240:テリオンヘ
タイトル通りテリオンに向かいます。
「さぁルーク 今日こそテリオンまで行こうか」
「そ・・・その前に・・・休ませてよバカ師匠ぉ・・・」
素振りや型の練習、斬鉄訓練などを終えて、今日こそ延期していたテリオンへ向かうことにした。俺もディアとの融合を常に行い、毒状態での体の動かし方を日々重ね続けた。
街で大勢に稽古していたとき『アールさん顔色ヤバくね?』と何度も言われたがこうしてある程度の毒ならばほぼ影響なく動けるように身体が慣れてきた。人間悪い状態が続くとそれに対して慣れてくるものである。人体って不思議だ。
何故こんなことをしていたのかというと、スキルによる毒への抗体が出来るとは言ってもやっぱりその直後は凄まじく体調が悪い。それこそ以前のように体が動かない時もあった。しかも取得した『UtS:天刻』を解除した状態でそれを続けていたから本当に死ぬ。
発動していると約30秒とはいえ、その倍以上の苦しみに犯されるのでそれに耐えるための修行・・・というか苦行だったけど。
スキルっていう概念がなかった『剣聖物語』から考えれば頑張れば毒にも対抗できるようになるのだから進化してるんだとしみじみ思う。
『リアルハードモード』だと毒=死だったからな。メタを言えば『剣聖物語』からのシステム変更にて、生物として見れば進化したおかげでこんなことまで出来るようになった。
「10分くらいで大丈夫か?」
「せめて15分にして欲しい・・・ちょっと寝るから」
「わかった。15分たったら起こすからゆっくり休みな」
「うん・・・枕―」
「ったく、ほら来い」
甘え方も最近素直になってきたので恥じることもなくこうして膝枕だのを要望するようになってきた。流石に人前ではここまでしないが、個人稽古が終わるとほぼ毎日こうして俺の膝の上で寝ている。
「・・・すー」
「相変わらず寝つき早いな」
一分ほどですやすやと寝てしまうルーク。こうしているときはなかなか可愛らしい。それでも会うと毎回文句を言いつつも最後まで修行をこなす姿は師としては嬉しいものがある。
「私こっち〜」
「最近ルークに対して怒らなくなってきたなお前」
同じく型の練習をしていたリークが肩に首を乗せてきた。そして腕を抱くように絡ませてニマニマとしている。
少し前ならルークがデレた瞬間に瞳孔が開きハイライトが消えていたのだが、最近はそうでもない。むしろそれを受け入れているふしがある。
「私だって少しくらいは妥協するよ? 私アールに貢献した相手にはそれに応じた対応はするくらいには懐広いつもりだよ?」
「よく言うよ」
「もちろん一定以上は許さないからね」
こうしてジャスト15分間。ゆっくり休んでから、俺たちはテリオンへの道につくことになった。ちなみにルークが起きた瞬間リークに嫌ってほど弄られて涙を浮かべていた。どこいった懐の広いリークさん。
――――◇――――
「ハァァ!!」
テリオンへ向かう道は海に続く渓谷だった。『テリオン渓谷』とそのままの名前である。出現するモンスターは有翼種が多く、大きな鳥やファンタジー定番の『コカトリス』、蛇に羽が生えた『ア・ラエヴェ』というモンスターが結構多い。
他には因縁あるゴブリン種に、何げに初めて見た『巨大ネズミ』などだった。あと出現するモンスターが総じて何らかの『状態異常』を引き起こす攻撃を持っていた。
最もリークは言わずもがな、俺やルークも毒に苦戦することなく、立ちはだかった奴を斬ったり破裂させたりで進んでいく。
ちょっと注意するのは、コカトリスに噛まれると『状態異常:石化』に陥るので噛まれないように立ち回ることくらいだ。『石化』すると一定時間行動不能になり、アイテムも何も使えない。
その間にボコボコにされてやられるというのがここに初めて訪れた初心者が苦戦するポイントらしい。
「ラストォ!!『神斬雲雀』っ!!」
もっとも、油断していたとしても一撃喰らうようでは俺の弟子とは言えないので今のところノーダメージで次々とモンスターを倒していくルークなのであった。
相手の動きを観察しつつ、踏み込み過ぎず、焦らずに的確な一撃を入れていく。囲まれないように立ち回る視野の広さも十分あり問題ない。
さらに最近何か心境の変化でもあったのか、油断することがほとんどなくなった。むしろオーバーキルする勢いで警戒を怠らない。
なので小癪にも自ら光の粒子を放出し、死んだふりとした『ア・ラエヴェ』にも惑わされず、確実に止めまで指すという初心者殺しにも対応してみせた。
そうして現在戦闘中の『巨大ネズミ』の胴体を輪切りにして消えていく光を確認し、ゆっくりと警戒を解いていく。
「今のでラスト?」
「みたいだな。やるじゃないかルーク。前よりも成長してるじゃんか」
「当然だろ? 毎回あれだけやってたら嫌でも強くなるよ!・・・・まぁまだまだだけど」
「慢心しないのはいいことだけど、自己評価が低すぎるのもダメだからな?」
「わかってるやい!!」
飛び上がりたい衝動が隠しきれてないぞルーク。ものすごくウズウズしている。そんなルークを見てクスクスと笑みを浮かべるリークを見て、顔を真っ赤にして言い寄る。
そんなこんなで渓谷を進むこと数十分。というか思っていたよりも入り組んでいるなこの渓谷。モンスターのレベルもさる事ながら、道も結構複雑だ。
RPG定番の謎の壁はないので、足を踏み外せば奈落の底に落ちるから足元に気を使うし、どんな場所だろうとモンスターは遠慮も容赦もなく襲いかかてくるし。
ルークからしたら足元がおぼつかない場所での戦闘はハラハラ物だが、俺は特に問題なくなぎ倒す。ぶっちゃけ空気を足場にすれば『風瓶エリシオン』で跳べるし。リークに関しては詠唱破棄の魔術で消し飛ばせる。
一番大変なのは言わずもがなルークだけだったりする。なので時折俺が前に出て全部なぎ払ったり、リークが新たに習得した『星術師』の術のお試しをしたりしながら進んでいく。
「し・・・師匠? この先って絶対それだよね?」
「だろうな。いかにもだし」
やがてそこそこ広い空間が目先に見えてきた。そういうことだろう。やっとこのエリアのボス戦のようだ。
「助言欲しい?」
知っているリークはいつの間にかウィンドウを開き何かを確認している。流石にボスのことまでは毎回覚えてはいないか。
「無くていいよ。なぁルーク?」
「・・・」
「ルークは欲しいみたいだね」
全く・・・疲れてる気持ちはわかるけどヒントもらって攻略しようとするんじゃないよ。俺が嫌いなことの一つ。初回からいきなり攻略サイトで攻略法を見てクリアすることである。
あくまでも個人的な意見だが初回くらいはノーヒント、もしくは自分が手に入れた手がかりだけでボスやダンジョンの攻略を強く推す。それでこそクリアした時の嬉しさがあるんだからな。
攻略を見ることが悪いとは言わないけども、全部頼りっきりっていうのは嫌いだ。二週目で100%攻略を目指しているなら多少は目をつぶるけど、やっぱり個人的にはノーヒント攻略をしたい。
「頑張ってみようぜルーク。慢心してないんだしやるだけやってみようや」
「・・・負けたらまた最初からやり直しだし・・・正直辛いよ師匠・・・」
そんなこと言ったら俺どうすんだよ。何度最初からやり直したか分かんねぇぞ。というのは簡単だが、自分の価値観を押し付けるのも申し訳ないからなぁ。
「ならこうしようか? 私とルークが先に挑むの。私は攻略手段知ってるし、正直ワンパンで仕留められるから問題なし。その後アールがボスエリアに突入してソロで攻略。どう?」
「俺はそれでも構わない。どうするルーク?」
「・・・・やっぱり頑張る」
「別にいいんだぞ? 俺の個人的な理由でもあるし」
「いいったらいいの!! 男に二言はないんだい!! ほら行くからね!!!」
気に障ったようでプンプン怒りながらボスエリアに入ってしまったルーク。ソロ突入にならないように俺たちも後を追う。
「意地張らなくてもいいのに」
「意地じゃないやい!! 別に師匠と別で攻略するのが嫌だっただけだもん!!!」
「うーん・・・セーフにしとこうか」
一瞬目から輝きが消えた気がするが無視。ルークがこちらを見ていなかったので問題も無かった訳だし。一瞬ブルってたけど。
広間は四方を岩に囲まれた谷底のような場所だった。陽の光は真上からのみで、そこそこ薄暗い。渓谷で出てくるボスといえば怪鳥系だったりが定番であるがさてさて一体何が出てくるのやら。
「ルーク」
「何さ!!」
「上にいたぞ」
「ん・・・ヒッ!!?」
ずっとスタンバっていたように岩から吊り下がる巨体。よく見ればもぞもぞと動いており、食事でもしていたようだ。
ルークの悲鳴を聞いて、眉のように見えるそれが、頭部と思われる場所がギョロッと見開き、これまた巨大な一つ目でこちらを捉えている。
眉のように見えていた翼を広げる。頭が全て目玉になっている巨大蝙蝠である。よく見れば目玉に牙のようなものが生えており気色が悪い。
胸元から六本指の腕が一本伸びており、その手の中には先程まで俺たちが何度も戦闘してきた『ア・ラエヴェ』の乾涸びた亡骸があった。それを投げ捨てるのかと思えば、牙の生えた目玉が口の方に開き、ぐちゃぐちゃと捕食し始めた。
SAN値がガリガリ削られる光景なのは間違いない。干涸らびているので体液こそ滴り落ちないが、項垂れた翼からはらりはらりと羽が墜ちてくる。
――――◇――――
テリオン渓谷エリアボス『ワンアイズドラキュラゴ』出現。戦闘を開始します。
――――◇――――
ボス登場。頭が目玉な巨大蝙蝠です。
特撮好きな方にわかりやすく言うと、ガンQの手を羽根にして腹から腕生やせば完成です。




