイベントで全プレイヤーに付与する効果の大切な調整だから、いつもの『アール』くんのように全力でやってくれれば問題ないわ」
「かなり重要なことですね。分かりました。託されたからには全力でやらせてもらいます」
こうして、この時間軸での俺のアルバイトが始まったのだった。
アルバイトはモーションテストとか諸々。ご褒美もあるよ。
しかし時間基準がおかしいけど気にしないで。




