215:『四腕巨人ゲルゲナート』激戦 Ⅰ
VS『四腕巨人ゲルゲナート』開戦
『オオオオオオオオオオォ!!!!!!!!!!!!!!!!』
始まったと思った直後だった。咆哮を上げたボス『ゲルゲナート』を見て、動き出そうとしたすべてのプレイヤーが硬直した。
大声で動けなくなったとかそういう硬直じゃない。体が動くことを否定しているんだ。頭では動けと叫んでいても、体が、本能がそれを否定する。
本能は叫んでいる。『向かっていけば死ぬ』と。死にたくないと本能が叫びをあげて体を止めた。雄叫びをあげ続ける『ゲルゲナート』は陽の光を体いっぱいに浴びながら、声を世界中に届けるように叫び続ける。
「ぁ・・・・・ぁぁ・・・・・っ・・・」
声すらマトモに出せなくなってる。心の底から怯えているってこういう事を言うんだって私は実感する。
出来ることは全部した。バフも盛れるだけかけたし覚悟も決めた。それなのにその全てをあざ笑うかのように轟く咆哮一つで全てぶち壊された。
焦点が揺らぎ始めた。立っていることも、呼吸をすることも苦しく辛くなってきた。もう無理だ。こんなのどうしようもないじゃない。
やれることを全部やって、それを上からたたきつぶされた。どうすることもできない。人としての本能は恐怖には勝てないって事実を教え込まれていく。
体が冷たくなってくる。あぁ、もうダメなんだ。けど、仕方ないよね。こんな怪物を前にして人ができることなんて無いんだから・・・。
恐怖を超えて心は諦めた。全部を諦めた。所詮私たちが立ち向かえる相手ではなかったんだって・・・そう思った・・・アールだってきっと許してくれるよね。
・・・・・・・アールが・・・許してくれると・・・本当に思うの私・・・?
それをしてしまったら・・・私はもうアールの隣に立つ資格がなくなる気がした。
「なっ・・・める・・・・なぁぁあああ!!!!!!!!!!!」
そうだ。巫山戯るな。一瞬でもそう考えた私が腹立たしい。今の瞬間。私は間違いなく戦う前から敗北を認め、戦いを放棄しようとしていた。
巫山戯るな。巫山戯るな!!
戦う前から逃げ出すなんてアールは絶対にしない。アールに”戦い”から逃げるなんて選択肢はない。
クズリン相手でも、アヴァカス相手でも逃げる選択肢はいくらでもあったのに、”戦い”から逃げることだけはしなかった。どんな時も真正面から戦った。
それがどれだけ難しいことなのか、それができる人がどれだけカッコイイのか。直接見てきたのに! それなのにどうして許してくれるなんて思考に至ったのよ私!!!
恐怖に勝てない? なら恐怖を別の感情で押し潰してやればいい。それが今は怒りだ。自分自信に対する怒り。そういう思考を与えた存在への怒りに変えてやる。
「我が血を啜れ血塗られた蛇よ!! 我が血を贄として怨敵を喰らえ!! その血の一滴すら残さず蝕み啜り死の道へと引きずり込め!!『ブラットホールヴァイスロート』!!!」
『ゲルゲナート』の足元に現れるのは巨大な大穴。底からはいでてくる巨大なドス黒い赤蛇は『ゲルゲナート』の体を大穴へと引きずり込まんとする。
『オォォォオオオオ!!!!』
回避は間に合わず『ゲルゲナート』は蛇によって大穴に引きずり込まれていく。しかし抵抗は激しい。四つの豪腕で蛇を掴み握りつぶし、引きちぎろうと足掻く姿がある。
「双子の蛇よ、敵を食い殺せ!! 『第五の黒:双子座』!!! 気高き獅子の咆哮よ、轟きで世界を揺らせ!! 『第四の緑:獅子座』!!」
呪文使いとしての最高峰だと自負する最上級と究極級の呪文の連続詠唱。以前のエクストラダンジョンを経て、全呪文の再確認と再習得と言う名目の詠唱フル暗記と言う勉強を経て可能にした全呪文の完全記憶。
呪文の効果により大穴より更に二匹の黒い蛇が這い出てきて『ゲルゲナート』の首に、頚動脈へと噛み付きその呪いを注ぎ込んでいく。
私の横には白銀の鎧を纏う獅子が召喚される。呪文により生み出された獅子であるが意志を持ち、そして私のために戦う存在。獅子の咆哮が『ゲルゲナート』程じゃないにしろ戦場で立ち止まるすべての生命体へと轟響く。
込める想いはただ一つ『動け』。
棒立ちになるな。逃げるなら逃げてもいい。けど、このまま何もせずに殺されるな。死を受け入れるな。最後まで惨めでもいいから足掻いて見せろと。思いを込めてただ一言だけを込める。
『オオオォォ!!』
『ゲルゲナート』が巻き付いた蛇を引きちぎり投げ捨てる。殺された蛇は魔力となりながら消えていく。そして蛇を処理したあとはこっちを睨みつけるとその巨体で穴から這い出てくる。
「光と闇の中より生み出された力の権化。目覚めの時だ。その力を無慈悲に振りかざし全てを混沌の冥闇へと回帰させよ!!『光闇の巨人(アビスフォーム・ジャイアント)』!!」
魔術の構築が簡単でありながら強大な力を発揮する私の切り札の一つ。『光闇の巨人(アビスフォーム・ジャイアント)』。
私の魔力のステータスを約30分間0に固定する代わりにMPが尽きるまで暴れまわる魔力で出来た巨人を生み出す魔術女帝の魔術。
残念ながら真化ジョブの攻撃じゃないから特攻は入らないけど、それでも足止めくらいにはなる。それまでに一人でも動ける人が増えていけばいい。
召喚された巨人の姿をした魔力の塊は大穴より這い出てきた『ゲルゲナート』と対峙する。巨人同士の戦いには武器なんてない。お互いの拳を叩き込むだけ。
一撃一撃が風を産み、周囲の物をなぎ払っていく。相手は腕が四つ。こっちは普通に二つだけ。けどそれがどうした。私の魔力だ。多少のハンデ程度は押し返してやる。それに、想いは連鎖するって前に聞いたことがあった。それが本当だって今、目の前で証明されたから絶対に大丈夫。絶対に負けない。
「不覚でしたとも!! えぇ私は今怒っています!! 自分の不甲斐なさに!! ”また”見ているしか出来なかったと!! ”始まってもいなかったのに諦めた”自分に怒りを覚えます!! 故にこの怒りで私は戦いましょう!!!」
「いいでしょう・・・!! 死神を敵に回した本当の意味を教えてやるぞ『四腕巨人ゲルネナート』!!!! 我が名は死神『†黒悪魔†』!! 悪を断つ刃なり!!!」
組み合う巨人たちの中へと飛び込んでいったのは『†黒悪魔†』と『エール』。それぞれの獲物をしっかりと握り締めて『光闇の巨人』へと迫る二つの腕へと向かっていく。
「”全てを粉砕し希望を守れ”!!『不滅の愛撃』!!」
「”因果を断ち切れ”!!『因果裂:翅弍臥魅』!!」
『エール』の一撃が迫り来る腕を吹き飛ばした。文字通り腕を関節から物理的に切り離すように吹き飛ばしたんだ。そして『†黒悪魔†』のひと振りは腕を花に変えて、血の蜜を周囲へと撒き散らしていく。
『オオオォォオオオ!!!!!?』
「っ!!『光闇の巨人』!!殺れェ!!!!」
痛みはあるようで『ゲルゲナート』は叫びをあげて後退した。この隙を逃すほどバカじゃない。ここでMP回復のポーションを飲み込んで『光闇の巨人』を動かす。無き咆哮をあげて『光闇の巨人』は一歩前に踏み込み腰を入れた一撃を叩き込んだ。
顔面を捉えた一撃だが、特攻はやはり入っていないのが大きいのか、顔面を殴りつけただけで風穴を開けるまでには至らなかった。
だが地面に叩きつけるように放った一撃をろくな受身を取らずに受けた『ゲルゲナート』は大地に沈んだ。




