258:代表取締役 天城凱
社長登場その2
天城凱
エクスゼウスの社長。それ以外のことは一般メディアには明らかにされていない。曰く大胆不敵な人物。曰く優しい温厚な人物。曰くメディアを嫌う人物。曰くシャイガイ。
しかし天城氏が立ち上げた『エクスゼウス』という企業が持つ技術は日本だけでなく、世界中を震撼させ、瞬く間に時の人となった。
今でもメディアは彼にインタビューをするために様々なアプローチをかけているらしい。噂ではパパラッチも彼のことを追いかけているという。しかし今日に至るまで、誰一人として彼の姿を捉えて公開できた人はいない。
記憶を改ざんされたとか、メモリーを頭に埋め込まれて、彼に関することを公開しようとすると弾けてしまうとか危険な香りがする噂だってあった今も謎多き人。
しかし彼がいなければVRは廃れ、日本の持つコンピューター技術がここまで躍進することもなかっただろう。そんな超がつくほどの大物が今目の前にいる。
「あ、しゃちょー 聞きましたよ。商談持ちかけてきた奴、クズだったんですって?」
「あぁ、もう気に入らんやつでな。全部案件蹴飛ばしてやった」
「社長! 見てください! 昨日作った新型なんですけど!」
「資料見せてみろ・・・面白い! 企画部に俺からも話しておいてやる」
「社長、我が社へのサイバーテロの疑いがありますいくつか証拠は掴んでいるので間違いないかと。部隊の出撃許可をいただけますか?」
「まだ泳がせておけ。動いたら返り討ちにして根こそぎ食らいつくせる様にしとくくらいは許可する。どうせ商談蹴り飛ばした時に備えて動かしてたんだろうよ。あの狸オヤジ」
「社長! 新作のクッキー出来たんで食べますか?」
「おう! 俺はもらえるものは全部貰う主義だ。ありがたく貰うぞ」
目の前で物騒な話だと思えば和やかな話だったり、新作の何かだったりを食事をしながらどんどん進めていく天城さん。
案内、もとい連行された食堂に着くやいなや、あっという間に社員にもみくちゃにされた為俺は解放されたのだが、これだけ見ればどれだけ慕われているのかわかる。
実際、少し強引ではあったものの、器が大きいというか、実際口に出したが、この人には敬意を持って話したいと思ったのは事実だった。
「おいお前たち。俺もいいが今日の特別ゲストを無視するのはいいのか?」
「「「「「「「「「「話し出すと止まれる気がしないので今は我慢して社長で発散してるんですっ」」」」」」」」」」
「俺をオードブルに選んだってか! おいおい俺以上にお前らがウキウキするなんて久しぶりじゃねぇか! ますます気に入ったぞ小僧!」
正直今、自分の身の危険を感じた。天城さん相手にこれだけグイグイ行ってるのに、これ以上が俺に来るとか、割と命の危険を感じるんですが?
「ほらあんたら! ここはあたしの城だよ! おとなしく席について飯くいな!! じゃなきゃ叩き出すよ!!」
聞こえてきた大声は調理場からだった。白髪の老婆がお玉をこちらにびしっと向けて眉間にしわを寄せていた。すると集まっていた社員の皆さんは、ぶーぶーと文句を言いながらもおとなしく散っていた。
「おう婆さん。相変わらず元気良いじゃねぇか」
「小僧も小僧だ。あたしの城で騒がせるなっていつも言ってるだろうがい」
「いいじゃねぇか。威勢がある方が俺の兵らしい。肉だ。メニューは任せる」
「適当にステーキでも焼いてやるからおとなしく待ってな。それで? あんたはどうすんだい?」
お玉を向けられているのは俺である。どうするって言われてもなぁ・・・食券コーナーもあったがステーキはなかった。メニューは書いてないので恐らく食券が”メイン”である。
しかしちらっと見たが食券以外でも頼めるようで和洋中なんでも大丈夫そうだった。サクッと食べたい人は食券。好きなものと食べたい人はオーダーということなんだろう。
「それじゃぁハンバーグとかありますか?」
「・・・・あん?」
「すいませんごめんなさい」
歴戦の風格というのだろうか。一瞬声が凄まじく怖くて瞬間的に謝罪してしまった。
「いきなり来てあたしのハンバーグを食べたいってかい!! 気に入った!! 十分待ちな!! サイズは!?」
いいのかよ。しかもあるのかよ。しかもサイズまで自由なのか?と言うか、ハンバーグと聞いて食堂にいた社員の皆さんが驚きの視線をこちらに向けているのがすごく気になる。
「おい婆さん、俺たちの客だ。しかもかなりの大食漢らしい。一番でかいの食わせてやんな」
「へぇ、ならとびきりのを食わせてやろうじゃないか! 待ってな!」
「おう坊主、残さず全部食えたら褒めてやるよ」
「・・・一体何が来るんですか?」
ニヒルな笑みを浮かべる天城さんは見ればわかるとだけ言って、社員のみなさんの好意によって空けられた席へと座っていく。
空けてくれた社員の人が手招きで呼んでくれたので俺もその席に座らせてもらう。後から聞いた話だが、この席に元々座っていた人は歓喜で昼の業務効率が120%ほど上がっていたとかなんとか。
――――◇――――
「待たせたね!! あたし特製ハンバーグだ! ソースは後付けで食べるんだよ!!」
それはハンバーグという名の何かだった。それはもうデカイ。うちにある32cmフライパンよりもデカくて、厚い。
チャレンジメニューでよくあるメニューを二倍の大きさにしたらこうなるんじゃないかと思うくらいデカイ。でもそれ以上に隠しきれない溢れ出る肉汁と、肉の焼けた匂いが食欲を煽る。
ちなみに天城さんは少し前に出てきた分厚いステーキを先に食べている。だが、俺の目の前にやってきたハンバーグを見て、俺の反応を見るととても満足げにしていた。
「坊主。驚いたろ? この婆さんがつくるハンバーグは美味いぞ。早く食え」
「残したら承知しないからね! さぁ食いな!」
「い・・・いただきます!」
正直俺の胃袋は肉を焼いていた音を聞いて、目の前で先に食べ始めていた天城さんの肉を見て既に限界を超えていた。
食べていいと言われたらもうこれは食べる以外の選択肢はなかった。もう大きさなんていいからとりあえず口に入るサイズに切ると、中までしっかりと火が通っており、溢れ出る肉汁が更に俺の胃にパンチを叩きつけてきた。
後付けソースに切り分けた肉を潜らせると、肉汁と合わさり、まるで輝くかのごとくそこにあるハンバーグ。もう我慢できずに頬張るように口の中に叩き込む。
「うんめぇ・・・!!!」
肉だけじゃなくて玉ねぎ人参、ピーマンなどの野菜が種として混ぜ合わされており、見た目よりも重くない。逆に野菜の食感が普通のハンバーグにはない歯ごたえを与えてくれて、一噛みする度に溢れ出る肉汁が食欲を刺激する。
「おばさん!!」
「なんだい? まさか不味いなんて言わないだろうね?」
「不味い!? 何言ってるんだよ!? これを不味いと言えるのはもう人類じゃねぇ! そんな些細なことはいいんだけどご飯ください!! 大盛りで!!」
「っ!! いいともさ!! じゃんじゃん食べな!! 好きなだけな!!」
「はい!!」
「やっぱり面白すぎるだろお前!」
そこからはもうハンバーグ、米、ハンバーグ、米と堂々巡りの食事となった。これならいくらでも食べられる。そんなハンバーグだった。この時点で俺はもうここに来てよかったと思える程だった。
こんなハンバーグが毎日食堂で食べられるなら、どんなに幸せなことだろうか。あぁエクスゼウス。あぁ天城凱社長。私はあなた達が羨ましい。これだけで俺が将来入社したいと思う理由としては十分すぎる。
――――◇――――
「ごちそうさまでした!」
「いい食いっぷりだったよ! あんた、確か藤宮励久っていったね!」
「はい。ごちそうさまでした。こんなハンバーグを食べられて感激でした」
「またいつでも食わせてやるからいつでも来な!」
「ありがとうございます!!」
やべ。食うことに集中しすぎて天城さんの事全然見てなかった。
「社長なら用事が出来たから席を外したわ」
代わりに、天城さんがいた席には綾地さんが座っていた。
――――◇――――
励久が気づく少し前。
――――◇――――
「凄まじい食いっぷり。しかも不思議と人の視線を集める魅力もある。やっぱり面白い男じゃないか。良い奴に目をつけたな綾地」
「でしょう? 彼こそ私たちが望んでいたゲームプレイヤーの鑑。私たちに意欲をくれる言わば社長に並び立つ逸材だと確信しています。こちらに彼が現在多数のプレイヤーに与えた影響の一部です」
「・・・・・・カァーッ! やってくれたな綾地! 保科も一緒に社員旅行でもくれてやろうか!? 気に入った!」
「では?」
「構わない。全力でやれ。そして俺を楽しませろ」
「ご安心を。望む以上の物を確約しましょう」
「任せるぞ綾地。俺はうるさいハエどもを黙らせてくるのでな」
「・・・いい加減にこりてくれませんかねアイツら」
「だが運動不足にならん理由にはなる。この世に無意味でしかないものなどない」
「『大事なのはそこに意味を見いだせるかどうか』ですよね?」
「わかってるじゃないか。あとは任せる」
励久は目の前に広がった桃源郷に目を奪われてものすごい笑顔で食事中。度量を気に入った社長はプロジェクトを進めることを決めて次のお仕事へ。




