220:最低最悪の展開
不穏なタイトルですが、何が起こるかお楽しみに。
『オォオオ!!』
「ちょっ!!? マジで言ってるの!!?」
動き出した『ゲルゲナート』は恐ろしい程の機動力を見せた。地面から這い出ると思っていたのに、腕を使わずに沈んだ地面から飛び出した。
しかも地面から5mは上に飛んでいるほどの驚異の脚力を見せつけた。さっきまでとはまるで違う動きだ。
「怯むな!! もう一度地面に沈めちまえ!!」
人柱諸君は奮え立ち『ゲルゲナート』の着地を狙い攻撃を仕掛け用としている。私たちでも同じようなことをするから悪くはない。
けどなんだろう。今の動きを見て何か嫌な予感がする。いや違う。予感じゃない。間違いなくなにか仕掛けてくる。
「お前ら全員下がれ!!! なにかしてくる!!!」
『オオオオォォ!!!』
「っ何言ってんd」
それは見覚えのある攻撃だった。『ゲルゲナート』は着地する前に四本の腕を地面に群がっていたプレイヤーめがけて振るった。それだけなら風圧で吹き飛ぶだけだ。
まぁ風圧が大きくてダメージを負うだろうとは思った。けど、耐えられる奴もいるだろう。それだけだったなら。
けど、振るわれた瞬間。空を切った腕から”爪”が生み出され、その爪が全てを引き裂いた。地面を抉り、そこにいたプレイヤー全員を肉片一つ残さずに抉り裂き、消し飛ばした。
そして『ゲルゲナート』は群がっていたプレイヤーを全員消し飛ばしたのを確認すると、その顔をこちらに向けた。獲物を狙う”獅子”のように恐ろしい笑みを浮かべていた。
「ッッ!!!? 総員生き残ることを第一に動けっ!!!! 出来るだけ群がるな!!」
私たちが散開したと同時に『ゲルゲナート』がこちらにめがけて駆け出してきた。走る勢いを力に変えて再び四本の腕を前方に振るう。
私たちがいた場所は見るも無残に抉られた。唯一の救いは全員が無事に回避できたことだけ。そして二回も見ればこの技・・・いや、奥義というべきだろう。それがなんなのか理解できないわけがない。
ずっとそばでそれを見てきたし、実際に使ったことだって私たちはあるんだから。
「うっそだろっ!!? なんでこの怪物が『恋爪レオ』を使ってんだっ!!?」
シロマサの声は『ゲルゲナート』の足音でかき消される。そして声に反応している余裕もなかった。振り下ろした腕の向きを変えて『ゲルゲナート』は左右に腕を振るう構えをした。
「死ぬ気で避けてぇぇ!!!!」
振るわれた腕は空間を引き裂き、数人のプレイヤーを巻き込んで消し飛ばす。更に爪の風圧が回避したプレイヤーに襲い掛かり全員を吹き飛ばした。
体勢を整える余裕もなく、私は地面に叩きつけられるように転がっていく。体中が痛い。この感覚は間違いなく『AS:復活』が発動した感覚だった。
風圧だけでここまでの被害。痛みで重い瞼を開ければ周囲の皆も同じような状況だった。直撃した連中は一瞬で瀕死となりこの場から去った。
回避した私たちですらその風圧で体中にダメージを負い、瀕死状態から『AS:復活』を発動させられた。たった数秒で、たった三回の攻撃で私たちの戦線は崩された。
『オォォオオオオオ!!!!』
「っっ!!」
追い打ちをかけるように咆哮が鳴り響く。体にまとわり付く恐怖の感情は、今の一撃からもたらされた絶望感により増幅され、更に強くこびりつく様に襲いかかってきた。
「『サンクチュアリフィールド』・・・!!」
けど、それを感じる余裕がないくらいに私の体は痛みによる悲鳴を上げていた。たった一撃で全身の骨が折れているって感覚がある。けどそれがある意味救いでもあった。
お陰で動ける。詠唱破棄での回復魔術を使い、この場に残っているプレイヤーの負傷を回復していく。少なくともまずは手だけでも動くようにしないと、アイテムすら使えない。それに『AS:復活』の効果で復活しても全身骨折でのダメージでまた死にかねない。
外傷を治し、ポーチから回復アイテムを飲み込む。外傷は魔術で治せても骨の負傷までは魔術を使うよりもこっちで回復したほうが早い。
折れた骨がゴキュゴキュと音を立てて修復されていく。やっぱり痛いわよこれ・・・!! なんでアールはいっつもこれを表情に出さないで回復できるのかわかんない。
痛みで顔を歪めながら立ち上ると、『ゲルゲナート』は静かに立ち上がりあたりを見回していた。さっきまでの表情とは変わり、まさしく戦士というのがしっくりとくる表情だ。
立ち上がれているのはまだ私だけ。全員、痛みにより呼び起こされた『ゲルゲナート』に対する恐怖で動けていない。まだ痛む体にムチを打って腹から声を出す。
「『ブラッドホールチェーン』!!」
魔術による拘束を試みて『ゲルゲナート』の四方八方から赤く血塗られたチェーンがその体に巻き付いた。四本の腕には特に数を回し、胴体、足首に限らず、力点となり得る可能性のある場所全てを拘束する。
「全員立ち上がりなさい!!! このままだと蹂躙されるだけよ!! 根性見せろゴミ虫ども!!!」
「お・・・おおおおぉおおお!! 私は・・・正義の・・・平和の・・・象徴である・・!!!!」
「もう二度と・・・あんな屈辱は・・!!!」
奮い立つニコニーコを筆頭とする強い意志のあるプレイヤー達。その姿を見て他のプレイヤーも恐怖を乗り越えるべく声を出しながら立ち上がる。
『オオォォオォオ!!!!!』
まとわり付くチェーンを砕こうとする『ゲルゲナート』。力が入るたびに、私の体に襲いかかる力の反動。
魔術女帝の専用スキル『ブラッドホール』系の魔術。代償に私のHPを魔術と連動させることで他の追随を許さない力を見せる。故に拘束系は打ち破ろうとすれば私のHPを直接削ることに繋がっている。
「ウグッ・・!!! こんのデカブツガァ・・・!!!」
溜め込んでいたアイテムをかき込むように食べてHPを回復していく。その倍以上、恐ろしい勢いで削られていく私のHP。スキルとアイテムによる回復でギリギリ対抗できているけど、同時にどちらかが切れれば一瞬で死ぬ。
それでも全員が恐怖を乗り越えて立ち上がるまでは時間を稼がないといけない。じゃないと街が蹂躙されて終わってしまう。それだけじゃない。下手をすれば逃がした人たちを襲い始める可能性だって十分にある。
アールの稼いだ時間も、レイレイが必死になって動かした人員も、今こうして戦っている私たちの全てを無下にされるなんて死んでもゴメンなのよ。
『オオオォォオオオ・・・・オオォオオオオ!!!』
叫び方が一瞬変わった。でもそんなことを気にしていられる余裕なんて私にはな・・・・え?
「アー・・・・・ル・・・?」
我が目を疑った。でも間違いなく見えてしまった。そして叫びを聞いて私の恐怖は一気に増していく。
レイレイに・・・湊にあれだけの啖呵を切ったのに、実際にそれを見てしまうとどうしようもなく恐ろしかった。
だってそれは・・・”負けた”ってこと・・・・いや違う!! 負けてない!! だって!!負けるはずないじゃない!! 負けないんだから!!!
『ゲルゲナート』のちょうど胸の中央。体内から膨れ上がるように出現した真っ赤な球体。赤く染まるその中に、力なく喰われていくアールの姿があった。
力なく頭が下がり、アールの全身には、血管のような物が刺さり球体へと伸びており、アールを少しずつ吸収しているようにしか見えなかった。
「あ・・・あああ・・・・ああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
そして、『ゲルゲナート』を拘束していたチェーンは簡単に、細い糸を切るように砕かれた。
きたぞ我らの主人公(取り込まれてる最中)




