194:嫉妬と喧嘩と困惑と
ぶっ飛んでます。
「のじゃぁ!!!!!」
「うおっ!!?」
翌日。目覚めた俺の目の前にはほんのり顔を赤くして飛び込んできたギンがいた。言っとくがクランホームの鍵はプレイヤーが一度睡眠に入ると自動でかかるので外部からは開けられない仕様になっている。
寝る前には俺は一人だったはずだからそういうことはないはずだ。つまり目覚める瞬間にギンが入ってきて飛びついてきたということになる。夜を過ごしたとかそういうのはないからな?
「どうしたギン? 珍しいな」
「師匠、妾もリークに負けておれん! 妾とこう「言わせねぇぞこら!! あと落ち着け」・・・すまぬ。確かにその通りじゃったな。では師匠。妾と肌を重ねようではないか?」
「大して変わらんわ!! 朝から何言ってやがる発情狐!! ほら離れろ!!」
「大丈夫じゃ。体には自信があるぞ? リークにも負けてないと思うのじゃが? 特に胸は妾の方が大きいと思うぞ?」
「ふ〜ん・・・いい度胸だねエロ狐、それで私を出し抜けたつもりなんだぁ〜?」
「む?」
それはもう満面の笑みを浮かべたリークが仁王立ちでそこにいた。目は笑ってないけど。以前ならそれを見て引いていたギンだが、最近・・・というか以前ギンの性癖暴露してからは、逃げずに立ち向かうようになっていた。
「妾だって女じゃ。好いておる男と一つになりたいと思うのは女の常識じゃぞ? それとどうあれ年上相手に少しは譲らんか小娘」
「開き直るなよ発情エロ狐。丁度いいや、その発情したダメ精神を絞めてあげるからちょっと付き合いな」
「望むところじゃ小娘。年上に対する礼儀を叩き込んでやろう」
そう言って二人はお互い笑顔のまま部屋を出ていった。その後すぐに外から激しい戦闘音が鳴り響いてきたので殺りあっているんだろう。
「朝から元気だなアイツら」
この感じにも慣れている俺は多分相当変だと思う。
――――◇――――
今日はNPCから持ち込まれた修理依頼と鉄用品の制作依頼がいくつかあるのでそれをこなしていく予定だ。マリアーデからの修理依頼を終わらせたと思ったら、次の日また同じ量の刀を持ってきたんだから容赦ねぇ。
なんだかんだ言いつつ、マリアーデは日々の業務の合間を縫ってプレイヤーとの決闘を受けているらしく、好戦的プレイヤーや対人スキルを磨いている戦闘狂プレイヤーからはよく挑まれるらしい。
他にもアアリーも気まぐれでギンやコヨミが稽古をつけている時に現れては実際に戦ってプレイヤーの心と慢心を容赦なくへし折っているとのこと。
その被害者がこうしてへし折られた刀たちと、それを修理する俺である。少しは俺に対する優しさを持って欲しい。まぁ言った所で『心配をかけた罰だ』と言われておしまいだと思うけど。
「邪魔するぞ。愛弟子よ。修理は終わったか?」
噂をすればなんとやら。工房に顔を出したのはマリアーデだった。店の方を見ればリークは丁度プレイヤーと思われる客と受け答えをしていた。
「そんな直ぐには終わりませんよ師匠。あと30分はください」
「なら待たせてもらうぞ?」
近くにあった椅子に腰掛けてマリアーデは俺の錬金術に目を向ける。とは言っても既に何度か見ているので新鮮味はないだろうけど、マリアーデは面白そうに見ている。
「いつ見てもアレだな。嫁の方が錬金術に関しては上手ではないか」
「まだまだ修業中の身ですからね」
今プレイヤーとやり取りしているように、武器の改造だけならリークの方が性能がいい物を制作できる。これは単純にMP使用の上手さだ。『エクストラ』に変更して僅かな期間でそれを使いこなしていたんだ。それに『エクストラ』変更前からずっとMPに触れる魔術師ジョブだったんだ。
まるで初心者の俺とは比べると月と鼈だ。それでもいつか追いつくためにこうして下積みから頑張っているわけだ。基本は大事だからな。
「わかっているならば良い。取り組むならば中途半端は許さん。最後まで極めろよ弟子」
「勿論です」
――――◇――――
「お待たせしました師匠。これで完了です」
「うむ、お前にしては上出来だろう。だがこれで満足するなよ? 最終的にはこれら全てを業物と呼ばれるくらいに錬成してみせるのだぞ?」
「ハードルたけぇよ・・・そうするつもりだけどもさ」
修理が終わった刀を一本一本確認するマリアーデから、とりあえず大丈夫という言葉をもらい一安心。一応”使うことはできる”という回答はもらえた。
初めて修理したときは『気に入らん。やり直せ』とダメ出しを食らったからな。どんなことだろうとやるならばしっかりと。これがマリアーデの信念だ。客商売である武器の修理。しかも武器ということは文字通り自分の命を預けるものだ。使用者が満足しないものを出すわけにはいかないからな。
「そういう意思があるなら良い。もし無かったのなら目の前で全部叩き折ってやるところだったぞ?」
「勘弁してくれよ・・・」
本当にやるだろうから恐ろしい。
「修理費はこれで良いな?」
特に特徴のない普通の『刀』なので一本1000Dでの修理を受けている。それでも30本あるので30000D。それをポンと出してくる辺り流石の財力である。
ギルドの金じゃないだろうな流石に・・・けどいつも言ってるのだが。
「別に要らないですよ。師匠にはいろいろお世話になってるので」
「ならこれで嫁と食事にでも行け。労働に対して対価を払うのは常識だ。おとなしく受け取るがよい」
実際最近も言われた通り顔を出しているし、その度に稽古をつけてもらっているから、それに対する感謝の気持ちだと前から言っているのだが、絶対に渡してくる。最終的には師匠命令だと言ってくるので素直に受け取るのだが。
「お前の稽古はもう余の趣味だ。だから気にするな」
「分かりました。その代わり何かあったら教えてくださいね。ギルドの依頼でも個人的な依頼でも受けますから」
「当然だ。近くに師匠思いの弟子がいるのだ。声を掛けん訳がないだろう?」
「そうしてくださいな」
いつもこんな感じのやり取りをしている。でもまぁお互いに悪い気はしないし、しつこいとも思っていないのでこのやりとりが楽しい。
さて、マリアーデからの依頼は済んだし、あとはいくつかフライパンを作ってくれって頼まれているからそれを作ってしまおうか。
「アールさんいますかっ!!?」
そう考えていた矢先だ。店の方からオレを呼ぶ声が聞こえた。工房からでて店の方に顔を出せば『Note』が慌てた表情でそこにいた。
「あぁいた!! 良かった・・・」
「どうしたのNote?随分慌ててるけど」
「お二人共すぐに広場に来てください!! よくわからないんですけど侍ゴブリンと”陛下”って呼ばれている妖精がもめてるんです!!」
――――◇――――
「だから言ってるじゃないですか!! 責任は私に押し付けてください!!」
「例えこの命失う事になってもそれだけは出来ません。我が忠義に誓って」
「もう!! じゃぁどうしたら戻ってきてくれるんですか!?」
「我が同胞が犯した罪の償いを終えるまではこのオーグ、戻ることは出来ませぬ」
「だーかーら!! その罪は言うなれば貴方たちの王様である私の罪なんですって!!」
「いいえ、この罪は我らゴブリン族の罪。そしてそれを諫められなかった七将の、そして七将が犯した罪です。ならば七将である我が負うべき罪です」
「もぉーー!!! 話を聞けこの頭でっかちおじさん!!」
「・・・なにあれ?」
広場ではオーグが膝をつき、忠義を示す相手に対する態勢で、その相手と言葉を交わしていた。対する相手はオーグが言う罪は自分の罪であると言っており、その責任を自分が取るというのだが、オーグはそれを譲らない。
「話的には理解できるんですけど、自分たちが首を突っ込んでいいような雰囲気じゃなくて・・・それで侍と戦ったアールさんを呼びに行ったんです」
「・・・・・・」
「あの妖精、発言的にかなり偉い立場みたいだね。気品とかそういうのは全く感じないけど」
「同感じゃ。なんというか・・・あれじゃの。町娘というのがしっくりくるのじゃ」
「でも侍ゴブリンさんの態度を見る限り、あの妖精が忠義を示した相手みたいですね。忠義を誓う相手に強さは絶対ではありませんし、守るべき相手ということでしょうか?」
リークとギン、そしてコヨミがそれぞれ思ったことを口にしている。それに頷くように付近にいたプレイヤー、NPC限らず首を縦に振る。
発言的にも見た目的にもどう考えてもオーグの方が強そうだし、実際威風堂々としている。そう見てもおかしくないだろう。
「・・・なぁマリアーデ?」
「お主の想像通りだよ愛弟子。今は彼奴が余の後任の後任だ。しかも余の時代よりも遥かに大きい国のな」
俺が知っている姿とは少し違うけど、成長したらこうなるんだろうなぁと考えるとしっくりくる。声は全く変わってないし、後ろ姿にも面影が残っている。
「アール知り合い?」
「まぁな」
「ほらアールくん。君が行けばあの子は静かになるでしょうから行ってきてください」
いつの間にかいたアアリーに背中を押されてこの後のことを考えつつも、再会できることを嬉しく思いながら、言い争う二人のもとへ向かっていく。ついてくるようにリークも背中にぴったりと。
するとオーグが此方に気づいたようで下げていた頭を上げた。一瞬殺気を見せたけど、俺とわかるとその殺気をすぐに引っ込めてくれた。
「こら!! 時代人に急に殺気を向けないでください!!」
「しかし陛下」
「しかしも案山子もないです!! それと近づいてきている時代人さん!! すみませんけど後にしてください!! このおじさんにもう少し話があるんで・・・・・」
振り返りながら怒った顔をしている妖精族の女性。陛下と呼ばれてい方から少しは顔つきが凛々しくなったと思っていたんだが、相変わらず小娘感が残っている。
体つきは言うなら高校生くらいだろう。程よい肉付きで同級生からは間違いなく『美人さんだね』と言われるような綺麗さがある。発言が何とも幼く感じるのも相まってかわいい系の綺麗な人というのが一番しっくりくる。
「どうした”カイラ”? 後のほうがいいんだろ?」
「”アール”、貴公でも我が陛下に対する無礼は看過できん。悪いが無礼なこと・・・なぜ陛下の名を知っている?」
陛下と呼ばれちゃってまぁ。随分と偉くなったもんだ。そんな犯人は俺の顔を見て指差しワナワナと震えていた。
「あ・・・あああ・・・・ああああああああ!!!!!」
いきなり叫ぶもんだから集まっていた皆がびっくりしている。と思った次の瞬間。
「アールだ!! 本物だ!!! 本当に転生してる!!!!!」
「へっ!?陛下っ!!?」
「・・・・ふぇ?」
俺に飛びつき顔をスリスリと擦り付けてくるカイラ。その光景にオーグをはじめとして誰ひとり理解が及んでいなかった。唯一反応していたのはカイラのことを知るマリアーデとアアリーだけだった。
「アールだよぉ! この感じ本物だぁ〜!! うっひゃ〜懐かしいよ〜!!」
「ちょぉぉ!!? 離れてよ!!私のアールから離れて!!!」
呆然としていたリークが我を取り戻し、引っ付いているカイラからオレを取り戻そうと体を揺さぶる。流石に相手が陛下と呼ばれていたからなのかオレを引っ張るようにしているのはいい判断だと思う。
多分カイラに手出ししてたらオーグが多分黙ってないだろうこの感じ的に。
「ふへへぇ〜どこの誰か知らないけどアールは私のご主人様になるんだよ。いたぁ!!?」
「馬鹿言うな。誰がご主人様だボケ。せめて伴侶とかそういう風に言い直せ」
「ヤーだよ。アールは私のご主人様なの。私の隣で一緒にいてくれる人なんだも〜ん」
「だめぇ!! アールは私のなんだから!!」
「・・・アールよ。陛下と知り合いなのか?」
「まぁな。一昔前の仲間だよ」
暁妖精カイラ。俺と一緒に世界を巡ったモンスターたちの中で最強の名を我がものとしていた妖精。そしてだ。
「ふへへへへ〜・・・アールの匂いだぁ・・・スンスン」
「やめてよぉ!! アール取らないでぇ!!」
仲間の中で一番の甘えん坊でもある。
起きた直後のギン突撃
その後カイラ登場&身近にいないタイプの甘え方
つまりリークの思考は困惑します。




