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260:猛獣

モーショントレース部門

人間の動きを様々な観点から観察し、新たな挙動や人間が苦手とする動きを生み出し経験させる部門。ここで作られたモーションは各分野へと提供されていく。


別名お仕置き部屋。入ると担当者が納得するまで抜け出せない。

担当者:綾地



「まず初めに体幹テストから行きましょうか。A、出しなさい」



綾地さんの指示を受けて、Aさんが何かしたのだろう。俺の目に前に狼とライオンが姿を現した。動きも顔つきも本物にしか見えない。



「藤宮くん。今からその二匹が君のことを襲うわ。返り討ちにしてもらえるかしら?」



「分かりました。武器とかは?」



「イメージしてくれれば出てくるわ。まぁ流石に銃とかは出てこないけれどね?」



「刀さえ出てくるなら問題ないですよ」



イメージしたのは小太刀を二本。片手で持てるほどの大きさの物をイメージすると、俺のイメージ通りの小太刀が手に握られていた。



「へぇ、二刀流なのね」



長さは腕と同じくらい。重さも軽すぎず重すぎない絶妙な重量だ。身体に馴染ませるように軽く動いてみる。攻撃範囲。動いた時の慣性。足元の感覚。



プラクロ世界よりも現実世界の感覚と限りなく近い。衝撃の循環とかは無理そうだから受け止め系である奥義や技は使えないか。



抜刀術に関しては問題なくできるだろうが、あくまでもこれはテスト。一般プレイヤー向けに考えるなら普通の抜刀で攻撃を組み立てる方がいいだろう。



呼吸を整えて桜奏呼吸とその型、うちの道場で教えてる武術も合わせて少し舞い踊る。うん。今回は視覚への影響は無理そうだが相手のペースを崩すのには十分だ。



次に痛覚の確認。試しに二の腕や脹脛をつねってみる。普通に痛い。エクストラ、強いて言えば現実と同じか、それより少し和らげてある痛みか。



試しに舌を噛んでみる。うん痛い。変わらずだな。痛覚に関しての確認もこれでよし。限りなく現実に近いが、痛みに関しては少し補正が掛かっている世界と考えるのが正しそうだ。



「準備できました綾地さん。いつでもどうぞ」



「自信満々ね。それじゃぁ始めるわよ。3、2、1、始め!」



遠吠えと雄叫びをあげてライオンと狼が俺めがけてまっすぐ向かってくる。あっという間に走る速さがあがり、俺との距離がほぼゼロになる。



狼が開けられた口は俺の肉体を喰らうために開き、そして閉じた。もちろん狼の牙は俺を捉えることはなかった。右足を軸に体をずらし、まずは狼の突進を回避した。次に来るのはライオン。開けられた口が俺に襲いかかってきたが焦らずに対処。



鼻を蹴り飛ばすイメージで放った回し蹴りがライオンの頬にヒット。だが重量の差は覆ることはなくライオンが吹き飛ぶことはない。だが当たった場所が新しい足場となったことで移動できる。



足先を中心として、俺の体を吹き飛ばすように体を浮かせて横へ飛ぶ。二匹の突進を回避した直後、狼が方向転換を終えて再び俺に飛びかかる。



飛んでいる、もとい飛ばされているので回避はできないが、元々ここで仕留めるつもりだ。小太刀を逆手持ちで構えて狼の飛ぶタイミングに合わせるようにグっと我慢。



狼の狙いは俺の足。口を開いた瞬間。宙返りをするように体を反り返させる。狼の下顎を捉えた足を軸に俺は地面へと落ちる。



同時に狼の口も強制的に閉じられ、出していた舌を噛む。狼の身体が俺の上を通り過ぎるタイミングで喉と目を貫くように両手の小太刀を突き刺した。



肉を刺す感覚が伝わり、血が滴り落ちる。刺された狼が悲鳴を上げる。そのままねじ切るように両手を動かし、狼の命を奪い取る。



だがこれで終わりじゃない。もう一匹いるのだ。どでかい獲物が。



慣性に任せて狼を刺した小太刀から手を離せば、狼はそのまま血を撒きながら俺の上を通り過ぎていく。視線を狼からライオンへと代えて様子を伺う。



ライオンは大回りで回転し、再び俺に向かってきていた。視線を外さずにすぐさま起き上がり突進に備える。ここまでは予想通り。



猛スピードで突進してくるライオン。神経を集中させてライオンとの距離を測る。多少左右にずれるくらいではあの速度からは逃れられない。先程のような回避は初速だったからこそ出来たので、この速度で突っ込まれてはどうしようもない。



だからやり方を変える。見せてやるよチャンピオン直伝のドロップキックの応用って奴を!



飛びかかってきた瞬間に合わせて、その場で大きく飛び上がりドロップキックの体勢へ。だが体は上ではなく下を向く。さきほどの狼と俺とは真逆で、俺が上、ライオンが下になる。通り過ぎるのを見ながら、ライオンの揺れるたてがみへと手を伸ばし掴む。



両腕に来る重量は凄まじいがなんとかなる。流石俺の鍛えた体。ありがとう。疾走するライオンの背に乗った俺と、何が起きたかわからないライオン。だが、乗った俺を振り落とそうと暴れまわる。



ロデオのように揺られ振り回される俺。だけどロデオ経験者なんだよ俺。このくらいはやってみせるさ。



グワングワンと前後左右上下へと振り回されながらライオンの体力を奪う。全力で動けば獣だもの体力は消耗するはず。減らなくてもプランBがあるから平気なんだけどな。



という訳でまだロデオが始まったばかりだがプランBだ。減らない可能性が少しでもあるなら確実性を取る。



「シィッ!」



生きたまま眼球えぐり抜き作戦。なんか少し前にもっとデカいコウモリの眼球をえぐり抜いたけどな。今度はもう少し小さい眼球だ。貫手はじいちゃん直伝だ。大きく揺さぶられる中、一瞬の隙を逃さずにたてがみを掴んでいた手を伸ばし、目を潰す。



痛みは俺同様あるらしく大きく仰け反り、仰向けに倒れようとするライオン。その背から飛び降りて転がるように距離を取る。



ライオンは悶えるように顔を掻きながらゴロゴロと転がっており、俺のことなど意識から外れている。その隙に息絶えた狼の亡骸へと近寄り、二本の小太刀を回収する。



付着する血肉を振り落としながら、転がるライオンへと、今度は俺から攻める。



いきなりだが、小太刀を今回選んだのは理由がある。ぶっちゃけ斬るだけなら剣の方がよっぽどいい。しっかりとした硬度もあるし、硬い物を上から叩き切ることだって出来るからな。



だが刀では硬いものを上から叩き切ることはできない。そんなものを切ろうとすればたちまち刃こぼれを起こす。しかも重量のある相手なら下手をすれば折れる。



ならどうするか。簡単だ。突き刺せばいい。元々刀は切るよりも刺す方に優れているって聞いたことがある。狼を殺した時と同じように、だが相手は俺より大きく、狼以上の体格を持つ。暴れられたら小太刀なんて一瞬で折れる。



だから、突き刺したら手を離して無抵抗状態にしてしまえばいい。そのために二本用意したんだからな。



「シィッ!!」



転がり動きを止める一瞬のタイミングを縫うように、突き出した小太刀がライオンの眉間に突き刺さった。走った勢いを殺さずに、ライオンの体の脇を通り過ぎていく。



急停止で勢いを殺し、再度ライオンへと向きを変えて走った。悶え苦しむライオンが刺さった小太刀をどうにかしようとする中、背中に跨り腕を大きく上に上げる。地面に崩れ落ちたライオンがそれに気づき、動き出そうとした時には既に遅い。



脳天から地面に貫通させる勢いで突き刺した小太刀がライオンの脳を貫いた。頭をものすごい勢いで振った後、ゆっくりと力を失って、ライオンは動かなくなった。



「・・・これでどうでしょうか? 綾地さん?」



「さいっっっっっこうよ藤宮くん!!! もうこれ以上ないってくらい最高!! 完璧よ!!! 観察班録画できてるんでしょうね!!!」



『『『『『もちろんですよ主任!!! 撮り逃すわけがない!!!』』』』』



空に浮かんだモニター越しに見える大興奮している社員のみなさんの表情があった。そこまでだろうか? 世の中には虎を素手で倒す伝説の極道とかいるらしいから、ライオンと狼くらいなら一流の武芸者なら倒せると思うんだが?



「あぁもう!! 獣に臆することないその勇気も、状況を瞬時に判断して戦い方を組み立てる思考回路も、環境に瞬時に適応してみせたその感覚も全部素敵!! 蛮勇であるように見えて勇気ある人の行動であり、生き残るために相手を殺す覚悟を持っている! 同時に相手に対する敬意もしっかりと胸に秘めているような表情も素敵!! あぁもう!! 貴方に会えたことが私の!! いいえ!! 我が社の誇りよ藤宮くん!!」



そ・・・そこまでですか・・・? 自覚が全くないんだけど、そう言ってもらえるのは嬉しい。と言うか嬉しいと思わない現代人は絶対いないと思う。



ヤバイ。にやけそう。



「ありがとうございます」



「あぁもう!! にやけるの我慢する表情もすきぃ・・・推せるゥ・・!!」



『『『『どういぃ・・・』』』』



やっぱり今日命日っぽい。死因『嬉しい死』。


限界オタクと化す社員一同。いつも通り。

猛獣と戦えと言われてなんの疑問も抱かずに即効で仕留めました。細かい描写とか動物の本能とかは僅かな知識をフル動員しただけなのでおかしいところがあれば教えてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小太刀で猛獣なんて剣聖なら余裕ですね!(洗脳済み)
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