252:『剣星』VS『ヴェノミードラゴキュラ』
ついに姿を見せる最強形態。
まだ生きている二匹から距離を取るようにして集まった俺たち。それぞれが二匹の『セブンアイズドラゴキュラ』へと注意を向け、何が起きてもいいように構えを続けながら様子を伺う。
片方は満身創痍で両足が切断されている。もう片方は欠損こそ無いが恐らく全身の骨という骨が砕けているはずだ。
二匹は溶け死んだ亡骸へと這いずるように近寄っていく。こうして見ると罪悪感が出てくる。感性や自己意識があるモンスターがこのように仲間を思いやる姿を見るのは特に心に響く。
『キキィ!!』
『ギキィ!!!』
『『ギキキィキ!!』』
「っ!!?」
「あいつら・・・マジでか・・・」
ルークが驚愕で言葉を失い、マー坊が信じられないようなものを見るように言葉を素掘り出す。リークとレイレイも表情には出ていないが、驚いてはいるようだ。
俺の時は実際にその光景を見ていたわけではなかったのでどのような状態だったのか見ていない。こうして見るのは初めてだ。
岩盤に激突し、地面を這いずっていた『セブンアイズドラゴキュラ』が溶けた死体の上に覆い被さると、自決する様にゆっくりと溶けていく。その身体を両足を失った『セブンアイズドラゴキュラ』が貪るように捕食していく。
俺の時は一匹だけだった。だが今回は二匹分の肉を食らっている。間違いなく『ヴェノ』のよりも強くなると思われる。
同時に理解したんだが。『セブンアイズドラゴキュラ』は個体によって性格があるように思えた。俺の時は一匹が怒りに飲まれて俺に襲いかかってきている間にもう一匹である『ヴェノ』が溶けた同胞を食って進化した。
だが今回は残りの二匹が言葉を交えてから、片方が自らを糧とするようにもう一匹へと身を捧げたように見えた。生命の神秘って奴をこんな形で見ることになるとはな。
「ねぇ師匠・・・」
「言いたいことがあるのはわかる。だがなルーク、ここに善悪はねぇ。生きるか死ぬか、生き残れるかどうか、それだけなんだよ」
「・・・」
ルークはこの光景を見て思う所があるようだ。傍から見れば俺たちはある種略奪者である。だが見方を変えれば、狩りを始めた『セブンアイズドラゴキュラ』が返り討ちに遭ってしまっただけでもある。
「だけどまぁ、今の感情を忘れるなよルーク。人間ってのは生命の犠牲があった上で生きてるんだ。戦うと決めたなら相手の生命も背負って行く覚悟は持っておけ」
「・・・うん」
たかが敵、たかがそういう設定のモンスターだとしても、その分の命を背負うことの重さを知ったとき、ゲームだろうと現実だろうと考え方っていうのは変わるもんなのさ。
変わらない奴もいれば、変な方向に変わってしまい道を踏み外してしまう奴もいる。そう考えると人間が一番怖い生き物なのかも知れないと思えるもんだ。
『キ・・・ギギキィ・・・ギギィ!!!』
仲間の亡骸を、身を捧げた仲間を喰らい、『セブンアイズドラゴキュラ』の肉体が徐々に変化していく。太く屈強な肉体を、切り落とされた両足が再生し、より強靭な足を、羽から腕が分離して、より地上で動けるように身体を進化させていく。
『ギギィィ!!!』
――――◇――――
『セブンアイズドラゴキュラ』がさらに進化。『ヴェノミードラゴキュラ』へと進化しました。
――――◇――――
より強靭な肉体を、牙を、そしてより強い眼を手に入れた『ヴェノミードラゴキュラ』が手足を地面につけて咆哮を上げる。
俺たちも再び武器を構える。俺は『天籟刀:ズイカク』を鞘に収めて、『艶姫刀:クヴァレイドル』を抜刀。先ほどのようにひるまない、そして無尽蔵のHPを持っているならばここからは再び持久戦だ。
「全員油断すんなよ。全力で行く、だが余力も残せ。倒すことよりもここからは生き残ることを考えて戦え」
「「「「了解!」」」」
『ギキィ!!!!』
雄叫びをあげながら突進してくる『ヴェノミードラゴキュラ』に俺は真正面から迎え撃つ。リークは後方へと下がり、マー坊とレイレイは左右へ移動。ルークは俺の数歩後ろに陣取り相手の動きを視る。
「艶やかに歌え『艶姫刀:クヴァレイドル』!! 月光真流一ノ型『白月』!!」
前方へ僅かに倒れるような姿勢になりながら突進を正面から迎え撃つ。頭から突っ込んできた『ヴェノミードラゴキュラ』の頭を押し返すように両手で受け止める。
『ヴェノミードラゴキュラ』が受け止められたことに驚きもせずに右腕を振り上げて俺を潰さんとしてくる。そこへ駆けてきた『レイレイ』が腕目掛けて短剣による切り裂きを行うが、それにひるむことなく『ヴェノミードラゴキュラ』はそのまま腕を振りかぶった。
「月光真流奥義『水無月写鏡』!!」
捉えた衝撃をそのまま全部注ぎ込むように『ヴェノミードラゴキュラ』の首を横に押し流して左手を開放し殴りつけるように襲いかかってきた強靭な腕を迎え撃つ。
多少は遅くなっているかもしれないと思ったがやはりそんなことはなく、先ほどソロで戦った時と同様の、もしかしたらそれ以上の力だった。生憎俺が受け止めた衝撃の方が大きかったため、打ち返すことには成功したのだが反動で手首の関節が外れたのが分かる。
「こんのぉ!!」
ルークが押し流した『ヴェノミードラゴキュラ』の顔面目掛けて突きを繰り出すが、刃が顔を貫くことはなく、グニッと僅かに顔を押すだけにとどまった。
二撃目が来る前に俺はルークを抱えて距離を取る。同時に肩の部分についている眼球から溶解液が発射され、俺とルークがいた場所を溶かす。
「ディア!!」
『ヨヨッ!!』
ディアの体が外れた手首の関節を覆うと、ゴキュリと音を立てて関節を元に戻す。ディアが痛覚を遮断してくれているので痛みこそないが、体中から汗がぶわっと吹き出てくる。
「ルーク、狙うなら眼球だ。だけどヒットアンドアウェイ、一撃入れてすぐに離脱して戦え」
「うん!」
「ゴリラ聞いてたな!!」
「聞こえてらぁ!!」
風車のように大回転しながら背中の眼球を断ち切っていくマー坊。軟性のある皮をゴリ押しで断ち切っていくのは脳筋の鑑である。まぁ俺も似たようなもんだけど。
直後に吹き出る白い体液とヤバイ色の溶解液。なんというかそういう以外に表現の仕方が無いのだ。先ほどの『セブンアイズドラゴキュラ』に個体差があるように、『ヴェノミードラゴキュラ』にも個体差があるようだ。
溶解液にまで差がある所を見ると、改めて特異個体の対策は固定概念にとらわれず、臨機応変に戦い方を変化させないと詰むんだろうと感じる。
「・・・うわっ!? なんだこれ臭っ!!?」
溶解液が溶かした地面から漂う気体の臭いが凄まじく臭い。臭いまで個体差あるのかよ。さっきの奴は臭くなかったのに・・・・・・なんか嫌な予感。臭いがある系は何かをキッカケに全滅フラグだ。
「リーク!! 広域に浄化系の魔術!! 急げ!!」
「浄化系!? ごめん私回復系はあるけど浄化系はないの!」
「はぁっつっっかえ!! 女狐使えなっ!!」
「黙ってろ魔術系使えないメス猫風情がっ!!」
「大地に吹き荒れろ祝福の風! 侵食する邪悪に癒しを!『リィンフォース』!!」
「んなっ!!?」
ここで回復と浄化の違いを説明しよう。といっても以前見たヘルプに書いてあったことだけど。回復系のスキルは既に成った状態を治すこと。浄化系のスキルはそう成る前の状態に戻すこと。
治すと戻す。似ているが全く違うこの二つの現象。もっとわかりやすく言うと治療と対策である。意味合いは少し違うが、どちらも正常な状態を目指して行うことだ。
リークが習得していないと言っていた浄化系の魔術、それをレイレイが半ばドヤ顔を見せつつ発動させた。フィールドを吹き抜ける風が地面から煙を上げる溶解液を吹き飛ばし、地面に流れ出た溶解液は無色無臭の液体へと変わっていく。
「メス猫あんたいつの間にっ!?」
「女狐が覚えてないと思った魔術を予想して高い金だしてスキル書買ったのよ!! 全てはこの時のためにね!! ザマァ!!」
「ぐぬぬ・・・!!」
それってフォローするためにってことではないのだろうか? しかもあえて習得していないであろうスキルを予想するあたりもはや阿吽の呼吸とも言えると思うんだが?
「こうなったら放置してたスキルも全部片付けてやるぅ!!」
「覚えられなさそうなスキル覚えてるからいいわよ別に?」
二人の関係を知っていても知らなくても仲良いようにしか見えない。実際喧嘩するほど仲が良いんだけどな。俺云々さえなければ。罵倒にしか聞こえない呼び方もあだ名のように聴こえてくるから不思議だ。
『ギィキィ!!!』
再生と同時に周囲に溶解液を撒き散らし始めた『ヴェノミードラゴキュラ』。狙いなど存在せず、辺りに撒き散らすように溶解液を発射する。『ヴェノ』とは全く違う行動パターンだ。
「何度やっても無駄よ!大地に吹き荒れろ祝福の風! 侵食する邪悪に癒しを!『リィンフォース』!!」
再度吹き抜ける風が地面に落ちた溶解液を消し飛ばす。すると『ヴェノミードラゴキュラ』が浄化された地面を見て再び溶解液を乱射する。それも右手を軸にするように回転しながらだ。先程とは違い、その遠心力で周囲だけでなく、後方にいるリークの方にまで飛んでいく。
『ギィキィィイ!!!』
「あぶなっ!!? んなの近づけねぇぞ!?」
それは同感。遠距離攻撃で行くしかなさそうだが、マー坊とルークは近接特化。遠距離攻撃があるとしてもあの回転速度では生半可な速度での投擲攻撃は効かないだろう。
俺やリークが衝撃を叩き込むか、魔術で攻めればいいのだが、如何せん溶解液の乱射がこちらに隙を与えてくれない。全員回避に専念させられている。
溶解液の射出量は既に内包出来ると思われる水分量を超えている。それでも飛散する溶解液が衰える様子は一切ない。それどころか回転数はさらにあがり、発射される量も増えている気がする。
「メス猫!! アンタ肉壁やりなさい!!」
「嫌に決まってるでしょ!! 馬鹿じゃないの!?」
「一発くらいなら受けても死なないわよきっと!」
「周囲見なさいよ!!? あの岩盤一瞬でドロドロに溶かしてるの見てよく言えるわね!!」
「メス猫のおかげで私が魔術発動の間が取れる。あんた以外は皆生きてる最高じゃない?」
「アタシ以外にはね!! ざっけんなクソ女狐!!」
回避する中で喧嘩できるのは流石ではあるが、この状況を打破する手段としては肉壁も充分にありだな。間違いなく一回きりの使い捨てではあるが、これ以上溶解液を散布される危険を考えればいいかもしれない。
臭いも強くなってきたし、溶解液により回避できる地面も減ってきた。特にルークはこれ以上逃げ回るのは厳しいかも知れない。
「一瞬だけ間を作る! 総員出来る攻撃なんでもいいから叩き込めよ!! いいな! 返事は聞かんぞ!」
腕装備以外をすべて変更。こういう時のためだけに拵えた特攻専用装備。エーテリアの鍛冶屋で誰でも買い揃えられる初心者御用達装備『メタリアクト』シリーズだ。全身装備をなんと25000Dで揃えられる上にそこそこ使い勝手が良いとくれば文句なしである。
ディアに預けておけばエクストラモードでも一瞬で装備変更ができるので大変お得となっております。いやなに、ただ全身覆ってもらって現状装備を吸収させてから別の装備を着た状態になるように再構築してもらってるだけなんだけどさ。
誰かが何か返答する前に、『ヴェノミードラゴキュラ』目掛けて突っ込む。溶解液が頬を掠め、左腕に当たる。溶解液の強さだけなら恐らくコイツの方が強い。
前腕部に当たった溶解液が俺の腕を一瞬で溶かしていく。ディアのと融合は継続中なのだが、ディアの一部ごと腕が溶ける。
ディア本体は既に首筋にいるので生きているが、これを実体験してしまうと、他の誰かがこれに当たるのはなんとしても阻止しないとまずい。
「ディア! ガッツ見せるぞ!!」
『ヨヨッヨ!!!』
左腕溶解部に『投刀:抛』を柄からぶっ刺す。脳天から貫かれたような痛みが走るがぐっと堪える。痛覚カットをせずにやるのは流石にキく。だが相手が相手なだけに溶かされた部位がわからなくなるのは不味いから仕方ない。
ONかOFFしか選べないのがここで仇となる。エクストラモードで痛覚切れるだけでも充分良い事ではあるんだけどな。
回転に合わせて突っ込む速度を加減し、回転に眼を慣れさせていく。狙うは一転。奴の顔面だ。
視えた。今。
「『魔王進瓶ドラグエリシオン』!!」
『ギィギャィ!!?』
回転の中唯一見えた顔に突っ込めるタイミングで叩き込んだ突進技の『ドラグエリシオン』は『ヴェノミードラゴキュラ』の回転を止めるのに十分な威力だったようだ。
その代わり、俺は全身で溶解液の洗礼を浴びることになった。顔面には当たらなかったのでその点は助かったが、全身に真っ赤に熱された液体の鉄を流されたように身体を溶かしていく。
――――◇――――
身につけていた『頭装備』『胴装備』『腰装備』『足装備』が全損しました。
――――◇――――
「っっっ!! 『ブラッドホールメガバイト』ォォ!!」
直後、リークが誇る魔術が大地から現れた巨大な牙が『ヴェノミードラゴキュラ』の体に突き刺さった。
パーティー戦であるが故に苦戦。同時にパーティー戦であるからこそできる戦い方。
回転溶解液攻撃されたら、アールソロなら『水姫侵食』機動まで逃げ回りますし、隙見てぶち殺しに行きます。
でもパーティー戦だからこそ、ダメージ覚悟の特攻ができます。まぁ信頼しているメンバーだからこその戦法でもあります。ヒーラーがしっかりといるので。
まぁ今回のは致命傷ですけどね。




